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『一条山開拓記』第八話:清流を整備しよう!

【前書き】


※本エピソードは『Bar風花』本編の設定をベースにしたスピンオフ/パラレルストーリーです。

※本編とは時期や時系列に一部独自のアレンジ(IF要素)を含みます。

※白黒赤三人娘と結社長が織りなす、一条山での賑やかな開墾スローライフをお楽しみください!


山肌を撫でる秋風が冷たさを帯び、一条山の深い森が色づき始める季節。

朝の静けさの中、沢から響く重たく湿った水音に、白石まひろの研ぎ澄まされた感覚が鋭く反応する。

長年の災害で塞がれた水脈を解放し、山に再び清らかな息吹を取り戻すため——頼れる副長と仲間たちが立ち上がる!

重機の重厚な駆動音と自然の理が重なり合う、一条山・清流再生プロジェクト。どうぞごゆるりとお楽しみください。

第一章:清流の異変

 

 一条山の朝は、清らかな水のせせらぎと、山林を吹き抜ける澄んだ風の音で明けた。

 事務所前の高強度コンクリート広場で、白石まひろは暖機運転中の愛機ホンダ・XR400Rのディープグリーンのタンクを、ウエスで優しく拭き上げていた。

 一旦キルスイッチを切って排気音を止めると、静けさが戻った山裾の沢の方向へ、そっと耳を澄ませる。

「……うーん。やっぱり水音が重いねぇ」

「まひろ先輩、何か気になるっすか?」

 モモタロウサンバーのキャビンの陰から、パーツクリーナーの缶とグリスガンを抱えた黒木葵がひょっこりと顔を出した。ワークマンプラスのピンクヘルメットが、朝日に鮮やかに映えている。

「ああ。作業道が開通して山の中へ入れるようになったのはいいけどさ。あの沢の奥、長年の台風で倒れたスギや竹が将棋倒しになって、流木と土砂で水脈が塞がれかけてるんだよ」

 まひろは腰の鞘から使い込まれた重厚な剣鉈を引き抜くと、くるりと手元で軽やかに回してみせた。

「水が滞るとボウフラが湧いて水質が落ちるだけじゃない。大雨が降った時に河道閉塞を起こして、一気に決壊して土石流を引き起こす危険がある。山を育てるなら、まずは水の通り道を綺麗にして呼吸させてやらないとねぇ」

「なるほどっす! 水脈を整えるのも土木と林業の基本中の基本っす!」

「ふふ、さすが葵。話が早くて助かるよ」

 ハスキーな声を弾ませて笑うと、まひろはノースフェイスのアウターの袖をキュッと捲り上げた。

「よし! 今日の仕事は一条山・清流再生プロジェクトといきますかねぇ!」

 

第二章:多自然型川づくり

 

 沢の現場に足を踏み入れると、倒れ込んだ巨大な孟宗竹と腐食したスギの丸太が、沢を完全に塞ぐように幾重にも重なり合っていた。水流は行き場を失って淀み、足元には深い泥が堆積している。今回は撤去物の搬出と石積みのサポートのため、櫻庭天も小型ショベルPC20MR-3とともに合流していた。

「……あちゃー、こりゃひどい惨状だねぇ」

 まひろはジャングルブーツの底でしっかりと岩場を踏み締め、剣鉈の背で流木の表面をトントンと叩いた。

「だけど葵、ただ重機で力任せに川底を浚っちゃダメだよ。コンクリートで固めた三面護岸にしたら、川の生態系が死んじまう。あたしたちがやるのは『多自然型川づくり』だ」

「多自然型川づくり……ッ! きたっす、環境緑地科の本領発揮っすね!」

「そうさね。倒木や流木は全回転クローで撤去するけど、川底の大きな自然石は適度に残して、変化に富んだ瀬と淵を作る。それと護岸の浸食を防ぐために、現場の石と竹を活かした蛇篭(じゃかご)を組んで側面を補強するんだ。水生昆虫やヤマメ、クレソンが喜ぶ環境を残したまま、水流をスムーズにする……どうだい?」

「完璧すぎる設計プランっす! コンクリートを打たずに自然の力で護岸を補強する……これぞ本物の水脈再生っすよ!」

「よし! 重機オペレーター葵、出番だよ!」

「っす!! コマツPC138UU-11、全回転フォーククロー仕様で出撃するっす!!」

 

第三章:流木撤去と蛇篭設置

 

 重厚なディーゼル音が山間に心地よく響き渡る。

 開通したばかりの第一期作業道を滑るように進んできたPC138UU-11が、沢の脇の強固な岩盤上にどっしりと据え付けられた。

「全回転アプローチ……流木撤去開始っす!」

 キャブの中で葵の瞳が鋭く光る。

 右手のマルチレバーを繊細に操作すると、アーム先端の松本システムエンジニアリング製フォーククローが滑らかに旋回した。

 ガチリ!

 水流を塞いでいた直径数十センチの濡れたスギの流木を、クローが寸分の狂いもなく中央でガチッと挟み込む。そのまま手元のレバーでクローをキュッと回転させ、川岸を傷つけることなく垂直にスッと吊り上げた。

「お見事! 旋回半径最小、川岸の破砕ゼロだよ葵!」

 下に待機していた天が小型ショベルPC20MR-3の運転席から、引き上げられた流木を安全な集積場所へ手際よく運搬しつつ、頼もしい笑顔で親指を立てた。

 次々と流木が撤去されると、溜まっていた泥水が一気に押し流され、川底からゴゴッと美しい風化花崗岩の川床が現れ出る。

「次は蛇篭の設置と石積みだねぇ!」

 まひろは手際よく亜鉛メッキ鉄線の蛇篭を展開し、現地で切り出した太い孟宗竹の杭を打ち込んで川岸へ強固に緊結していった。そこへ天の操作するPC20MR-3が、川底から浚い上げた大ぶりの自然石をカチャン、カチャンと丁寧に落とし込み、ぎっしりと中詰めしていく。

「あらぁ、自然石と竹の杭で組まれた、力強いカゴの護岸ができたわねぇ」

 冷たい麦茶の水筒を手に見学に来ていた美和が、楽しそうに目を細めた。

「そうなんだよ、美和さん! コンクリートを使わずにこの蛇篭を組んでおけば、石の隙間が魚やサワガニの隠れ家になるし、増水した時の水圧も優しく受け流してくれるんだ」

 まひろが剣鉈の柄で蛇篭をコンコンと叩くと、水流はサラサラという心地よく澄んだ音へと変わり、一気に透明度を取り戻していった。

 

第四章:豊かな恵みと環境助成金

 

「……見事な水質改善と自然護岸施工どすな〜♪」

 作業道の木陰から、バインダーを抱えた一条結がおっとりと姿を現した。

「結社長! 沢の水、一瞬でピカピカになったっすよ!」

 葵がキャブから顔を出して声を弾ませると、結はスパコン並みの計算結果が表示されたタブレットを、細い指先で軽やかにタップした。

「ええ。本日の多自然型河川再生・生態系保全工事ですが、環境省の『地域水環境・自然共生推進助成金』および風花町の『水源かん養林・小河川保全事業交付金』の施工基準を完璧に満たしておりますのえ〜♪」

「おっ、結社長。この沢の掃除にもお上からお金が出るのかい?」

 まひろがハスキーに笑うと、結はタレ目を優しく細めた。

「もちろんどすえ、まひろちゃん。コンクリートを使わない自然共生型の河川整備は、行政が最も推奨する先端事業どす。今回の申請通過により、工事にかかった重機の燃料費や資材費が全額カバーされるのに加え、まひろちゃんへの環境緑地技術手当が毎月の基本給や各種手当とは別に全額支給されますのや」

「あはは! さすが結社長、相変わらず話が早くて助かるよ!」

「ふふっ、良い環境を作るための正当な制度は使い倒さな損どすからねぇ。さあみなさん、沢の脇を見てごらんなさいな」

 結が指差した清流の浅瀬には、透き通った水に揺れる青々とみずみずしいクレソンの群生と、生き生きと葉を広げた野生の葉ワサビが木漏れ日を浴びて輝いていた。

「あ……! 綺麗な水が戻ったから、クレソンと葉ワサビが一気に息を吹き返したんだねぇ!」

 まひろはジャングルブーツで水に入ると、手際よくフレッシュなクレソンと葉ワサビを摘み取り、持参した背負い籠へとおさめていった。

 

第五章:夕涼みの駆け下り

 

 夕暮れ時。

 泥と流木が去った沢には、黄金色の夕陽を反射する美しい清流が、サラサラと澄んだ音を立てて流れていた。川底の白い砂利がはっきりと透けて見えるほどの透明度だ。

「よし! 水脈再生完了っす!」

 葵と天がコンクリート広場で重機をピカピカに洗車し、グリスアップを終えた。

「まひろちゃん、葵ちゃん、お疲れ様でした。本日分の手当を確定いたしましたえ。……さあ、今夜は『Bar風花』で美和さんが最高の宴を用意して待ってくださっていますのえ〜♪」

「っすーーー!! 美和さんのご馳走っす!!」

「あはは! 葵、相変わらずエンジン全開だねぇ。よし、あたしもXRをキック一発で目覚めさせて向かいますかね!」

 ポニーテールを揺らしたまひろは、XR400Rのデコンプレバーを握ってキックペダルを静かに踏み下ろし、圧縮上死点を出した。手応えを確認してペダルを上まで戻すと、ジャングルブーツの踵に体重をのせ、一気に踏み抜く。

 ドロン! ポッ、ポッ、ポッ……!

 重厚な四ストシングルの排気音を響かせ、白黒コンビの二人と二台は、夕陽に染まる風花町の路地へと軽やかに駆け下りていった。

 

第六章:清流ワサビ・ボタニカルフィズ

 

 夜の八時。

 『Bar 風花 -kazahana-』の重厚なオーク材の扉を開けると、ほのかに漂う桜の花の甘い香りと澄みきった静けさが身体を包み込んだ。

 カウンターの鉄刀木の一枚板がアンバー色の照明を受けて静かに艶めき、奥の戸棚ではバカラやリーデルのクリスタルグラスが虹色の光を放っている。

「いらっしゃい、まひろちゃん、葵ちゃん。沢の整備、ご苦労様」

 カウンターの奥で、ワインレッドとアンバーの異色瞳を和ませた美和が出迎えてくれた。

「美和さん、見ておくれよ。今日再生した清流で摘んできた、採れたての極上クレソンと葉ワサビさ!」

 まひろが持参したリュックサックから青々とみずみずしいクレソンと葉ワサビを取り出して差し出すと、美和は優しく目を細めた。

「あらぁ……! とっても瑞々しくて綺麗な緑色ねぇ。まひろちゃん、いつも素敵な贈り物をありがとう。ふふっ、このクレソンと葉ワサビを使って、今夜は特別なお料理とモクテルを作るわね」

 作業服から地雷系ファッションに着替えた葵と、アウターを脱いでリラックスしたまひろ。ふたりが黒い本革ローチェアーに腰を下ろすと、ほどなくして美和が手編みの鍋敷きに置いた温かい土鍋と、バカラの重厚なタンブラーをカウンター越しに優しく差し出してくれた。

 土鍋の蓋を開けると、ふわりと立ち上る出汁の香りとともに、和牛の上質な旨味を吸った採れたてクレソンの和風煮込みが現れた。

「どうぞ、熱いうちに召し上がれ」

 一口頬張ると、クレソンの爽やかなほろ苦さとシャキシャキとした食感、そして和牛の濃厚な脂の甘みが絶妙な調和を奏でる。

「……美味いっす!! クレソンが全然エグくなくてシャキシャキで最高っす!!」

 葵が目を輝かせて叫ぶと、まひろも豪快に箸を進めた。

「……ッハーーー! こりゃあ美味いねぇ! 清流の冷たい水で育ったクレソンだから、味がキュッと締まってるんだ!」

 さらに美和が仕立てたのは、摘みたての葉ワサビを手のひらの上でパンと叩いて清々しい香気を解き放ち、風花町特産の早生カボスと自家製和三盆シロップを合わせ、クラッシュドアイスとトニックウォーターで涼やかに満たした特製モクテル『清流ワサビ・ボタニカルフィズ』だった。

「はい、どうぞ。葉ワサビの澄みきった青い香りを生かした特製モクテルよ。刺激になりすぎないよう、和三盆とカボスで優しく包んでおいたわ」

 グラスを傾けると、鼻孔を心地よく抜けるワサビの爽快な香気とカボスの甘酸っぱさが、一日中水と土に挑んだ身体の疲労をさらりと洗い流していった。

 

第七章:温かな食卓とチルタイム

 

「……まひろ……おつかれ……。やきいも……はんぶんこ……」

 隣のローチェアーで冷ました焼き芋をモグモグしていた深雪が、黄金色の瞳をパチクリさせながら、温かい焼き芋の半分をそっと差し出してくれた。

「深雪ちゃん! 今日の清流、めちゃくちゃキレイになったっすよ! 今度ヤマミツバやクレソンも一緒に摘みに行くっす!」

 葵が声をかけると、深雪は満足そうにこくりと頷いた。

「……みゆきも……きれいな川……すき……。がんばった……ふたりに……やきいも……はんぶん……どうぞ……」

「あはは! 深雪ちゃん、ありがとねぇ。一緒に食べようかい」

 まひろはハスキーに笑うと、深雪の差し出してくれた甘い焼き芋を一口頬張り、グラスのボタニカルフィズをもう一口味わった。

 重機で泥を浚うだけではなく、自然の理に沿って水脈を再生し、その恵みを最高の形で味わう。山を活かし、水を生かし、大切な仲間と温かい食卓を囲む。

 一条山での暮らしは、本当に退屈しないねぇ……。

 アンバー色の光が優しく満ちる『Bar風花』の店内で、ポニーテールを揺らした頼れる副長は、愛する仲間たちの温かな笑顔を見つめながら、どこまでも深く満たされた夜のチルタイムに浸るのだった。


【あとがき】


最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

第八話は、白石まひろ副長の真骨頂とも言える「多自然型川づくり」と清流再生のエピソードでした。

重機で強引に浚うのではなく、自然石や現地の間伐竹を使った蛇篭で魚たちの隠れ家を残し、水脈を呼び戻す。そして、そこで息を吹き返したクレソンや葉ワサビが、夜の『Bar風花』で極上の煮込みや爽やかなモクテルへと姿を変える——そんなスローライフならではの循環と恵みの心地よさを感じていただけたら嬉しいです。

 XR400Rのキック始動の重みや、作業終わりに深雪ちゃんが分けてくれる冷まし焼き芋の温もりなど、キャラクターたちの生活感や温度感を大切に描きました。


「面白かった」「クレソンの煮込みやヴァージン・モヒートが美味しそう!」「まひろ副長が格好いい!」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録や下部の評価(★★★★★評価)をしていただけますと、執筆の大きな励みになります!


それでは、また次の開墾記でお会いしましょう!

天照(Bar風花)

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