『一条山開拓記』閑話:頼れる相棒とZフォーク
【前書き】
※本エピソード(一条山開墾記)は『Bar風花』本編の設定をベースにしたスピンオフ/パラレルストーリーです。
※本編との時期や時系列に一部独自のアレンジやIF要素が含まれます。
※白黒赤三人娘と結社長が織りなす賑やかな日常をお楽しみください!
山肌を彩る紅葉が秋風に揺れる、澄み切った一条山の朝。
事務所前の広場では、二トンクラスの小型ショベルに新たな相棒——丸順の機械式Zフォーク『IFZ25』を迎え入れるための換装作業が進んでいた。
狭い沢筋や林道の奥でも抜群の小回りを誇る秘密兵器を手に入れ、開墾作業はさらに加速する!
道具を愛し、山を整え、夜は温かな酒と仲間が待つ隠れ家へ。どうぞごゆるりとご覧ください。
第一章:事務所前の新兵器
山肌を彩る紅葉が、秋深まりゆく風に静かに揺れる一条山の朝。
事務所前の高強度コンクリート広場には、秋の澄み切った陽光が心地よく注ぎ込んでいた。広場の中央では、小型ショベルのコマツ・PC20MR-3が、アームの先からバケットを取り外した状態で静かに佇んでいる。その足元には、届いたばかりの頑丈なスチール製の木箱が置かれていた。
「よし……それじゃあピンを抜くよ、葵ちゃん」
「ッス! 位置合わせバッチリッス、天さん!」
作業服の袖を捲り上げた天が、愛用のハンマーと真鍮棒を手に手際よくピンを撃ち抜くと、葵が操縦席からマルチレバーを繊細に操作し、アームの先端をミリ単位で滑らかに移動させた。
木箱の中から現れたのは、専用の耐摩耗塗装が施された重厚な鋼鉄のアタッチメント——丸順(MARUJUN)の機械式Zフォーク『IFZ25』だ。
カチャン……ガチリ。
寸分の狂いもなくアーム先端のピン穴とIFZ25のピン受けが重なり、天がすかさず太いスチールピンを滑り込ませてロックナットを締め上げる。
「取付け完了ッス! 油圧配管の増設がいらない二本ピン留めタイプだから、あっという間に換装終了ッスね!」
ヘルメットのあご紐をグッと締め直した葵が、キャブから身を乗り出して嬉しそうに声を上げた。
「うん、素晴らしい精度だね。本体重量も八十六キロと軽量だから、二トンクラスのPC20MR-3のバランスを崩さない。それでいて高張力鋼板のフレームだから剛性は折り紙付きだ」
天がウエスで手元のグリスを拭き取りながら、頼もしそうにZフォークの爪を撫でた。
「おや、朝から精が出るねぇ」
ディープグリーンのジムニーの影から、湯気の立ち上るマグカップを手にした白石まひろが歩み寄ってきた。首元にオリーブドラブ色のタオルを巻き、ポニーテールを軽やかに揺らす。
「まひろ先輩、見ておくれッス! 我が社に新しく導入された秘密兵器、丸順のZフォークIFZ25ッス!」
「ほう……Zフォークかい。アームの伸縮とバケットシリンダーの動きに連動して、爪がメカニカルに開閉する機構だねぇ。追加の油圧配管がいらないから故障も少ないし、現場での脱着も早い。葵ぼう、なかなか良いセンスじゃないか」
まひろがハスキーな声を弾ませ、Zフォークの爪の先端をコンコンと指の背で叩いた。
第二章:機械式フォークの真骨頂
「へへッ、解ってもらえて嬉しいッス!」
葵がレバーを軽く倒すと、アームの動きに合わせてIFZ25の上下の爪がサーッと滑らかに開き、最大で八十五センチもの広大な開口幅を描いた。
「十三トンのPC138UU-11につけてる全回転フォークは力強くて最高ッスけど、あいつは車体が大きすぎて狭い沢筋や密林の奥には入っていけないッスからね。でも、この二トンクラスのPC20MR-3にIFZ25を組み合わせれば、狭小エリアでの細かな作業が一気に加速するッス!」
「なるほどねぇ」
まひろはジムニーのボンネットに腰を預け、温かいコーヒーを一口含んだ。
「一昨日の沢の整備でもそうだったけどさ。沢の奥に転がってる自然石を選別して据え付けたり、間伐した竹や小枝の束をピンポイントで掴んでダンプへ積み込む時には、バケットで掬うよりフォークでガッチリ掴む方が遥かに安全で早いんだ。これで十三トンが通れない狭い場所は、この小回りの利く相棒が全部カバーしてくれるってわけだ」
「そういうことどすえ〜」
作業道の木陰から、バインダー를抱えた一条結がおっとりと姿を現した。
「結社長! IFZ25のドッキング、完璧に組み上がったッスよ!」
「ええ、見事な手際どすな。今回の丸順IFZ25の導入ですが、小回りの利く作業による工期短縮効果と、現場でのアタッチメント換装手間の削減効果が認められまして、風花町の『林業機械化推進事業導入補助金』の交付対象として無事に全額認可されましたのや」
「おっ、さすが山親方。新しい道具の導入費までお上から引き出すたぁ相変わらず抜け目がないねぇ」
まひろが可憐にニヤリと笑うと、結はタレ目を優しく細めた。
「ふふっ、良い道具を揃えて現場の安全と効率を上げるのは、経営者として当然の責務どすからねぇ。さあ葵ちゃん、試運転がてら裏山の剪定枝をまとめてもらえますかいな?」
「ッス!! 丸順IFZ25、初陣出撃ッス!!」
ドロロン……と軽快なエンジン音を響かせ、PC20MR-3が力強く動き出した。
狭い林道の奥へすいすいと進入していったミニショベルは、倒れていた竹束や自然石をZフォークで吸い寄せるようにガッチリと挟み込むと、いすゞ・エルフダンプの荷台へと正確に積み込んでいった。
「お見事! 爪の噛み合わせがバチッと決まってるよ葵!」
「へへーッ! 手の延長みたいに思い通りに掴めるッス! これで一条山の開墾がもっと楽しくなるッスよ!」
秋晴れの山空に、職人たちの誇らしげな笑顔と軽快な機械音が爽やかに響き渡っていた。
第三章:夜の風花と秋の余韻
夜の八時。
静まり返った路地の奥、『Bar 風花 -kazahana-』の重厚なオークの扉をそっと開けると、ほのかに漂う甘い桜の香りと静謐な空気が一日の疲れをやさしく包み込んだ。
磨き上げられた鉄刀木の一枚板カウンターの上には、余計なものは一切置かれていない。柔らかなアンバー色の照明が、ガラス戸棚に並ぶバカラやリーデルのクリスタルグラスを虹色に浮かび上がらせている。
「いらっしゃい、まひろちゃん、葵ちゃん。新しい相棒の初仕事、本当にお疲れ様」
カウンターの奥から、ワインレッドとアンバーの異色瞳を優しく和ませた美和が出迎えてくれた。
「美和さん聞いておくれよ! 今日、二トンユンボに新しいZフォークを取り付けたんだ。これで一条山の狭い場所の整備も一気に進むよ」
作業服から地雷系ファッションに着替えた葵と、アウターを脱いでリラックスしたまひろが黒い本革ローチェアーに腰を下ろすと、美和は嬉しそうに目を細めた。
「ふふっ、天ちゃんからも聞いたわ。新しい相棒が増えて、現場がとても賑やかになったって。一日中怪我なく安全に作業してくれて、本当に安心したわ」
美和は手際よくバースプーンを扱い、氷の浮かんだバカラの重厚なグラスに、自家製の秋柑橘シロップと微炭酸のトニックウォーターを注ぎ入れた。
「はい、どうぞ。一日頑張った身体を優しく休める、特製のヴァージン・シトラスソーダよ」
「いただきますッス!」
グラスを傾けると、ツンと爽やかな柑橘の香りと弾ける炭酸が、一日中泥と鉄に挑んだ身体の奥まで染み渡っていった。
「あおい……まひろ……おつかれ……」
隣のローチェアーから、冷ましたホクホクの焼き芋を手にした深雪が黄金色の瞳をパチクリさせながら顔を出した。
「深雪ちゃん! 今日の新しいツメ、めちゃくちゃ格好良かったッスよ!」
深雪は満足そうに「ん……」と頷くと、自分が食べていたほんのり甘い焼き芋の半分を、そっと二人の皿の真ん中に置いた。
「……あたらしい……ツメで……がんばった……ふたりに……やきいも……はんぶん……どうぞ……」
「あはは! 深雪ちゃん、ありがとねぇ。一緒に食べようかい」
まひろはハスキーに笑うと、深雪の差し出した焼き芋を一口頬張り、シトラスソーダを静かに口に運んだ。
信頼できるアタッチメントを取り揃え、山に挑み、安全に作業を終える。そして、大切な仲間たちと共に静かで温かな夜の時間を分かち合う。
アンバー色の光が優しく満ちる店内で、頼れる副長は仲間たちの穏やかな笑顔を見つめながら、どこまでも深く満たされた夜のチルタイムに浸るのだった。
【あとがき】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
今回は、小型ショベル用の機械式Zフォーク『IFZ25』を導入した閑話エピソードでした。
大型の全回転フォークが入れない狭小エリアでも、二本ピン留めで手軽に換装できて抜群の掴みを発揮してくれる機械式フォークは、山仕事の強い味方です。
結社長がサクッと引っ張ってくる林業機械化の補助金制度のリアルさも交えつつ、現場の職人たちが新しい道具にはしゃぐ姿を楽しく描いてみました。
そして一日の終わりの『Bar風花』では、自家製秋柑橘シロップとトニックウォーターで仕立てた「ヴァージン・シトラスソーダ」と、深雪ちゃんが差し出してくれるほっこり焼き芋の優しさが、疲れた身体をそっと包み込んでくれます。
「新しい相棒の活躍ぶりが熱い!」「シトラスソーダや焼き芋のシーンがほっこりする!」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録や下部の評価(★★★★★評価)をポチッと押していただけると、執筆の何よりの励みになります!
それでは、また次の開墾記でお会いしましょう!
天照(Bar風花)




