『一条山開拓記』第六話:道路を開墾しよう!
【前書き】
※本エピソード(一条山開墾記)は『Bar風花』本編の設定をベースにしたスピンオフ/パラレルストーリーです。
※本編との時期・時系列に一部独自のアレンジやIF要素が含まれます。
※白黒赤三人娘と結社長の賑やかな日常と、本格土木スローライフをお楽しみください!
澄んだ秋風が吹き抜ける一条山。
雨上がりの土間コンクリートから、いよいよ山林の奥深くへと続く第一期作業道の開墾が始まります。
相棒の13トンショベル・コマツPC138UU-11に乗り込み、極太の強化爪バケットと全回転フォーククローを巧みに操る黒木葵。
長年放置された頑固な竹根と風化花崗岩を破砕し、仲間とともに一歩ずつ未来への道を切り拓いていきます。
泥と汗の先にあるのは、仲間たちの信頼と温かな居場所。
そして夜の『Bar風花』で待つ、特別なひととき――。
少女がプロの誇りを胸に突き進む、秋の一条山開墾記をどうぞお楽しみください。
第一章:作業道開設の秋
秋風が山肌を吹き抜ける。
乾いた杉と澄んだ竹林の秋の匂いが、一条山の澄みきった空気に深く漂っていた。
事務所デッキから乗用車エリアへと広がるテラコッタ調のカラー透水コンクリートは、昨夜の秋雨を綺麗に呑み込んでしっとりとした落ち着いた風合いを保っている。手前の高強度土間コンクリートは柔らかな秋日に洗われ、力強い鈍色の輝きを放っていた。
泥跳ねひとつない完璧な足場の上に鎮座するのは、重厚な鉄キャタピラを誇る十三トンショベル——コマツPC138UU-11だ。
「よし……足元は三十ニュートンのコンクリートで完璧に固まったっす。今日からはいよいよ山林奥へと続く第一期作業道の開設に入るっすよ!」
ワークマンプラスのピンクヘルメットのあご紐をギュッと締め、黒木葵がキャタピラの脇で力強く拳を握りしめた。襟足の軽い黒髪のウルフロングの毛先が、秋風にさらりと揺れる。
「葵ちゃん、本日の施工区間の地質と障害物の確認をしよう」
作業服姿の櫻庭天が、コンベックスと現場用の図面を広げた。
一条山の斜面は表層こそ落ち葉と腐葉土だが、三十センチも掘れば長年放置されたモウソウチクの頑固な地下茎が網の目のように張り巡らされている。さらにその下には、風化花崗岩の硬い層が待ち構えていた。
「っす! 普通の平バケットで力任せに押したらアームの油圧ホースが悲鳴を上げて、一発でキャタピラが浮いちゃうっす。だから……本日の主役はこれっす!」
葵が指差したのは、アタッチメント仮置き場にどっしりと鎮座する、耐摩耗鋼の極太ポイントが四本並んだコンマ四五立米の強化爪バケット。そしてその横に待機する、松本システムエンジニアリング製MSZE-RF-45回転フォーククローだった。
「まず爪バケットで竹根を断ち切って岩盤ごとバリバリ掘り起こし、浮いた竹根や倒木をクイックヒッチで回転フォーククローに付け替えて掴み出す……! この爪とフォークのコンビネーションで、幅三メートルの強固な作業道を切り拓くっす!」
「完璧な手順だね。小回りの利くPC20MR-3で僕が追従して、側溝の掘削と路肩の転圧を担当するよ」
天が頼もしく笑って親指を立てた。
プレハブのデッキから、バインダーを抱えた一条結がおっとりと声をかける。
「ふふっ。葵ちゃん、天さん。くれぐれも安全第一でお願いいたしますねぇ」
第二章:爪先集中と抜根
「PC138UU-11、エンジン始動っす!」
葵が運転席のキーを回した。
ドロロンと重厚なディーゼル音が澄み渡る秋空に心地よく響き渡る。
エアサスペンションシートに深く腰を下ろし、マルチモニタの油圧設定を確認。右手のレバーを倒すと、十三トンの巨体が滑らかにキャタピラを鳴らし、打ち立ての高強度土間コンの上から手つかずの山林境界線へと足を踏み出していった。
ガチン……!
アームの先に取り付けられたコンマ四五立米の強化爪バケットが、竹林の入口へ向けて振り下ろされる。
「爪先集中……叩き込みっす!」
葵が繊細な指先でレバーを傾ける。四本の極太爪が、ガチガチに絡み合った竹根の隙間へと一直線に突き刺さった。
ドスッ!
グググ……ッ!
爪先が地下数十センチの竹根を断ち切り、風化花崗岩の硬い層へ食い込んでいく。通常の平バケットなら刃先が滑って弾き返される硬質な地盤が、爪の一点集中圧力によってバリバリと音を立てて破砕されていく。
「す、すごい……っ! 三十ニュートンの土間コンの上に車体がしっかり固定されてるから、足元が一切ブレないっす! コンマ四五クラスの掘削パワーが百パーセント土に伝わってるっす!!」
キャブの中で葵の瞳がギラりと輝いた。
アームを引き上げると、巨大な蜘蛛の巣のような竹根の塊とゴツゴツとした花崗岩が根こそぎ掘り起こされ、地面から引きちぎられていく。
「よし! 一気に竹根の抜根完了っす! 次はアタッチメント換装っす!」
第三章:アタッチメント換装
葵は一度PC138UUを旋回させ、平坦地に置かれた回転フォーククローの前へ車体を止めた。
運転席から油圧クイックヒッチのロック解除スイッチを押す。
カチャンと甲高い金属音がして、爪バケットがスムーズにアームから外れた。
そのままアームを滑らかに移動させ、全回転フォーククローの接続部へ滑り込ませる。
ロックピンと高圧油圧配管が同時に合体——バチン!
「ピンロックおよび油圧マルチカプラ自動接続完了っす! 油圧ライン圧力正常! 換装時間、わずか二分半っす!」
キャブから身を乗り出して叫ぶ葵。油圧配管まで自動脱着する最新オートカプラ仕様の真骨頂だ。手作業ならオイルまみれで三十分以上かかるアタッチメント交換が、運転席の緻密な操作ひとつで安全に完了する。
葵が油圧ペダルを踏み込むと、アーム先端のMSZE-RF-45回転フォーククローがまるで生き物のようにシャーッと音を立てて空中を三百六十度自在に旋回した。
「全回転アプローチ……掴み出しっす!」
爪バケットで掘り起こされ、広場に転がっていた巨大な竹根の塊と倒れかかっていた太いモウソウチクを、クローがガチッと力強く挟み込む。
葵は手元のレバーでクローをキュッと九十度回転させた。重機本体の向きを変えることなく、斜面の脇に設けた集積スペースへと正確に丸太と竹根を積み上げていく。
「素晴らしい手際だ、葵ちゃん!」
後ろから追従していた天が小型ショベルPC20MR-3のバケットで路床を平らに均し、側溝のラインを掘り進めながら叫んだ。
「切土と盛土のバランスも完璧だ。路肩が崩れないよう転圧もしっかり効いているよ!」
「天さんの教え通りっす! 水の通り道を十五メートルおきに作っておけば、秋の長雨が降っても作業道が削られないっす!」
キャブの窓から身を乗り出す葵の額には、爽やかな汗が光っていた。その表情には、かつて大人を拒絶して心を閉ざしていた影など微塵もない。誇り高きプロの現場監督の顔そのものだった。
第四章:完璧な補助金スキーム
「ふふっ。葵ちゃんも天さんも、見事な連携どすな〜♪」
プレハブの木製デッキからその光景を頼もしそうに見守っていた結が、バインダーのタブレットをタップしながら笑みを浮かべた。
「結社長、作業道の進捗はどうですか?」
美和が温かい自家製ほうじ茶のピッチャーを手に尋ねる。結はスパコン並みの計算結果が表示された画面を提示した。
「完璧どすえ、美和さん。本日の第一期作業道開設ですが、国の森林環境譲与税活用・作業道整備事業および県の林業イノベーション推進補助金の施工要件を百パーセントクリアしておりますのえ〜♪」
「あらぁ、作業道を作るのにも補助金が出るのねぇ」
「ええ。放置された山林に作業道を作り、林業機械が入れるように保全する事業には、一メートルあたり正規の定額補助金が出ますのや。葵ちゃんの完璧な施工記録写真と測量データがあれば申請は一発通過どす」
結はバインダーを優しくパチンと閉じた。タレ目を柔らかく和ませる。
「今回の作業道整備で交付される補助金により、本日使用した重機の燃料費や油脂類代、ならびに葵ちゃんたちへの特殊作業手当および十五分単位の超勤手当の原資が百二十パーセント確保されましたのえ〜♪」
「ふふっ、結ちゃんが社長で本当にみんな安心ねぇ」
第五章:山へと繋がる道
時計の針が午後五時を指す頃。
一条山の斜面には、幅三メートル、傾斜が均一に整えられた美しい第一期作業道が山奥へ向かってまっすぐに伸びていた。路床は天のPC20MR-3によってガチガチに締め固められ、水切り側溝が綺麗に整えられている。
PC138UU-11のキャブから降りてきた葵は、秋の夕陽に照らされた開墾道路を見上げた。ワークマンプラスのピンクヘルメットを胸に抱きしめる。
「……通ったっす。うちらの作った道路が……山の中へつながった……!」
「お疲れ様、葵ちゃん。最高の施工だったよ」
天が愛用のスパナでキャタピラの泥を落としながら、温かい手で葵の肩をぽんと叩いた。
「葵ちゃん、本日分の特殊作業手当および残業手当、確定いたしましたえ。さあ、本日はこれにて終了どす!」
結が優しく告げると、葵の表情が一瞬で妹の顔へと戻った。
「っす……! 結社長! 天さん! うち、速攻でシャワー浴びてBar風花へ向かうっす!!」
第六章:Bar風花のお祝い土鍋
夜の八時。
風花町の細い路地の奥、『Bar 風花 -kazahana-』の重厚なオーク材の扉を開けると、澄みきった静けさと微かな桜の香りが優しく出迎えてくれた。
鉄刀木の一枚板で作られたカウンターが、アンバー色の照明を受けて艶やかに輝いている。奥の戸棚では、バカラのクリスタルグラスが静かに虹色の光を放っていた。
「いらっしゃい、葵ちゃん。道路の開通、本当におめでとう」
カウンターの奥で、ワインレッドとアンバーの異色瞳を優しく細めた美和が出迎えてくれた。
作業服からお気に入りの地雷系ファッションに着替えた葵は、照れくさそうに黒い本革ローチェアーに腰を下ろした。
美和がそっと重厚な土鍋と、美しく磨き上げられたバカラのタンブラーを差し出した。
土鍋の蓋を開けると、ふわりと温かい湯気が立ち上る。甘辛い醤油と上質な出汁の香りが店内にふわりと広がった。
「わぁ……! これ何っすか……!?」
「今日、一条山の開墾現場で竹根を深く掘り起こした時に見つかった、地中の『冬筍』と和牛の土鍋煮込みよ。土と戦った葵ちゃんへのお祝いね」
冬を越すために地中深くでたっぷりと栄養を蓄えていた、地上にはまだ顔を出さない幻の希少タケノコ。重機で竹根を根こそぎ深く掘り起こしたからこそ出会えた、山の奇跡の恵みだ。
一口頬張ると、冬筍の驚くほど柔らかな歯触りと、和牛の濃厚な旨味が口いっぱいに広がった。
「美味いっす……! 柔らかくて味が芯まで染み込んでて……世界一美味いっす……!!」
続いて差し出されたのは、風花町特産の摘みたて早生カボスと青柚子を贅沢に絞り、一条山の清らかな天然水と微炭酸、自家製和三盆シロップを合わせた特製モクテル『風花シトラス・エメラルドフィズ』だった。
グラスを傾けると、弾ける炭酸とともに爽やかな柑橘の香気が立ち上り、一日中現場で気を張っていた葵の身体を優しく解きほぐしていった。
第七章:温かな居場所
「あおい……道路……できたの……?」
隣のローチェアーで秋の香ばしい蜜焼き芋をモグモグしていた深雪が、黄金色の瞳をパチクリさせて覗き込んできた。
「うん! PC138UUの爪バケットと回転クローで竹根をバリバリ抜いて、最高の道路を作ったっすよ!」
深雪は満足そうにこくりと頷いた。手に持っていた焼き芋の端っこを、そっと葵の土鍋の脇へ置く。
「……あおい……すごい……。みゆきも……うれしい……。ごほうびの……やきいも……あげる……」
「……っ〜!? 深雪ちゃん……! ありがとうっす……!」
葵の目がじわっと潤んだ。
かつて学校にも行けず、部屋で一人孤独に震えていた自分。地雷系の服を鎧にして突っ張っていた少女が、今は本物の技術を誇り、信頼できる仲間に囲まれ、自分たちの手で山に道を拓き、温かい家族の食卓で笑っている。
「ふふっ。美味しいものをたくさん食べて、明日からも安全第一でね」
美和がカウンター越しに手を伸ばし、葵と深雪の頭を優しく撫で下ろした。
「……っす!! 美和お姉ちゃん、うち、この開けた道路の先へもっともっとすごい場所を作ってみせるっす!!」
アンバー色の光が優しく満ちる『Bar風花』の店内に、温かな笑い声が静かに溶けていく。
切り拓かれた第一期作業道のように、少女たちの未来はどこまでもまっすぐに、輝かしく伸びていくのだった。
【あとがき】
第六話「道路を開墾しよう」をお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回は、葵ちゃんがプロの重機オペレーターとして大きな一歩を踏み出す開墾シーンをお届けしました。
30Nコンクリートの確かな足場から爪バケットと回転クローを自在に操る力強い重機描写、15分単位の超勤手当と補助金制度を完璧に噛み合わせる結社長の無敵の経営スキーム、そして作業を終えた夜の『Bar風花』で待っている美和さんの特製土鍋煮込みと、深雪ちゃんの焼き芋。
かつて部屋で一人孤独を抱えていた少女が、自分の技術と掛け替えのない仲間を得て、誇らしい笑顔で山に道を拓いていく姿を感じていただけたら幸いです。
作品を楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部よりブックマーク登録や評価(★★★★★)、温かいご感想をいただけますと、今後の執筆の大きな力になります。
これからも一条山の豊かな自然と、白黒赤三人娘たちの泥臭くも輝かしい日常を丁寧に紡いでまいります。
次回もどうぞお楽しみに!
天照(Bar風花)




