第52話 紡いできた光
どこかの駅前、高架になっているデッキスペースで人がもみくちゃになっている。ギターを持ったお兄さんが『不当逮捕だー!』と叫んでいて、警察官に取り囲まれている。
『俺は魔女を信じる、テレビで言ってることなんて嘘っぱちだ! 歌わせろ、オーディエンスの干渉はマナー違反だぜ!!』
低い目線のカメラはそこから後ろに下がっていって、距離を取ってから自分の顔にレンズを向けた。
まだ幼い子ども。甘い声をした、夢見がちな少女。わたしはこの子を知ってる。最初に出てきた人も、知ってる。
女の子、亜里朱ちゃんは手を振った。
『おねえさーん見てますかー? 見てないと思いますけど、見てる体でお話するのです! ひどーい言い方されてるので、ファンクラブ会員が集まって、緊急でカメラ回してるのです。そしたら集会の許可を取ってないって、警察の人たちがきたわけなのですね』
まだ取っ組み合いをしているお兄さんが映し出されて、すぐにカメラは戻る。
『わたしたちはみんなお姉さんが大好きなのです。それをちゃんと伝えたかったのです!』
またカメラが動いて、近くに立っていた明るい髪の、わたしと同じくらいの歳の女の子がフォーカスされた。片手で顔を隠して『私はいいから……』と言っている。
『ダメです。伝えたいって言ってたの忘れてませんから。アンプと繋がってるので歌ってください』
『はぁっ!? なにその無茶振り、ちょ』
無理やりマイクを渡される女の子。彼女もわたしは知っている。
霞ちゃん。トワイライト・ウィッチの名付け親。
はじめて助けた相手。ようやく、わたしが憧れを叶えた瞬間、そのときに知り合った、大切な友達。
亜里朱ちゃんに押されて、霞ちゃんは頬をかきながら話し始めた。
『えっと、あの、あー、なんだか、大変そうだよね。私らなんにもできないけど、その、少しでも気持ち……じゃなくて、お礼が伝えられたら、励みになるんじゃないかなって、思って』
頬を赤らめて、視線をさまよわせながら、霞ちゃんは話を続けた。
『法律とか、魔法使いとかよくわかんないけど、ええと、えと、助けてくれて、私は本当に嬉しかった。だからあんたのやってることは間違ってないと思うし』
そこで言葉を切って、霞ちゃんは軽く息を吸った。
『ずっと応援してる』
横槍が入る。亜里朱ちゃんが『忘れてたくせに』とからかっている。霞ちゃんは『これからは応援するの!』と強めに言い返していた。
『じゃあ歌ってください、応援歌を』と亜里朱ちゃん。
『うぅ……』と霞ちゃんは下唇を噛んだ。『それじゃあ……少しだけ……』
そしてアカペラで、歌い始めた。
恥ずかしそうで、ややどもっている。舌があまり回っていなくて、顔は真っ赤だ。
『よ、夜明けを待つな お前は、止まらない Twilight Witch 黄昏の魔女』
その歌声に気づいて、後ろに映っていたお兄さんたちと警察官の争いが止まった。不思議そうな顔で、その歌に聞き入っている。
それはこちらもだった。校庭は静まり返り、みんな首を振って音の出どころを探している。師匠も、両腕を広げたまま固まっていた。
ワンコーラス目、おそらくその最後のフレーズが聞こえてくる。
『軛を解き放て』
霞ちゃんは真っ直ぐにカメラを見つめていた。
恥ずかしがって目を逸らすまで、ずっとわたしの方を見ていてくれた。
亜里朱ちゃんの合いの手が聞こえてきて、二番に入るところで、ぷつんと放送が途切れた。
それと同時に、師匠が振り向いた。
「まだ抗うつもりか」
わたしは膝に手を置いて、倒れそうになりながらも、腰を入れて立ち上がった。
「そうじゃありません。一番大切なことを思い出したんです」
自分の正しさを信じて。




