第51話 わたしの戦いは、誰に届いてたんだろう
砂埃の中に、時任先輩が倒れていた。身体が動いている。よかった、意識はありそうだ。
青くなった腕を使って身体を起こすと、遠巻きにカメラを構える報道陣の姿が見えた。その奥に、生徒たちが追いやられている。
視界がクリアになった頃、軽快な音を立てて師匠は校庭に降りてきた。
十メートルくらい先に立って、わたしではなくカメラを見て両手を広げた。
「皆様、御覧ください。大変苦労しましたが、秩序を破壊する悪はこのように地に伏せっております。この者は用意周到に我々に取り入り、自らの思想を公共の電波に発信しようとしました。そのような無法、断じて許しがたい。責任を持ってこの私が拘束いたします」
一部から拍手が上がっている。あれも仕込みだろうか。
師匠は最初から、逃亡劇を演じてここでわたしを倒そうとしてたんだ。みんなの前で、一番カメラが集まりやすい場所で、自分の正義を証明しようとしていた。
時任先輩はよたよたと近づいてきて、すぐとなりに座り込んだ。
「まんまとやられたな」
「ごめんなさい……逃げられると思ってた」
「私が望んだことだ。謝罪を受けるいわれはない」
師匠は演説を続けている。いかに自分が正しいのか、わたしがどれほどの悪なのかを、語って聞かせている。
今攻撃したら……ダメだ、むしろそれを望んでるのかも。ピンチを演出すれば、わたしの悪がさらに際立つ。
最初から最後まで演出で、徹頭徹尾わたしを利用している。自分の株をあげるために、認定の魔女として祭り上げ、それがだめになっても最大限活用してから切り捨てる。なんて醜い。
こんな人を慕っていたのかわたしは。東京で気づいたはずだったのに、演技に騙されて、師匠ならもしかしたらって、馬鹿みたいだ。みたいじゃなくて、馬鹿なんだな。
時任先輩が言った。
「力尽きても私達にはまだ武器がある。配信は続いている、君の言葉を世間に伝えろ」
「……いいですよ、もう。さっき、全部無駄なのかもしれないって思っちゃったんです。わたしの想いなんて結局誰にも伝わってない。一番近くにいる子たちに、怖がられてる」
生徒たちはみんな師匠の演説に聞き入っている。たまにわたしを見ている子がいると思えば、その顔は青ざめているか、憎しみを向けるように歪んでいる。中には、怒ったように声を上げている人もいる。魔法使いの評判を下げるな、みたいなことを言ってる。
頑張ったつもりなのに、魔法は良いものだって広めてきたつもりなのに、本当に困っている時には、誰も助けてくれない。どれだけ人を助けても、正しいことをしても、報われない。
今の今になって、そんなことを思っちゃう。
「君の信念はそんなものだったのか! 正義の味方は、あのような醜悪な人間に敗北するのか!?」
「どうすればいいのか、わからなくなりました。心にポッカリと穴が空いたんです。わたしの正義は、先輩の言ってたように自己満足だったのかなって」
それでいいって思ってたけど、いざとなるとなにかを求めているのがわかる。
そもそも、正義自体が自分のためのものだったのかもしれない。
わたしは、ひとりぼっちだ。
「だったらこれを見ろ、君の志が人々を救っているのだと知れ!」
砂のまとわりつく顔が必死に訴えていた。その目には光が宿っていて、諦めなんて微塵も感じられない。手にはスマホが握られていて、ある動画が映っていて。
校庭のスピーカーから、大音量で音声が流れ始めた。




