第45話 無事、会見は壊れました
きぃぃんという電子音が会場のざわつきを一段と大きくした。大勢が口を開けて、わたしに注目していた。
座席にいる一人の同級生、一人の先輩、そしてみんなに笑顔を見せた。
真横を向くと、師匠の眉間にシワが寄っていた。
「あ、ごめんなさい、マイク入ってなかったみたいで、もういちど、お願いします」
指を立てて、おっほんと咳払いをした。原稿を脇に追いやって、心の中の言葉を読み上げる。
「えーと、皆さんはじめまして、こんにちは、世間を騒がせている魔女トワイライト・ウィッチです。まずは自己紹介ね。名前は真藤はるか、十七歳、身長は百六十二センチ、体重は忘れたとして、誕生日は五月二十二日です。特技は魔法、好きなものも魔法です」
会場は静まり返った。師匠は硬直して、まばたきを繰り返している。
よし、まだいけそう。
「嫌いなものはこれ、この耳に付いてるやつ」中指と親指で鈴をつまむ。「これね、重くないけどすっごくうるさいんです。夜中とかこの音で目が覚めるんですよ? 鉄臭いし、しかも外せない。おしゃれするにも考えなくちゃいけなくて、まあ片耳ピアスだって思えばやりようなくはないんですけどね」
横目に、師匠の口が動くのが見えた。
「暗示が破られた……?」
舞台裏が騒がしい。座席の端で警備員が動き回っているのが見える。
ステルスの発動準備だけはしておく。
「えー、みなさん、師匠も、もう少しだけ話に付き合ってください。次はわたしのむふふな私生活についてか、それかもう一つの話題か悩んでるんですよね、どっちがいいですか? 返事がないみたいなので――わたしたちの本当の能力についてお話しますね。実は、ほとんどの魔法使いの力って、とっても弱いんです」
「マイクを切れ! カメラもだ!」
叫んだのは師匠だった。椅子から飛び退いて、鼻息を荒くした師匠と距離を取る。
「危険だ危険だって言うけど、本当はそんなに危険じゃないんですよっ、危険なのはわたしとか、師匠とかだけっ――ってもうだめっ、勝手に切らないでくださいよ、放送!」
会場の照明が付く。みんな立ち上がってこっちを見ている。
師匠の白い歯がかっちりと合わさっていた。開くと同時に怒鳴り声が聞こえてくる。
「なぜだ、なぜ精神感応が働かない、認定の魔女になるのは、君にとっても利益のはずだ!」
「それが師匠の固有魔法なんだ。どうりで、今まで見せられてきたのも幻覚だったってわけだ」
思えば再会したときからおかしかった。あのときの師匠は実体がなくて、ただ幻を見せられていただけだったんだ。
それ以外も不可解なことばかり。子どもの頃見せられたサンタだって、本物じゃなかったってことだ。
師匠は口を押さえようとして、途中でやめて、右腕をわたしに向かって突き出した。
「裏切るつもりか」
「裏切ってなんかいません。約束通り熱い思いをみんなに伝えようとしただけです」
「君とならわかりあえると信じていた。残念だよ」
「同感ですよ、師匠」
攻撃される前に、魔法を発動した。わたしを中心に光が広がっていって、会場全体を包みこむように弾けた。そこら中から悲鳴が上がって、その機に乗じてステルスを発動する。
いきなり消えちゃったわたしに困惑する師匠を尻目に、混乱するスタッフさんたちの間を縫って裏口から外に出た。
あーあ、なんかとんでもないことしちゃった。わたしやばすぎ。
せめて先輩と芽衣ちゃんが喜んでくれてるといいんだけどな。
しまった、箒がないと飛べない。寮に戻る、それは無理、絶対に捕まっちゃう。じゃあじゃあ、どこか掃除ロッカーとか、物置とか――パチンッと両手を叩いた。
「あっ、予備ぃ!」
そういえば一本旧校舎に隠しておいたんだ。備えあれば憂いなし、わたしの思いつき冴えてるぅ。
ちょくちょく姿を消しながら、ダッシュで旧校舎に向かった。
旧校舎に飛び込んで、サイレンの鳴り止まない廊下を全力疾走した。放送では生徒を一箇所に集めろだとか、対象を発見次第発砲しろだとか色々聞こえてくるけど、未だにわたしの居場所は掴んでいないみたいだった。
階段を駆け上がって二階へ、廊下を突っ切って、図書室へと飛び込んだ。本棚を素通りして、掃除用ロッカーを開けると、ばっちり予備の箒が立てかけられていた。
「ようし、後は飛ぶだけ。芽衣ちゃんに……仕方ない、後で電報でも送ろう」
頭を振って、窓に向かった。箒に跨がろうとして――声が聞こえた。
『やっほーはるか。ほんとに飛ぶ気? 逃避行は思ってるより大変だよ』
女の子の声。お気楽な調子が、頭の中に直接響いてきていた。




