第42話 できっこないことない
部屋での一件の翌日、どこからともなく「トワイライト・ウィッチ」がうちの生徒であることがメディアに向けてリークされて、世間では結構な話題になった。憶測が憶測を生んで、ある話ない話が拡散されて、公式に生徒であるのが発表されたのがさらに次の日のことだった。
これには校内もにわかに沸き立つ……とまでは行かないけど、大きなイベント前のような、なんとも言葉にしにくい、そわそわした非日常感が生徒たちの間に広がっていった。
一日が過ぎて、二日が過ぎて、週末を越えて、気付けば会見は明日に迫っていた。一度だけ師匠と会ったけれど、台本通りに進めることを念押しされて、軽くリハーサルのようなことをしただけだった。共存共栄だとか、社会正義だとか、申し訳ありませんでしただとかそういう心にもないことを読み上げさせられた。
学校での準備や調整も進んでいき、講堂で行われる会見には生徒も参加することが通達された。とはいっても、裏側で起きていることはわたしにはなにもわからない。主演なのに脇役みたいだった。師匠が言うところによれば「役割を果たすとはそういうことさ」とのことだった。
そんな政治的な駆け引きを教えることよりも、師匠はわたしに豪華なドレスを着せたがっていた。何度断っても、晴れ着を選ぶお母さんみたいに押し付けようとしてきた。
会見には制服で臨む。鈴も着用したまま。そこは絶対に曲げなかった。ハイヒールじゃ走りにくいしね。
会見前日の寮はみんながみんな浮足立っていて、ウォーリーを探せ状態だった。食堂でもお風呂でも、談話室でも自習室でも、みんなトワイライト・ウィッチが誰なのかを話題にした。
夕食の時間、四人がけのテーブルに女の子八人も集まって、おしゃべりの輪を作った。
「真藤さんは知ってる?」
「ああいうの好きそうだよね」
「どうせ調べてたでしょ?」
「ううん知らない」
「でも良かったよね、野放しだとこっちまで疑われるし」
「ねー、左にも鈴つけさせられたらどうしようかと思ってた」
「確かに、規制が強まったら嫌だもんね」
「はるかはそういうの考えないでしょ?」
「えーと、まぁ、わたしだってちょっぴりは思うよ。良かったかはわかんないけど」
「あの子が怪しいと思うんだよね」
「時任先輩さんとか、なにやってるかわからないし、ありそう」
「もしかしたら男子の魔女かも、多様性の時代だし」
「ねえはるかはどう思う?」
「うーん、ちょっとよくわかんない」
どんな話題を振られても、わははーと笑って受け流した。みんないつになく活発だ。興味ありませんみたいな態度だったけど、内心では注目してくれてたんだ。
そうやって話していると、そのうちの一人が言った。
「なんにせよ、私達とは違うよね」
さっと熱気が引いていってみんな静かになった。顔を見合わせて、それぞれの席に戻ろうと動き始めた。
そりゃそうだ。ヒーローとして話題にしても、自分や友達がそうだなんて思えない。あの頃のわたしがそうだったように、魔法の力なんてほんと微々たるものだから。
師匠や今のわたしと同じことができなければ魔法使いとしては認められない。それが鈴を外す条件で、認定される基準でもある。
本当は特別の側のやつが言うことじゃないんだろうけど、正義の味方としては黙ってらんないところがある。
「そうでもないよ。どんなに小さな力でも、わたしは役に立てられると思うな。派手なことは無理でも、誰か一人を助けるくらいならきっとできっこないことない」
そう言ってみても反応は薄かった。みんな顔は暗くて、ちらちらわたしを見るだけで同調しようという子はいない。
「そういうのは、あんま言わないほうがいいよ」
誰かがそう言って女子会は解散された。いやここには女子しかいないけど。
わたしも戻るか、と思っていると、斜向かいの席にいる芽衣ちゃんと目が合った。お椀を持ったまま箸を止めていて、じっとわたしを見つめている。
ごったがえす騒々しい食堂の中で、芽衣ちゃんだけにスポットライトがあてられているような、そんな錯覚がした。
席に戻って、隣の芽衣ちゃんに声をかけた。
「ごめんね、みんなの話も聞きたくて」
芽衣ちゃんは小さく頷いて、なにも言おうとはしなかった。
なんだろう。わたしのことでまた悩んでるのかな。会見、明日だもんな、不安に思ってて当然だ。
明日。そうか、てことはこんなふうに過ごすのは今日が最後かもしれないんだ。
ゆっくりお話できる機会なんて、もしかしたら、もう。
機械的に箸を動かし続ける芽衣ちゃんに声をかけた。
「ね、今夜はわたしと寝てくれないかな?」
「へ……?」
カクッと使い古しのダイヤル錠みたいに首が回って、ご飯粒の塊が箸から落ちていった。




