【幕間】中川霞と黄昏の魔女
高崎の駅前、人混みの隅っこで、ギターを弾いている路上ミュージシャンがいた。ビンテージのストラトと、二十代前半くらいの男の組み合わせ。
別にそれ自体は珍しくもなんともない。ギャラリーは数人しかないけど、現実って結構そんなもんだ。夜もど真ん中なのに十歳かそこらの女の子が「わー、かっこいいのですー、ひゅーひゅー」なんて拍手してるのは珍しいけれど、まあ、そこはどうでもいい。
そんなことよりも、その人が歌っているオリジナルらしき曲の歌詞に、私が作った魔女の名前が使われているのが気になった。
「夜明けを待つな お前は止まらない Twilight Witch 黄昏の魔女」
情熱的な演奏だ。技術は荒削りに思えるけど、弦をかき鳴らす勢いと、魂を込めた声の強さで聞かせてくる。
喉を枯らしながら熱唱し、演奏の最後、静まり返った瞬間、指を離した弦がかすかに鳴り、空気に震えるような余韻を残した。
「軛を解き放て」
それが最後のワンフレーズだった。
気付けば私もギャラリーの一人になっていた。話しかける間もなく次の曲が始まる。どうして知ってるのか聞いてみたい。あの子、あの魔女と知り合いなんだろうか。
「お姉さんも、ファンクラブに入りますか?」
急に声をかけられて、見ると拍手していた女の子が私を見上げていた。
「いや、ごめん、そういうのはいいや。ただ、さっきの曲の歌詞が気になってさ。あれ、なに? あのトワイライトってやつ、みんな知ってんの?」
女の子の眉間にシワが寄って、不思議そうに首が傾く。なんか変なこと言ったかな。
「もしかしてお姉さんは、テレビとかニュースとか見ない系の人だったりしちゃいますか?」
「え、あんま、いや、全然見ないかも。へえ、てことは、あいつ有名になったんだ、やるじゃん」
人助け、続けてるんだ。馬鹿なことしてるなって思ったけど、ブレないでいるなら、ちょっと応援したくなるな。
「お知り合いですか?」
「ん、ま、そんなとこ。あのトワイライト・ウィッチって名前、私があげたんだよね。助けてもらったお礼にさ」
そう言うと、女の子は神妙なツラになって、考え込むように顔を伏せた。少ししてから「なら知っておいたほうがいいのです」と言いながら、ポケットからスマートフォンを取り出した。
女の子が見せてきたニュースサイトの見出しを読み上げる。
「反体制派の自称魔女の身元を特定、容疑者は以前よりトワイライト・ウィッチという名で破壊活動を――なにこれ、なに、どうなってんの、悪さしたの? あいつが?」
信じられない。そんなことをする奴だとは思えなかった。確かに危ない橋を渡ってるとかって言ってたけど、破壊活動だなんて、そういうの一番嫌いそうなのに。
肌が熱くなる。汗が浮いてきて、耳に届く音楽が遠くなった。
嘘でしょ。尋ねるように目を見ると、女の子は頭を振った。
「魔女のお姉さんは悪いことなんてしてないのです。話したことがあるならお姉さんにもわかるはずです」
「そんなやつじゃないって思いたくはあるけど――」
「じゃあ決まりなのです!」
パッと右手を取られて、女の子は私の手を引っ張った。
「ファンクラブ会員ナンバースリーはお姉さんなのです。ギターのお兄さんが二番で、亜里朱が絶対絶対一番ですけど!」
勝手に人を加入させて、女の子は顔いっぱいの笑顔になった。
情熱的な歌声が、暗い空に響いていた。




