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魔法禁止の世界で魔法少女をやる馬鹿 〜みんなも魔法使いなのに、今飛んでるのはわたしだけ〜  作者:
第三章 合法魔女と違法魔女

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第28話 二人の魔女

 首に激痛が走る。頭から流血しているのがわかる。手足がぐったりとしていて、倒れている。


「確保ー!」


 と聞こえてくる。頭の中にノブレスの笑い声が響いている。


 ささやきが聞こえた。


 ――これで終わりなのか――ただの人間に捕まって、独房で余生を過ごすのか――戦え、戦うんだ、魔法を使ってすべてを壊してしまえ――君にはそうするだけの力があるのだから――。


 無数の足音、野太い怒声、ガチャガチャと揺れる装備の音。大勢の大人たちがわたしを捕まえようとしている。わたしは終わろうとしている。


 嫌だ、そんなのは嫌だ。まだわたしは、なにひとつ夢を叶えていない。


 まだ、終わりたくない。


「まだっ!」


 近づいてくる全てをはねのけるつもりで、全周囲に魔力を放出した。雪崩のような音が聞こえてきて、沢山の人が地面や壁に叩きつけられたのがわかった。


 立ち上がる。


 周辺は想像したのと同じようなありさまだ。歩道のタイルが剥がれ、街灯は折れ曲がり、シャッターが歪んでいる。盾を構えた警察官がわたしを包囲していて、……うずくまっている人が何人も地面に転がっていた。


 これじゃ、完全に悪者だ、わたし。


「ごめんなさい……」


 近くに落ちていた箒を拾って空に戻ると、両手を広げたノブレスがすぐ前に浮かんでいた。


「器物損壊に公務執行妨害、特異能力規制法違反、テロなど準備罪に航空法違反もあるのかな。どうだい、これ以上罪を数える前に自首するというのは? それとも追いかけっこを続けて、後戻りできないところまで行ってしまうつもりかな」


「わたしは……正しいって信じて……」


「君が殺そうとした警察官にも家族がある。破壊した街には善良な人々が暮らしている。革命家はそれでも自らの正当性を主張しようとするが、君はそこまで愚かではないと思いたいね」


 それはそうだ、でも、だからって、嫌だ、捕まりたくない。ノブレスを倒さないと……無理だ。勝てるわけがない。


「誰も傷つけるつもりなんてなかった……自首なんてしない」


 光で撹乱して距離を稼いでから、ステルスを限界まで使って逃げる。活路はそれだけだ。


 でも、ノブレスの力がどんなものなのか未だにはっきりしない。また感覚を狂わされたら空を飛ぶことすらままならなくなる。


「あくまでも抗うつもりだね。しかし君は気付いていないかもしれないが、素顔が――」


 そこまで言ってからノブレスは突然静かになった。


 目元に触れてみる。マスクがない。見られちゃったのか、わたしの顔を。


 顔、を。


「……君はいくつだ? どこに住んでいる、今すぐ名を名乗れ」


 箒の柄から両手を離して、挟んだ太ももだけでバランスを取る。ノブレスを見つめて、荒い呼吸を整えた。


「わたしは夢の国に住んでる魔法使い。歳もない、名前もない、聞かれたって答えられません」


 両手で髪をかきあげて、肩の後ろへと追いやった。この顔がよく見えるように。


「そんな奴に見覚えでもありましたか、ねえ――師匠」


 ノブレスは「まさか」とつぶやいた。


「箒は捨てちゃったんですね」


 呼吸すらも忘れたように動きを止めて、ノブレスはわたしの顔に釘付けになっている。あの夜のことを覚えてる。やっぱり、夢じゃなかった。


「君なのか、はるか」


 ノブレスは気の抜けた顔で口を動かしていた。


 そうだって言おうか、話をしてわかってもらう、いや違う、そんな考えは甘すぎる。


 わたしは人を傷つけた。本当に犯罪者になってしまった。そんな奴にできるのは状況を利用することだけだ。手のひらを胸に隠して、目立たないように光を収束させる。


「そうか、そういうことだったのか、やはり君は、いや今はいい、そんなことよりも、とにかくこちらに来なさい。悪いようにはしない」


 ノブレスが腕を伸ばして近づいてくる。片手で箒を握りしめる。態勢を整える。


「ありがとうございます。でも、わたしははるかじゃない。わたしはトワイライト・ウィッチ――宵闇を照らす魔女」


 手のひらを反転させて全力で光を放出した。雷光のようにまたたいて街全体が一瞬だけ光に包まれる。


 百八十度ターン。全速力で離脱する。ステルスを発動、姿勢を低く、風よりも速く――足首を鷲掴みにされたような感覚がして速度が緩む。


 捕まった、反撃しなきゃ。


 そう思った瞬間に拘束は消えて、頭の中に声が響いた。


『……また会おう』


 振り返って顔を伏せるノブレス……師匠の姿をちらと見て、後はもうなにも考えず前だけを目指した。



 四十秒経ってからステルスを解除すると、赤色灯はもうずっと遠くになっていた。


 雲の上まで上昇し、人目が完全になくなってから巡航できる速度まで落とす。針路を西に向けて、誰もいないのをいいことにつぶやいた。


「たすかった……たすけてもらったのかな、師匠に」


 見逃してくれたってことだ。わたしがわたしだったから。


 でもまた会おうって、なんのこと。今度こそ捕まえにくるの、それとも違う話、わからない、師匠の考えてることはなにもわからない。


「……空ってこんなに暗かったっけ」


 月のない夜空を、ただひたすらに進み続けた。

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