第23話 こういうの「ドブ板」って言うらしいよ
依頼者のところへ行ってみると、山道で脱輪した車が立ち往生していた。サクッと、でもなく気合を入れて持ち上げてあげると、大学生のお兄さん四人は照れるくらいに感謝してくれた。かわいい子だなんて声が聞こえてくるのも、まぁ、悪い気はしないよね。
「じゃねー」
手を振ると
「俺らもさ、魔法はもっと人のために使われるべきだって思ってた!」
と熱く振り返してくれた。
「勝手にら扱いすんなー」
みたいな軽いノリが聞こえてきたけど、それはよしとしましょう。
なんだ、最初から好意的な人もいるじゃん。依頼を送ってくるくらいだから当然かもしれないけど。よーし次、次。
『木から降りられなくなった猫を救ってください』
深夜にメルヘンすぎる依頼、とりあえず行こう。
小さな子かなと思ったら、依頼者はOLっぽいお姉さんだった。猫ちゃんを助けてあげると、お礼に財布を出してきた。けどそういうのはお断り。
「ごめんなさい、魔法使いさんはお金に馴染みがないのでしたね」
なにその認識。違う違うと手を振る。
「お金よりも、魔女は悪い人じゃないってみんなに教えてあげて。それが一番嬉しいから」
都会の夜空を駆け上がると、山とはまた違った、じとっとした空気が額をすり抜けていった。
火照った身体を冷ますための、上空でのクールダウンが気持ちいい。
『彼に振られたしにたい』
慰めてあげて、手元で花火のように魔法を弾けさせた。
「魔法ってちょっとだけいいかも……」
多少は気が紛れたようだった。
『財布を居酒屋に忘れた!』
もぅしょうがないなあ、近くだから行ってあげる。……届けてあげると酔いつぶれて寝ていて、探すのに苦労した。
「ふひぇ、ひゃー魔法使いってのはべんりべんり、財布を作っちゃった。せっかくだしふたつみっつに……え、違う? なんだぁそうなの」
おかしな依頼に切実な依頼。選り好みしないヒーローは、たくさんの感謝と笑顔をもらってしまうのだった。
順調に活動を続けて一週間。SNSではにわかに話題になっていて、知名度はまさにうなぎのぼりだった。たまに殺意の籠もった言葉が送られてくるけど、それは我慢。
そんな魔女っ子活動にもなれてきた水曜の深夜。雲の多い郊外を低空飛行していた。眼下の住宅地に明かりはほとんど見えない。みんな夢の中のようで、依頼も止まっている。
地上のトラブルに目を光らせながら、片手で口を押さえた。
「ふぁあ、今日もいっぱい頑張ったなあ。ツキノワグマを山に返したり、暴走バイクを止めたり……応援のメッセも貰っちゃったし」
頬が緩んできて口元がだらしなくなる。スマホを取り出してもう一度確認しちゃう。
『華やかな魔法の力に感動しました。イメージとは全然違ってて、怖いなんて感じませんでした。これからも、魔法使いさんだからこそできる活動を是非続けてほしいです。がんばってください』
全身がむず痒くなってくる。胸が火照って頭の中がふわふわする。ジーンとしびれが広がって、喉で弾けて熱い吐息が漏れた。
まだ始めたばかりなのにわたしの思いは確かに伝わっている。無駄じゃなかった。やってよかった。魔法はいいものだって人の役に立つんだって感じてくれてる。
「いやぁ、明日こそニュースになっちゃったりして」
ふへへ、朝が楽しみ。
英雄、正義の味方、そんなふうに呼ばれたりして。
あり得る。だってみんなわたしを褒めてくれるし、警察だってあの火事以来出くわしていない。あのノブレス・ウィッチこと師匠もなんにも反応してないし、たぶんこっそり認めてくれてるんだと思う。
なんてね、ふふ、さすがに妄想し過ぎかな。でも、このまま頑張り続ければ本当に認めてくれるかも。わたしを、魔女を、魔法を。
そうやって妄想したり依頼をこなしたりしていると、いい時間になっていた。
「今日はこれくらいでおしまいにします。明日の夜もお楽しみに……っと」
SNSを更新していると、大きなあくびが出た。学校はどっちだったかなあと探していると、ふいに冷たい風が首筋を撫でた。背筋がゾクッとして鳥肌が立った。
背後に気配を感じた。なにか悪いものが浮かんでいるような気がした。
振り返るとそこにはなにもなく、変わらず街の灯りが夜を照らしていた。
無意識に握りしめた手が、少し汗ばんでいた。なにもない、と思ったその瞬間に嫌な気配は消えた。気のせい……ブーと腰のあたりに振動を感じた。
「ひゃあっでたっ……って、なんだおメッセージ」
ふぅと息を吐きながらスマホを取り出して、内容を確認する。依頼DMみたいだけどなんだか他とは雰囲気が違う。
「同士とコンタクトが取りたい……? なにこれ」
見れば投稿の存在しないアカウントで名前は「結城」。イタズラかな、頭飛んじゃってるメッセはたまにくるけど、でも、あんまり見ないやり口だ。だって。
「この人魔法使いを自称してる」
『同士トワイライト・ウィッチよ、私は魔法使いだ。あなたの助力が得たい。私は今、窮地に立たされている。一刻の猶予を争う。連絡を待つ』
デタラメ言ってるだけかもしれない。作ろうと思えばいくらでも設定は作れる。でも、なんか必死な感じだ。本当に魔法使いなのだとしたら、無視するべきじゃないかな。
『詳しいお話を聞かせてください』
そう返信してスマホの画面を消した。とりあえず連絡を待って、もし具体的な依頼があるのならその時に考えよう。
五分ほど待ってみたけど、すぐに返事はやってこなかったので、今度こそ学校に向かって飛んだ。




