第22話 ちょっとでもいい世の中にしたいから
勢いで立ち上がると、スプーンが手から落ちて甲高い金属音が鳴った。すぐ側で列を形成していた生徒たちがビクッと反応して、一斉に視線が集まった。静まり返って、ヒソヒソと話をしている。
そんなことはどうでもいい。
スマホを芽衣ちゃんに突き付けた。
「ほら、ほらほらほらほら、見て見て見て見て見て! これわた――魔女のこと話題になってる!」
あ、やば自分から言っちゃった。
芽衣ちゃんは一瞬だけ見て、すぐに目を逸らした。
「話題になってたね」 「え、知ってたんだ」 「たまたまね」
そう言って、芽衣ちゃんはおつゆを啜った。
いいかげん注目を集めすぎていたので椅子に座った。奇異の目を向けるというよりは、もはや触れちゃいけないあの人をみんなで無視しようという空気感だった。
そういうのは慣れてるから別にいい。
「そっか……たまたま……ふふ」
もしかして芽衣ちゃんはわたしのこと気にかけてくれてたのかな。それとも本当にたまたまなのかな。聞いてみようかな、でも、あんまり強引なのも、よくないかも。いいや、いいやいいや、たまたまでもそうじゃなくてもどっちでも。ちゃんと伝わってればそれで。
わたしはテーブルに身を乗り出した。
「あ、あの、あのね、これ凄いね、こんな事する人がいるんだ……人助けなんて、本当にヒーローみたいだ」
芽衣ちゃんは周囲の様子を伺うように、目だけを左右に動かした。
「人助けは立派かもしれないけど……嬉しそうに話すことじゃないよ」 「え……ぁ、そ、そうだね、はは、あ、やばカレー冷めちゃう、いただきまーす」
パクっと一口目をいただいた。
咀嚼しながら、それもそうか、と思う。なんでニュースにならないのかはわからないけど、この学校の生徒たちが無視するのは、この話題には触れないほうが無難だからなんだ。芽衣ちゃんのようにたまたま目にしても口には出せない。だから噂は広まらない。
能天気なのはわたしだけで、わたしだけがワクワクしてる。
「嫌な世の中だね」
芽衣ちゃんはテーブルに置かれたわたしのスマホを見て、そう呟いた。
そして「……こんな事件が起きるなんて物騒」と付け足した。
その言葉がなにを意味しているのか、今は考えないことにした。
夜になると鈴ピアスを外して空に飛び出した。拡散してくれたおかげで、例の裏垢に結構な数の人が接触してきていた。
お月さまの下でDMを確認すると、大量のいたずらに混じって切実な依頼が入ってきていた。ピザの配達をしてください……「ばかやろうウーバーか」
これじゃなくて、こっち。『脱輪した車を持ち上げてほしい。レッカーはしばらくこない』
よし決めた、最初の依頼はこれにしよう。
燕のようにくるっと一回転すると、蒼い粒子が輪になる。
お尻側に体重を傾け、目的地へ針路をとった。




