第21話 テレビでわたしのことがやってない
紙吹雪が舞う、ラッパや太鼓が陽気に鳴らされ叩かれる。みんながわたしを認めて、たくさん褒めてくれる――夢を見た。
目覚ましを止めて、ベッドから降りて、目をこすりつつ歯を磨いて、着替えながらテレビを見る。ほわほわした頭でも、夢は夢なのだとすぐに悟った。
おはようニュースでわたしのことはやってない。「ス」で始まる単語は一切聞こえてこない。
ただし「魔法」という単語は聞こえてくる。黒いローブの魔女が、突っ込んでくるダンプカーを浮かび上がらせて爆発させていた。ちゃっかり運転席から犯人を救助する抜け目のなさはさすが師匠。ていうか師匠が出てくるときだけ魔法って言葉使うんだよな、変なの。
さておき昨夜はわたしが知らないうちに大捕物があったらしい。
「能力者により構成されるテロリストの潜伏拠点と見られる山荘を強制捜査。激しい抵抗を受け警官隊と衝突するも、魔女ノブレスの介入によって事態は沈静化……へぇ、師匠は派手にやってるなあ」
炎上する山荘。救急車に運ばれる警察官。積まれる土嚢に、押収される銃器の類。それに、ばらばらになったダンプカーの真横でインタビューを受ける師匠。
『我々は如何なるテロリズムにも屈しません。どのような主張があろうとも、屁理屈で正当化しようとも、独善と暴力による革命は決して容認しません』
炎が照明になっているけれど、背後に見える空は暗い。夜遅くの映像なのか、珍しく声に覇気がない。肌艶も悪くて唇は乾燥している。疲れているというか気が抜けているようにすら見える。かっこいいこと言ってるのに楽しくなさそう……いやそれは当然なんだろうけど、あっちは仕事なんだし。
『もういいかい?』
最後にオフレコっぽい小声が聞こえてきて、師匠は下がっていった。
わたしみたいにただ喜んでるだけじゃいられないのかな。
あんなふうに記者さんに囲まれたら超ハイテンションでインタビュー受けるんだけどなあ。
唇あたりを膨らませていると、画面が切り替わって次のニュースに移った。
「おっ、やるかな」
期待したのに、一向にわたしのことは流れてこなかった。
目を凝らしても、液晶のドットを睨みつけても、やっぱりわたしの話はない。やがて左上の時計がゼロになって、今日のお天気コーナーが始まった。
とっくのとうに着替え終えてベッドに座っている芽衣ちゃんに、一応聞いてみた。
「今のやつ以外に、なにか面白いニュースやってた? ……その、火事とか」
「ううん、特には」
一瞬の間があって、芽衣ちゃんは振り向いた。
「それ、面白い?」
「その、バックドラフトの温度とかそういうの、興味あって。や、やっぱなんでもない。さてさてさて、早く着替えなきゃ今日も遅刻して怒られちゃう、あーいそがし」
話したくなる気持ちを抑えて、着替えに戻った。直接言うのはちょっと押し付けがましい。
芽衣ちゃんは視線をテレビからスマホに切り替えて、わたしの準備が終わるの待っていた。
それにしても、あれくらいじゃ報道してくれないんだ。
絶対話題になると思ったんだけどなあ。
もしかしてそこから夢だった? まさかぁ。
朝の教室もいつもと変わらない。みんな昨日見たテレビがどうとか、SNSがどうとか、推しがどうのだとかいう話をしている。
「むぅ……」
自分でもニュースサイトを回ってみたりするけれど、やっぱり見つからない。
わたしのことよりパンダの赤ちゃんが産まれたニュースのほうが大事なのか。
そうかそうか。
昼休み。腹を空かせた魔法使いでごった返す学食。樹脂製のテーブルにはカレーが置かれ、目の前で芽衣ちゃんがうどんを啜っている。
右手にスプーン、左手にスマホを構える。別に友達が食事しているところを撮りたいわけではない。
「ねえ、はしたないよ」
注意されても、目が離せない。
SNSで見つけたあるポスト。
たった一人のユーザーがそれを発信していた。
“魔女のお姉さんが人助けをしてたのです”
添付された画像にはトワイライト・ウィッチ颯爽登場の文字。
どんどん増えていくリポスト。肯定的な意見、否定的な意見。フェイクだろうと疑う人が多い。不安に思っている人もいる。でも、大勢が注目している。
「夢じゃなかった!」




