第20話 トワイライト・ウィッチ颯爽登場!
落下してきたコンクリは木っ端微塵に砕け散っていて、わたしとギターは瓦礫にまみれていた。天井の大穴から鉄筋が見えていて、黒い煙がモクモクと上っていった。
二次災害ってこれか、いいや、なんとかなったから、脱出――むちゃくちゃやったせいで部屋の火が強くなってる。ガスバーナーみたいだ。あそこに突っ込むの、それってかなりやばい。じゃあ玄関……こっちも似たようなもの。
全身汗だく蒸れ蒸れびしょびしょ、最悪、せっかくの衣装が台無しじゃない。はぁ、これどうやって洗濯しよう。寮じゃ無理だよね……って、そんなこと考えてる場合じゃない。喉は干からびてるけど力はまだ残ってる。偉いぞわたし、凄いぞわたし、……次ミスったらガス欠になりそうだけどね。
進むか、戻るか、どちらにせよ大火傷覚悟かな。自分だけじゃなくて、この子も。
玄関側は先がどうなってるかわからない、なら戻るしかない。炎に穴を開けてベランダから飛ぶ。部屋は太陽の表面みたいになってるけど他に道もない。
考えてないでやるだけやってみよっか。まさかこんな事になって本当に穴を開けることになるとは……待てよ、壁に穴を開ける、そうか、それがあるじゃない。
「床……いや下も酷いことになってるかも……じゃあ」
仰向けのまま、真っ直ぐに前を、天井を見た。
大きな穴が開いている。梁があって、屋根があって。
ぶち抜けば。
空がある。
「だありゃあああ」
拳に魔力を集中させ、アッパーカット、天井を突き破る。
赤くなった夜空に飛び出して、お腹いっぱい酸素をむさぼった。
「はい、お兄さんの夢、取り返してきたよ」
ケースを手渡すと、お兄さんは赤く染まった目を何度もパチパチさせた。信じられないといった様子で、手元のギターとわたしの顔を交互に見ていた。
「あ……その……なんて言えばいいか……あんた俺のために……」
「ねー、なんて無茶ぶり。ほんと死ぬかと思ったんだから。ま、でも好きでやってることだからたくさん褒めてくれたらいいよ。ただし、ちゃんとプロになってね」
お兄さんの顔に、ほんの少しの笑顔が浮かんだ。
「あ、ああ、約束するよ。あの、さっきは酷いこと――」
ウーというけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「通して! 道を開けて!」
そんなことを叫びながら、青い制服を着た大人たちが群衆を掻き分けてくる。腰に下げた黒い拳銃はきっとわたしを狙うためのものだ。ぬぅ、せっかくの感動シーンが台無し。一息つく暇もないとか優秀なのも考えものだよね。
ま、警察との対決は宿命みたいなものか。むしろ箔が付いたと言えるかも。
「ごめんなさい。お客さんが来ちゃったからもう行かないと。おーい亜里朱ちゃん」
「はいです。どうしましたですか?」
両手を合わせて軽く頭を下げた。
「本当は家まで送っていきたいんだけど、一緒にいったら仲間だと思われちゃうから、あとは警察の人たちに任せてもいいかな? あ、あ、ちゃんとあの女とは無関係ですって言うんだよ」
亜里朱ちゃんは「誰のお世話にもならないのです!」と高らかに宣言して、どこからともなく取り出したスマホの地図アプリを見せてきた。うっわぁ持ってたんだ。親から逃げるために電源切ってたのかな、なんてしたたかな子。
「……なんだろう一杯食わされた感。……でもだめだよ、夜の独り歩きは危ないから」
「ならパパに迎えに来てもらうのです」
「それならいいけど……」
と軽くため息を吐いて箒にまたがった。手を振って、飛び立とうとするとお兄さんが言った。
「な、なあ、あんた名前は? 頼む、教えてくれ」
「さっきも言ったんだけどなぁ? まあいいや、もう忘れないでね。わたしは――」
あ、いいことを思いついた、というか思い出した。こういうときに光の魔法が役立つのよね。
「見ればわかるよ、じゃねー」
改めて手を振って空に上った。地上からは「止まれー!」だとか「発砲許可を!」だとか物騒なセリフが聞こえてくる。
構わずに光の魔法を発動させる。ちょうどいい位置に移動して作業を始めた。
『トワイライト・ウィッチ颯爽登場!』
マンションの横幅よりも広く描いて「よし!」その出来栄えに満足して頷いてから飛び去った。
これはいい宣伝になるぞぉ、うふふ。
笑いがこぼれて、抑えきれなかった。




