第1話 魔女になれないわたし
薄暗い視聴覚室で、椅子に拘束されたわたしは、真っ白のスクリーンを眺めていた。
プロジェクターから映像が投影されて『特異能力保有者の自己理解と社会適応』というタイトルがでっかく映し出された。
わたしの両手は、パイプ椅子に縛られている。足も似たようなもので、床から伸びる枷に足首を嵌められているから、みっともないがに股になっていた。
スカートは大開きになっていて、エアコンの風通しがいい。股の内側に汗が垂れてきても、すぐに乾かしてくれた。
生徒指導の男性教師が、スクリーンとわたしの間に立った。
「真藤はるかさん、ビデオを視聴してもらう前に二つ質問があります。よろしいですね」
「はい、なんでも――ん」
指揮棒で手を叩かれた。
「許可したとき以外は発言しないこと。さて、質問です。あなたの耳についているそれは、なんですか? それの直用が義務付けられているあなた方は何者ですか?」
わたしの耳に付いてるそれ――ピアスみたいに垂れる丸っこくて小さな機械。ちゃりちゃりうるさいやつ。
「発言を許可します」
「っ……鈴です。みんなそう言ってます」
「いいえ、それは特異能力者安全管理装置、あなたたちの治療を促進し、安全を確保するための装置です、しっかりと覚えておくように。では、二つ目の質問はいかがですか?」
言った。
「魔法使いです。真藤はるかは光魔法が使えるんです、懐中電灯くらいの光量ですけど」
映像と重なった先生の表情は、一切変わらなかった。かちかちに凍りついている。
「あまり理解が進んでいないようですね。わかりました、ではビデオを見てもらうまえに、集中力を高める薬を摂取してもらいましょう」
先生は顎をくいっと動かした。すると背後から足音が聞こえて、わたしに近づいてきた。
別の男が側にやってきて、顔を触られた。皮膚を押されて、無理やり口を開けられた。
「ん……やめ……」
「動くな」
舌にカプセルのようなものを乗せられた。手も足も動かない、頭も固定されてる、ベロだけは動いても、薬はどけられない。
足首をひねるけど、鉄枷が邪魔をして抜けられない。痕が残るほどに、ガチガチに締め付けられてる。
「その薬は、内容の理解を促進するためのものです。意識の混濁は見られるかもしれませんが、通常よりもずっと記憶に定着しやすくなります」
口を閉じようとして、下側に引っ張られた。男の力で、顎が外れそうなくらいに抑えられていた。
先生が近づいていた。ぐっと顔を寄せてきて、目の前で言った。
「規則なので伝えておきますが、薬の効果が切れたあとは、しばらくのあいだ嘔吐やめまいなどの副作用が起こります。なので、あなたの健康を案じれば、できるだけ使いたくはありません」
先生は初めて表情を緩めた。爽やかな好青年って、そんな感じの笑顔だった。
「先程の質問をもう一度させてください。わからなければサポートもします。正しい答えを言ってくれさえすれば、薬は使いません。真藤はるかさん、あなたは何者ですか?」
顎の拘束が解けた。やっとまともに息ができた。
先生の目を見つめた。足の指先に力が入って、丸まった。薬、超きつい、身体も変になるし、生活リズムも狂う。震えるし、寒いし、気持ち悪いし。
先輩にも、芽衣ちゃんにも心配ばっかかけちゃうし。ちゃんとご飯だって食べられなくなるし。なのに授業は受けさせらるし、酷いし、辛いし、苦しいし。
だから言った。
「耳のは鈴。わたしは魔法使い真藤はるかです」
舌を自分で巻き込んだ。薬を動かして、喉の奥に置いた。ごっくんと、飲み込んだ。
「どいてください、ビデオがよく見えないじゃないですか。これ楽しみにしてたんです」
なにも言わずに、先生は顔を遠ざけた。わたしではなく、隣の男に言った。
「口の中を確認しろ」
「はい」
また無理やり口を開かれた。残念、残ってるわけないもんね。
正義の魔女は、正々堂々なんだ。
確認が終わって、軽快なBGMと共に映像が流れ始めた。
いつのまにか、身体の力が抜けてだらんとしていた。よだれが垂れていて、口の中はずっとしめっている。映像がピカピカ直接頭の中に映ってて、音は鼓膜に響いていた。
光の粒がたくさん視界に飛んでいた。今日のは色がついていて、鮮やかに青い。粒子が、粉が舞っていた。
ビデオとは違う声が、女の子の声が、頭に響いた。
『よくやるよねえ、従えばいいのに』
「わたしゅはまじょらから……」
口を動かすと、よだれが首まで垂れていった。
幻聴はその一回限りで消えた。




