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魔法禁止の世界で魔法少女をやる馬鹿 〜みんなも魔法使いなのに、今飛んでるのはわたしだけ〜  作者:
第一章 現代ノ魔法事情

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第12話 豚の生き血

「マジなやつだから。見てて」


 冷たい視線を感じながら箒にまたがって、ぷかぁ~っと浮かび上がった。


 女の子は「えぇ、まじかぁ」と感心しているような、げんなりしているような声を出した。


 地面に降りて、額に浮かんできた汗を拭った。


「ヤバいね」


 とだけ女の子は言った。少し沈黙があった。


 気まずい。背中がそわそわする。顔を隠して逃げ……そういえば、顔とか隠すの忘れてた。誰にも言わないように約束させないと逃げられないや。


 なにかしらの気付きがあったのか、女の子の眉根がぴくっと動いた。


「あれか、脱法魔法使いってやつ。いや、適当だけどさ、なんかヤバいね」

「脱法っていうか完全に違法……いや正義の魔女に法律とかそういうのは……そんなことより、乗るのか乗らないのか決めてほしいんだけど」

「あんま乗り心地よくなさそうだけど、なんか面白そうだし乗せてもらおっかな」

「……助けてもらう人の態度とは思えない」


 こういう反応か。魔法に憧れてたのなんて、わたしだけなんだ。


 萎える。もっと喜んでほしい。無理だろうけど。


 ため息が出そうになっていると「ふふっ」という女の子の楽しそうな声が聞こえてきた。


「正義の味方は選り好みなんてしないっしょ」

「ん、……それはまあ、そうかも」


 それを聞いて、ため息を出すのはやめにしておいた。


 そうだった。これで終わりにしないで、いつかみんなに喜んでもらえるようになるまで続ければいいんだ。


 わたしの方から嫌だなんて言ってたら、誰にも好きになってもらえないよね。


「乗って。乗り心地は悪いけど、めっちゃくちゃ楽しいから」


 女の子が後ろに乗り込んできて、わたしの腰に手を回した。


 じゃあ出発、となるその前にこんなことを聞いてきた。


「ねえ脱法……正義の魔女さん、名前は? あたしは中川ね、中川霞(なかがわかすみ)、よろしく」

「はる……」はマズイな、ええと「……暗闇から飛び出してきた魔女?」

「へえ、闇の魔女?」

「……もうちょっと明るい、光系のつもりなんだけど。立場は真っ黒だけど、名前くらいポジティブでいたい」

「自分で言ったんじゃん。えー、じゃあそうだな、あ」


 霞ちゃんはパチンッと手を叩いた。にぃっと笑って、わたしを指さした。


「じゃあトワイライト・ウィッチとか。かっこよくない?」

「なんで勝手に……でも、普通にかっこいい。ね、それ貰ってもいい?」

「もち」


 しっかり返事を聞いてから「いえーい!」と叫んで高く高く浮かび上がった。


 お腹に回された手の感触も、後部座席の重たさもどこか心地よかった。



 霞ちゃんの案内に従って十五分ほど遊覧飛行して、人の目を避けるために公園のトイレの裏に降り立った。


 この時間の住宅街となると人気は少ないけれど、用心に越したことはない。顔丸出しだし。


「おー、あっという間、歩いたら八時間とかなってたのに、もう地元だ」

「ね、ね、楽しかったでしょ、魔法も悪くないかもって思ったでしょ」

「ま、ぼちぼちかな。またなんかあったら頼むかも」


 口ではそっけないけど、霞ちゃんの頬は緩んでいた。


「いつでも呼んで! って、言いたいんだけど、ごめん! 本当に困ったときだけにして。わたし、これから忙しいかもしれないから」

「正義の味方で?」

「うんそうなの、そんなとこ」

「そっか、ならタクシー代わりに呼ぶのは遠慮しとく」


 霞ちゃんはぐっと親指を立てた。


 笑顔が溢れてきちゃうから、自分の頬を挟むようにぽんぽんした。


 だめだめ、ずっとお喋りしたくなっちゃう。


 頑張って顔を引き締めて、霞ちゃんに向き直った。


「じゃ、長居するとヤバいからわたしはこの辺で」


 箒にまたがろうとすると、霞ちゃんが声を上げた。


「あ、ちょい待って」


 上げた片足を地面に戻して耳を傾けた。


 なんだろ。ズボンの端っこ引っかけて破いたとかかな。それやだな。


 霞ちゃんは手首を上向きにして、腕を伸ばした。その体勢のまま袖を引っ張って、素肌が露出した。


「ん」


 なにか腕を突き出すような格好で、わたしを見ている。


 口は閉じていて、表情は相変わらずフラット。無言だけど、明らかにお裾分けしてきてるような感じ。


「えーと……綺麗なお肌ですね。病み病みの痕とかもないしで……あいや、ごめんね、で」

「お礼。ちょっとならいいよ」


 ぐっと手首が近づいてくる。見つめてくる霞ちゃんはくすりともしない。


 なんだろ、掴めない。全然掴めない。この子不思議ちゃんすぎる。クールなのに。


 とりあえずあははと笑っていると、霞ちゃんは言った。


「遠慮しないでいいよ。魔女って豚の生き血とか飲むんでしょ。あ、人間は無理?」

「え」


 ふっと顔の皮膚が剥がれていくような感覚がした。

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