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これが日常

 入学式の今日は昼で下校となり、生徒は各々の時間を送る。



「さあ、わが社も新人をスカウトしに行くわよ」


「にひっ。ベリちゃん、張り切ってるね~」


「スカウトって言うけど目処はついてるの、リーダー?噂の多い有名どころは他もマークしてたり、面倒が増える場合もある。特に転入生は噂、話題ともに多いわ」


「私がパッと思いつく新入生は、ザクト公王の孫娘。天才魔導士ラッフ。コルトネ商会の長男。賞金王ペンドラの1人娘。傭兵の生き残りって噂の子かな。その誰か?その中ならラッフは面白そうだよね~」


「っふ。そこは問題ないわ。注目度は悪いけどないわね。だけど、間違いなくあの子はすごい子よ。噂にならないのが不思議なほどにね」


「へぇ。そんな新入生がいるの」


「注目あびてないのは日和っている気がするけどな」


「う、うるさいわね、弾。ただ、私にとって転入生とか新入生とか噂とか身分と過去とか有名なんて関係ないのよ。私が欲しいと思った子をスカウトするのよ!」


「にひっ、ベリちゃんかっこいい~」


「リーダーはどうやってその子を見つけたの?情報屋とか?あ~クラスメイトの兄弟?」


「入学式で目についたから」


「「…………」」


「それ大丈夫か?」


 思ったことを弾だけが声にした。経験上大丈夫じゃない過程や結果が多い故、声にだす。


「私の人を見る目を信じなさい」


 が、ベリアに学習機能の稼働率は著しく低い。


「急に俺たちが行ったら、その子も迷惑じゃないか?」


「そ、それはわかってるわよ。だから最低限、あいさつと名刺を渡すだけでもするのよ」


「え~、ちょっと強めに言えば、付いてくると思うけどな~」


「……どうして、私を見るのかしら」


「右も左もわからない新入生を怖がらせちゃ駄目よ。それと本人にやりたいことが決まっているなら、すぐに引くわ。逆にいえば、決まってないならスカウトに応じる可能性がある。だから急ぐのよ」


「わかったって、ベリア。引っ張るな、イタっ。いてててて。穴はふさがったけど、完治したわけじゃないんだから、引っ張るな、リーダー。リーダー?!」


「爆破に巻き込まれて3階から落ちたのに、病院に行かなくていいの?リーダーもだけど」


「私は平気よ」


「救護隊が治療したし、これくらいなら、明日にでも直るだろ」


「かばってもらったリーダーはともかく、弾の体はどうなってるのよ」


「ベリちゃんと弾が抱き着いて、落ちてきたのはびっくりしたよね~。くひひっ」


「だ、だき……」


「あー!ベリちゃん、思い出して顔が赤くなっている」


「はずがしかることか?「うっさい」ゴフっ。穴はふさがったが完治したわけ……」


「弾?だーん!?いやーーーーーー!死んでる場合じゃないわよーーーーーーーーー。あの子が待っているんだからーーーーーーーーー」


「はぁ」


「ぬふふっ」


 攻略対象の1人がヒロインに殺されかける。この島ではよく見る光景で、これからベリアが見ることになるかもしれない光景だ。



 

 学生ギルドの屋外テーブルで4人の男性生徒がボードゲームで賭けに勤しんでいた 


「おっ。この声はベリアだな。今日はなにをやらかしたんだか」


「今朝は、開発部東局室の爆破に巻き込まれて3階から落下したらしいですね」


「そのまま死んでくれればよかったのにな。あいつの叫び声とわけのわからん行動は公害レベルの迷惑だ」


「ガレはきっびしいねぇ。後輩には優しくしないと~」


「適切な距離をとって、見る分にはいい娯楽ですよ。ガレさんはそこらへんが下手なんです」


「へっぽこなガレにとっちゃあ、邪魔な商売敵が減ったほうがいいわな」


「あぁ?それはヘボのお前だろ。聞いたぜ、ウッドに先をこされたってな」


「あのあまちゃんに貸しを作ってやっただけだ。そっちのほうが都合がよさそうだったからな。お前と違って俺様は先を考えることができるんだよ」


「っは。ゴリ押ししか習ってない奴が先読みできるか」


「「あぁ」」


「勝負中に喧嘩はよしてください。どっちも単純なんですから。それとソルトさんの番ですよ」


「胸倉つかむついでにこっちの手札を見るつもりなんだろ~。こっすい手しかつかえないね~」


「モグリオ。ガレと違って俺様はそんなことする必要はない」


「ふん。できないの間違いだろ。それとオトクラ。単純なのはお前だ!あ!?」


「単純な僕に負けたガレさんはなんて呼べばいいのか、教えてくれませんかね?」


「っぐああああああああ」


「ガレの叫び声も公害だよね~」


「こいつのはベリアほど有名じゃないけどな」


「ふふ。そういう意味でいうと、僕たちは万事屋には及びませんね」


「ふん。悪名じゃなくてアホ名で有名なあいつらに比べられるのはやだね。しってるか?あいつら「さて、サオリさんお待たせしましたね」っぐ」


 ガレのあがきを無視してオトクラは帽子をかぶった女子生徒を隣に立たせる。


「っ。サオリ」


「ずいぶんなあいさつじゃないか、ガレ」


「では事前にお話しした通り、この件はサオリさんとお願いしますね」


 依頼書をガレに渡すオトクラ。彼ら4人はオトクラが入手した割のいい依頼をだれが受け持つか勝負していた。


 ガレ、モグリオ、ソルトは依頼を受ける権利を賭けて。

 (3人仲良く?足手まといはいらねえよ。byソルト)


「てめえでやればいいだろうが」


「別件が入ってしまったと勝負前に言いましたよね? だけど、苦労して手に入れたこの件を放置するのも依頼者に申し訳ないですから、特別にあなた達に譲るとも説明しましたよ」


 この勝負の発起人であるオトクラだけは賭けの内容が違った。

 勝てば、仲介手数分をふんだくる(これは違法)+条件追加のため

 負けたら、ただ依頼を紹介して終わりだった。


「この件について警ら委員も動いていますので、急がないとただ働きになってしまいますよ?」


 狡猾な笑みを浮かべるオトクラ。


「っく」


(足手まといがいて、賞金は道具代と仲介料金で実質3分割。どう考えても割りにあわん)


「あれ~、ずいぶん渋っているねえ、ガレ。もしかして自信ないの?やっぱ荷が重いか。なら俺が行こうか?」


「まあまあモグリオ、ここは勝負の結果を優先してやろうじゃないか。なに失敗したら、俺が代わりに解決してやるから、安心して失敗してこい」


 にやにやとして笑みを浮かべるソルト。


「? 無理ならモグリオやソルトでも私は構わないぞ」


 少し天然なところがあるため、ガレには煽られているように見えていることには気づかないサオリ。


「うっせ。まずは下準備にいくぞ」


「ああ。オトクラ助かった。ありがとう」


「お礼は成功してからにしてください」


 今日も学生ギルドで学生賞金稼ぎが金を稼ぎにやってくる。ゲームではデートのための軍資金を稼ぐ手の1つだ。


「あ……」


 ソルトたちがガレを見送る様子を雫は図書館から見ていた。図書館の窓際のいつもの席。本を読むかたわら、ときおり外を見てガレがギルドに来てないか見ている。


 雫にとっての特別なひと時だった。





「うーん、あの様子だと、サオリとガレが行く感じだな?オトクラの予定通りだね」


 図書館の駐車場に止めた車両の後部座席から学生ギルドを監視する男性。視線の先にいるのはギルドの屋外テーブル席にいるガレたちだ。


「自分にはそのお二人がいるとしか分かりません」


 運転席の白髪おさげの女子生徒は目をこらしているが、ガレたちがいるのがわかるだけだ。その子の左腕には『警邏』と書かれた腕章が巻き付いている。


「でもいいんですか?ビノ先輩。この件は警ら委員会でも要注意となってる案件ですよ」


「この件は警察の紺藤課長や陸側の警察も介入するって蒼五班長から聞いたよ~」


「優先順位は解決だから、いいのいいの。それにうちらにはこれから新人が入ってくる。この件は新人や新人を守りながらでは荷が重い。あ~リリノ、間違っても1人で対応するなよ。これは上司命令だ」


 ガレとサオリがギルドを離れたのを確認して、ビノは後部座席で横になった。そして、アイマスクを下す。


「で、ギルドで手配される前の依頼書をオトクラ先輩に渡したのはなんでです?」


 助手席の青髪ツインテールの女子生徒がアンマンを咥えながらビノのほうへ振り返る


「え?今の本当なの?イブキ」


「そ~だよ~。ギルドでこの件を確認して、依頼書をすくねてた」


 営業開始前のギルドに警ら委員会という立場で立ち寄り。例の件の依頼状況を確認し、慣れた手つきで回収。そこから、懇意にしているオトクラへ依頼書を手渡す。


 「理由はさっき言ったとおりだ。それに今回の依頼者は羽振りがいいから、半端な奴が群がる可能性がある。そいつらが失敗して被害が増えるくらいなら、あいつらクラスの実力者に任せたほうが確実だ」


 学生が治安維持を担うする学園自治区。大人が担当していないという理由で、犯罪を行う不届きものが多い。学園に著名人がいること、オーパーツやらアーティファクトなど世界を揺るがす物が眠る噂も多いことから、他国の者や危険人物が侵入してくる実情もある。


「なるほどです。でも、それならビノ先輩が動いたほうがいいんじゃないんですか?」


 昼行燈のように見えるビノだが、実力は学生の中では上澄みで信用もある。ただ、普段の行動が昼行燈なのも事実なのため、信頼は少ないのだが。


「組織の僕ら警ら委員や紺藤課長たちの警察が動くには縛りが多い。だけど、フリーの賞金稼ぎの彼らは縛りが少ない。今回の件は彼らのほうが対応しやすい。適材適所ってやつ。カナンもわかっているから、歯がゆそうにしていただろ」


「ああ。そういうことだったんですね。てっきりビノさんのことで悩んでいるのかと。うっ」


 座席ごしにけりを入れられる。念のため記しておくが、決してカナンは恋愛的なことに悩んでいるわけではない。


「姐さん真面目だからね~」


(あと、僕が解決しても賞金は手に入らない。でもガレが解決すれば賞金は出る。で仲介料としてオトクラが僕の分も含んでふんだくる手筈。頑張ってガレ、リオッサちゃん、ここで応援はしてるよ~)


 外面は後輩のためを隠しているように装い、内面では手に入る算段の高い臨時収入でウハウハでいるビノ。カナンなら察する可能性があるが、この場の2人ではそこまでの思考に至らない。


「さて、俺たちは新入生と転入生狙いのバカ達を見つけにいくぞ」


「了解です!あれ?ミサだ。チカと一緒なのはいつも通りで、もう1人いるね」


「あ~ミサの妹も入学したはずだよ?妹ちゃんじゃない~。お、こっちに気づいたね~」


 ハルルとその姉ミサ。ミサの悪友、相棒ポジのチカが車に近づいてくる


「リリノとイブキはなにしてるっすか?あ、ビノ先輩もいたんすね」


 細目でストレートヘアの警ら委員チカ


「ビノ先輩に頼まれてギルドの動向監視してました。これから、新入生狙いの不良を探しにいくところです」


「ビノ先輩?……ギルドの動向監視……。あ~あの件をビノ先輩が賞金稼ぎに回したってこと?」


 一見するとダウナーな警ら委員ミサが正解を言い当てる。


「そういうこと~。先輩曰く適材適所かつ新人の安全のためだって。だからこの件は口止めね、はい」


 アンパンをミサ、チカに手渡す。


「それを言われると否定しずらいっすね~。楽したいってのもあると思いますけどね」


「はぁ。私はなにも聞いていないわ。ハルルもそれでお願い」


 2人もビノの考えが間違っていないはいないので、アンパンを受け取る


「あ、ミサの妹ちゃんもこれあげる。私はイブキ。警ら委員に入るって聞いてるよ~。何か困ったことあったら、こっちのリリノを頼りにしな~」


 ミサとチカの後ろに隠れているハルルにアンパンを渡す。


「イブキは初めての後輩にそれでいいんですか?あ、自分はリリノといいます。いつでも助けるんで、これから、お願いしますね」


「あ、ハルルです。えっとよろしくお願いします」


 ハルルは恥ずかしそうにしながら、頭を下げる


「ビノ先輩はあいさつしないの?」


「zzz」


 ビノは寝息を立てていた。


「3分前まで起きてたんですよ」


「相変わらずっすね。ハルル、後ろのはビノ先輩って言うっす。委員、ううん、学生として上位に入る実力者なんで、知っておいてください」


「非常時や現場じゃ信用できる。でも、普段は信頼しないでね。あと先輩のプライベートの知り合いにも近づかない」


「う、うん、わかったお姉ちゃん」


「この不良委員先輩はうまーく利用するが一番いいよ」


「イブキはなにを言っているんですか」


「「イブキのいう通りね(っすね)」」


 ぞんざいな先輩の扱いをする自分の姉に戸惑いを見せるハルル。


「あ、すいませ~ん」


「ひゃっ」


 背後からの男子生徒の声に驚き姉の背後に回るハルル。


「警ら委員ですよね。ちょっと道を教えてもらっていいですか?」


「ん?新入生の方ですか。どこへいきたいのです?」


「喫茶凪って店に行きたいんですよ」


 3人の幼馴染学生が経営する有名な喫茶店。


「おや、いいですねえ。あそこのロールケーキは絶品ですよ」


「そうだね~。私たちも行きたいね~」


「見回りにいく時間ですよ」


「ですよね~」


「私たち3人も喫茶凪に行くつもりだったんすよ。私たちも警ら委員なので案内するっすよ。それくらいいいっすよね、ハルル?」


「え、あ……」


「警ら委員になったらこういうことあるよ。今日は私たちもいるからいい練習だと考えなよ、ハルル」


 学生自治区の準お巡りさんである警ら委員にとって道案内は避けれない。


「やったー、ありがとうでーす」


 男子生徒は頭を深々とさげる。


「でもあそこ、女性客かカップルばかりだから、男1人だと悪目立ちするよ」


「ええ?そうなんですか?!いや、でもいいか。僕もロールケーキ食べたいし。あ!僕の名前はラッフです。今後よろしくお願いします。警ら委員の先輩方と……」


 ラッフはミントの方へ目線を向ける。


「この子は私の妹で、あなたと同じ新入生よ」


「ハルル・ミント……」


「これから1年同士よろしくね~。いや~、早速友達ができて僕は運がいいな~。しかも可愛いし。あ、僕のことはラッフでいいから。ハルルはお姉さんのいる警ら委員に入るの?」


「え、あ、あの……」


 早速友達ができて興奮状態のラッフ。捲し立てられ困惑するハルル。


「そいうえば、姉さんとはあんまりにてな、痛っ」


 ラッフの鼻にゴム弾が命中し、悶絶する。そのため、ラッフ以外に流れた空気の変化には気づけなかった。


「ゴム弾?ど、どこから?」


ハルルが地面に落ちたゴム弾をみつけ、周囲を見渡す。


「1年坊主、うるさい」


 ラッフは声の出元に視線を向ける。車内の後部座席にアイマスクをしていたビノはさきほどとほぼ同じ体勢でいた。


「へっ?車内から、どうやって?アイマスクもしてるのに?」


「ビノ先輩は射撃が得意なんですよ。この距離なら、指でゴム弾をはじいて、跳弾で当てることもできます」


「あと眠りの邪魔をされるのが嫌いなんだよね~。覚えておいてね~」


「おっす、すいませんでした」


 鼻をおさえながら、90度に腰を曲げるラッフ。


「ま、まあ。私たちもそろそろ喫茶凪に行かないっすかね」


「……そうだね」


「おー!」


 攻略対象とライバルヒロインのファーストコンタクを迎えた。




(今のは天才魔導士ラッフ。もう友達ができたの?いいなぁ。ロールケーキを食べにいくの?へぇ。今度行ってみよう)

 

 学園内でも珍しいコンバットスーツ姿の生徒が歩いている。視線はちらりと向けただけが、その耳には道路を挟んで反対方向に向かうラッフたちの会話が聞こえていた。


「ねえ、あれ……」


「火傷で顔がただれているのは本当なのね」


「ひっ」


 すれ違う新入生はこの姿を見て戸惑い引いて距離をとる。事実無根の噂を口にする。好奇の目を向ける。


(集音性高いんだよ、このコンバットスーツ。あと録音機能もあるんだから)


「……はぁ」


 自分の姿に原因があることは理解している。周りの子も悪意があるとは思えないので、非があるとは言えない。だが、それでも、意陽キャラ寄りなトトもこれには堪える。


「君、ちょっといいかな?」


「私ですか?」


 呼び声に応じて振り返るとゴーグルを首にかけた紫髪ロングヘアの女子生徒とメカクレの女子生徒が立っていた。


「君がザクト公国の公女トトであっているよね?」


 ロングヘア女生徒は相手が貴族であるが、気にも留めない。


「はい。そうです」


 トト自身は世間体を考え、丁寧に話す。 公的には身分に応じた会話もできるが、トト自身はそのような会話は苦手なのだ。


「まずは自己紹介ですね。私は開発部東局の局長歌石(うたいし)ハク、3年です。トト様、入学おめでとうございます」 

 

 頭を深々とさげるハク。その姿を見て、次は公女という立場に引かれてきた人か?トトはそう考え、少し身構える。


「というべきかな?まあ、この学園なら身分の絡みなんて無意味だから、私も気楽に話させてもらうよ」


 頭をあげると返事を待つことなく話を進めるハクに、やや戸惑いを隠せないでいるトト。だが、


「私もそっちがいいです。歌石先輩。それで要件はなんですか?」


 気楽でもあるので、ありがたくも思っている。


「ふむ、ストレートに言うと、開発部東局では君の体に興味があってね」


「え?」

 

 トトの周囲を回りながら、足先から頭へと視線を動かすハク。じっくりと全身をくまなく観察する。


(この人やばい人なんじゃ……ううん、間違いなくやばい)


 身の危険を感じるトト。


「あの~」


「うん。やはり素晴らしい。そして、気になる。このスーツをぜひ調べさせてほしい。これを見逃すのは開発部の沽券にかかわるといっても過言じゃない。いや~、これほど4方局ジャンケンで勝てたことを嬉しいと思ったことはないね。おっと話がそれたね。無論ただとは言わない。そのスーツのメンテナンス、バージョンアップからのオプションパーツ、武具、アシストマシンなどの開発に協力もする。それに部室の使用も許すよ。ああ、ちゃんと見せれない部分は見ないし、機密は守る。いやこれくらいの代物だ。整備担当の者もいるはずだね。なら、その者を呼ぶなり立ち会ってもらってもいい。むしろ、是非呼んでほしい。おっといけないけない。トト君も疑問もあるだろうから、すぐ答えをだすのは難しいか。それに立ったまま交渉するのもあれだね。ならとりあえず部室で話そう。そこなら、変な人物も近づかないし、会話の内容も第三者に聞かれる心配ない。ああ。部員なら大丈夫だ、政治的な話に興味あるものはいないし、覚えてることもない。なに、おやつとエナジードリンクを味わいながらするガールズトーク、といった軽い気持ちでいてくれればいい。それでいいかな?」


「はい?」


 想定外の質問からの言葉の洪水にトトは理解が追い付かなかった。


「流石に公女だけあって、判断が早い。いや、その前にお礼だね。ありがとう、心の底から感謝するよ。早速部室へ行こうじゃないか。フラン君、移動をお願いするよ」

 

「……」


 フランと呼ばれた生徒はハクを左上腕に乗せ、トトの前にでる。

 

「いや、ちょっと待って。え?なにこの先輩?、私より小さいし、腕は細いのに力強い」


 フランは両腕でトトを持ち上げるとそのまま子猫のように右脇に抱え込んだ。


「だ、だれか」


(まわりの人も大変だねって見てる。でも事件、事故を目にするような感じじゃない。ああ、いつものことかって表情だ)


 さきほどまで、距離をとっていた先輩たちも先ほどとは違う温かいまなざしでトトを見ていた。生徒会役員も困った表情をしているが、深刻な表情はしていない。開発部は全体的に常識は欠けているが、良識はある。あるったらある。それゆえ、警ら委員が対応することは部室から爆破や異臭、火災が起きないかかぎりほぼない。


「フラン君、事故には気を付けてくれ」


「……」


 コクリと頷くフラン。


「そうだね、屋根のほうが安全で速いかもしれない。というわけだ、舌をかまないように気をつけてね」


「?なにも言ってないですよね?いや、それよりも屋根って、いやあーーーーーーーーーー」


 人2人を抱えたフランは屋根まで飛びあがった。そのまま屋根を走り、また屋根を飛んで移動する。


「こんな風に跳ぶの初めて?この学園都市だとできる人はいるから覚えとくといいよ。それに慣れれば気持ちいい。まあ、私は自分ではできないけどね。ああ、あとあそこが我らが開発部東局の施設だ」


 ハクの指さす方向には1つの研究所があった。その一室の窓が今吹っ飛んだが、トトはそれに気づく余裕はなく、ハクは気に留めていなかった。


「さあ、部室にもう着くよ。おや?あれは?」


「いやあーーーーーーーーーー」


 開発部東局の入り口前に緊張した顔もちのウォッチを発見するハク。屋根からの急降下に全力で叫ぶトトにハクの声は聞こえていない。


 開発部東局の入り口前にはウォッチが緊張した顔もちでいた。


「ご苦労、フラン君。よっと。そして。君は入部希望者かな?」


「うわっ?!て、あんた、なにやってんですか?!こっちの人……トト公女でしょ?」


 背後からの叫び声に振り替えると目の前で女子生徒2人を抱えた女子生徒が着地。ウォッチは彼の人生で今まで見たことのない光景に目を丸くし、突っ込んだ。今のがウォッチのゲーム作品では描かれない学園内初ツッコミのシーン。


 ウォッチは一回突っ込んだためか、冷静になり、状況を確認する。ぐったりしたトトを右わきに抱える女子生徒。着地前の叫び声。常識が欠けているといわれている開発部。それらがウォッチの脳内で計算され、答えを導き出す。


「ひ、ひとさらいーーーーーーーーーーーーーーー」


「初対面で失礼なことを言うね、君。まあ、まずは落ち着きなよ。先に開発部東局の名誉のために言っておくが、本人の承諾は得ている。我が部の常識が欠けていることは否定しないが、良識はあるつもりだ。だからこの状況でも警ら委員が来ていない」


「ほ、本当ですか?」


「仮に攫うなら、こんな時間ではしないし、あっさりと見つかるまねをすると思うかい?いくら私でもそれくらいのことは考える」


「た、たしかにそうですが……」


 地面におりたハクのきちんとした反論に言い返せないウォッチ。


「ほら、トト君も了承したことを証明してくれないかい?」


 地面を下ろされ、まだ、立てないでいるトト。


「……わた……し……言って……ない」


「「…………」」


 ウォッチとハクは無言でトトから互いへと視線を合わせる。


「警ら委員の方ーーーーーーーー。開発部がやりやがったーーーーーーーーーーーー」


「まてまて落ち着いてくれ、新入生君。信じてくれ。そんはなずはない。私の問いにトト君は『はい』と答えた。証人ならフラン君もいる。な?フラン君。君も聞いていただろ」


 フランに助けを求めるハク。


「……」


「え?『はい』とは言ってた……けど」


「こっちの人なにも言ってないですよね?」


 フランは口を開けど、動いてはいない。ウォッチの目じゃなくても誰もがそう判断する。


「あれは回答ではなく、疑問形だったと……」


 ハクは口をチャックした状態でフランから目線をウォッチへ向ける。


「人さらいじゃねえか!!!」


「いやいや、これは単なる私の確認ミスだ。私もそのスーツを前に冷静ではいれなかったようだ。許されないかもしれないが、謝罪はする。トト君、すまなかった」


「はぁ。はぁ。と、とりあえず、少し休ませてください。上下に揺らされて……」


「そ、そうだな、室内で少しやすもう。フラン君、運んであげてくれ」


「……」


 フランがうなずいてトトに近づく前に、トトは右手を伸ばしそれを制する。フランに悪意がないのはわかっているが心が忌避している。


「ご、ごめんなさい。名前も知らないけど、お願いしていいかな?恥ずかしいんだけど、腰がぬけちゃって、肩をかしてほしいの」


「あ、ああ。いいよいいよ。大丈夫?」


「ありがとう」


 お人好しのウォッチはトトに肩を貸した。


「あ~推定入部希望者君、名前は?」


「ウォッチ・オルドナ。義体を作れるようになりたいんです」


 真剣な顔つきで入部する理由を語るウォッチはまだ気づいていなかった。いや、気づきようもない。

ここから逃れない運命が始まることを。トトも開発部並みに周囲をふりまわすことを。

 そして、登場キャラ1のツッコミ学園生活が始まったことを。




「あれはフランとハクであとフランが脇に誰かを抱えてたな。新入生か?」


「あ~。たぶん私と同じ新入生のトト公女様だよ。ウッド(にい)


「マジか。ハリカ」


「ハリカさんの言うとおりトト様です。たぶん、あのスーツが目に留まったんでしょう」


「あ~。ならいつものことだな、マリ」


「そうだね、いつものことだね」


「あの移動は人を選ぶと思いますが、ハク局長とフラン先輩なら心配しなくても大丈夫だと思います」


 屋根を誰かが飛び跳ねる。興味を引くものへのアグレッシブな行動。それは開発部だけでもなく、この学園での日常だ。むしろ、開発部はまだ善良な方だ。マリのいう通り酷いことにはならない、たぶん。ウッドはそう考えていたので、興味を失う。そして、目的地である教会にもたどり着いた。


「ホーク神父、ただいまー」


「ただいま帰りました」


「ういーっす」


 教会の礼拝堂で祈っていた中年神父は、ウッドたちへ振り替える


「お帰りなさい。ハリカさん。マリさん。ウッド君」


 この教会は国の支援により大きいものであり、孤児院も兼ねている。そして、ここはウッド、ハリカにとって自宅であり、マリにとって下宿先でもある。


「どうでした入学式は?」


「ホーク神父のいった通り学長のあいさつは短かった」


「あれもいつものことになるぞ」


「ははっ。そうですね」


 ハカリの感想に困った表情になる富士神父。彼も学園の卒業生であり、今はこの教会で働いている。


「素敵な日々をおくれそうです、富士神父」


「そうですか、マリさん。それはよかった」


「で神父。他の面々は?」


「マックス君とカザクラさんは会議でエレイさんが付き添っています。ユミエコさん、ハインさんは小中学生の送り迎えを終えて出稼ぎ。若葉さんは夕食の用意しています」


「デルセ神父や弦矢(げんや)神父、べア神父は?」


 だらしなく席に座りながら訪ねるウッド。


「デルセ神父は例の件でギルドで情報集めに行ってます。弦矢神父、べア神父は陸の方へ出張です」


「じゃあ、俺や富士神父はチビっこのお守りか」


「ええ。そうなりますね」


 ガレや警ら委員も動いてる件について、小さい子の多い教会も警戒を強めていた。そのためにウッドは新入生であるハリカとマリを教会まで送り迎えを行っている。ハリカやマリは直接聞いてはいないがなんとなく察している。


「私は若葉先輩のお手伝いに行きます」


「じゃあ、私はチビっこのところいってくる」


「よろしくお願いします」


 2人はそれぞれの部屋へ向かっていた。入れ違いに礼拝堂の入り口からルータが入ってくる。


「あ、あのお祈りを捧げたいのですが……」


「ん?あんたは……」


「どうぞ。どうぞ」


「失礼します」


 富士神父に促され、ルータは礼拝堂で祈りを始める。富士神父とウッドは静かに見守っていた。


「たしか白髪なのは転入生のランネルト?おぞましきアヤメ?だったか?」


 祈り終えたところで、ウッドはルータに声をかける。学園に転入生が入ることはあるが、5人となると前例がない。さらに全員が訳ありという噂は、ウッドの耳にも入っていた。まあ、ウッドはそこまで興味もなく、入学式でも回りの小声と姿をぼんやりと見聞きしただけで、顔や名前はうろ覚えだった。


「ルータ・ザサンです。えーっと神父様?」


 ルータは名前のごちゃまぜに戸惑いながら答える。すくなくとも『おぞましき彩芽』はないんじゃないですか?と内心思っていた。


「あぁ。そうか、すまんすまん。それと神父はあっちの冴えない見た目のおっさん。俺はここに住んでいる3年生でウッド・ニコ。ま、よろしくな!」


「まぁ。そうなんですね。これからよろしくお願いしますね」


「それにしてもずいぶん熱心に祈ってたな」


「……私は小さな農村出身です。お恥ずかしい話ですが、この学園都市の街並みや喧騒に戸惑っています」


 この学園都市は世界でも有数の都会。周囲が木々や畑だったルータにとって、周囲が舗装された道に建物のこの環境は変化がありすぎる。


「ふむ。私もそうだったんですが、そのような方は毎年いますね。ただ、そのことをはずがしかる必要はありません。場所や環境も関係なく新生活には不安が付きまとうものです」


「あ~そういえば、絡んでバカにしてきた奴をその日に卒業させたって、モグリオが言っててな」


 富士神父やウッドは理解を示す。ド田舎から学長のスカウトや、訳ありで地元の学校に入れない者は一定数いる。この学園が『学生となれる最後の砦』、『最底辺と最高峰の二律背反学園』などと呼ばれる所以である。


「あ~、ありましたね。さすがにモグリオ君のようにする必要はありませんが、毅然とした態度でいる必要はあります。難しいことかもしれませんがね」


「難しいことか?まあ、あんたがモグリオのようなことはしないと思うけどよ」


「えっと。その……」


 反応に困るルータ。


「話がそれたな。えーと、それで熱心になにを祈ってたんだ?」


「私の村にここほど大きくはありませんが、教会はありました。私も時間があるときは祈っていましたので、落ち着けるかなと思いまして。それと……いえ、なんでもありません」


 自分の異能のことを口にするのはやめた。知っている人は限られているし、知ってほしいとも思わなかった。


「そうですか。ここにはいつでも来てください。必ずしもお力になれるといえませんが、お話を聞くことはできます。1人で抱え込まない。そのために私たち、いえ隣人がいる。もしくはだれかのためにルータさんがいる。それを覚えておいてください」


 富士神父はルータの様子を察して、言葉を贈る。


「神父様、ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げるルータ。


「ウッド兄~。マリと買い物行くから荷物持ち手伝って~。って、なんか美人さんがいる!」


「ウッド先輩、お願いします。ハリカさん、あちらの方は確か転入生の先輩だったはずですよ」


 ハリカ、マリが礼拝堂に入ってきて、ルータに目を向ける。


「おう。わかったわかった。ハリカ、マリ」


「神父様、私も失礼いたします」


 立ち上がるウッドに神父へお辞儀するルータ


「ウッド君、ルータさんも送っていてください」


「あ~。そうだな。おっとこの辺は最近物騒な事件が起きたんだ。今日はあきらめてこの2人の話相手をしてくれ」


 ルータが口を出す前に制するウッド。


「あれ?私たちデートの邪魔した?」


「デートってハリカさん」


「そ、そんなつもりはないです」


 からかうハリカ。恥ずかしがるマリ。困惑しながら慌てて否定するルータ。


「アホなこと言うな」


「イタっ。ひどい~。こうなったら、ステラノ先輩にこのこと言ってやる」


「? ステラノの名前がなんでてくる?はぁ。いいから行くぞ」


 ウッドは呆れた表情で、ハリカの脳天にチョップをうち、出口へ歩き出す。


「ははっ。お気をつけてください」


 騒がしい日常の中、笑顔で送り出す富士神父。




(あ~確か一緒に転入したランネルト?おぞましきルータだっけ?その隣のえーっと牧師っってやつっぽいのは強そう。あ、こっちに気づいた。いっちゃった)


 ウッドは20人の不良によるグループが川辺で生徒を囲んでいる状況を見てそのままスルーしていった。ルータやマリは戸惑っていたが、ウッドの言葉を聞いて、不安な表情をしながら離れていった。 


「おい、聞いてるのか!」


「こっちを無視するな!」


「あ、ごめん。聞いてなかった」


「お、俺たちを『バライのハイエナ』って知らないのか」


 ゲームではここにしな出てこない不良グループ。モブに毛が一本生え始めた程度であるため、彩芽の答えは決まっている。


「?今日、転入した私が知る機会ってあるの?」


「「「はああああああああ?!」」」


 不良グループはにやついた表情から怒りを見せるように 怒号をあげる。が、囲まれている本人にはその怒りは届いていない。


「ふん。落ち着け、お前ら」 


「リーダー」


後方で様子を見ていたチームのリーダが前に出てくる。


「で、なんか、怯えていた子たちを使って私をここに読んだ要件は?」


「お前のうわさは知っている。有名な傭兵に所属しているお零れということ。腰ある刀と銃だけは一級品であること。おこぼれといえど、裏世界だと手配書が出てるなどの噂をな」


 リーダーは彩芽の顔、腰の獲物と視線を動かした。


「……そうだったの?」


 まじまじと刀と銃を見ているが彩芽はとぼけているのではない。自分が傭兵だったのは間違いないので、恨まれている可能性はある。愛用の刀と猟銃がなんか、いい物だなあ程度なのは知っている。が、それだけであって、噂について、本人はなにも知らないし、興味もなかったので聞いたこともない。


「……?それでどうしたいの?」

 

「その刀と銃をよこせ。いくら強くてもこの人数差だ。痛い目にあいたくないだろ。それに嫌な思いもしたくないだろ」


 ありきたりの要求だった。そして、刀と猟銃だけを渡して終わりになるわけではない。彩芽はゲームの主人公だけあって、美人だ。いい女と不良グループ。下種な思考もする。


 そして、暴力への危機感はない。それを行動に移せる存在である。


「ぶっつ?!」


 名草・彩芽は。


 一番近くにいた不良を刀で叩きつけた。


(簡単に殺しちゃいけない。理不尽なことから守る以外に力をふらない。なるべく死人を出さない。なんか私の物をよこせって言ってきたから。これは大丈夫なはず。たぶん)


「てめえ。がっ?!」「ぐげ」「ぶぼ」


 1人倒されたことで呆気にとられた隙をつき、さらに3人が悶絶し地面にうずくまる。


「てめえら。きめろ!」「へい」「おうよ」


 4人倒されたことに動揺する配下に対し、リーダーは大声で指示を出す。そして、リーダー除く配下は隠し持っていた錠剤を飲み込む。


「ひゃあああああ」「ふうううううう」「ひへへっへへへえ」


「?」


 不良グループは理性があるのかも怪しい表情となり、怪訝そうな顔となる彩芽。


 これは魔法でも異能でもない身体強化。 例の件の根幹となる違法薬物の効果。この錠剤が学園内に入り込み、使用者の暴走が問題となってきている。


「ぶひゃ」「ぐっへ」「ぬあはああ」


「?なにか変わった?」


 ただ、彩芽には関係なかった。


 学園上位に入る実力者かつ戦闘系主人公とモブ不良グループ。その差は薬物で強化された程度では埋まらない。磨かれた実力と積み重なった経験は数と毛の生えた程度の暴力に負けることはなかった。決してお零れの存在ではなかった。


「……な……ば、馬鹿な!」


 脚の骨が折れる。脳震盪。呼吸困難。ブラックアウト。様々の理由だが5分もかからずに不良グループは地面に伏していた。


 リーダーは今の状況を想像していなかった。報酬に合わない簡単な依頼だと思っていた。


 いくら強い噂があってもしょせんは1人の女。ガレブループ(グループじゃありませんよ。byオトクラ)やウッド、警ら委員のビノや幹部たちクラスの学園上位の実力はないと思っていた。


 ガレたちや絶対に面倒になるヒャンネルト、トト等に手を出す依頼なら断っていたが、たかが外から来た女1人。数の差に錠剤と切り札がある。


 この場にきて、5分もかからず、自分の想像は想像どまりだと認識することになった。


「帰るから」


「ま、まちやがれ」


「?」


 振り返ろうとしたところで、リーダーが声をふりしぼりながら、なにかを投げた。これは意地でもない、やけくそである。


「なにこれ?」


「ひひっ。これもだ。ぐびゃふ?!」


 投げた物の中から大型の魔物が複数でてくる。5体はこの島にはいないトロル。


 そして、1体はキメラといっていいだろう。大型魔物犬の体基礎に鳥、蛇、熊の特徴が混合しており、彩芽も見たことがなかった。その魔物は熊の前脚でリーダーを吹っ飛ばした。


「さてと」


 刀を抜いて彩芽は魔物に向かっていた。


 少しだけ時間はさかのぼる。


「ありがとうございます。助かりました」


「うわああん。ありがとうございます~。このままだとブルーネ姉さんに粉砕されるところでした~」


 桃髪の生徒リナは丁寧に頭をさげ、緑髪の生徒ヒヨは騒ぎ立てながらお礼を言った。2人とも『救護』と書かれた腕章をつけている。

 

「気にするな。ん?」


 オゾマは脱輪していた救護隊所有車の後部を持ち上げ、道路に戻し終えたところだった。(脱輪した理由はヒヨが屋台の限定ドーナッツに目がいっていたせいだ。)

 そこへバイクに乗った背丈の高い男がバイクで到着する。


「あれなんだ?車もどったの?」


 リーゼント姿で左腕に救護隊の腕章がついていた。


「あ、丈先輩。こちらの方が助けてくれました」


「お!隊員が世話になった、オゾマ」


「?どこかで会ったか?」


「転入生で唯一の男で目立つ体格をしているからな」


 学園の生徒の中でも大柄な体格に年季の入った黒マント姿は否応なく目立つ。ただ、オゾマの前に立つ男も背丈が高くリーゼント姿なので目立つ側にいる。結果的にこの2人がそろっているのは余計目立つし、一見だけだと近寄りがたい雰囲気を持っている。


「おっと名乗るのが遅れた。救護隊の丈、3年だ。ま、これもなにかの縁だ。よろしくな。おっと、悪い隊本部からか」


「私もですね」


丈とリナ2人の携帯に連絡が入る。


「はいはい。丈だ。はっ?わかった。ちょうどリナ、ヒヨといるし、ここからならいけるはずだ」


 連絡内容に深刻な表情となる丈に驚愕した表情となるリナ。その顔を見て、事態の深刻さを察するヒヨとオゾマ


「ヒヨ。狙撃の準備!」


「え、あ、なにが?」


「早くしろ!準備しながら説明する」


「は、はい」


 ヒヨは荷台の助手席から赤い箱を手にとり、荷台からガンケースを下す


「なにがあった?」


「自治区内の川辺に大型の魔物が複数現れ、負傷者がいるとのことです」


「ええ?」

 

 リナは地図を開いて、現場の位置を確認する。その情報に驚きながらも、慣れた手つきでヒヨはガンケースから狙撃銃を取り出し、赤い箱に入っていた銃弾込めた。


「自治区内に魔物がでることはありえるのか?」


「自治区外にはいるから絶対にないとは言えない。ただ、現場は区外から離れた場所だ。その場所にいくまでに目撃があるはずだ。それがないってことは人為的ななにかはあるだろうな」


「そうか。それでそのライフルで戦うのか?」


「いや。ああ、あの銃で戦うこともできるが、今は違う」


 リナから現場の位置を教えてもらい、狙撃の準備にはいるヒヨ。それを見ていたオゾマが尋ねる。


「私の異能は『遠視』です。この力を込めた殺傷力のない銃弾の周囲を鏡などで見ることが確認できます」


 ヒヨは現在、銃弾に使用しているが、この力の応用力は高い。空気や薬、針先などに力を込めて、体内の状況も確認することげできる。オゾマは現場の確認のためか?と考えるがそれだけではまだ答えにはたりない。


「私の異能は『追尾』。この着弾点に対象を高速移動させます」


 リナの力を込めたものは救護隊本部や病院にもおいてある。それによる高速搬送も可能としている。


 高速搬送の可能なリナの移動先の安全をヒヨが確認する。この2人がコンビを組んでいる理由でもある。


「というわけで、俺は負傷者の治療に行く。オゾマ、あんたは川辺には近づかないほうがいい」


「いや、俺も手伝おう。それなりに魔物退治の経験はある。それにこの体格だ。人を運ぶくらいはできる」


「……」


 丈はオゾマの姿をまじまじと観察する。乙女ゲームの攻略対象でもほぼ見ないであろう2メートル越えでマッシブな体型。決してさわやかイケメンとは言えない。という面を丈が考えるわけがない。


(確か山奥の田舎出身。山奥なら魔物や大型獣もいるから、それらを退治していたことか?体にある傷や佇まいからも荒事には慣れている感じがする。そして、訳あり転入生か)


「分かった、助かる。ただ、危険だと思ったらすぐ逃げてくれ。リナ、俺の判断だ。俺、オゾマ、ヒヨ、リナの順で頼むぞ。リナ、ヒヨいけるか?」


 丈は反対意見を言わせることなく判断して指示を出す。


「いけます」


 ヒヨが銃弾を放つ。そして、今はライフルのスコープを利用して、現場の状況を確認する。


「リナちゃん、飛ぶ場所は着弾点で大丈夫です。負傷者は20人ほど、剣を持った女の方が大きい人型のような魔物5体と戦ってます。あと翼があって頭がいっぱいの大きいライオンがいます」


「よし、いくぞ。リナ、ヒヨはトリアージ。俺は一見でわかる重傷者を治す。オゾマはその女と魔物を頼む」


「わかりました。では行きます」


 手を光らせたリナが丈達に触れ、銃弾を追尾する。


 時間にして数秒。


「っしゃあ」


「名草・彩芽か」


「本部、現場に到着しました。生徒の負傷者は20名ほど。そちらの回収準備お願いします」


 川辺にオゾマたちが到着。川辺にはトロルの4つの死体が転がっており、彩芽は最後の1体の首をはねたところだった。


 オゾマは到魔物の前へ移動し、救護隊の3人は負傷者のもとへ。


「えーっと?」


「オゾマだ。3人は救護隊、負傷者は任せればいい。名草・彩芽。あの魔物の力は?」


「鳥は火を噴き、翼の羽ばたきが風を起こす。熊の前脚は私では受け止めれない。尾の蛇2匹が隙のカバーするためか、意外と硬くてたぶん毒を持ってる。犬の鼻で感知。爪はするどい。動きは身軽い。トロルを斬りながら、銃弾で牽制してたけど、大してダメージになっていない」


「そうか。動きを止めればいいか?」


「うん」


 彩芽は銃弾を飛ばしながら、魔物の左側面へ移動。銃弾は蛇をはじく。


「『カリクラの(こく)(はり)』」


 オゾマは魔物の前に移動しながら、マントの内側から出てきた細剣を右手で握る。振り下ろされた熊の右前脚を左腕で受けとめ、その細剣を突き刺す。


「むうん」


 右前脚をそのまま押し飛ばし、向かってきた蛇を細剣で突き刺す。もう1頭の蛇は彩芽が斬りおとす。オゾマは蛇を引きちぎり、右後脚に細剣を投げて突き刺す。細剣の効果により右前後の脚の動きが止まり、倒れる。


 彩芽は間髪入れずに他の3つの頭を切り落とす。オゾマと彩芽によって魔物は1分たたずに倒された。




「始まりましたね、新学期!」


 暖かな日光が差す窓から学生を見守り、微笑む生徒会長。


「そうだな」


 影となる場所で壁にもたれているロウク。


「新しい後輩を見るとこうなんというか。私も頑張らなきゃって気持ちが高まってきますよね」


「そうか」


「……それだけですか?」


「それだけだが?」


「もう少し楽しそうにできないんですか?」


「お前ほど、表情豊かじゃない」


「かわいい幼馴染と2人きりなんですよ」


「いつものことだろ」


「う~。ロウ君は私の扱いがゾンザイだと思います」


「生徒会長として特段働いてもらうが、特別扱いはしない」


「私、みんなに認められた美人生徒会長ですよ。けっこう頑張ってるつもりなんですけどね~。少しくらい褒めてもいいと思います。モチベーションも大事です。私そう思います」


「……そんなことより」


「そ ん な こ と?」


「壇上から見てどうだった?」


「どうとは?」


「異例の転入生5人はどう見えた」


「視ることなら、ロウ君のほうが上じゃないですか」


「オレとは違う視点も必要だろ」


「……そうですね。4人とも美人で、オゾマ君もいかつい体格に見えますが、ファンができると思います」


「……帰る」


 イラついた顔を隠すことなく、出入口ほうへ歩き出す


「まってまって。冗談ですよ、冗談。いや、見た目については間違いないと思いますよ」


「はぁ」


 アロに袖をつかまれ、ロウはため息をして止まる


「ヒャンネルトさんとランさんは私を見定めていました。生徒会や自治区で働いてもらうのもいいかもしれません。ランさんはそのつもりでしょう。農村出身のルータさん、山奥で育ったオゾマさんは環境の変化に戸惑っていますね。経歴で見れば彩芽さんも一同じかもしれませんが、彼女は動じていないというよりそもそも変化を気に留めていないですね」


「それでトラブルが起きるかもれんな。風紀委員には伝えておくか」


「そのほがよさそうですね。ロウ君にはなにが見えました?」


「オーガシキと名草はガレのグループ(グループじゃねえ!byガレ)やウッドと同格で経験もあると見ていい。ヒャンネルトは命じれて、フェイは割り切れる」


「そうですか」


「ルータさんは?」


「あの力は危険だな。本人は不安でいるが、それを隠す努力をしている」


「……異能の扱い方については私や自治会長では力になりませんね。ロウ君のほう「そこは学長や先生のほうの領分だ」……」


 生徒会長とその右腕は視線を合わせた。数秒の沈黙が続き、生徒会長は視線を窓に戻す。


「学園では楽しい生活を送って欲しいですね」


「……」


「いえ。送らせます。それが生徒会長の役目ですから!」


「そうか」


「……そこはノッてくれませんか?」


 生徒会長室のゆるやかな空気。その空気をぶち壊すように慌てて役員が入ってくる。


「す、すいません。緊急事態です。街中の川辺で魔物が現れて、生徒にも負傷者がいるようです」


「ロウ君!」


「もう見てる。現場には……名草、オーガシキ、救護隊もいる。魔物は今、名草とオーガシキが倒した。今見た範囲だと、川辺周囲に魔物はいないから、負傷者は増えない。負傷者は不良グループで死者はいないようだ。ただ、そいつらは錠剤を使用している」


 ロウクの視る力は学園いやこの世界で頂点にたつ。


「念のため錠剤使用者がいることを救護隊と警ら委員会へ第一に伝えてください。そして自治会、護衛団、公安委員会、教会関係者、先生方、派遣監査、ギルドには対策会議を開きたい旨を。ロウ君は現場へ向かってください」


「了解だ。それと偶然か計画かわからんが、人為的な部分はある。身を守ることを指示にいれろ」


「わ、わかりました。失礼します」


「リオッサちゃんにも伝達をお願いします」


 役員が部屋を走って出たところで、アロはロウクのほうへ向き直る。


「ああ」


 サオリことリオッサはアロの護衛で友人。会長直属部隊の1人だが主に裏方の働きを担当している。アロの隣にいるときと、任務で動いているときの服装や髪型を変えているため、把握しているのは少数だ。


「お前も身を守れよ」


「わかってますよ」


 ロウクも部屋を出て行った。


「ふう。私も頑張りますか」


 アロは窓から外を眺めた後、部屋を出た。




 学長室に呼ばれたパテスと理子は緊張した顔つきだった。


「うふふ。おもしろそうな子たちを入学させましたね。学長」


 落ち着いた貴婦人に見えるが雰囲気は老婦人。一般人からは見た目と内面に差に感じさせるが、付き合いやすい人物に見える。だが、戦いが身近で深みにいるものからは、『灰色の死』を強烈にイメージさせる存在。


 人ならずものである彼女の名は『ノカ』 御年1000年越えの竜である。

 四方を大国に囲まれたこの国が独立を保ち、強国として地位を保てる理由の1つが彼女の存在である。

 

「ノカ。漏れてる漏れてる。おさえてください」


 未来への希望に楽しみや好奇心が抑えれないノカ。言葉と漏れてる圧はかけ離れた質をしている。


 その圧に対してたばこを咥えた女子生徒は自分を瞬殺することができる存在にたいして、臆することなく苦言を呈する。


「あら。ごめんなさいね、サミンさん。うっかりしてました」


「私はか弱い女子生徒なんですから、気をつけてくださいよ」


「うふふ。なにを言っているんですか」


「そうだそうだ。サミンちゃんのどこがか弱いんだ」


 ジャージ姿でまんじゅうをむさぼる中年が、ノカを擁護する。


「フーはだまってなよ。いいおっさんが女子生徒をちゃん付けで呼ぶない。犯罪にしか見えないですよ。あと食べるかしゃべるか別にする」


「……」


「この適当おじさんが」


 フーは少し考え食べることを選んだ。


『そちらはサミン先輩、ノカさん、フー老師とにぎやかですな』


 スーツを着た初老の男性が通信越しで会話に加わる。


「あら、マセブン総理さん」


 会話に加わってきたのは、この国の政治の権力のトップ。学長のマブダチ。


「そっちはよく時間とれるわね。それと先輩言うな」


「これぐらいならなんとかなりますよ。サミン先輩、学長」


「ふむ」


学長を交えて雑談を進める5人。


「あの~里琴先生。僕はなにを見せられているんでしょうか?」


 学園にいる以上、学長の雑談を見ることはある。それぐらいなら、学園で務めている以上、当たり前だ。が、自分の目の前で、この国の総理と学長が雑談を交わしている状況を見るこことを想像する人物はそうそういない。


「この学園、いいえ、この国の頂点たち、大国の地位にいる理由、年長者トップ陣、となるお方たちの雑談ですね。私もそろっている状況を見るのは初めてですが」


「ちょう……てん、理由?学長と総理はわかりますが、他の方は?生徒にみえる子もいますよね?」


 スカウトされ、この学園に赴任してきたパテスには見知らぬ者が多い。対して里琴は生まれはこの国で学園の卒業生である。


「嵐の灰竜のことはご存じですか?」


「?世界3大竜の1頭ですよね?他の2頭とは違い、実在しているのかはわかりませんが、嵐のブレスで島をプレートに押し込んだという伝説の竜。」


「その灰竜がノカと呼ばれた婦人です。専門外なので詳しくはありませんが、あの方がいるだけで戦略を変更せざるえないと言われています」


「そんな恐ろしい人には見えませんが?」


「中身はバトルジャンキーなところがあります。まあ、自分から気軽く挑んでくることはありませんが」


「なんで?この学園に?」


「詳細はわかりませんが、かつて学長に敗けたのをきっかけにこの学園に住むようになったと聞き及んでいます」


「はあ」


「隣にいるジャージ姿の方は千年以上生きている仙人です。学長の知人とのことですが、知り合った経緯などはしりません」


「どこにでもいるようなおじさんに見えますけど」


「実際、私が学生のころから酒好きおじさんとして有名でした。いい加減でマイペースおじさんとしてもですが」


「里琴先生?」


 若干イラついた声で説明する里琴。学生時代振り回されたことがあり、あまり関わりたくないのだ。


「ふう。生徒に見える方はサミンさん。学園に入学する前は学長とマセブン総理の先輩だったそうです」


 深呼吸をはさみ、冷静に戻り説明を続ける里琴。


「せ、先輩?」


 本日一番驚愕した顔となるパテス。年齢にあった貫禄を見せる学長とマセブン総理。対してサミンの外見はどう見ても少女である。


「そして、この学園での私の先輩でもあります。この場では一番上なのは間違いない。っひ」

(里琴先生の先輩?。え?いったい何歳な、?!」


 里琴の目の前でパテスの頭に一口チョコが当たった。


「女性の年齢を知ろうとするのは失礼ですよね~。先生方?」


 にっこり笑顔でいるサミン。気圧される先生2人


『雑談はここまでにしましょう。サミン先輩。先生方をこれ以上またせるのは申し訳ない」


「ふう。そうですね。マセブン君」


『通信越しで失礼する。あと待たせてすまなかった。パテス先生初めまして、私はマセブン。そうだな、学長の友人ってところだ』


「は、はじめまして、パテス・カラーです。マセブンそ、総理」


「会話を交わすのは昨年以来ですね。総理」


『パテス先生、そんなに緊張しなくていい。気楽にしてくれ。里琴先生も元気そうでなによりだ』


「そ、そうですか」


 声をかけられてから、ガチガチに力を入れていたパテスはほんの少しだけ力を抜く。


「総理には時間がないと思いますので、話を進めますが、私達がこの場に呼ばれたのはどのような理由ですか」


『理由?そうだな。君たち2人が転入生5人の担任だから気になってね』


 パテスはヒャンネルト、オゾマの担任。されにマテルとパリックも受け持っている。

 里琴はルータ、ラン、名草の担任。ちなみにベリアと弾は別クラスだ。


「……それだけですか?」


「それだけですよ」


 貴重な時間を返せ。心の中で一瞬そう思う里琴。答えた相手がサミンなため、口にはしないが。


「リト先生にパテム先生。そうは言っても、カルオン王国王位継承第一位のパンネルト王女。救世主と同じ能力を持つルーラ君。傭兵集団『冥の瞳』最年少剣士あやね。数多の隔絶武具を使いこなすオズマ。転入が決まる前に空き店舗を買い取った行商の異才アン。彼らには否応なく注目をしてしまうだろう」


「理子、パテス、ヒャンネルト、ルータ、彩芽、オゾマ、ランですよ。フー」


 誰1人あっていない名前を訂正していくサミン。彼女がツッコミに回ざるえないのがこのいい加減仙人のすごいところの1つである。


「はあ。まあ、そうといえばそうですが」


「なにも変わりませんよ。他の子と彼らも同じ生徒です」


「へえ。そうかい」


 納得はする理子と真っ向から否定するパテス。パテスの表情を見て笑みを浮かべるフー。そこへひげ面教師が慌てて入ってくる


「し、失礼します。急報です、学長!川辺に魔物が現れ、名草とオーガシキの2名によって討伐されました。生徒会はすでに動いており、アロ生徒会長からは対策会議を開きたいと。これに現場状況が映っています」


 学長にタブレットを渡すひげ面教師。その画像を見たパテスは血相を変え、動き出す


「パ、パテス先生?」


『パテス先生、まだ動くな!君、負傷者や、周辺への警戒はどうなっているのだね?』


 一報を受け、部屋を飛び出そうとするのパテスをマセブンが大声で制する。


「そ、総理?」


「答えてやれ」


 通信越しとはいえ、総理がいることに固まった教師、学長の言葉で我に返る。


「あ、は、はい。現場にはすでに救護隊は到着し、負傷者の搬送治療は開始されています。治安維持関係者は急行中。生徒会役員のミフカが現場を観ており、死者はいないようですが、負傷者は錠剤を使用しているとの報告です」


『そうか。フー老師、錠剤を見てくれませんか?』


「ん?ああ、かまわんよ」


『おねがいします。学長、私は公安に指示をだしますのでこれで失礼する』


「ああ、頼む」


 総理は頭を下げ通信が切れた。


「学長として命じる。パテスは現場へ迎え。理子はフーを救護隊本部へ案内だ」


「わかりました。失礼します」


「はい、フー老師、こちらへ」


「ああ、頼んだよ」


 パテス、理子、フーが部屋を出る。


「ふふ。学園らしくなってましたね」


「そうだのぉ」


「ノカ、学長。嬉しそうにしないでくださいよ」


 サミンはやりたい放題してる側ではあるが、常識的な思考もできるのでツッコミが多い。


 そして、パテスと理子はこの部屋に来る回数が多くなることをまだ知らない。




「私が最後でしたか、お待たせして申し訳ありません」


「いえいえお待ちしてました。ヒャンネルト殿下。キャニーさんもこちらへ。すでにパリック殿下とマテル様はおつきになっております」


 学園内に複数あるカフェテラスの1つを貸し切ったランは、ヒャンネルトと付き人であるキャニーをそれぞれの席に案内する。ヒャンネルトのテーブルにはパリックとマテルが既に座っており、2人は立ち上がり、ヒャンネルトを迎え入れた。


「パリック・ジャイムです。ヒャンネルト殿下」


「マテル・ディアハーメッツです。よ、よろしくお願いいたします」

(ゲームだと私は蚊帳の外だったはずなのに、なんで同席する形になるの~。どう行動すればいいの。誰かおしえて~。ひぃ~)


「初めまして、パリック殿下、マテル様。ヒャンネルト・二・カルオンと申します。そして、お招きしていただきありがとうございます。ラン様」


 隣国で王位継承権を持つものが席を同じにする。内心は泣いてるマテルでも緊張した表情を保つようにしている。


 幼いときに前世を思い出してから、挙動を周囲に怪しまれないよう表情を保つ努力してきたかいがあったものである。とマテル本人は思っているが、効果はそこまで高いわけではない。


 この席を催したのはラン。その目的はシンプルである。


「いえいえ、感謝は不要ですよ。私のコネづくりのためですから」


 満面の笑みで本音をぶちまけるラン。悪びれもしない態度にキャニーとパリックの付き人ママリアは表情を変える。


「ははっ」

(うわぁ。ゲーム画面だと普通の笑顔に見えたけど、直接みると胡散臭さのほうが強いわね)


 剛速球の回答とランの表情に乾いた笑みを浮かべるマテル。


「それにヒャンネルト様もパリック様もいつまでも関わらないでいるというのは無理ですよね。それならお二人が関わらずえない状況を作ってあげましょうと思いまして。ささ、お座りください」


 実際、ヒャンネルトもパリックも自国他国関係なく有名な者と関わざる得ないことは理解している。そして、その機会をどう作るかを考えてはいた。なのでランがその機会を用意してくれたことはプラスとして考えている。流石に始業式当日に隣国の王族とまでは想定外だったが。


「ここまで本音を隠さない方も珍しいですね。そしてこの行動力にも驚かされてしまいます」


 席に座りランを見つめるヒャンネルト。同じ転入生なので自分と接触することは容易であっただろうが、パリックとはどう接触したのか?そこを疑問に思っている。


「ヒャンネルト様、パリック様、マテル様ともに見え透いた本音を隠して近づく人の相手はもううんざりかと思いまして」


「それで、本音を包み隠さず近づいてきたと」


「ええ、そうです、パリック様」


「それはそれで面倒がられるとは思いにならないのですか?」


 パリックは一瞬だけ目線をマテルのほうへ向けた。パリックにとってマテルは見え透いた本音は隠していないが、なにを考えているかは読めない相手。


「お三方様はそれを表に出すことはないでしょうし、これをきっかけに頭の片隅にでも記憶してもらい、そこから信頼を勝ち取りたいと思ってます」


「なるほど。確かに記憶には残りますね」


 パリックは感心したように答える。 


 王族である自分たちに近づくいて自己紹介する人物はいる。


 だがどの人物もこの学園にいることを不満に思っている者たち。だから、ここに入学した王族とお近づきになり、ポイント稼ぎしているのは見え透いていた。


 逆に王族という身分故、近づくことを躊躇する者も多い。


 だがランは始業式が始まるまえに3人とのお茶会の約束を取り付けていた。


 その大胆さと行動力に一部の貴族からいちゃもんを付けられたが


「この学園にはそれらは無関係ですよね?」


と答え、相手にしなかった。この行動や態度、発言は確かに記憶には残る。パリックもヒャンネルトもそう考えた。


 マテルはこの会話を知っていたので、用意されたお菓子に目を向けていた。


「まあ。気になることもあるでしょうから、早速はじめませんか?マテル様もお菓子が気になるようですしね」


「え?!あ、はい。ランさんは行商で多くの国を旅してると聞いてるので。気になってしまいます」

 

「ふふっ。そうですね」


「こうなることも予測してマテルも呼んだんですか?」


「それは秘密です」

 

 難しいことより目の前のお菓子に意識がいっているマテルの表情を見た2人。パリックの問いに茶目っけたっぷりの笑顔で答えるラン。その場の空気が柔らかくなり、付き人たちもホッとし、お茶会は始まった。


 当たり障りのない会話を交えお茶会を楽しんでいると、街側からサイレンや慌ただしく走る生徒の声が聞こえてくる。


「ずいぶんと騒がしいですね。一応聞かせてもらいますが、これが普通ということはありますか?」


 その喧騒にヒャンネルトが反応する。


「え?え~と、これも普通といえば、普通ですね?パリック様」

(たぶん、街中の川辺に出た魔物をオゾマと彩芽が倒した件よね)


「マテルのいう通り、この自治区が日々騒がしいことは事実ですが、この感じは少し違いますね。おそらくは事故や事件かもしれません」


「ヒャンネルト様。ちょっと確認しますね~。っとこれは」


 ランはスマホでこの騒ぎの原因を検索する。その結果を見て、普段の笑顔は消え真面目な顔つきとなる。その表情の変化に異変を察するパリックとヒャンネルト。ワンテンポ遅れて表情を変えるマテル。


「どうやら、川辺のほうで魔物が出現。それをオーガシキ君と名草さんが討伐したようです」


「え、えええ?魔物?」


 知っている故、わざとらしさが見えるマテル。


「島に魔物の領域があることは聞いております。そこから、飛行可能な魔物が飛んで現れたといったところでしょうか?」


 冷静に推測するヒャンネルト。王女という立場故、驚きで思考を止めることはない。


「私のほうにも出動の要請が来ました。情報が流れるまでは内密にしておいてほしいのですが、どうも人為的に入り込んだようです。街中にでるよりここのほうが安全だと思いますが、念のため警戒は強めておいてください。ヒャンネルト様、ランさん。申し訳ありませんが、お先に失礼します」


 立ち上がるパリック。王位継承権を持つ自分とヒャンネルト、有力貴族であるマテル。今、この場にでも狙われる可能性がある人物が3人いる。魔物の出現は囮の可能性も当然視野に入れている。


「そうですね。ご忠告感謝いたします。パリック様」


 同じ考えに至っているヒャンネルトも同意を示し、キャニーも頷いた。


「お気をつけください。パリック様、ママリアさん」


「ありがとう、マテル。ウォル、リウス、ヒャンネルト様とランさんのこともお願いします」


「お任せください」


「承知しました」

 

 マテルの付き人ウォルと護衛のリウスはこくりとうなずく。


「ヒャンネルト様、マテル様、ラン様 失礼いたします」


 パリックと付き人のママリアは退席した。


「私たちはどうしますか?ヒャンネルト様。ランさん。……自室へ戻りますか?」

(とりあえずの危機はさってるから、移動してもここに残っても問題ないのよね)


「いえ、マテル様。少なくとも生徒会からの情報があるまではここで待機していたほうがいいと思いますよ」


「ランさんのいう通りですね。そのようにしますか」


「わかりました」


 こうして、ヒャンネルト、パリック、ランの腹の探り合いを兼ねたお茶会は終わった。30分後、生徒会、自治会からの公式情報が入り、マテルは帰路へついた。


 そのマテルを見つめるものがいたのをマテルは気づいていない。






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