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知っていた

マテルを見つめていた 彼女の名はコノル・トシラン。

 この学園の新入生。 国の陸側出身で実家は総菜屋。学園の陸側枠で受験、無事合格。


 (マテルはあそこでなにをしていたのかしら?一緒にいたのはヒャンネルトにラン?どういう繫がり?)


 彼女は知っている。


 マテルたち『ラブバーサス』の主要人物のことを。

 それは知り合いだからではない。この世界に異能があり、予知の力を持っているからではない。


 それは知識故。


 彼女は知っている。


 ここが乙女ゲーム『ラブバーサス』の物語の舞台であることを

 転入生4人が『ラブバーサス』の主人公であることを

 学校行事にゲームイベント、青春、錆蠢(せいしゅん)でてんやわんやになることを

 数年後、秩序と無秩序の天秤がどちらかに大幅に傾くことを

 

 彼女は知っている。


 数年後には死か破滅がマテルをウェルカムしていることを。


 マテルがギネス公認最多破滅ルート持ち悪役令嬢キャラであることを。


 マテルには()()()()()()()()()()()()()()()()ことを。

 

 彼女は知っている。


 それは知り合いだからではない。この世界に異能があり、読心術の力を持っているからではない。


 それは知識故。


 コノルには前世の記憶がある。高卒後、社会人2年目途中までの人生の記憶がある。


 彼女は6歳のときに前世を思い出し、情弱な環境の中、調べれる範囲で調べた結果、この世界が『ラブバーサス』の類似世界であることを知った。


 コノルは知っている。

 

 自分がマテルほど『ラブバーサス』について知らないことを。

 この世界が()()()()()()ではないことを。

 


 


 コノルは乙女ゲーム『ラブバーサス』を知っているが自分でプレイしたことはない。それはコノルの前世にそのゲームは存在してなかったからだ。


 それもそのはず『ラブバーサス』は小説『悪役令嬢マテルは知っている』内に出てくるゲーム。つまり作中作である。


 『悪役令嬢マテルは知っている』

 

 あらすじ

 乙女ゲームの異端児『ラブバーサス』の世界に転生したマテル・ディアハーメッツ。

 自分がギネス公認最多破滅ルート持ちであることを思い出した彼女は破滅回避を目標に動き出す。

 学園に入学しなければいいんじゃない?が通じないご都合主義という現実。

 合言葉は「死んでたまるか」「面倒は回避ー」「私のそばに(メインキャラ)は近寄るなー」

 「(マテル)は生き延びることができるか?」その(ルート)はまだ確定していない。


 小説投稿サイトで掲載され、そこから書籍化、コミック化、アニメ化、ゲーム化、映画化と至った所謂悪役令嬢もの。


 第1巻 「思い出した!」入学前編  

 第2巻 入学!主人公不在の1年編

 第3、4巻 2年メインルート確定編

 第5、6巻 3年生徒会編

 第7、8巻 4年生徒自治区編

 第9、10巻 5年自治区会編 

 第11、12巻 6年最終メイン分岐編

 第13~15巻 7年卒業編


 本編書籍は全15巻からなるマテルを中心した群像劇である。


 ネタバレになるが、マテルは必死こいて善人プレイを選択し、運も良かった(作者曰く)ため死や破滅はギリギリ回避。永劫戦争や魔王再誕からの世界荒廃、人類全滅などに至るルートも回避し、エンディングを迎えた。


  その結論をコノルは知っているが、コノルの心中は


(なんで私の知っている数多の作品の中からこの作品なの~)


だった。


 その理由は

  SFファンタジーなこの世界で自分の知識では知識無双なんてできない。

  (※ そもそも彼女はマテルと同じく一般常識くらいの知識しかない故、仮に別世界に転生しても知

    識無双はできない)  

というわけではない。


 書籍の結末通り行く確証が一切ないからである。



 作者曰く

 書籍『悪役令嬢マテルは知っている』はマテルの辿った結果のごく一部を表現したに過ぎない。

 ほんの少しの運、行動の差で結論は違う。

 マテルがタイムリープして、同じ行動をしても同じ結果に至る確率は0に近い。

 誰かがタイムリープで状況を良くしようとしても、別の地獄へ行く。

 この小説を知る人物が憑依、転生して本編と同じ行動を再現しても同じ結果に至る確率は0に近い。

 WEB、書籍、コミック、アニメ、ゲームで過程や結末が違うは当然である。

 作者以外の誰かがが書いた二次創作や同人誌でのマテルの結末もありえる。ぜひ見せてほしい。

 

 と多次元解釈を採用しており、


「針の穴って大きいかったんだ。と思うくらいに世界、自分、周囲丸々ハッピーエンドに至るルートは   

 少なく、至るのも難しい」

 

とのこと。


 ようは残機がいくらあっても足りなく、詰みやすい可能性が複数あるのだ。


 実際にこの作品には本編以外に外伝、サイドストーリ、IF編 スピンオフもある。


  パリック、ヒャンネルト3年時暗殺ルートを描いた 『探偵ラン』

  運と行動と選択がすべて悪いほうに傾き、誰にも信頼されない『マテル孤独の錆蠢』

  記憶を失い、本来の悪役令嬢と成り、主人公たちと血みどろに争う『悪役真髄マテル』

  さまざまな分岐の序盤を集めた『アナザールート確定集』

  マテルの破滅を集めた『エンド集』

  メインキャラの行動をオリジナルモブ主人公視点で見ていく『私は影が薄いと知っている』

  ゲーム主人公4人プラスライバルヒロイン6人のハッピーエンドを描いた『ベストルート』

  上記10人の破滅、狂気、死亡ルートを描いた『バッドルート』

  マテルが4年時病死したルートの『マテルはもういない』


 

 コノルはこの世界が『悪役令嬢マテルは知っている』が元になっていることをなんとか調べれた。 

が、この世界がどのルートに行くのかはわからない。それを特定するために生徒会長アロの言葉を聞きたかった。そのためにこの学園に入学した。


 「ー未来は未知数ですからー」

 (ふう。予想の1つ。といえばそうだけど……)


 マテルとは違いその言葉でルートの判断はできなず、表面上は平静を装っていた。


 (このルート知らねえーー!?)


 その理由は簡単。なぜなら、その言葉から始まるルートについて書かれたものを目にしたことがないからだ。


(作者の裏設定?それとも同人?私の死後に出た新作?)


 だが、マテルの様子を見て分かったこともある。


(ハードなのは間違いないんだよね。万が一、いや、無量大数分の一に賭けて、ルートの確認にきたけどだめだったか~。いや、こうなるとは予想はしていたけどね)

 

 最初から混沌、地獄となり、モブ役がナレ死しやすいこの世界だが、そうならないルートもある。

 『悪役令嬢マテルは知っている』シリーズにもギャグ作品やほのぼの日常が書かれた作品もあり、コノルでは詳細を知りようのないゲーム『ラブバーサス』にも通称『本物の恋愛シミュレーション』ルートがある。

 

 多少ハードでもハッピーエンドに至る分岐の多いルートぐらいにならないか?

 ワンチャンその可能性がないか?

 それを確かめるために入学したのが目的の1つだった。

  

 結果はコノルの知りえない最困難の俗称『異修羅』ルート。限りない0に近いハッピーエンドルートを引き寄せる運はマテルとコノルにはなかった。


 (そうなると、第2プランに移行するしかないんだけど……)


 描写から判明しているヒロインたちの結末  


 ヒャンネルト

 継承権のある兄弟を皆殺しにして魔王として国を掌握。戦乱の時代、自国の繁栄のため、周囲を侵略していく。

 継承争いに敗れ死亡。

 国内外からの刺客の手で暗殺。


 ルータ

 学園での人間関係に絶望し、救世主として星の革命を宣言。魔物を率いて人類の蹂躙を始める。

 異能狩りの被害にあい死亡。

 危険分子として公開処刑。 


 ラン

 死の商人として、戦争を煽り、当事国に武器を売り続ける。

 奴隷商として、学園の生徒も売る。

 商品の反乱にあい、死亡。つぶれた商家の逆恨みにあって死亡。

 

 彩芽

 戦闘、殺人狂の修羅として、戦場に現れ敵味方なく闘いに明け暮れる。

 TPOをわきまえず、強者に闘いを強いてくる。 

 学園上位陣と戦い敗死。 

 

 アロ

 本人は歪まない。

 が、あらゆるルートで、優秀ゆえに邪魔と判断され殺される。 

 混沌のなか、恐怖で暴走した生徒の手で殺される。


 ベリア

 本人は歪まない。

 危険な依頼で調子にのる、依頼でだまされるなどで、万事屋で自分だけが生き残る。

 借金20億を背負い、風俗嬢か奴隷として売られる。


 雫

 ガレへの歪んだ執着心のために、実家のマフィアを乗っ取る。

 ガレを手に入れるために周囲を試みない行動をとる。

 ガレによって殺害される、ガレが死亡、抗争で死亡などでガレと結ばれない。


 トト

 ハリカが本物の公女で自分がクローンだと知ってしまう。

 自分の居場所を失うことを恐れ、ハリカ殺害を計画実行。

 クローンばれが原因で殺害される。ハリカ殺害計画失敗で殺害、逮捕。

 公王となり、空に浮かんでいる自国の一部を敵国に落とす(通称コロニー落とし)

 

 理子

 ライバルヒロインルート以外 過労死若しくは生徒をかばい死亡

 ライバルヒロインルート 吸血鬼として暴走し国を崩壊させる。吸血鬼として討伐。パテスを庇い死亡。


 ハルル

 歪むことはないが死亡することで、結果的に警ら委員会が瓦解。 

 大病による病死。

 雫、トトの陰謀にかかわってしまい殺害される。

 ヒャンネルト、トトから配下へなるよう誘われるも断り見せしめとして殺される。

 義姉のミサが先に死んだ場合も壊れてしまう。


 思い返せば思い返すほど、主人公、ライバルたち、その周辺にいる者はロクな結末にならないし、巻き込まれるほうはたまったもんではない。そして、その結末に至るルートが多いという事実。


 コノルは歪みを修正し、小説本編及び円満な結末を迎える作品での出来事を再現していくことで、ハッピーエンドルートへ近づくことを目指す。それが第二プランである。

 ついでに裕福層や周囲の生存率が高いキャラにお近づきになれればいいなあとも考えている。


 接触する機会を作れるか?懐に歩み寄れるか?自然と誘導できるか?怪しまれないか?コノルでもこれくらいのことは思い付く穴だらけで杜撰な計画。


 平凡未満のコノルに人を唸らせる考察やきめ細やかな戦略を考える知能もなければ、鋭い人への洞察力、観察眼はない。それゆえにこれくらいの計画しか立てれない。


 そして、作者公認で原作再現過程イコール同じ結論とはならない世界。


 なにもしないでいるよりは建設的という理由でコノルはこの第二プランに縋るしか、生存率を上げる術がない。


 (基本攻略対象と結ばれるとやらかしはなくなる。そうなるとやらかしが広範囲な主人公4人、トト、雫、理子先生に攻略対象を押しつけるのはほぼ確定事項。アロ、ハルルは死なないようにしないと学園の秩序が終わる。アロは失恋することになるかもしれないけど、命あってのってことで勘弁してね)


 友人   ベリア    < ハルル < 理子 < トト < アロ < 雫  恋愛対象


 アロ、雫は本篇開始時から攻略対象に恋愛感情があり、トトも序盤のうちに攻略対象への恋愛感情を持つことになる。

 戦乱や世紀末な状況や本人が歪まないルートでは涙を浮かべて、結ばれた主人公と攻略対象を祝福している。

 

 ベリア? 弾と結ばれる直前までお互いに恋愛対象として見てなかったよ。これにはお似合いと思っていた万事屋メンバーも呆れていた。



 (ベリアには別依頼をぶつければ回避できる考察案を参考にうちの総菜屋手伝いを依頼すればいいとして。マテルはどうするのがいいのかしら?)


 論外のゲームは除いても小説でだれかと結ばれる結末描写はなし。自分が生きることで精いっぱいで攻略キャラへの恋愛描写もない。それどころか、攻略対象からも変わったところもあるが、善良な友人どまり。婚約者であるパリックからも恋愛感情は一切なく、双方合意のもと円満な婚約解消となっている。


 (変に近寄らなければ本編通りけにいきそうな気もするけど、神髄マテル回避するにはある程度近い距離にはいたいし)


 真髄マテル。ゲーム本来の第一悪役令嬢ポジションのマテル。思考レベルと野心の大きさ、陰湿さ、嫉妬深さは転生者マテルとは比べ物にならない。


 いるだけで空気が悪くなるといわれている。

 

 「記憶喪失のタイミングと原因は固定」


 と作者の公式発言があるため、このルートだけは成功するかはともかく対応がとりやすい。


 (真髄マテルだけが死ぬなら、このルートはそこまで心痛まないって思うんだけど)

 

 一般人感性のコノルですら、そう考えてしまうほどの神髄マテルの性格。


 (ルータへのいじめもアレだけど、ハルルへの仕打ちがやばいのよね)


 ルータをかばったハルルに逆上した真髄マテルの凶行。


 偶然近くにいたことから、その凶行を止めたオゾマの言葉が「あと少し遅れていたら、ハルルは死んでいた」だった。


(逆上で殺そうとするなんて、なにを考えているのかしら?いや逆上だからか、後先とか考えていないんだろうけど。これも止めないと風紀委員会瓦解しそうだし、それだけは絶対さけないと)


 未来の可能性を知らないでいる人たちがうらやましい。


(まずは、計画通り、学園の雰囲気の溶け込むことね。それと並行してマテルたちの様子を観察して、小説との違いの有無を確認。いきなり接触するには話すネタもきっかけもないからそれは無理ね)


「はあ、この世界がゲームですって全ブッパできればな~」


 この世界がゲーム(コノルから見れば小説だが)の類似世界という事実。マテルがそのことを序盤に他の人に言ったルートはバッドエンド集に乗っていた。誰にも信じてもらえず、イベントは起きない。その結果、信頼、信用を失い、狂人扱いをされ入院措置。その後の動向は不明だが、入院先が戦火に巻き込まれる描写があった。


「原作再現を進めるのも私じゃあマテルとどっこいどっこいだし」


 マテルが原作再現のため周囲を誘導しようとするとわざとらしさ全開。大根役者にしか見えず、周りが心配するのも納得ものだった。 



「はあ、どうしよう、あた?!」


 コノルは考えごとをしながら歩いていたためにうっかり、人とぶつかってしまう。


「あ、ごめんなさい」


「いえ、こちらこそ……ひゅええええ?!」


 コノルがぶつかった相手はマテルだった。コノルは今のいままで忘れていた。


 作者曰く、転生者マテルは自分にとっても相手にとっても間が悪い人物である。関わりたくない人に、1人でいたい人に、出会ってしまう人物だということを。身構える前に来る死神だということを。


 だから心の準備ができてないコノルがマテルと出会ってしまうのは必然だった。


「にょ!?あ!」


 突然の出会いに大声をだすコノル。その反応に驚くマテルはバランスを崩して後ろに倒れそうになる。


 その瞬間コノルには存在しうる絶望の未来を想像する。

 

 小説と現実は違う=真髄化の原因とタイミングが違う。

 マテルが倒れて後頭部をぶつける。

 記憶を失う、神髄マテル化。

 真髄マテルが状況をみて、悪意マシマシでコノルが自分を押し倒したと糾弾する。

 まだ周りから信頼を得ていることから、自分が疑われる。

 マテルの陰湿な虐めの対象になる。

 そこから、崩れるマテルの人間関係。

 虐めをやめないマテル。それをとがめるハルルへの凶行。

 ハルル死亡からの風紀委員会瓦解。

 破滅ルートはもう止まらない。巻き込まれて死亡か破滅。

 死後歴史に書かれるこの状況はコノルがマテルを押し倒したことから始まった。

 死後の名誉もない。 


「それもまずいの!?私の平穏!」


 コノルはとっさにマテルの腕をとり引き寄せることで転倒を阻止した。

(やった!入学初日からの破滅ルート突入は阻止!わたし、えらい!)


「あ、ありがとう」


「あ、いえ、大丈夫マテル?」


「?どこかで会ったことあったかしら?」


「へっ?えーっと」


 こうしてマテルとコノルは出会い、苦難の日々が始まった。


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