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私は知っている

「終わった……」


 誰もいない部屋で一人の女性はつぶやいた。カーテンの隙間からは日光がさしてくる。


 顔や髪の状態から傍から見れば徹夜明けだとわかる。決してすっきりとした目覚めを迎えたとはいえない。女性としてこれはいいのか?とひと昔前なら質問されるかもしれない。


「あー面白かった」


 喜びと満足感、ほんの少しの寂しさが彼女の心を占める。


 が。


 体はそうではなかった。満ちている気持ちとは別に空腹感が襲う。それも仕方ないことだ。晩飯を食べてから何時間もたっている。


 「うーん。お腹すいたなー」


 部屋の冷蔵庫や棚を確認するが、食べ物がない。女性としてこれはいいのか?とひと昔前なら言われていたのかもしれない。今の時世は彼女にとっては追い風なのだろう。


「コンビニで買ってくるか~。たべて、シャワー浴びてから寝よう」


 彼女は独り言ちりながら、明かりを消し自宅を出て行った。コンビニへ道中に記憶


 そして、彼女がこの部屋に帰ってくることは二度となかった。




「こんな朝から呑んでるんじゃねー」


 怒りのこもった絶叫とともに上半身を起こす。そして、彼女の脳裏に直前の記憶があふれる。


 歩行者信号が青となり横断歩道を渡っている自分に信号を無視した車が向かってくる。

 運転手の右手に彼女も愛飲しているビール缶があって、運転手は口につけて飲んでいた。

 顔があきらかに赤く、居酒屋のバイト経験、自身の経験から酔っているのが分かった。

 衝撃とともに視界は真っ黒。意識もシャットアウト。


「私の視力は2.5。動態視力もいいのよ。このことは警察にも絶対言う。絶対にゆるざん。あの酔っ払い。じわじわと社会的になぶりころしてやる」


 彼女は怒りに震える宇宙の帝王のよう右手を握る。


「……あれ?無事?どこも痛くない?いやいや絶対にけがするよね」


 思いっきり力を入れた右手を見る。


「う、うーん?私のパジャマじゃないし私の手ってこんなんだったけ?あれ?声もなにか違うような」


 異変に気付いた彼女は自分の身体を確認する。


 怪我のあとも包帯もない。胸のふくらみがない。全体的に小さい。純粋日本人の黒髪で肩に届かない長さだったのが、腰元まで青色の髪が伸びている。


 (どう見ても青。体も小学生くらいの大きさ。事故のショックによる変化?いやいや、漫画じゃあないんだから。)


 変化がありすぎて、戸惑いいろいろと考えたが、彼女の知性ではすぐパンクした。


 ……



 そして、彼女の時と思考は動き出す。一度リセットされ冷静となった彼女は周囲を見渡した。


「病院じゃないね。あ、鏡……」


 化粧台を見つけて、その前に立つ。


「だれ?」


 鏡に映った女性は知っている自分の顔ではなかった。





「~である」


 学長のいつもの短い話が終わった。新入生と転入生はあっけにとられた顔となる。在学生はもう慣れていた。


 学長と入れ替わり、壇上へ上がったのは、生徒会長。彼女の言葉に皆が耳を傾ける中、そうではない者も中にはいる。転入生をじっくり観察するマテル・ディアハーメッツもその1人だった。


(主人公だけあって、綺麗だな~。って、いやいや、今考えるのはそうじゃない。転入生の4人に新入生の2人)


 彼女は転入生4人を知っている。


 それは知り合いだからではない。この世界に異能があり、彼女が予知の力をもっているからではない。


(はい。『ラブバーサス』本編の始まり始まり~。わーパチパチ)

 

 それは知識故。


 彼女は知っている。

 

 ここが乙女ゲーム『ラブバーサス』の物語の舞台であることを

 転入生4人が『ラブバーサス』の主人公であることを

 学校行事にゲームイベント、青春、錆蠢(せいしゅん)でてんやわんやになることを

 数年後、秩序と無秩序の天秤がどちらかに大幅に傾くことを

 

 彼女は知っている。


 数年後には死か破滅がをウェルカムしていることを。


 自分がギネス公認最多破滅ルート持ち悪役令嬢キャラであることを。

 



 『ラブバーサス』


 自称乙女ゲーム。乙女ゲームの異端児。天才美人発明家が特許で得た金で作らせ乙女ゲーム。夢、胸詰め込んだゲーム。VRMMORPGの容量8割をルート分岐に使ったと呼ばれる乙女ゲーム。


 主人公4人×攻略対象9人というメインキャラの多さ。

2年生の転入から始まり、7年生の卒業までの長い期間。

 最短で2年の終盤で告白、交際可能でそこからルート分岐。

  意図的もしくは結果的に、ライバルヒロインを破滅させることも可。

 平穏or無秩序、活気or虚無、結婚or死別、共闘or死合 振れ幅の広い世界推移と人間関係。

「ふ、普通のシミュレーションゲームみたいに、侵略し(せめ)てえなあ~~…!!」

侵略す(せめ)れば善し!」

「邪魔なライバルヒロイン―― 破滅させ(けおとし)て……いいんでスかぁ!?」

破滅させ(けおとし)て善し!」

(たま)(たま)飛ばしてもええのか!?」

「飛ばせば善し!!」

と揶揄される数多のバイオレンスルート。


 世界観は魔法や魔物の存在する中世ヨーロッパではなくて、魔法、異能、科学が融合するブレ〇ブ〇ーやギ〇テ〇ギアのようなSFファンタジー。

 現代でも見れるバイクや車、列車に豪華客船。ここでしか見れない飛行船に人を背に乗せ飛ぶ鳥やドラゴンに変形機構付きバイク。

 スーツを着た社会人、ジャージを着たランナー、鎧を着た戦士、ローブをまとった魔導士、上半身にはマントしかない武術家が街を歩き、人間、エルフ、鬼人、ドワーフ、小人が卓を並べている。



 「現代知識チートで無双?、現代知識のほうが周回遅れしてるわ!ちくしょう!!」

  byマテ〇

  (前世は残念オタク大学生であり、薄く広い二次元知識と足りない一般常識しかありません)


 舞台はタイラエイト教育国のタイラエイト学園

 世界最高峰の学園とみるか、小さな島の学園とみるか、学長の娯楽とみるかは人次第。

 試験はあるが、国、権力、能力、種族による入学に差別はない。

 訳ありの人も多い、不良もいる、学生で金を稼ぐこともできる。

 15~18歳の3年間(ゲームでは転入の関係上2年間)は勉学等で己を磨く。

 19~22歳の4年間は生徒自治区で政治なり、商売なり、実践なり、研究なりと世間に揉まれる。

 生徒が運営ってブ〇ーアーカ〇ブですか?

  「現実も学業なり、仕事なりの合間で恋愛するんだよ。私もかつてはそうでした。今?聞くな!」

   byゲーム開発女性スタッフ

 

 最先端ゲーム機器の容量一杯にギュウギュウ詰めにした乙女ゲームであり、マテルはこのゲームのルートをフルコンプした後、交通事故で死亡。

 

 8歳のとき、前世を思い出し、自分がマテル・ディアハーメッツとして、『ラブバーサス』の類似世界に転生したことに気付いた。


 マテル・ディアハーメッツ

 恋愛シミュレーションにいる悪役令嬢。

 攻略対象の1人王族のパリックを選んだときのライバルヒロイン。

 あらゆるルートで死ぬし破滅する。

 他の攻略対象ルートでもヒロインを殺したりする危険人物。

 いない方が平穏なのだが、物語を動かすヘイト役なため、他のルートでも動きまくっている。そして、その動きが巡り巡って、世界が滅んだり、自分が破滅したり、ヒロインが死んだりする。

  

 前世を思いだしたマテルは、そんな人物とこの世界に転生したことに絶望。その後、このときまでのやらかしに対する謝罪であっちこっちへ。


 有力貴族でもあるためなのか、運命の強制力のせいなのか。パリックとの婚約は解消できず、学園への入学を回避できなかったため、自分が破滅に近づいていることは理解していた。


(一人のオタクとしては魔法、異能のある世界への転生は感慨深いのはあるわ。声が花守〇みりになったから、なでしこやホシノ、セーラ。ストライカの物まねが細かすぎて伝わらないレベルにもなった。一人の乙女ゲーマとして主人公や攻略対象を一目見れるのは嬉しいわ)


 目線を再度転入生である主人公4人に向ける。


ヒャンネルト・ニ・カルオン

 赤色長髪で気品のあるエルフ。タイラエイト島と隣接するカルオン王国の王位継承権第一

 魔法の扱いも一流であり、統治者としての才覚もある。才能ウーマン。

 家のごたごたで転入する形になった。立場が立場なため市井には疎い部分がある。


ルータ・ザサン

 緊張した様子の白髪の人間。かつての救世主と同じ異能を持っていたことから、入学した農民の子

 異能の扱い方を学びにきた努力家。信心深いく優しい性格。

 農村出身であり、島のすべてが目新しい。島でも上位に入る異能の強さを持っている。


ラン・フェイ

 薄緑の髪をポニテールにまとめ、眼鏡の狐人。笑顔だが、眼鏡の奥では有名どころを観察している。       

行商の子として世界を旅し、自分の店を立てる足掛かりとして転入。

賢く、コミュニケーション能力が高い。4人の中では一番社会常識と知識がある。


名草(なぐさ)彩芽(あやめ)

 黒髪ウルフカットでぼんやりした人間。傭兵で本人も幼少期から魔物を退治をしてきた。

 刺激を受けてこい&常識を知れと将来を心配した傭兵仲間によって転入させられた。

 銃、剣ともに扱いにすぐれた戦士。4人の中では一番戦闘力があり、勘もいい。


(近づきたくないけど、今までの経験から無理だろうな~)


 マテルは自ら危険に近づくほど、好奇心が強いわけでもなく、考えなしではない。


 マテルは視線をアロに戻す。アロと自分には共通事項がある。それは自分と同じ立場のライバルヒロインであること。


(生徒会長から生徒自治区会長、そこから総理、学長からのスカウトと順調な人生を歩む。かと思えば、悪意、非道、怠惰とは無縁なのに私に次ぐ死亡ルートの多さ。あのルートは回避してほしいけど、関わると私が死にそうなんだよね~)


 マテルは生徒会長を含め、自分と同じライバルヒロインに視線を送る。

 

アロ・パフェクトン。3年 ハーフエルフ 

 生徒会長。 明るく社交性がある

 カリスマもあり、あらゆる能力が高い完璧超人。

 善良で学園、生徒のために行動するが、死にやすい。


ベリア・ヒラエイト  2年 鬼人

 弱小万屋営業中のハーフボイルドお嬢。根はいい子のポンコツカリスマ。 

 やるときはやる(オチ付き)

 ギャグイベントにはほぼ絡んでいるせいか、唯一死亡ルートがない。たぶん開発の推しキャラ


雫・ヘロンザ 4年 人間

 大人しく人付きあいが苦手な文学少女 裕福だが複雑な家庭環境

 この性格を変えたいと思っている。インドア派だが、異能は強い部類にはいる。

 本編開始時とルートによって終盤での印象が変わる。

 

トト・ザイラ・ザクト  1年 猫人

 天空ザクト公国の公王の孫娘。 お茶目でアグレッシブ   

 周りを振り回す存在。

 常時顔まで隠したコンバットスーツを着用 通称ザク役令嬢

 

里琴(りこと)・理子   先生  ■■■■

 冷静で現実を見る大人。根はやさしく面倒見もいい。

 見た目は人間だが、人間ではないらしい。

 この学園の卒業生。


ハルル・ミント 1年 人間

 新人警ら委員 警ら委員の姉がいる。思い込みの強いところがある。人見知り。

 異能で先輩に注目され、学力で先生に注視されている。

 学園随一の黄金の精神を持つ苦労人。


 ちなみにマテルとある1人を除いて、ライバルヒロインは攻略対象が主人公と結ばれない限り、ほぼ結ばれる。


 次に目線を攻略対象に向ける


パリック・ジャイム 2年 人間

  島に隣接するジャイム王国の第四王子 

  警ら委員。まじめで礼儀正しい。王子というより騎士としての振る舞いが目立つ。

  ゲーム上のライバルヒロイン 王子と悪役令嬢の関係で婚約者の『マテル』

 

ガレ・ビーホワイト    5年 人間

 チンピラに近い賞金稼ぎ。

 手を出すのが早い。作中マテルの顔面を蹴り飛ばしている。

 ライバルヒロイン 不良とお嬢さん関係で『雫』


鈴木・弾 2年 狼人

 便利屋の平社員。

 改造手術疑惑のあるタフな戦闘要員。振り回される苦労人の常識人。

 ライバルヒロイン 上司と部下の関係で『ベリア』


ウッド・ニコ  3年 鬼人

 戦う牧師見習い。

 気のいいあんちゃんキャラ。

 ライバルヒロイン 選択しなかった主人公 


オゾマ・オーガシキ 2年 ドワーフ

 転入生の戦士。

 山奥の田舎で暮らしていた訳あり転入生

 ライバルヒロイン 選択しなかった主人公


ロウク・ミフカ   3年 小人(レプラコーン)

 クール担当生徒会役員  アロの幼馴染。

 異常な調査力を持つ異能持ち。生徒会、生徒自治区の監査、防諜担当。

 ライバルヒロイン  幼馴染関係で『アロ』


パテス・カラー  先生 人間 

 主人公の担任。おだやかで生徒第一の教員歴5年目。この学園にスカウトされ今年度赴任された。

 疲れのせいか発想がぶっとぶときがある。目の下のクマが段々濃くなる演出は必要だったのか?

 ライバルヒロイン 大人の関係で『理子』

 

ウォッチ・オルドナ 1年 人間 

 お人よしエンジニア。 普通。巻き込まれる苦労人とツッコミ役。

 困ったときの便利ポジション。 

 ライバルヒロイン 秘密の共有関係で『トト』 

  

ラッフ・カルトエ   1年 エルフ

 自由奔放。お調子者でアホの子。振り回す無自覚トラブルメーカー

 魔法の天才中の天才。 運動能力はへっぽこ。

 ライバルヒロイン 天才とおバカ関係で『ハルル』


(パリック、オゾマは真面目に聞いてる。パテス先生疲労がとれてないわね。ロウク先輩は新入生と転入生の観察。 ウッドは寝てるわね。あ、起きた、ってまた寝るんかい! ラッフ、周囲をキョロキョロ見ないでちゃんと話聞きなさい。いや、ウォッチに話しかけない。確かに今朝の爆破騒動に巻き込まれた弾の怪我やベリアのアフロ、ザクのトトちゃんは気になるけどさ。てか。弾、その怪我なら保健室でしょ。ゲームじゃ怪我してるしかわからなかったけど、あんな大怪我してたの?)


 自治区内では爆破騒動はよくあるわけではないが、ベリアはよく巻き込まれる。


(はっ!いけない、いけない。今は会長のあさいつをちゃんと聞いておかないと)


 マテルがあいさつを聞くには理由がある。あいさつの終わり付近の言葉でルートの分岐がわかるのだ。


「––未来は未知数ですから––」


 会長の言葉を聞いて、マテルはふらつき、右隣の子にもたれかかる。


「え?大丈夫?」


「あ、ごめんなさい。日差しのせいで目まいが」


「そうなの?顔色……ドロ先生のひどいときよりよりひどいわよ」


 ドロ先生

 常に目の下のクマがある先生。彼のクマの大きさがイベントの激しさ、忙しさを図る判断材料となっている。


「そんなに!?」


 声が大きかったせいか、皆の注目があつまる。中でも会長とパリック、パテスも心配そうに視線をむけている。ウッドも起きた。興味津々にラッフもマテルのほうを見ている。


「お騒がせして申し訳ありません」


 ぺコリと頭をさげ、なんでもないよと周囲にアピール。笑い声があがり、マテルは恥ずかしそうにする。が、内心はそうではない。平静を装うので精一杯。


(よりにもよって、異修羅ルート(これは俗称)おおおおおおおお?私の人生い、1週目?この世界では1週目なのよ。なんで周回に周回を重ねて選べる終盤分岐ルートなの?ルータたちだって死にやすいのよ~)


 メインキャラを一瞥するマテル。この先、リアル「君は生き残ることができるか?」ルートに突入したことを知る人はいない。未来を知る人などいない。


 会長の言ったとおり『未来は未知数』なのだから。


 それを言葉じゃなく、そういうものだと受け止めている。深く考えることなく受け止めている。


(うわーーーーーっ死にたくない!逝きたくないーーーーーー)


 ある意味、神の如く未来の可能性を知るマテル以外は。


 マテルが固まったまま入学式と始業式はつつがなく終わった。新たな門出となるか、死刑台への一歩目になるか。それは誰にも分らない。


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