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裏世界の牢獄にて  作者: Navi
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〈第23話〉乱入者


 メルの気配が完全に途絶えた瞬間、辺りの森が急に広くなる。

 というより、自分たちが小さくなったような錯覚みたいだった。


「もう……言葉だけ残して戻るなんてさ?少しだけ、付き合ってくれててもいいと思わない!?本当、自由人だよねー…」


 静寂だけが張り付く中、残された僕たちは、互いに顔を見合わせることもできずに立ち尽くしている。


「ディ、ディオス…」


「お前、さっきの……」


「ん?どうしたの?」


 2人の問いかけの声が流れてくる。

 僕はいつもの調子を作って振り返った。

 けれど、僕を見る二人の瞳には、隠しきれない困惑と、それ以上の問いかけを宿している。


「(そんな露骨に、はぐらかすなよ…)今の、どういう意味なんだ?」


「そう、だよ……君って、一体…」


 頭をかきながらアベルが言葉を向ける。

 それを聞いてフルドも同調するように口を開いた。

 2人とも、僕の視線を逃さじと見つめてくる。


「ああ、『不具合』と『累罪躯るいざいく』のこと?」


「だから違えよ!お前のさっきの……むぐっ!?」


 アベルが一歩、僕に向かってこようとしたところでフルドが背後からその動きを止めた。

 驚いた顔を作ったアベルが背後へ視線を向けたが、フルドはじっと僕の方を見ている。


「い、今は、聞かないでおくよ……で、でもいつかは話してほしい、かな…?」


「……うん。いつかだね?」


 フルドの言葉に対して声のトーンを上げて答えた。


「それで、『不具合』と『累罪躯るいざいく』……二つとも、古城ラグニクスに入った後で話そうとしてたんだけどねー…」


 それに今はこの二つの言葉の説明が先。

 僕自身、頭の奥で同じ言葉が何度も反響していた。

 あのメルの張り付くような声を覆って口を動かす。


「これさ……あんまり、僕やこの物語(世界)としては、いいものじゃないんだ?」


「……じゃあ罪人ってのと、同じような害になるものなのか?」


 アベルの言葉通りだった。

 最初にここまで来た理由でもあるから。


「……じゃあ、まずは不具合についてだね?これは、罪人とは別ベクトルで厄介な存在。」


 口を開いた瞬間、場の空気に重石が落ちたような感覚が走る。

 あの黒布の奥に宿っていた声音。

 あれは確かに『罪人』を語る時よりも鋭く、深いものだった。


「名前の通り、物語の『筋』に本来ない改ざんが走ったときに生まれる『異変』みたいな存在なんだ。僕は罪狩りであるけど、同時に物語に発生する、この不具合の対処をしている。」


「そ、その異変って…?それを対処することの意味って…」


 フルドが声を殺しながら眉をひそめる。

 まだ震えの残る声だが、必死に言葉を飲み込もうとしていた。


「それは……」


 ーーその時だった。


「「……!!」」


 背筋を突くような寒気が、僕たち3人に襲いかかって来た。

 同時に森の静寂が、遠くから木々が倒れるような異音にかき消される。

 アベルとフルドもそれに気づいて、僕と同じタイミングで森の方を振り返って見た。


「え……こ、これって…」


「この気配……俺たちが来た道から向かって来て…」


 そこにあったのは、張り裂けるような敵意。

 次の瞬間、頭の中でページが異様な速さで捲れるような感覚に陥った。


「……あっ。」


 フルドの質問に被せるようにアベルはそう呟くと、森の奥の影からソレが現れる。


「「……!?」」


 視界の端、森の闇を割り裂いて現れたのは、見上げるほどに巨大な灰色の質量だった。

 歪に膨れ上がった身体に、死者の未練を繋ぎ合わせたような造形。

 それが一本、また一本と、周囲の大木をマッチ棒のようにへし折りながら、土煙を上げて向かってくる。


「うっそ、だろ!?」


「……こ、これっ…」


 灰色のボロボロの布を一枚覆うようにして被っている。

 そして、崩れかけた骸骨面は不気味さをさらに際立たせていた。

 それも一体ではない。


「何だよ、コイツら…!?」


 影の奥から、数え切れないほどの『骸』の視線。

 それに森の隙間という隙間が、灰色に塗りつぶされていく。

 地響きとなって足裏を突き上げる進撃の振動。

 その圧倒的な『物量』の前に、空気は急速に削り取られていった。


「ほ、本当にごめん…」


 だけど、僕の頭の中では目の前の事態とは別の考えがよぎっていた。


「や、やらかしてたぁぁぁっ!!」


 警戒していた『展開の捻じ曲げ』が、本当に嫌な形で巻き起こってしまった。


「あっ、ディオス…!?」


 2人の間をすり抜け、音を立てて折れる木々の音を聞きながら、押し寄せてくる怪物たちに向かって走り出す。

 そして首筋に紋様を出現させ、禁忌の瘴気を纏う。

 

 でも、本当にこれはやらかした。

 完全に、こうなる可能性を見落としていた。

 

「……っ!」


 振り込んで低い姿勢をとり、自分を掴み掛かろうとしてきた先頭にいる怪物の懐に潜り込む。 

 そして、禍々しい瘴気を纏った短剣を数十本、空中で出現させ、怪物にそのまま全て深く突き刺す。

 しかし、怪物からは止まる気配は見られず、まだこっちに向かって手を伸ばしてくる。


「しつこい…!」


 掴み掛かろうとしてきた手を流すようにスレスレで回避して、首筋の紋様を黒く鳴らせる。

 そうすると、怪物に突き刺さった短剣から赤黒い瘴気が溢れ出し、一気にその身体を腐敗させるように飲み込んだ。


「うそっ、まだぁ…!?」


 他の向かってくる大量の怪物たちも、朽ちた残骸を乗り越えて止まる気配はない。

 そのため、今度は視界に入っている全ての怪物に目掛け、その背後から出現させた短剣を突き刺す。

 そして、再び先程と同じように術印の力を強めた。


 刹那、視界に入った全ての怪物の身体から瘴気が溢れ出し、森も飲む勢いで爆発的に増大した。

 瘴気に飲まれた怪物たちは、まるで燃え尽きた灰のようになって一瞬で形を変えてボロボロと崩れる。


 多くの怪物はその場で動かなくなる。

 だが、その背後からは、まだ大量の軍勢が波のように自分に向かって迫ってきていた。


「(っ……まだ、いるの…!?)」


「らぁっ!!」


 怪物たちは、自分の目の届く空間から溢れるように一斉に迫ってきている。

 再び先程の怪物と同じような手法で対処しようと考えていたが、背後から急に伸びて来た『根』によって怪物の身体が粉々に砕かれた。


「あ、アベルー!!」


「感傷に浸ってる場合じゃないだろうが…!『やらかした』ってどういうことだよ!?これがお前の言ってた『不具合』ってやつか…!?」


「いや……これは違う、はず…!」


「なんで断定しないんだよ…!」


「い、言い合いしてる場合じゃないよ!まだ来てる…!」


 反応を返してくれたアベルとフルドだったが、その声には凄まじい焦りが滲んでいる。

 それもそうだ……こんな急に『骸霊の術印使い』が現れたんだし!


「……っ…一旦、引くよ…!」


「はぁっ!?ちょ、待っ……」


 僕はすぐに本を空中から出現させ、その瞬間に視界に映る全ての動きが停止される。

 そして、すぐに2人と一緒に作り出した世界に逃げ込んだ。


「いったた…!」


 反射的に作り出したのは、僕とアベルたちが最初に出会ったあの場所だった。


 無造作に作り出し、放り出されるように作った世界に来たことで、背中から落下したような形になる。

 地面に手をつき、ようやく息を整えようとするが、全身に残る痺れと緊張からか、あまり思うように働いてくれない。


「あ、危なかっ、た…!」


 フルドが背中を丸めて荒い呼吸を繰り返す。

 汗がぽたぽたと頬から落ちて、地面の上に濃い染みを作っていた。


「はぁっ、はあっ!ギ、ギリギリ逃げこめて良かったぁ…」


「息ついている暇はあるのか…」


 アベルの声が低く鋭く響く。

 振り返ると、その眼は焦りと苛立ちの両方で燃えていた。


「あれは何だ!?この世界に逃げ込んでいるうちに、古城ラグニクスに奴らが近づいて行くんだぞ!?なのに、なんでここに…!」


「お、落ち着いて、アベル…!」


 その言葉に喉がひゅっと詰まる。

 フルドが制してくれているけど、確かにぐうの音も出ない正論。

 けれど、こっちも必死で取り繕うしかない。


「ま、待って待って…!」


 両手を大きく広げて、なんとか場を制するように声を張る。

 荒ぶる鼓動が喉に声がひっかかりかけた。


「この世界にいる間は『外の時間は停止する』んだ…!」


「……っ…!」


「だから、その間に一旦状況の整理をしよう!ねっ!?」


 沈黙。

 アベルが強く噛みしめた奥歯の音が、やけに大きく響いて聞こえた。


「………はぁ…!」


 アベルはようやく力強く握っていた頭を抱え、座り込んで肩で息をする。

 その目はまだ険しいままだけど、辛うじて話を聞く余地は残っていた。


「なら、説明しろ……『アレ』は一体何なんだよ…!?あんな化け物、俺がこの世界に来てから見たことも…」


「……『骸霊』、だよ…」


 一拍置いて、フルドの低い声が落とされる。

 それによって、アベルも詰まっていた空気を飲み込むために喉を鳴らした。


「……はっ?それって…」


「う、ん……こ、この物語(世界)に存在している厄印の一つ…」


 フルドの言葉にアベルは言葉を切った。

 今まで話には聞いていたであろう、厄印の一つ。

 それが、こうして自分の目の前に現れたからこそ、事の大きさを実感しているように見えた。


「……フルドのいう通り。『魂を操る』ことができる術印使いだよ。」


 僕の言葉に表情を段々と白くしていくフルド。

 そうして身体を震わせながらこっちへ顔を上げる。


「そ、そうだよ……なんで急に『骸霊』が僕たちの前に現れたの…!?」


 声色を変えて僕に向かって歩み寄ってきた。

 たどたどしい言葉の裏に、今までで1番の焦りと恐怖が滲んでいる。

 纏わりつく何かを払いのけるように、一つ一つの動きが大きくなっていく。


「フ、フルド?」


「そ、それにやらかしたって言ってたのは、どういう意味…!?な、なんで……なんで骸霊がここに…!」


 フルドが見せた大きな動揺にアベルは困惑している。

 2人の揺れる視線が突き刺さり、思わず肩を竦めてしまう。

 特に、骸霊の術印使いを鉢合わせたくはなかった。

 

「……本来の、物語の展開だと…」


 それでも、時間と共に頭の中が冷えていった。

 そして、頭の中に残っている筋書きを、慎重に引き出していく。


禁忌(ヴォルティート)は、君たち2人を圧倒した後に、最後まで手は加えずに離れたんだ…」


 そう言い切ると、2人の表情が一瞬だけ固まった。

 まさに、この場所であった時のことを思い出したからだろう。

 その隙を縫うように、言葉を続ける。


「……でも、そのすぐ後に、禁忌ヴォルティートは自分を追っていた骸霊の長と戦っている。」


「はっ……それって、厄印の長同士がやり合ったってことかよ!?」


 その言葉に、場の空気がさらに張り詰めた。

 禁忌と骸霊は共に2人にとって、忌むべき敵同士。

 しかも、その長同士がぶつかり合っていたということ自体、信じられない状況のはず。

 

 けれど、これは実際に『起こるはず』の展開だった。


「つ、つまりどういうことなの!?この状況と、何の関係があるの…?!」


 僕に向かってさらに一歩踏み出してきたフルドの声が通る。

 表情は焦りを押し殺そうとしても、身体は震えが隠せていなかった。


「さっきまでいた、この近くには『禁忌の長』と『骸霊の長』の2人が存在してたってこと。でも……僕が展開を捻じ曲げて、こうして2人と一緒に行動していた…」


「おい……それってまさか?!」


 アベルが低く呟き、思わず頭を抱えた。


「瘴気の残滓があったのと、メルを不用意に外に出したからだと思う……本来の展開通り、近くにいた骸霊の長を、あそこ引き寄せちゃったんだ…」


 誰もすぐに言葉を返せなかった。

 耳鳴りのような鼓動が、自分たちの危機を突きつけてくる。


「そ、そんな…」


「……マジか…」


 やっと絞り出されたアベルとフルドの声は、ひどく乾いていた。

 空気が冷え込む。

 胸の奥を締め付けるような緊張が、誰の口も塞いでいく。


「いや……これは本当にどうすんだ…?じゃあアレは信仰者でもなくて、本物の『骸霊の長』ってことなんだろ…?」


 アベルが低く問う。

 その声音には、まだ事態を受け止めきれない戸惑いが濃く滲んでいた。


「そうなる、ね……骸霊のこと、入れないで行動しちゃってた…」


 2人には俯き、謝ることしかできない。

 状況は悪い。

 原作の展開よりもさらに古城の近い距離に、あの骸霊の長がいる。


「(……よし…)」


 なら、僕がすべき事は決まっている。

 元々これは、自分が当たるべき障壁の一つであった。

 

「……こうなったからには、僕が古城ラグニクスから離れるように引きつけるよ。」


「……!」


「え……?」


 沈んだ沈黙を破るように口を開く。

 返ってきたのは、フルドから漏れ出たか細い声だった。


「だから、2人は戻って他の古城の術印使いを連れて来て欲しいんだ!罪人がいることを警戒して僕が罪狩りである事は伏せて、あくまで禁忌()を捕らえて、連れ帰る途中で接敵して、今は厄印の長同士がぶつかっているところって言ってくれれば…」


「ま、待ってよ…!き、君1人であの数の相手をするの…!?」


 止めようと伸ばされたフルドの手から離れる。

 そう、これは元々歩もうとしていた展開。


「大丈夫……これは、元々の展開のしわ寄せが来ただけ。それにフルドなら、またここから出たらすぐに古城ラグニクスに辿り着けるでしょ?」


「そ、それは…」


「君には、それができる力がある。」


 フルドは答えられず、言葉をそのまま飲み込んだ。

 純粋な身体能力なら、この世界のほとんどの人間よりも上。

 入り組んだ木々を抜け、術印の保護がかかっている地点まで到達する方が、骸霊の手にかかる可能性より高い。


「だから……いい?僕の烙印は、物語の中だと『一度足を踏み入れた場所』に移動することができるんだ。あそこから少し離れた場所に出て、アレを引きつける。ある程度距離が離れたら2人を…」


「……待てよ。」


 鋭く割り込んだ声に、出かけていた言葉が凍りついた。

 アベルの眼光が、暗闇の中で火を宿したように突き刺さる。


「俺も、お前と一緒に残る。」


「えっ…」


 心臓が一瞬、乱暴に跳ねた。

 ドクンという鼓動が耳の奥で鳴り、喉の奥に熱い塊がつかえて無理やり飲み込む。


「そ、それは……ありがたいことだけど、骸霊の長を呼び寄せちゃったのは僕のせいで…」


 それでも表情を整えて言葉を絞り出す。

 だけど、それは最後まで言い切る前に遮られた。


「骸霊の長だとか、関係ない…」


 アベルの声から読み取れる意志は硬く、揺らぎもない。

 その音が響いた瞬間、空気が張り詰めて、森のざわめきすら遠のいた。


古城ラグニクスに危機が迫ってるのに、尻尾巻いて逃げられるかってんだ…!展開のしわ寄せとか、知ったこっちゃない…」


 叩きつけられた言葉は、抗えない現実として僕の胸の奥深くに沈み込む。

 何かを言い返そうと口を開こうとしたけど、アベルの瞳に宿る意思を前にして形を失い霧散する。

 ただ、じっとその顔を見つめることしかできなかった。


「ア、アベル…」


 名前を呼んだフルド声は、弱々しかった。

 骸霊ついては、転生者であるアベルよりもフルドの方が知見がある。

 ここまで声を押し殺しているのは、厄印の一つに数えられているその脅威を知っているから。


「いや……やっぱりダメ!」


 そして、僕も読者としてそれを知っている。

 この物語(世界)でかつて引き起こった、世界そのものを巻き込んだその混沌を。

 そして、骸霊の長という存在が、どれほどの理不尽を撒き散らすのかを。

 

「……ディオス(お前)がこの世界に来たことで、今ここに骸霊がいる。そして、そんなお前をここまで連れてきたのは……俺たちなんだ…」


「あっ……」


 けれど、僕の拒否の声にもアベルは眉ひとつ動かさず、光が消えた瞳で真っ直ぐにこちらを見据える。

 フルドもその言葉を受け、喉の奥を鳴らした。


「なら、やっぱり俺たちも今のこの状況を引き寄せた原因の一つ、なんだろ…」


 息苦しそうにしながらも、それは確信を帯びて放たれる言葉だった。

 そこには責任と意志がないまぜになった、覚悟が凝縮されていた。


「それは……」


 沈黙が重くのしかかる。

 フルドの声も、この作られた世界の空気もすべてが押し潰されそうになる。


「(……あんまり巻き込みたくは、無かったのにな…)」


 拒めば拒むほど、きっとその言葉は焼かれていく。

 僕に任せて逃げろと言うべきなのに、アベルの眼差しを前にするとその言葉が喉が締まった。


 そう、僕にはこの覚悟を土足で踏みつけにする資格なんてない。


「……分かったよ…」


 これ以上突き放す言葉が見つからなかった。

 思わず肩の力が抜ける。

 自分が思っていたよりも、ずっと頑固だった。


「僕だけが責任を取ればいいと思ってたんだけどなー…」


「そんなこと、お前が勝手に決めんな。」


 小さく零した言葉に、短い一言。

 けれど、張りついていた空気が、少しだけ軽くなる。


「…でも、相手は『骸霊』。一筋縄じゃいかないような存在っていうことだけは、念頭に入れてね?」


「………」


「だな……禁忌と同列の奴、なんだもんな?」


 小さく呟くが、拒むための言葉は消えている。

 残ったのは心地よい余韻と、底から湧き上がる静かな高揚だった。


「だから……もしも。古城ラグニクスに向かう前に、一つだけ僕の『無茶なお願い』、聞いてくれるかな、フルド?」


 口元に手を置きながらアベルからフルドへ視線を移す。

 その表情は暗く、アベルも心配そうに少し屈んでフルドへ目線を合わせた。


「……本当に大丈夫か、フルド?」


「………う、ん…」


「(ここまで怯えるって……やっぱ、そんなにヤバいのか、骸霊も…)」


 アベルの問いに対し、フルドから返ってきたのは、喉の奥で転がるような声。

 この言葉にアベルはただ固く、だけど頷き、口元をほんの少しだけ引き結ぶ。


「……よしっ。」


 短く息を吐く。

 そして、さまざまな感情によって表情を引き締めている二人の眉間に向けて、指を弾いた。


「……っ!?」


「いたっ…!?」


 乾いた音が、静まり返った異空間に二つ響く。

 一瞬、呆気に取られた2人だったけど、すぐにいつも見ていたような表情に戻った。


「な、何すんだよ、いきなり…!?」


 アベルが額を押さえながら、恨めしげにこっちを睨みつける。

 

「だって、二人とも揃って石像みたいに固い顔してたからね!……少しは解けた?」


 僕が冗談めかして笑うと、アベルは毒気を抜かれたように肩の力を落とす。

 フルドも視線を下げたまま、頭をさすっている。


「じゃあ、暴れよっか……筋書きを殴り捨てた、禁忌ヴォルティートと、古城ラグニクスの術印使いの初共闘…」


 張り詰めていた空気が、温度を取り戻していく。

 頬が緩んでいる今は2人と同じ、泥にまみれる『当事者』の顔でいられる気がした。


「さぁ、古城ラグニクスを驚かせるような、土産話の一つにしちゃおうよ?」


 二人の瞳に宿る光を確認し、響いたその声は決意の鐘のように響いた。


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