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私がここに生きる理由… 「ハースヴァニア:星が導く魔法と旅路」  作者: うーみ
プロローグ

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2/11

終焉

 血と硝煙の匂い。


 赤と紫にきらめく炎が巨大な王国を照らし包み込む。人々は甲冑やマントを身に纏い、手に持った剣と杖が無数にうごめき、四方八方から放たれる閃光が入り乱れる。

 ところどころで爆発が起こり、粉塵の中に紛れる多種多様な動物たちは背の高い建物を突き破り、鳴き声をあげながら都市の中心を目指す。燃える木々と、魔力を持った植物たち。肌を焼く外気。絶えず聞こえる何者でもない叫び声。

 大陸の七割にまで勢力を伸ばし、その強大な力で理想の世界を作り上げてきた巨大な文明は、今まさに滅びを迎えようとしていた。


 崩壊が進む巨国の中央には荘厳な城がそびえ立っていた。周囲を漂う七色の光のベールは城の両側に広がり、巨大な翼を人々に連想させる。それは国を見守る神のごとく、民に威厳と誇りを与えていた。しかし今、その姿は虚しく佇む飾りと化していた。

 この戦場では誰しもが自分自身の信念と願いに従い、目の前の脅威を排除しようとしている。戦場で戦う戦士に必要なものは、旧時代の仮初の象徴などではなかった。

 戦場となっている王国を支える街は、城を中心に円形に広がっている。白と浅葱色、そしてエメラルドの色を基調とした、大小様々な施設や民家がところせましと立ち並んでいた。複雑に絡み合い、隙間を埋めるように敷き詰められている道。今はその上を、止まることを知らぬ兵士と獣が駆けていた。

 これらの建造物の中には巨大な植物が同化し、その一部となっているものも混じっている。建物の壁面に刻まれた、魔力の込められている金と緑の装飾。その一つ一つが、歴史と国の技術力の高さを想起させた。


 戦場は地上だけではなかった。空を飛び交う人と動物、そして機械。もうすでに、国の領域内に安全な場所など存在しなかった。そんな中ひときわ目立つ空中に、他とは一線をかす巨大な飛行船が浮いていた。

 それはまるで空を泳ぐ白き鯨であった。乳白色の滑らかな外角はうっすらと光り輝き、その流麗な曲線は、途切れることなく尾へと続いている。表面を流れる緑と金の装飾は、まるで骨格のように機体を支える。銅には蒼く発光する球状の水晶体がある。それは淡いターコイズ色の太陽であり、船内への入口の役割を果たす禁忌への扉でもあった。同じく胴部の痩躯面にはそれぞれヒレらしきものがついており、背には突起がゆらりと揺れていた。

 その神秘的な物体は、城の周りをゆったりと円を描くように泳ぎながら、眼下の戦場を見下ろしていた。まるでここで起きている惨劇を余すことなく体内にある『コア』に記憶するかのように。


 突如、国の中心に位置する城の内部で巨大な爆発が起こった。巨城が纏っていた七色のベールが揺らぐ。衝撃と共にあふれ出る白い光は、遠く離れた場所からでも視認できるほどまばゆく美しいものだった。

 その瞬間、一つの物体が城を突き破り暗雲立ち込める空へ向かって飛び出した。砕けた尖塔が音を立てながら落ちてゆく。速度を落とさずに上昇するその物体は、崩れゆく城の上空で静止した。

 それは…人間の女性だった。白いローブを身にまとい、フードを深くかぶっている。ローブには夜空のような深い青と金の刺繍と装飾が施されており、それはまるで波打つ星のようであった。

 ―――荒い息遣い。フードの隙間から、黒色の髪が風になびいていた。その髪先は明るい翡翠色に輝いている。崩壊していく王国の上で呼吸を整えるその女性の傍らでは、白金緑の鯨を模した飛行船が旋回を続けていた。

 ―――突然、飛行船が光りだした。いや、正確にはその内部にある何かが光り、表面の溝と中心部となる水晶体からその輝きが漏れ出ていた。

 白マントの彼女は横目でその現象を視認すると同時に、左手を正面に突き出し呪文を唱え始めた。彼女の真上に不思議な紋様が浮かび上がる。陣を描く赤黒い線は空を広がり空を切り裂いてゆく。

 漆黒の稲妻が現れ国中に降り注ぐ。それは長い繁栄に終わりをもたらさんとする星からの掲示であり、一つの命が歩んだ旅路の終点である。

 これが彼女の答えだった。眼下の生き物たちは、それでも気づくことはない。彼らはそれどころではないのだ。轟音と悲鳴の中、乱雑に動く数多の点は、すでに別の存在から逃げ惑っていた。


 ―――悲鳴と混乱。


 一瞬、彼女の伸ばした手が震える。フードの隙間から垣間見える一粒の涙。


 瞬間。


 宇宙が割れたかのような巨大な爆発音と共に、光が国を包み込む。


 それは世界を、星全体を覆いつくし、


 そして―――すべてが消えた。


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