負け
負けた。
何も分からずに、負けた。
一年A組の観戦席。
僕は、メリーの横に座ることができず、後方の席に一人座り、顔を覆う。
……もしかしたら、これから先の戦いでメリーが負けるかもしれない。
もし、メリーが負けたら、メリーは……
やばい。
やばいやばいやばいやばい。
「ごめんって!ほら、俺も勝てるうちに勝たねぇとさ!そこまで落ち込むなって!」
僕は顔を上げる。すると、目の前には頭を下げるデリヴェが居た。
……僕、今酷い顔してるんだろうな。
「いえ、弱い僕が悪いので……」
僕は何とか声を絞り出す。
勝てなかった。
なんで僕より魔法を撃つのが早いんだ?この男は。訳が分からない。
いや、僕が負けた理由なんてどうでもいい。今はメリーを信じるしかないんだ。
メリーが勝てば、全部丸く収まる。
でも、でも、どうしても……
「安心しろ、ヒューマ。お前は弱くない」
その時、モードが僕の隣に座る。
「一戦目、俺もこいつに負けた。で、からくりは完全に理解した」
「お前、魔法使ってないだろ」
モードが言う。
……は?
どういう意味だ?
「……流石にか~」
デリヴェが腕を組んで唸る。
「魔法を……使ってない……?」
僕は唖然として聞いた言葉をただ口に出すことしかできなかった。
「そ。俺は魔法を使ってねぇ」
デリヴェが語り出す。
「俺は魔法がほとんど使えねぇんだよ。魔力を魔法に変えるイメージが上手くできねぇ」
魔法がほとんど使えない……?
じゃあ、あの攻撃は一体……
「その代わりに、魔力放出量がバカみたいに多いんだよ」
「だから、魔力を魔法に変えるっていう手間を省いて魔力だけをぶつけてんの。無理に魔法を使おうとするよりもこっちのが強ぇからな」
……は?
なんだよ、それ。
普通の魔法使いの弱点である魔法の発動に溜めがいるっていうのの真逆じゃないか。
魔力単体だから攻撃力はかなり低いだろう。しかし、攻撃速度と頻度が異次元。
僕の強みである攻撃までの早さの観点から見た場合、完全な上位互換だ。
「相性が悪かったな」
モードが僕の肩に腕を乗せる。
「こいつを倒す方法はコットが一試合目に見せようとした、防御をせずに魔力を溜めて一発当てるっつーのしかねぇ。ちなみに、俺は混乱してるうちに時間切れだったわ」
あぁ、そっか……確かに、威力もあまり高くないから攻撃する余裕はかなりある。
……マジかぁ。
「そゆこと。ヒューマは俺の試合見てなかったから勝てたけど、俺は次の試合で負けが確定してるっつーわけよ」
デリヴェが諦めたような顔をする。
「でもすまん!勝てるうちに勝ちたかった!」
デリヴェが両手を合わせ、謝罪する。
なるほどね、魔力を魔法に変えない……か。
僕は空を見上げる。
二回戦で、負けかぁ……。
……いや、僕は頑張った。
一番の目標であるコットは倒したし、あとはメリーに頑張ってもらうしかない。
……そうだ。せめて、応援でもしないと。
「お二人ともありがとうございました。じゃあ僕、メリーさんのところ行ってきますね」
僕は席を立つ。
「おー。相変わらず熱いねぇ~」
「慰めてもらってきな」
僕は二人に軽く礼をして、メリーのところへ向かう。
「さぁ!次の試合はぁ!!一戦目で相手が棄権したルース・ルーノイルちゃん対、この国の第一王子!フェトム・ラリエルくんの試合です!!」
僕は最前列で観戦しているメリーの隣に座る。
「こんにちは」
「えぇ、お疲れ様」
メリーが僕の顔も見ずに言う。
……確かに、疲れはしたな。心が。
けど、勝てなかったよ。
「優勝、お願いしますね」
「貴方には関係ありませんわ」
メリーは冷たく言い放つ。
……確かに、僕には関係無いかもしれない。
でも……でも、絶対、君には勝ってほしいんだよ。
じゃないと、君は……
「それに、わたくしが負ける道理がありません」
試合を眺めるメリー。
その横顔は少し不安そうだった。
今の発言だって、普段のメリーなら絶対に言わない。まるで、自分に言い聞かせるような。
そっか、メリーは優勝できなければ罰を受ける。
そのことを当人も知っているのだろう。
怖くて当然だ。
勝ち残った対戦相手には王子であり圧倒的な才能を持つフェトムもいる。
……僕に、メリーの手を握る勇気があれば。もっと、メリーを安心させてあげることができれば。
「勝ってください」
僕は、言葉をかけることしかできない。
ここでも無力なのか。僕は。
その時、メリーはゆっくりと僕の方を向いた。
「……なんで、そんな顔をしていますの?」
「え?」
メリーに言われ、僕はほとんど瞬きもせずに目を見開いていることに気付いた。
足の上に乗せた手は震えているし、呼吸も浅い。
……ダメだなぁ。
まだ決まったわけじゃないのに。
多分、メリーが負けるかもしれないっていう不安でいっぱいになっている。
「……わたくしには関係ないことですが」
メリーが前置きをする。
「泣きたければちゃんと泣いた方がいいですわよ」
そして、僕のことをいつもよりも少し優しい目で見つめる。
僕の中の、何かが壊れた。
頬を涙が伝う。
なんだ?何が壊れた?
涙が止まらない。なんだ、これ。
申し訳なさと、不甲斐なさ。
それだけじゃない。
悔しいんだ。
僕は、頑張ったってだけじゃ満足できない。
勝ちたかった。
僕は、勝ちたかったんだ。
頑張ったから、勝ちたかった。
僕のために、勝ちたかったんだ……。
メリーはそっと僕の手を握る。
「え?」
「…………」
メリーはもう真面目な顔で試合を見つめている。
……ありがとう。
ありがとう、メリー。
「フェトム・ラリエルくんの勝利!!」
実況が叫ぶ。
あとは、お願い。
勝って。
最後まで作品を読んで下さりありがとうございました!
面白かったらぜひブックマーク、高評価、感想をよろしくお願いします!
次話もお楽しみに!




