魔法祭開始
闘技棟。
戦いのためだけに作られたこの場所は、中央と呼ばれる円形の空間があり、そこを円形に囲うように観客席が置かれている。
中央には出入り口が二つあり、そこから選手が入場する仕組みだ。古代に作られた円形闘技場が元となっているらしい。
うおおおおおお!!!!
魔法祭が始まり、生徒たちは見たこともない盛り上がりを見せていた。
今日行われる競技は一、二年生の部。三年生の部は別日に行われる。
僕の中で肝心なイベントは、スケジュールの最後に行われる一年A組とコットによる魔法模擬戦。
僕はその魔法模擬戦のためだけに向けて努力をしてきた。
だから大丈夫。
僕なら、勝てる。
「よぉヒューマ。お前この日のために仕上げてきたんだろ?頑張れよな!」
隣までやってきたデリヴェが僕の肩を組む。
観戦席はクラスごとにスペースが分けられている。A組は人数が少ないため、ほとんど全員が最前列に居るが。
僕は当然メリーの隣に座っている。
「はい。優勝はいただきます」
僕が答えた時、
「あー。どーも、こんっつぁー」
後ろからやる気のない挨拶が聞こえてきた。
A組の全員が後ろを振り向く。
「……誰だこいつ」
デリヴェが不思議そうに言った。
「どもー。俺はD組のコットっつーんだ。よろしく」
声の主はコット・オール。
コットはD組の生徒だが、A組の魔法模擬戦に参加することなる。
メリーを守るために、僕はこいつを倒さなければいけない。
「ジジィによると、俺はD組の分際であんたらとなーんか戦わなきゃいけないらしい」
ジジィ……多分、学園長先生のことだな。
しかし、コットは一体何をしにこんなところまで来たのだろうか。
「魔法模擬?だっけ。めんどうだよなぁ。あんたらは十人もいるし。トーナメントで何回も戦うのだるいからさぁ……」
「ここでぶっ倒すことにした」
コットが腕を天に掲げる。
ボウッ
巨大な炎の魔法がコットの上に渦巻いた。
「ひぃぃいいぃい!!」
「おー、いい魔法」
みんながざわめく中、メリーがクラスメイト全員を守れる大きさの防御魔法を展開する。
早い。そして規模がデカい。
「おっ!流石メリーちゃん」
フローレがメリーにしがみつきながら言う。
見ると、ルースもメリーにしがみついていた。仲いいな。
「落陽」
バンッ!!
コットの魔法がメリーの防御魔法に直撃する。
しかし、メリーの防御魔法が完璧に僕たちを守った。
落陽……上級魔法だな。通りで見たことないわけだ。上級魔法を使えるのは一年生でも一、二人程度だろう。
でも、一目見てわかった。
手加減してる。それも、めちゃくちゃ。
小手調べの魔法で、今後の戦闘の参考にもならないレベルだ。
「ふん。騒がしい奴だな」
「怖いねぇ~?」
「なぁなぁ、これって反撃していい系?」
たった今攻撃を仕掛けられたというのに、みんなは和気あいあいとしながら会話を続けている。
胆力がすごいな……コットが本気じゃないって分かってるからか?
「流石にかぁ……」
コットは当残念そうな顔でため息を吐く。
「コットくぅ~ん??」
その時、コットの後ろに一人の先生が立った。
「あ、やべ……」
コットの顔に焦りが見える。
「君、何してるのかな?」
防御魔法学のクリア先生。
怒ると怖いと噂されているが、普段はかなり温厚な先生だ。
授業ではどんなことでもゆっくりと丁寧に教えてくれるいい先生である。
「えー、えーっと……」
コットがたじろぐ。
「もし怪我人が出てたらどうしてたのかな?」
「いや、それはこいつらを信頼したっつーか……」
「え?なに??」
「……説教すか?」
「はい!」
クリア先生は笑顔でコットの首根っこを掴むと、そのままずるずる引きずっていく。
「いやだあああ!!」
コットは叫びながら奥へ連れ去られていった。
「なにあいつ」
「なにあいつ」
「なにあいつ」
僕たちはそんなコットを白い目で見送る。
「そういえば、ありがとうございます。メリーさん」
僕は防御魔法を張ってくれたメリーに感謝を述べる。
おかげで魔力を節約できた。
「いえ。私が一番早そうでしたので」
メリーが言う。
やっぱり、メリーはA組でもトップの実力だ。
それなのに、魔法模擬戦ではコットに敗北する。
…………。
冷や汗が頬を伝うのが分かる。
大丈夫。
作戦は練ってきた。
あと必要なのは自信だけだ。
「えー!今軽いアクシデントがありましたが、被害はないので無視でいいとの判断が下りました!」
観客席にある実況席。
メガホンを持った先生が言う。
音大きいな、あれ。普通のメガホンよりも性能が良い気がする。
きっと魔道具だろうな。音を大きくする魔法……うちのサークルが作っていそうだ。
「それじゃ、面倒くさい前口上は全部なしで!魔法祭一、二年生の部を始めます!!!」
歓声が沸く。
「まず最初の競技は~~!!一年生による、紅白対抗!魔法綱引き~!」
「一年ズ降りてこぉい!!」
魔法祭は名前の通り魔法をメインとした催し事。
なので、競技内容は基本魔法を使うこととなる。
しかし、僕は魔法模擬戦でメリーと戦うまでで全勝しないといけない。
僕の少ない魔力量で、だ。
だから、魔法模擬戦までで消費する魔力はなるべく抑える。
コットに勝つために、どんな競技でも手の内は見せない。
その時、一人の先生が実況のもとに近づき、何か喋り始めた。
「え!?は、はい!?なんで……分かりました!了解です!」
メガホンに乗ってそんな声が聞こえてくる。
「えー、皆さん申し訳ございません!プログラムの順番を変更します!」
実況が言う。
順番の変更?
「最初の競技は、一年生のよる魔法模擬戦となりました!!」
え?マジか。
一体どうして……いや、そんなことはどうでもいい。
好都合だ。
魔法のウォーミングアップは済ませてある。最初から魔法模擬戦ならば、魔力が最大量……つまり、最高のコンディションで戦いに挑むことができる。
「しかし、今回の魔法模擬戦は一味違います!なんと!イレギュラーの生徒が参加することとなりました!」
「出てきていただきましょう!D組のコット・オールくんです!!」
その合図とともに、コットがメガホンを持ちながら中央に歩いてくる。
瞬間、会場に大ブーイングが走った。
「D組をいじめるなー!!」
「0点だぞそいつ!!」
非難は轟轟。コットは中間テストの点数が0点な上にD組だからな。当然ではある。
「さっきのやつなのだ」
「そういえば、そんな感じのことを言ってたような……」
しかし、そんなほかの生徒とは対照的にA組では反応が薄い。
まぁ、本人にネタバレされたからな。最低限の実力は見せてもらってるし。
「皆さん落ち着いて、静かに~!」
先生が言うが、非難の声は止まない。
その時、コットがメガホンを口に当てた。
「はい!黙れおめぇら―!」
そして、やる気のない大声を出す。
ブーイングは止まない。
しかし、コットは何事もないように続けた。
「お前らの心配もよーく分かる。俺はD組、中間テストも0点。不安だよなぁ」
「だから……景気付けに一発実力を見してやることにした」
コットは先ほどと同じように腕を空に向ける。
僕でもわかるほどの、莫大な魔力が周辺に渦巻いた。
会場が静かになる。
「祝砲だ。盛り上がれ」
「昇陽」
ボウッ
中央を埋め尽くすかのような炎魔法。
それは、観客席を煌々と照らしながら空中へ飛びあがっていった。
圧倒的に強力な魔法。
うおおおおおお!!!!
それを見て、魔法使いが盛り上がらないわけがない。
「それじゃ、最後に。A組の優秀な方々へ」
コットが締めの挨拶に入り、僕たちの方を向く。
「全員、潰してやるよ」
そして、親指を下に向けた。
歓声がさらに大きくなる。
「盛り上げ上手だねー」
「アクマ的だな!!」
A組のみんなもこの歓喜に当てられてテンションが上がっている。
僕は無言のままコットをじっと見つめた。
コット・オール。
絶対、君に勝つ。




