特訓
体育館裏。
僕は目の前の壁に人差し指を向ける。
魔力を放ち、溜め、魔法に変え、撃つ。
「風槍」
バンッ!
壁に風槍が勢いよく当たった。
体育館は壁も床も防御魔法で守られていて、よっぽどじゃない限り壁や床にも傷はつかない。
当然、今の魔法じゃ傷一つ付かない。
が、魔法を撃つ速さと魔法自体の速度は以前の僕では考えられないほど速かった。
私生活を捨てた甲斐があったものである。
「いいじゃねーか。槍の柄の部分をなくして魔力量抑えてんのも偉いぜ。あくまで魔法の名前は想像力の補助にすぎねぇのをちゃんと理解してる」
ナヅ先生が僕の魔法を見て言う。
「ありがとうございます」
僕はナヅ先生に頭を下げた。
ナヅ先生の教えのおかげで着実に強くなっている。
「お前の魔力量で速度重視ならこんぐらいの威力でちょうどいい。十発ぐらいぶち込めば魔法祭レベルの防御魔法なら破れんだろ」
なるほど、防御魔法を打ち破る目安は十発か……生徒の僕が知っていい情報じゃない気もするが、しっかり覚えておこう。
「それじゃ、”とっておき”に移るぜ」
ナヅ先生がにやりと笑う。
「とっておき……?」
そういえば、最初も言っていたな。
”今までの経験と、とっておき”。
とっておきとはいったい何なのだろうか。大技はいらないと聞いていたが……。
「私のとっておき……それは、身体強化魔法だ」
「身体強化魔法……」
名前は知っている。っていうか、見たこともある。
メリーがドラーに絡まれたとき、助けに来たナヅ先生が使っていた魔法が多分身体強化魔法だ。
普通の人間じゃじゃあんな速度や力は出せない……はずである。
「お前が使う場合の身体強化魔法を使うタイミングは二つ。魔法が当たりそうになったときに避けるか、防御魔法を貼られたら防御魔法の横から攻撃を撃ちこむか」
「お前の一番あり得る負け筋は、相手が防御をせずに魔法を撃ってくること。まぁ相当頭が回るやつじゃねぇとそれに気付けず防御魔法を貼ってジリ貧で勝てるだろうけどな」
負け筋か……勝ち方だけ考えていたせいで、負け方なんて考えたことがなかったな。
大体だが、僕の風槍を十発撃ち込むのにかかる時間は五秒もかからない。防御魔法の展開ならあくびをしてても間に合う時間だが、ある程度の威力を持つ攻撃魔法を五秒で撃つなんてこと、訓練せずにできるのだろうか……?
……あ、そういえばあれだ。僕って魔法の才能ないんだった。
僕じゃなければできるんだなろうな、多分。
となると、言われた通り僕の負け筋はなるべく潰したいな。身体強化魔法も戦術に取り入れよう。
「身体強化魔法の仕組みは単純。魔力で体の一部を覆って、魔法を動かす要領で体を動かすだけ」
ナヅ先生は足に魔力を溜めると、そこら辺を適当に歩く。
「んで、その身体強化魔法は魔力の操作が他の魔法の何倍も大事だ。適切な魔力量、適切な魔力の動かし方。これらの調整が難しすぎる。だから、本来はある程度魔力操作の制御ができてから授業で習うんだが……」
先生は僕を見る。
「お前なら、最低限できるだろ?」
僕なら、最低限できる……?
なんでだ?魔力の量と動かし方の調整なんて……
僕の脳裏によぎったのは、魔法創造サークルでの魚を動かす練習。
「あ」
「そう。お前ならすでにある程度の魔力制御の練習をしてる」
「私の真似してみろ」
先生が魔力を足に溜める。
ダッ!!
先生は高速で動き、僕の真横に一瞬で立った。
元居た場所には砂埃だけが残っている。
人間どころか、生物の動きじゃない。
「まぁ制御できねぇと転んで隙だらけになる諸刃の剣だけどな」
「私の真似してみろ」
「はい」
僕は足に魔力を溜める。
そして、歩くように魔力を動かす想像。
でも、速すぎず、遅すぎないように……
僕は魔力で足を動かした。
すると、僕の視界が勢いよく反転する。
ドサッ!
僕はその場に転んだ。
「あ、あれ……?」
僕、普段どうやって力を入れることで歩いてるんだっけ。
「まぁ最初はムズイだろうけど、すぐに感覚は掴めると思うぜ。ただ、私の真似をするのは無理だろうけどな。さっき見せたのは私の限界レベルの速さだし」
えぇ……それをやらせようとしたの……?
「私は身体強化魔法を移動と近接での殴り合いでしか使わんから、速射の合わせに使う身体強化魔法の最適解は知らん。あとは自分で考えて頑張れ」
ナヅ先生はそう言って去っていく。
……かなり難儀だな。
速射の方はほぼ最適化した。しかし、身体強化魔法。
どうやって戦闘に運用するかは想像できる。しかし、魔力を操作することの難易度が高すぎる……。
だが、言ったとおり、想像は固まった。
いける。
出来てきた。コットに勝てる想像が。
あいつに勝つ。絶対に。
「ハッ……ハッ……ハッ……」
早朝。まだ日も出ていない時間帯。
僕は校庭の外周を走っている。
身体強化魔法。これをずっと練習してきた。
歩けるようにはなったが、高速移動はまだできていない。
魔法祭まであとたった数日。僕は身体強化魔法をちゃんとものにするのは不可能と考えた。
だから、中途半端に扱うこととする。
やることは単純。全身を魔力で覆い、全力で一方向へ魔力を動かす。
そうすることで足だけに魔力を溜めて移動するよりも圧倒的な速さで移動ができるし、無理に頭を回す必要がない。
しかし、これでは確実に転んでしまい、隙だらけになってしまうし、転びながらじゃ魔力をうまく溜められない。
それを避ける方法を頑張って考えた。
それで、出た結論。
魔法祭は闘技棟の中央と言う場所で行われるため、周辺に壁がある。
ならば、少しジャンプしてから移動し、勢いのまま壁にぶち当たってやればいい。
そうすれば、移動中は地面との摩擦がないため、ほぼ同じ体勢で移動できるし、止まっているため魔力も溜めやすい。
それを決めてから一度体育館の壁に向かって試してみた……結果として、僕の目論見通り上手く移動はできた。が、その代わりに痛みでろくに魔法を放出できなかった。
なので、魔法の練習が終わったら体中が痛くなるまで走りることで痛みに慣れ、どんな精神状態でも魔力操作をできるようにしようと考え、今に至る。
あまりにも捨て身で頭の悪い戦法なのは織り込み済み。それに、痛みに慣れるなんて常人の思考じゃない。
それでも、これが最適解だと僕は思う。
「ハァ、ハァ……」
僕は走る。
ずっと前から疲れていたが、そろそろ限界だな。足が酷く痛み、肺が痛みを越えて冷たくすら感じる。
……今日はこのぐらいにしておくか。
僕はその場に立ち止まる。
「風槍」
そして、一瞬で魔法を発動した。
慣れれば意外といけるものだ。階段から落ちた時を除けば怪我とはほぼ無縁生活を送ってきた。だから痛いときに痛いとしか考えられなかっただけで、慣れてしまえば痛いという感情はあれどそこそこ冷静に思考ができる。
……無茶のし過ぎなのは自覚している。でも、これしかないのだ。
僕は流石に体を休めようと寮の方へ歩きす。
その時、僕が住んでいる寮とは別の寮に一つの人影が見えた。
こんな朝っぱらに……誰だろうか。
僕は歩きながら目を凝らす。
……あ。
「メリーさん!」
僕は小走りででメリーの元に駆け寄った。
メリーは僕の声に気付くと、こちらを見る。
ダッダッダッダッダ……
ドサッ
「ハァ、ハァ、ハァ……」
メリーの目の前まで着き、その場に座り込む僕。
「お、おはよう……ござい、ます……」
こんな早朝からメリーに出会えるなんて、ついてるな。
「おはようございます」
メリーは変なものを見る目で僕を見ていながらも挨拶を返した。
そりゃそうだ。名前を呼ばれて、全力で駆けよられて、目の前でぶっ倒れられて、そいつは息も絶え絶え。その反応になって当然である。
「すみません、最近……忙し、くって。ご飯も、サークルも……」
話したいことはたくさんある。しかし、どれを話すべきかは分からない。
「そう」
メリーは二文字だけ返した。
なんか、もうちょっと反応してくれても……。
「なにをしていますの?」
「え」
……メリーが、質問をしてくれた。
いつも通り、他人なんて興味が無いっていう顔をしながらだけど。
こんなこと初めて……では流石にないと思うけど、かなり珍しいことだ。
「と、特訓です。魔法祭に向けて」
僕は貴重な体験に少しどぎまぎしながら答える。
「そう」
「……早く、魔法祭が始まるといいですわね」
「いやー、流石にもうちょっと特訓を……」
「そう」
なんか、いつになくメリーが冷たいような気が……気のせいか?おはようとか以外の会話をするのが久しぶりすぎて温度感を忘れてるだけかもしれない。
「じゃあ、わたくしは帰りますわね」
メリーは後ろを向き、寮に帰る。
「お気をつけてー!」
僕はその背中に手を振った。
さて、僕も寮に戻るか。服汚れるし。
僕は歩く。
最近特訓続きだったからな。久しぶりに……ちょっとだけだけど、メリーと会話ができて、心が安らいだ。
(早く魔法祭が始まるといいですわね)
僕はメリーの言葉を思い出す。
……もしかして、早く魔法祭が始まれば、早く終わる。そして、また僕と一緒にご飯を食べたいとかそういう意味じゃないよな?
……深読みしすぎか。
僕はゆっくり歩く。
そろそろ、陽が昇るな。
息は苦しい。でも、気分はよかった。
数日後。
「さぁお前ら!魔法祭の開始だあああ!!」
うおおおおおおおおおお!!!!!!
闘技棟が熱狂に包まれる。
魔法祭が、始まった。
最後まで作品を読んで下さりありがとうございました!
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次話もお楽しみに!




