緊張
ナヅ先生に速射のコツを教えてもらった。
これから魔法祭が始まるまでのひと月半、僕は魔法の速射を練習し続ける。
深夜の体育館裏。僕は一旦深呼吸をし、精神を落ち着かせた。
そして、ナヅ先生の言葉を思い出す。
(まずは魔力を出す練習。これは反復練習しかない。魔力が切れるまで毎日やれ)
最初は少量から魔力から。目標量をなるべく速攻で出す。
分量は段々増やせばいい。それに、ナヅ先生によるとこれの練習はちょっとづつの積み重ねが一番いいらしい。
で、次。
(イメージの練習。これもなるべく速く。想像を固めるためには使う魔法を一つに絞れ)
僕は練習する魔法に魔法自身の速度重視で風魔法を選んだ。
その風魔法の中でも威力と速度、そして創造の単純さが秀でているできる風槍に。
魔力を魔法に変え、撃つ。
これをなるべく早く行う。
そのために、夜に体育館の壁に向かってこれを練習しまくることにした。
魔力を放つ。
風槍に変える。
撃つ。
これを魔力が切れるまで。
魔力を放つ。
風槍に変える。
撃つ。
魔力を放つ。
風槍に変える。
そして……
………………
魔力が切れた。
今、何時だ?
僕は空を見上げ、月の位置を見る。
……あ、これ太陽でやるやつか。まずい、かなり脳が疲れている。
ちゃんと休まないとな……睡眠と食事をしっかりしないと。
授業中は流石に魔法の練習なんてできないから、今度から体力と魔力の回復のために授業中は寝るべきだな。
僕は目の前の壁を見る。
体育館にかかった防御魔法のおかげでまったく無傷の壁。
……勝てるのか?僕が。
漫画の断片的な情報だが、コットはメリーを圧倒している。
僕よりも圧倒的な魔力量を持つメリーを。
これがたとえ最適な努力だとしても、ある程度魔力量の差を無視できるとしても、こんな少ない魔力量で、弱い魔法で僕は勝てるのか?
……考えるな。
勝つしかない。
勝つんだ、僕は。
(……やっぱり、勝てなかった。
目の前には、余裕しゃくしゃくな顔で立つコット。
「A組の二位ってこんなもんなんだ」
そして、手のひらを僕へ向ける。
視界を覆いつくす炎の魔法が渦巻いた。
圧倒的な才能の差。
無理だったか。
あぁ、ちくしょう。)
汗だくの状態で、目が覚めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
僕は時計を見る。今は……昼休みか。
汗をかきまくってて肌に服がべっとりとついて気持ちが悪い。まぁ仕方がないか。
「ヒューマ。貴様、大丈夫か?」
隣の席のフェトムが僕に聞く。
「えぇ。悪夢を少し見ただけです」
僕は無理にエガを作って答えた。
練習を始めて数日。目に見えて魔法の発射速度は早くなっている……が。
コットに勝てる気は一切しない。
漫画での情報は鮮明ではなく、正確に何が起こったか覚えているわけではない。
ただ、コットは主人公で、メリーに勝っている。
それだけの情報が、僕に不安と焦燥感を与えていた。
今のままじゃ勝てない。確実に。
あと少しの期間で僕はコットに勝てるほど強くなれるのか?
でも、僕にとっての最善手はこれ。これ以外はできない。
……いや、何かあるのか?僕にもできるほかのことが。
不安で頭がくらくらする。吐きそうだ。
僕はふらつく足取りで教室を出る。
食事……食事、しないと。
購買で適当にパンでも買おう。今はたくさん食べれそうにない。
僕は壁に手を置きながら購買へ向かおうとする。
「おっ。この前のやつじゃん」
その時、僕の少し斜め後ろから声がした。
この声……コットだ。
「よーっす」
コットは僕の肩を組む。
「覚えてる?俺、コット。早速で悪いけど、飯奢ってくれない?最近金なくてさ、一年棟で奢ってくれそうな知り合いを探してたんだよ」
そして、肩を組んだまま強引に食堂の方向へ歩き出した。
「すみません、僕疲れてて……」
僕は何とか抵抗を示す。
「あーそうなのか!そーゆーときはいいもん食えば元気出るぜ!な!?」
コットは元気な笑顔でそう言う。
「それ奢るときのセリフ……」
しかし、抵抗するほど力が残っていない僕は、半強制的に食堂まで連行させられた。
「なーに食おっかなー。お前……えーっと、名前なんだっけ?」
「ヒューマ・スノーベルです……」
「ヒューマね。俺はコット。ヒューマは何が好きなんだよ」
もう完全に奢られる気満々のコットが僕に聞く。
「いえ、特には……」
「じゃあステーキだ!ステーキ食うぞ!」
僕の肩を組んだまま食堂で恐らく一番高級だったステーキの店へ僕を連れていくコット。
僕もそこまでお金持ちなわけじゃないんだけど……。
お腹もなんか痛い気がするし……でも、確かに良いもの食べれば元気は多少出るかもしれない。
「……そういえば、なんで僕の奢りなんですか」
コットは金がないらしいが、冷静に考えてなぜ僕が奢らなきゃいけないんだ?
「俺平民だから金ねーんだよ。ここの飯は全部高い!A組ならお坊ちゃんだろ?人助けだと思ってさ!」
コットが僕に頼み込む。
僕も別にそこまでお坊ちゃまってわけじゃないんだけどな。何なら、この学園内じゃ身分はかなり低い方だろう。
でも、お金がないなら多少は奢っても……うーん、まぁいいか。一回だけなら。
「ステーキはステーキでも一番安いステーキにしてくださいね。僕もあんまりお金ないので」
「おっ、ラッキー。あざす!」
コットが肩を組む腕の力を強める。
痛い……。
僕たちはステーキの店に行き、一番安いステーキを注文した。
昼休みが始まってからそこそこ時間が経っているため食堂の席には空きがある。
僕たちはすぐ近くの席に腰を下ろした。
「おー、美味そうだな。こんなの俺の村じゃ絶対食えなかったぜ」
「味わって食べてくださいね……」
僕は体調不良で味わえそうにないけど。
いざステーキを目の前にすると、これを胃袋が本当に受け入れるのかが心配である。
「じゃ、ごちになるぜ」
コットがステーキに手を着ける。
「お~!うめ~!」
そして、ご機嫌にステーキを食べ進めた。
僕はその様子をぼぅっと見つめる。
「ヒューマも食えよ。冷めちまうぜ」
コットが不思議そうな顔で僕を見た。
「あ、あぁ。そうですね」
僕はステーキをナイフで切り、一口食べる。
うん。美味しい。
けど、ステーキの奥いるのは僕が倒すべき相手、コット・オール。
どうしても胃が痛む。気が休まらない。
「……あんま好きじゃないか?ステーキ。食ってやろうか?」
コットが心配そう……じゃないわ。貪欲そうな顔で僕のステーキを見る。
……そんなに食べたいのか。まぁいいよ、僕今食欲無いし。
「半分、あげますよ」
僕はステーキを切り分け、半分をコットに渡した。
「マジか!あざす!!」
コットはすぐにそのステーキを食べ始める。
僕もゆっくりとステーキを食べ、コットが食べ終わってから少しして完食した。
「いやー、美味かったな。ありがとう、ヒューマ」
満足そうな顔で僕を見るコット。
「おいコット。お前何してんだよ」
その時、三人組の男子がコットに話しかけた。
「お―お前ら。今このヒューマってやつに飯奢ってもらってたんだよ」
「お前またタカリしてんのかよ……ごめんなヒューマさん。このバカが迷惑かけて」
話しぶりからしてコットのクラスメイトであると思しき生徒が謝る。
「いえ、楽しく食事できましたよ」
「やっさしー。よかったなコット」
「おう」
コットが立ち上がる。
「それじゃ、助かったぜヒューマ。まとまった金が入ったら軽くなんか奢るわ」
「こいつと関わると基本損しかないから辞めといたほうがいいっすよ」
「んなことねぇよ!俺だって魔法教えられるし!」
「おめぇ教えるのくそ下手だろうが!」
四人は去っていく。
僕は座りながらその後ろ姿を眺めた。
流れで奢っちゃったけど……まぁ、いいことは一つあったな。
それは、コットもただの学生だってことに気付けたことだ。
普通に食事を楽しむし、普通にがっつくし、普通に友達もいるし、普通に感謝だって伝えれる。多少わがままだが。
それが分かっただけでも、奢った価値はあるかな。
僕も席を立つ。
まだ勝てる想像はできない。けど、少しはコットへの恐怖心が消えた。
一旦、それだけで十分か。
最後まで作品を読んで下さりありがとうございました!
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次話もお楽しみに!




