綺麗
メリーと話し合い、花火をどうやって打つかは決まった。
僕は最初、花火の想像だけ伝えてメリーに全部やってもらう予定だったが、メリーは中を空洞にした状態の火を作るのが難しいらしい。なので、魔力量の折り合いもかねて僕が外郭の火を作る役、そしてメリーが爆発役を担うことにした。
メリーが空中に魔力を溜める。
僕はそれを魔力で覆い、それを火に変えた。
魔力にも密度がある。高い密度の魔力に低い密度の魔力は侵入することができない。
魔力密度が低い僕の魔力は勝手にメリーの魔力を覆うようになるので、魔力を火の魔法に変えるのが楽だった。魔力を全部火に変える想像だけでいいから。
「爆発魔法」
バン
メリーが唱えると、火が爆発する。
そして、火花が散った。
うーん、綺麗ではあったが……。
「もうちょい火の外郭厚い方がいいですかね?」
僕が言う。
何と言うか……今のままじゃちょっと火の粉が大きい焚火を見ているようなものだ。火が舞っている姿は心が安らぐが、花火らしい派手さがない。
「わたくしも爆発の威力を考えるべきですわね。元の魔力の大きさが変われば爆発の威力も変える必要がありますし、色々なサイズで試しましょう」
メリーが再度空中に魔力を溜めながら言う。
確かにそうか。僕も火の外郭の厚さは大きさに比例して変わっていく。落ちる火の粉の大きさも。
サークル室でできる玉のサイズに最適解があっても、それが外で打ち上げる花火のサイズの最適解ではない。
外と室内という違いや、周囲の明るさによっても目立ち方には関わってくるだろう。
これ、結構難しいな。
サーシアが苦戦するのもわかる。
僕たちは小さな火の玉からある程度実践に向けた火の玉まで作り、何回も実験を重ねた。
「本番はどのくらいの大きさがいいんでしょう」
「校庭で打ち上げて、かつ誰かの人目に付くようにすることを考慮した場合は……」
僕たちは花火の具体的な案について話し合う。
そして、最適な花火について研鑽しあった。
花火の実験を始めて数時間が経つ。
「……すみません、魔力切れです」
僕の魔力が切れた。
当然だ。僕の魔力量は平均。
魔力の消費量は少ないとはいえ、何時間も練習すれば魔力は切れる。
「わたくしはまだ余裕がありますので、一人でできるか試してみますわ」
メリーが一人で空洞のある火の玉を作ろうとする。
空中に火の玉が浮かんだ。
しかし、爆発はしない。
「……無理ですわね。魔法化する際のコントロールがうまくいきません」
メリーがそう言うと、火は霧散した。
今の時刻と魔力回復のスピード的に考えると、魔法祭が終わる夜になっても僕が作れる花火のサイズは室内サイズ。校庭で目立つ花火なんて打ち上げられないな。
「……無念ですが、花火は中止としましょう」
メリーが言う。
「いや、でも……」
僕は何とか別の案は無いかと頭を回す。
何かないか?何か……
最悪、目立つならば花火じゃなくても……いや、これだけ頑張ったんだ。花火を何とかして成功させたい。
魔力が無くても作れる花火……そうだ。本物の火を使うのは……無理だな。空洞のある火なんて炎魔法以外で作れそうにない。
爆発を魔法以外で起こすのも不可能に近しいだろう。
何か他には、他には……
……いや、無いな。
無理か。
せっかく、頑張ったのになぁ……。
「仕方ないですわよ。じゃあ、行きましょうか」
メリーは立ち上がる。
行く……?
「行くって、どこにですか?」
僕が聞いた。
なんだろう。サーシアのお見舞いかな?
「何って……サークル祭ですわよ。一緒に回るんじゃなかったんですの?」
メリーが当然のように言う。
あ、そっか。
僕たち一年生の本分は、サークル祭を回ること。
……え?僕メリーと一緒に回れる?
でもそっか、同じサークルのメンバーだもんな。そりゃそ0うなるか。
「……そうですね。残り時間は短いですが、一緒に回りましょう」
花火作戦は中止となったが、メリーと一緒にサークル祭を回れる。
花火が作れなかったのは悔しいけど、まぁいいか。
僕たちはサークル室を出ると、一緒に学園内を練り歩き始めた。
「うちのサークル面白いよぉ!すごいんだからねぇ!!」
「恋バナサークルへ!!ぜひ!!」
「ねぇ誰か来て!!ねぇ!!三年に怒られるの!!ねぇ!!」
サークル祭では、どこのサークルもまだ活気良く呼び込みをしている。
改めて、色々なサークルがあるな。恋バナサークルとか、歴史サークルとか、魔法バトルサークルとか……。
「気になるサークルはありますか?」
僕がメリーに聞いてみる。
「特にはありませんわ」
メリーはいつも通り冷静沈着な声で答える。
しかし、その声はどこかいつもよりも声が暗い気がした。
……僕にもっと魔力があればな。
そうすればもっと頑張ることができたんだけど。
「そこのお二人!顔芸サークルに興味はないかい!!」
その時、僕たちの前に変顔をした男が立ちはだかった。
笑いはしないが脳が面白いと思えるタイプの変顔。
そういえば、変顔で笑ったことなんて人生で一度もないな……笑える変顔があれば見てみたいものである。
「俺たちと一緒に顔芸を極めれば……」
男が何かを言いかけたとき、背後に焦った顔の男が立った。
「おいやめろ!すみません!何でもないです!!」
その男は変顔の男を廊下の端まで連れていく。
「なんだよお前!あんだけ綺麗な子の変顔なら……」
「バカ!お前知らねぇのかよ!トゥメルト家のお嬢様だぞ!殺されるって!」
「え!?トゥメルトって……」
そんな話し声が聞こえてくる。
あぁ、そっか。
メリーって怖がられてるんだった。
ずっと一緒に居るから忘れてたな。
僕はメリーの顔をちらっと見る。
きっと学園に入る前からこういう対応をされてきたのであろう。表情に変化はなかった。
……あいつら、メリーのことなんも知らないくせに。
表面上は確かに怖いけど、中身は……
……やっぱり怖いな。初対面でも正論で突き刺してくるタイプだもん、メリーは。
でもまぁ、話したこともないくせに”怖い”って思われるのはよくないな。そういうイメージはちゃんと払拭しないと、メリーが世間から疎まれ続けてしまう。
うーん、何かいい手段はないものか。
怖いの反対といえば可愛い……そういえば、メリーの笑顔ってめっちゃ可愛いんだよな。
…………。
仕方ない。あまり自身はないが、やってみるか。
「メリーさん」
僕の声に反応して、メリーが僕を見る。
それを僕はとっておきの変顔で出迎えた。
「…………」
「…………」
「ごめんなさい」
メリーの表情は変わらない。
……まぁ、そうだよね。
面白い変顔ができる人間はこの世にいない。一人も。
「いいのよ。なにを言われたって、わたくしは気にしておりませんわ」
メリーが言う。
まぁ、メリーは気にしないだろうけど……僕は好きな人が悪く言われるの、あんまりいい気がしないんだよな。
これはおせっかいであり、僕には関係ないことだと分かってはいるが。
「むしろ好都合ですの。わたくしとしても無駄な対人関係を築く気はないので」
メリーはそう続ける。
…………。
メリーは、サークル体験の日の帰り、「こういうのも悪くない」と笑った。
僕は、メリーにもっと笑ってほしい。
学園生活をもっと楽しんでほしい。いろんな人と関わってほしい。どうでもいいようなことに熱中してほしい。くだらない冗談にくだらないと笑ってほしい。
全部、僕のエゴだけど。
メリーには、幸せになってほしいのだ。
「メリーさんって、何か好きなことはありますか?」
僕がメリーに聞く。
「……特には」
沈黙が流れる。
メリーの家庭環境が酷いことは知っている。
だからこそ、せめて学園だけでは……
僕たちは会話もないまま色々なサークルを見て回り、気付けば魔法創造サークルのサークル室前まで戻ってきていた。
魔力は……ちょっとだけあるな。
「最後に、一回だけ花火を打ち上げましょうか」
僕はそう提案すると、電気もつけずにサークル室に入る。
そして、床に座った。
「汚いかもですけど、座りましょうか」
「どうしてですの?」
メリーが不思議そうに聞く。
「花火って言うのは見上げるものなんですよ」
メリーは少し抵抗しながらも僕の隣に座った。
「やりましょうか」
空中、いつもより高いところにメリーが魔力を溜める。
僕は、その周りを炎で覆った。
パン
暗い部屋で炎が弾け、火の粉が散る。
赤かったり黄色かったりする火の粉が散り、光り輝くそれはすぐに宙に溶けて行った。
少し下から見る花火は、努力の成果もあって今までの中で一番綺麗だった。
「綺麗ですわね」
メリーが言う。
僕は、暗い部屋の中、横目にメリーを見た。
メリーは先ほど花火があったはずの場所をじっと見つめている。
「はい。綺麗です」
キーンコーンカーンコーン
サークル祭の終わりを告げる鐘が鳴る。
「帰りましょうか」
「そうですわね」
そして、僕たちのサークル祭は終わった。
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