魔法創造サークル
サーシアが部屋の奥にある物品の山からホワイトボードを取ってくる。
「まぁ、魔法創造とはいっても水を甘くするとか、他のものに作用する魔法は難しいでありますからね。まず最初は基礎の基礎からやっていきますぞ~!」
サーシアが授業のように説明を始めた。
「では最初に!魔法で一番大事なのは何か分かりますかな!?」
サーシアの問いに、メリーが小さく手を上げた。
「はい、どうぞ!」
「詳細なイメージです」
「正解!ここではそのことを創造とかけて想う方の想像って呼んでいるのでありますが」
サーシアがホワイトボードに”想像”と書く。
「魔法は想像。魔力を放出する想像をし、形や性質を想像して、実現させる。これが基礎ですな」
そして、簡単なイメージ図をホワイトボートに書いていった。
「ちなみに、今回お二人にやってもらう魔法は……」
サーシアはこちらを向き、ペンを持っていない方の手を開く。
「海魔法」
サーシアがそう唱えると、その手のひらから大量の水が流れ出た。
その水はいくつかに分かれたりして形をどんどん作っていき、それらは大小さまざまな魚の形になる。
どれも精巧な造形で、まるで本物のようだ。
水で作られた魚たちは部屋中を泳ぐように優雅に動く。
部屋の明かりや窓から差す太陽の明かりを飲み込み、少し光り輝きながら。
「おー……」
「すごい」
色々なところに魚が浮かび、その魚が反射する光が壁に映るさまはとてもきれいだ。なんか、この部屋が海になったみたいな……。
「こんな感じですな。今回だと、水の形と動きをあらかじめ決めて、部屋の中に放つだけ。だから、意外とすぐにできるようになると思いますぞ~。ちなみに、同じようなものですが、魔力を自分の想像で継続的に動かすのはかなり難しいですぞ。二年生で習いますが」
言われて見てみると、魚は右往左往と同じ動きを繰り返している。
一匹だけめっちゃ動き回ってる魚もいるけど、この魚だけ想像を鮮明にされたのであろう。
そういった個々の詳細な想像を一瞬でやってのけたのか……すごいな。
「それじゃあ、やってみましょー」
サーシアが魚の絵をホワイトボードに描く。
「コツは普通の魔法と同様に”想像する”こと。では最初に、そこまで詳細じゃなくていいから水の魚を作って動かしてみましょう!」
サーシアが言う。
僕は早速人差し指を宙に向けた。
えーっと、まずは水……
空中に魔力を放ち、それを水に変える。
「わっ!」
瞬間、水は机の上に落下した。
「あちゃちゃ。全部水に変えちゃだめですぞー」
サーシアが雑巾で机を拭く。
そっか、水じゃなくて水魔法だもんな。魔力で水を覆ってその場に維持しないと……
……あれ?僕の水って今落下したよな?っていうことは、サーシアが作った水の魚はどうなっているんだ?
あたりを見渡すと、床はそこらじゅうが濡れている。
……まぁ、こうなってるよね。
掃除面倒くさそー……。
僕はそんなことを考えながら再度水魔法を使う。
えーっと、形を変えるんだよな。
なら、魔力を水に変える部位じゃなくて水を覆う魔力の形を変えることで水を魚形にした方が簡単そうだな。結果的には同じものだし。
こうやってこうやって……。
「よし、できた」
水を魚っぽくした。
胴体に尾びれだけだが、魚と言って過言ではないはずだ。多分。
よし、ここまでは簡単だな。まぁ簡単なものをやっているからだが。
パシャ
込めた魔力が少なかったせいで水が落下する。
魔力量が少ないのがここでもネックになるとはな……。
動かすことを考えると、普段の攻撃魔法と同量程度の魔力を消費しないとダメそうだ。
バシャア!!
そのとき、隣から大量の水が落ちた音が聞こえる。
見てみると、メリーの前の机の上に水たまりができていた。
「そんな大きい水じゃ多分難しいですぞ。最初は小さく小さく」
「分かりました」
メリーはそう答えると、僕より何倍も大きな水の塊を作り出す。
小さく……だよな……?
「こいつは魔力量バグってるからな。魔力が多い分、加減が必要な精密操作は苦手なんだろ」
ナヅ先生が言う。
「はい……」
メリーは想像に必死なのだろう。少し余裕がなさそうに答える。
そうか、魔力が多いと想像する範囲が大きくなるから、その分魔力操作の難易度が上がるのか……。
魔力量の少ない僕は目の前に水を作り出し、それを魚状にする。
で、動かす……。
動かすっていつも通りでいいのか?じゃあ……
ビュンッ!!
魚は猛スピードで奥の壁に飛んでいった。
あれ?
「あるあるですなー。普段通りじゃダメですぞ。ゆーっくり、ちょっとだけ。普通の攻撃魔法みたいにやったら動かしすぎ。ほんのちょっぴり!ちょっぴりだけですぞ!!」
ゆっくりちょっとだけ……?
普段は大量の魔力を一瞬で消費して速く動かすことしかやってないからな……大量の魔力を少しづつ消費してゆっくりと動かすのは骨が折れそうだ。
それだけでなく、攻撃魔法のように一度動かせばまっすぐ飛ぶわけではなく、どのような動き方をするかを想像しないといけない……想像するだけで難しい。
僕はちらっとメリーの方を見てみる。
メリーの眼前には、ぐちゃぐちゃな水の塊があった。
……なにこれ。
よく見ると、あれは背びれであれは胸びれ……あれは尾びれに見えないことはない……ような気がする。
もしかして、これ魚か?
バシャア!!
水の魚が崩壊した。
「難しい……」
メリーがぼそっとつぶやく。
メリーにも苦手なことってあるんだな。なんか親近感。
「あちゃちゃー」
サーシアが雑巾で水を拭く。
メリーは再度大きな水の塊を作り出した。
メリーも頑張ってるんだし、僕も頑張らないと。
水を出して、魚にして、動かす。
ゆっくりと。ゆっくりと……
ビュンッ!!
猛スピードで壁に激突する魚。
……ちゃんと魚の挙動してくれないかなぁ。
サークル体験を始めてから、数時間経った。
僕の目の前には、高速で上下運動をする魚。
いや、魚じゃないな。これは魚と呼ぶにはあまりにも挙動が不審すぎる。近いものを上げるとするならば……いや、こんな動きする生物居ないか。
しかし、目で追える程度の速さにはなっていた。
「おっ、なかなか上達しましたな~!」
サーシアが僕の魚?を見て言う。
まだまだ全然魚の挙動には程遠い。
が、何時間か練習した甲斐はあったな。
メリーの方はと言うと……
「んっ……」
気難しい顔で魚を作っているメリー。
背びれも胸びれもあり立体的で、エラも、目すらもある程度分かるレベルには作られている。
すごいな。ずっと落書きみたいな手抜き魚で練習している僕とは正反対。全部の段階を完璧にしてから次へ進むタイプだ。
真面目だなぁ。
「おっ!良い魚ですぞー!あとは動かすだっ」
ビュオッ!!
サーシアの顔に猛スピードの魚がぶつかる。
バタンッ!
サーシアが後ろへ倒れこんだ。
「す、すみません!」
メリーがサーシアに駆け寄る。
「つ、強い魚ですぞ……サメに近しい……」
サーシアが口に大量の水を含みながらごぼごぼ喋る。
キーンコーンカーンコーン
その時、鐘が鳴った。
「なんと。もう終わりでありますか……」
サーシアが残念そうにつぶやく。
そして、僕たち二人を見てもじもじした。
「で、どうですかなお二人とも。魔法創造サークルの方は……」
サーシアが控えめに聞く。
「良かったですね。今までやったことがないことなので、新鮮でした」
「難しいですわね。ですが、楽しかったです」
普通に楽しかった。サーシアも丁寧に教えてくれるし。
「おっ!よかった!っていうことはお二人とも……」
「入りますわ」
「僕も入ります」
僕たちが答える。
「おぉ!!やったぁ!!」
サーシアが嬉しそうに飛び上がった。
「やりました!やりましたぞ~!」
そして、先生に勢いよく抱き着く。
「良かったな」
先生が少し笑いながら抱き着くサーシアの腕をどかす。
「お前らも楽しんでくれてよかったぜ。この部屋も好きに使ってくれていいから、好きな時に来てくれ」
「「はい」」
僕たちは、魔法創造サークルに加入することとなった。
「明日もお待ちしておりますぞ~!」
部屋を出た僕たちにサーシアは手を振る。
「いやー。楽しかったですね」
僕は廊下を歩きながら、少し後ろを歩くメリーに話しかける。
「そうね。難しくて面白かったわ」
少し水に濡れたメリーが言う。
「こういうのも悪くないですわね」
そして、ほんの少し。ほんの少しだけ笑った。
あ。
可愛い。
僕の足が止まる。
「どうかされましたか?」
メリーも足を止めた。
「い、いや!なんでもないです!」
僕は急いで歩きだす。
少し、昔のメリーを思い出して。
改めて、好きだなって思った。
それだけだ。
最後まで作品を読んで下さりありがとうございました!
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次話もお楽しみに!




