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遭遇

「なぁ、班長。マジで聞きたいんすけど……たった一人のガキを確保するために、うちの精鋭130人も必要なんすかね? 弾の無駄遣いちゃいます?」

 

金髪をラフに流した下っ端の男が、ガムを噛みながら隣の班長に問いかける。

班長と呼ばれた男は、眉間に深い皺を刻んだまま、水平線の先を見つめていた。

 

「アホか。相手はあの『三浦会』を、たった一人で壊滅させた化け物やぞ。情報によれば、あの三浦自身も原型を留めぬほどにバラされたらしい」

 

「へぇ、三浦ねぇ……。まぁ、カシラに言わせりゃ『おままごと』の延長戦でしょ? 数の暴力に勝てるわけないやん。130人で囲んで一斉射撃。ハイ、終了。楽勝っすよ」

 

「……ええか、よう聞け。人数が有利やからこそ、油断が一番の毒や。決して単独行動は取るな。標的を見つけたら即座に共有、包囲網を縮める。ええな?」

班長の言葉には、現場のプロとしての冷徹な警戒心が籠もっていた。

三浦会を潰したのが「実力」か「運」か。どちらにせよ、一人の人間にそれだけのポイントが集中しているという事実は、このゲームにおいて「最凶の獲物」であることを意味している。

だが、下っ端の耳には、その忠告も右から左だった。

 

「はいはい、わかってますって! あ、班長! 見てくださいよ、陸地が見えてきましたね。もうすぐ函館上陸っすか。楽しみやなぁ海鮮丼! 嫁にお土産の木彫りの熊でも買っていかなあきませんね!」

 

「……お前、遠足に来てるんちゃうぞ」

呆れ果てて溜息をつく班長。

その背後では、他の班の連中が「130人いれば、例の2000ポイント超えのババアが来ても勝てる」と豪語し合っている。

彼らはまだ知らない。

 

自分たちがこれから向かう場所が、三浦という秩序を失い、346ポイントという「呪い」を背負った一人の少年が彷徨う、本当の地獄だということを。

 

下っ端は勝手に単独行動を開始し、お土産屋を着き、嫁に買うお土産を選んでいた。

 

「お土産どれ買うか迷うな〜、例のガキは班長5人に加え部隊長もおるんやし。余裕やろ!」


大阪の「下っ端」は、その瞬間、自分が踏み込んではいけない領域に足を踏み入れたことを本能で悟った。

お土産屋の賑やかな空気は一変し、まるで真空パックされたかのような息苦しさが肌を刺す。

 

(なんや……この、内臓がせり上がるようなプレッシャーは……!)

横目で捉えた少年は、あまりにも無防備に、それでいて壊れ物でも扱うような手つきで、母親への贈り物を探していた。

 

「母さん…何買ったら喜ぶかな。」

そのギャップが逆に、下っ端の恐怖を極限まで跳ね上げる。

 

「(……あかん、ここは一旦引いて班長に……!)」

冷や汗を流しながら、不自然にならないよう、かつ全力でその場を離れた。路地裏に駆け込み、震える手で無線に手をかけようとしたその時――。

 

背後から、凍てつくような声が鼓膜を震わせた。

 

「お前……プレイヤーだろ」

心臓が跳ね上がる。振り返る暇さえない。

声の主は、いつの間にか、まるで最初からそこに影として存在していたかのように立っていた。

 

「三浦会の残党がまだ残ってたんだな……全員キルしたと思ったのに」

少年の瞳には、かつての迷いや人間らしさは微塵も残っていない。

三浦とライアーを「解体」したあの数時間が、彼を修復不能なまでに変貌させていた。

下っ端の視界に、システムが無機質な警告を表示する。


【プレイヤー名:歪んだ加速タイム・ラグ

【保有ポイント:682pt】

【能力:十刻縮延デシマル・アクセル

 

「(ろ、ろっぴゃく……!? バケモノや……報告にあった倍以上のポイントやないか!!)」

下っ端の頭が真っ白になる。三浦会の残党どころか、その三浦の「一ポイント」を根こそぎ喰らい尽くした「真の支配者」が目の前にいる。

 

「……待て、俺は三浦会の残党やない! 大阪チームの――」

言い訳を口にしようとした瞬間、少年の指が、静かにサバイバルナイフの柄にかかった。

 

「関係ない。俺を狙う奴は、一人残らずバラすだけだ」

 

十刻縮延デシマル・アクセル」が発動する予兆。

下っ端の目には、少年の周囲の空気が「歪んで」見えた。

 

逃げ場を失った下っ端の、あまりにも無様で、あまりにも絶望的な抵抗だった。

 

「しゃーない!ここは反撃や! 死ねぇッ!!」

 

【能力:衝撃超音波ウルトラサウンド

 

下っ端が大きく口を開き、空気を震わせる絶叫を放つ。目に見えるほどの衝撃波が扇状に広がり、路地のコンクリートを削り、背後のお土産屋の陳列棚を木っ端微塵に粉砕した。

だが、その破壊の嵐の中に、少年の姿はどこにもない。

 

「どこに撃ってんだ?」

耳元で囁かれる冷徹な声。

下っ端は、自分の喉が引き攣る音を聞いた。背後に、いつの間にか。

 

「ま……待て! 俺には家族がいるんや! ……そ……そうだ! 降参や! 降参する! だから許してく――」

 

命乞いの言葉が、空気に溶けるよりも速かった。

少年の『十刻縮延デシマル・アクセル』が、10倍に引き延ばされた静寂の中で、下っ端の頭部を物理法則の限界を超えた速度で削り取ろうとした瞬間。

 

……


無音で頭部を失った肉塊が、地面に崩れ落ちる。

 

脳内に、もはや人間味を感じさせない冷機を帯びたアナウンスが響く。

 

 【プレイヤーの降参を確認。強制勝利しました】

 評価点:

 素早さ 10/15

 華麗さ 2/15

 芸術点 2/15

 残虐性 5/15

 【撃破点1pt、合計19ptを獲得】

【32ptの移行。420,000クレジットを獲得】


【現在所有ポイント:775pt】

 

「………?」

システムが「強制勝利」を告げたのは、相手が戦意を喪失し。相手が命乞いを終える前に「勝利という結果」を確定させてしまった。

 

「なんだ…?今の。」

状況の理解が追いついてない間に、死体の無線機からノイズ混じりの怒号が響き渡る。


『――おい! 何の音だ! 返事しろ、単独行動は禁止だと言ったはずだぞ!』

大阪チームと言っていたな、恐らく班長の声だ。

俺は血に濡れた手で、その無線機を拾い上げ、告げた。

 

「お前らは…何しに来た。」

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