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決闘

「ぶっ殺してやるよ……クソ野郎」

その言葉を吐き出した瞬間、俺の視界から色が消えた。

心臓が爆発しそうなほどのビートを刻み、世界が10分の1の速度まで減速する。

 

だが、目の前の三浦も止まってはいない。

彼もまた、俺から奪った『加速』を起動し、静止した空気の中を平然と歩いてくる。

 

「加速の世界へようこそ、夕凪君。ここは孤独だろう? 私と君、二人だけの時間だ」

三浦がナイフを取り出し、最短距離で踏み込んでくる。

速い。俺と同じ速度。

回避の隙を与えない、精密な突き。

 

(……一撃だ。一撃でいい……!)

俺はサバイバルナイフを逆手に持ち替え、三浦の切っ先を紙一重でかわす。

キンッ、と金属音が響く。

加速した者同士の衝突は、通常の100倍の衝撃となって腕に跳ね返ってくる。

 

俺は、三浦の足元に目をやった。

そこには、さっき俺が倒した「デカブツ」の死体が転がっている。

 

(あいつの能力は、次のプレイヤーに触れるまで続く……)

三浦が俺を仕留めようと、さらに深く踏み込んできた。

俺はあえてバランスを崩し、死体の方へと倒れ込む。

 

「誘っているのか? 見え透いた罠だな」

三浦が冷笑し、俺の喉元へナイフを振り下ろす。

俺は『加速』を維持したまま、地面に転がっている**「デカブツが落とした巨大な鉄球」**の鎖を掴んだ。

 

「罠じゃない。……お前に『お似合いの力』を返してやるんだよ!」

俺は全力で鎖を引っ張り、三浦の足首に絡ませた。

そして、その勢いを利用して、三浦の体を無理やり引き寄せ――死体の「手」に三浦の足が触れるように誘導する。

 

「……っ、しま――」

 三浦の顔から余裕が消えた。

 

接触。

 

その瞬間、彼の『十刻縮延』が強制的に上書きされた。

 

「が、はっ……!?」

三浦の動きが、俺の目には**「10倍遅いスローモーション」**に見えた。

加速を失い、等速の世界に取り残された三浦。

俺だけが、10倍速の静寂の中でナイフを振りかぶる。

 

「あばよ、コレクター」

俺は、無防備に晒された三浦の心臓目がけ、サバイバルナイフを全力で突き立てた。

 

「……なんだ、これ」

俺が刺したのは、三浦じゃない。さっきまでそこに転がっていた、ただの瓦礫だ。

いや、瓦礫だと「思い込まされていた」のか?

視界の端で、三浦の姿が陽炎のように揺れた。

奴は余裕の笑みを浮かべたまま、闘技場の壁際に並んでいた『人形コレクション』の一人に、指先で軽く触れていた。

 

「いい機転だったよ、夕凪君。だが、私のストックとライアー君を甘く見ないことだ」

 

「……っ、卑怯だぞ! 決闘だろ!」

 

「この地下には、何百という『優れた能力の苗床』がある。私が「加速」のみで戦うとでも?更にすべてを把握し、いつ、どの順番で使うべきか、その最適解を知っている」

三浦は、人形に触れた。

 

今度は、彼の全身が薄い膜のような光に包まれる。

 

『能力:衝撃反射(インパクト・リフレクト)

 

「……バケモノかよ」

俺は、サバイバルナイフを握り直す。

一筋縄じゃいかない。

三浦はこの闘技場にいる「人形」たちを、まるでカードゲームの手札のように使い分けている。

 

奴に触れさせて『スキル』を解除させる作戦は、もう通用しない。むしろ、奴が次に誰に触れるかで、戦況が180度変わってしまう。

 

「俺はモノじゃない。……アンタのコレクションにも、絶対にならないッ!」

俺は再び『十刻縮延』を起動した。

加速した世界の中で、俺は三浦そのものではなく、周囲にいる「人形」たちへと視線を向ける。

 

三浦が次に「どの手札」を引くか。

それを潰さない限り、俺に勝機はない。

 

「……その『カード』を全部壊してやる」

俺の視界から、再び色が消える。

十刻縮延デシマル・アクセル』。心臓が軋むような加速。

 

三浦はまだ、さっきコピーした『衝撃反射』の余韻に浸りながら、スローモーションで次の人形へと手を伸ばしている最中だった。

奴の目には、俺が「消えた」ように見えているはずだ。

 

「悪いな……。生きてるのか死んでるのか分からねぇが、これ以上利用されるよりはマシだろ!」

俺は三浦を無視し、壁際に並んだ「人形」たちへと突っ込んだ。

加速した俺の拳とナイフが、無抵抗なプレイヤーたちの急所を的確に貫いていく。

ドパッ、と鮮血が静止した空中に撒き散らされる。

 

一人、二人、三人。

 

三浦が触れるよりも速く。奴が「次の一手」を考える暇さえ与えない速度で、俺は『コレクション』を破壊していった。

10倍速の世界では、人間の肉体なんて豆腐のように脆い。

 

首を跳ね、心臓を突き、動脈を断つ。

脳内に、鳴り止まないほどの通知が溢れ出した。

 【プレイヤーを撃破】

 【プレイヤーを撃破】

 【プレイヤーを撃破】……

 

「はあぁぁぁぁッ!!」

狂ったように走り、切り刻む。

三浦の周囲から、盾となる人形も、剣となる人形も、逃げ道となる人形も、次々と「物言わぬ肉塊」へと変わっていく。

数十人の命を奪い尽くしたところで、俺の『加速』が限界を迎えた。

 

世界に色が戻り、一気に押し寄せた「音」と「血の臭い」に眩暈がする。

 

「……はぁ、はぁ、……これで、全部だ」

闘技場の壁際は、今や凄惨な死体の山となっていた。

三浦が次に触れるべき「手札」は、もうどこにも存在しない。


三浦は、伸ばした手の先で崩れ落ちた死体を眺め、ゆっくりと俺の方を振り返った。

その顔には、初めて「計算外」を突きつけられたような、歪な笑みが張り付いている。

 

「……驚いたよ、夕凪君。まさか君が、これほど効率的に『ゴミ掃除』をしてくれるとはね」

奴の保持するスキルは、今や『衝撃反射』一つ。

上書きするための「媒体」を失った王が、血の海の中で孤立していた。

 

「さあ、三浦。……これで、アンタはただの『反射持ち』だ。逃げ道は、もう無いぞ」

 

「……はは、ははは! 夕凪君、君は確かに私の手札をすべて壊した。だがな、最後の一枚だけは、最初からこの奥の間に隠しておいたんだよ!」

三浦の叫びに応じるように、ライアーが暗闇からその子を引きずり出してきた。

 

無機質な、感情の死んだ瞳。

ポスターの中で微笑んでいた面影はどこにもない。ただ、巨大な力に押し潰された「器」がそこにある。


「ライアー、よくやった。連れてきたか」

 

「はい、三浦様。最高の『捧げ物』です」

俺は息を呑み、ナイフを握る手が小刻みに震え出した。

緊張が、今までの死闘とは比べ物にならない重圧となって、俺の心臓を締め上げる。

 

「アレ……? なんだよ、あの子がどうしたって言うんだ!」

 

「こいつはただの子供じゃない。俺たちと同じプレイヤー……いや、それ以上の『特異点』だ! その能力は――『現実改変リアル・チェンジャー』!」

三浦が狂ったような笑い声を上げ、子供の細い首に手をかけた。

 

「自身の命と引き換えに、世界を、理を、望み通りに書き換える。……この子が『夕凪君は死んだ』と願えば、君は一瞬で塵になる。私が『このゲームの勝者になった』と願えば、すべてが終わるんだよ!」

 

「……っ、そんなデタラメな能力……!」

 

「ただし、対価が必要だ。命という名の対価がな。だが、そんなものは関係ない。……さあ、始めようか。世界を、私の思い通りに塗り替える時間だ!」

三浦の指に力がこもる。

子供の喉から、ヒュッという短い悲鳴が漏れた。

子供が死ねば、現実が改変される。俺たちの「今」が消え、三浦の望む「地獄」が現実になる。

 

「やめろッ!!」

俺は叫び、再び『十刻縮延』のスイッチを叩き込もうとした。

だが、三浦の背後に立つライアーが、その不気味な瞳で俺を射抜いた。

 

「無駄ですよ、夕凪君。この子の能力が発動する瞬間、時間は意味をなさない。……君の加速よりも速く、『因果』が君を捉える」

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