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模擬戦

翌日、地下室の広大な訓練場。

全身の筋肉が昨日の「お仕置き」で悲鳴を上げているが、休んでいる暇はない。

 

「ケンヤ君、複数の敵と耐久戦苦手やろ? 小森ちゃんで克服したらええ」


隊長がモニター越しに、相変わらずの気だるい声で指示を出す。

 

「人を物みたいに扱わんといてよ」


小森さんは少しむくれたように言いながらも、その瞳には能力者としての鋭い光が宿っていた。

 

「くれぐれも能力多用でぶっ倒れんようになー。今の君が全力で時間を引き延ばしたら、心臓がオーバーヒートして本当に爆発するからな」


隊長の言葉に、俺は喉を鳴らした。3100pt。この膨大なエネルギーを「垂れ流す」のではなく、針の穴を通すような精密さで制御し続けなければならない。

 

「……準備はいい? それじゃあ、いくよ」


隊長の合図と同時に、小森さんがスッと手を掲げた。

その瞬間、何もない空間から眩い光が溢れ出し、実体を持った**30体以上の「光の兵士」**が戦場を埋め尽くした。


【小森淳子の能力:聖霊召喚スピリッツ・スポーン

最大200体もの光の兵士を自在に操る。救助活動で培われたその精密な操作性は、乱戦において無類の強さを誇る。


「……数が多いな……!」

俺は息を呑み、構えを取る。

30体の光の兵士たちが、一糸乱れぬ動きで四方八方から俺を包囲した。昨日までの筋トレで鉛のように重い体が、実戦の緊張感で震える。

 

「一気にくるよ!」


小森さんの号令で、光の兵士たちが一斉に地面を蹴った。

前後、左右、そして頭上。逃げ場のない飽和攻撃。

 

「――『十刻縮延デシマル・アクセル』……っ!」


俺は心臓の鼓動を意識し、必要最小限のポイントを脳に回した。


視界がスローモーションに切り替わる。だが、昨日までのように「止まっているように見えるほど」引き延ばすことは許されない。それでは負荷が大きすぎる。

 

(敵の動きを、1.5倍……いや、1.2倍に遅くするだけでいい。最小限の回避で、この物量を捌き切る……!)


眼前に迫る光の剣を、紙一重でかわす。

だが、一体を避けても、その影から二体、三体と間髪入れずに追撃が飛んで、複数の拳が四方八方から飛来する。俺は『十刻縮延』を限界まで絞り込み、視界に入る光の軌道を一つずつ、針の穴を通すような精密さで避けていく。

 

(いける……! 一点突破だ!)


光の兵士たちの隙間を縫うようにして、本体である小森さんへ肉薄する。この乱戦の中、司令塔である彼女にタッチすれば俺の勝ちだ。


伸ばした指先が、彼女の肩に触れる――。

 

(勝った……!)

そう確信した瞬間、指先に伝わったのは柔らかな人の感触ではなく、硬質な光の粒子だった。

 

「ごめんねー。私の兵士、殴るだけちゃうんよねー」


目の前にいた「小森さん」が、一瞬で重厚な盾を持つ兵士へと姿を変えた。入れ替わり――!?

咄嗟に身を引こうとしたが、盾の強烈な一撃を食らい、俺の体は後方へ吹き飛ばされる

 

「くそっ……!」


体勢を立て直そうとしたが、背後から別の兵士が俺の足をガッシリと掴んだ。

一度掴まれれば、どれだけ周囲の時間を引き延ばしたところで、俺の体と兵士の手の「相対的な位置関係」は変わらない。捕まったまま、地面に叩きつけられる。

 

「はい、そこまでー」


隊長の気の抜けた声が響くと同時に、あれほど戦場を埋め尽くしていた光の兵士たちが、霧が晴れるように消えていった。

 

「……はぁ、はぁ……っ……」


俺は床に這いつくばったまま、荒い息を吐き出す。心臓の奥が、熱い鉄を流し込まれたように疼いている。

 

「ケンヤ君、周り見てなさすぎや。あと体もぎこちないし」


モニター越しの隊長の指摘に、俺は心の中で「ぎこちないのは昨日のあんたらの地獄特訓のせいだ!」と猛烈に文句を垂れた。だが、声に出す余裕すらない。

 

「ごめんね、ケンヤ君。でも、実戦だったら今の足首、へし折られてたよ」


小森さんが本物の彼女の位置から歩み寄り、手を差し伸べてくれた。1146pt。その数字以上に、彼女の「能力の使い方の年季」が、俺との圧倒的な差を見せつけていた。

 

「……わかってます。……一点に集中しすぎると、周りの情報の更新に脳が追いつかない」

 

「そうや。だから座学で『世界の捉え方』を変えろって言うたんや。……さて、休憩は終わりや。次は須藤と交代な」

 

「えっ、まだやるんですか……!?」

 

「当たり前やろ。お次は須藤の『回避訓練』や。今度は避けるだけやなくて、一発でええから須藤に一撃入れてみ。できんかったら、またお仕置きショックな☆」


隊長の軽いノリとは裏腹に、須藤が前に出た瞬間に場の空気が一変した。


アイアン・ジャッジ――『鉄血の執行官』の二つ名は伊達じゃない。彼が右手を掲げると、その周囲にボウル一杯分ほどの「水」が生成され、意志を持つかのようにいくつかの球体となって浮遊した。


「俺の能力は『混合水リキッド・ミクスド』。生成した水を、自在に別の液体へと性質変化させる」


須藤が静かに指を弾く。放たれた一滴が俺の足元に触れた瞬間、凄まじい爆鳴とともに火柱が上がった。

 

「なっ……!?」


「今のはニトログリセリンだ。次は、酸か、毒か、それともただの水か……着弾するまで判別は不可能だと思え。……いくぞ」

須藤の周囲に、さらに数十個の水球が展開される。

 

「ルールは小森の時と同じだ。俺に一撃入れろ。……ただし、俺の爆弾は小森の聖霊ほど優しくはないぞ」

 

「……本気で殺しにきてるじゃないか……!」


俺はボロボロの体に鞭を打ち、構え直した。3100ptのエネルギーが、外からの恐怖に反応して内側からドクドクと脈打ち始める。

 

「いくぞ、夕凪。――『十刻縮延』を、爆発の瞬間に合わせろ」


須藤の手から、無数の「死の液体」が容赦なく放たれた。

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