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カシラが瓦礫の山に手を突っ込み、半ば潰れた一挺の拳銃を無造作に引き抜いた。


奴はそれをこちらに向けると、狂気に満ちた薄笑いを浮かべ、引き金を引き絞る。

 

「巨大化しろ……そして速くなれ……!」


原子命令が、銃口から放たれた弾丸の構造を瞬時に書き換えた。


放たれた数発の鉛球は、空気を切り裂く摩擦熱で赤黒く発光しながら、物理法則を無視して膨張を開始する。

 

「……っ、なんだ、あれは……!」


一瞬で、弾丸は大型トラックほどの巨躯へと変貌した。それが拳銃の初速を遥かに超える、異次元の速度で俺に肉薄する。一発一発が、大砲どころか戦略爆撃にも匹敵する破壊の質量。


背後のビルが、かすめただけで一瞬にして粉砕された。飛来する衝撃波だけで肌が裂け、内臓が揺れる。


視界を埋め尽くすのは、巨大な鉄の塊の群れ。避ける場所などどこにもない。一発でも直撃すれば、3180ptの強化を受けた俺の肉体ですら、一瞬で赤い霧に変えられるだろう。

 

「はははは! 逃げてみろ! 踊ってみろガキィ!!」


カシラの咆哮が轟く中、巨大な弾丸が空気を圧縮し、真空の刃を作り出しながら俺の眼前に迫る。


時間は相変わらず加速している。だが、命令によって加速されたこの鉄塊は、俺の『十刻縮延』の世界ですら、確実に俺を殺す速度で動いていた。


迫りくるトラック大の弾丸を、俺は死に物狂いで迎撃していた。


『十刻縮延』を多用すれば、加速の負荷で肉体が崩壊し、動けなくなったところを蜂の巣にされる。もはや一歩も引けない極限状態。短剣を振るうたびに火花が散り、衝撃で両腕の感覚が麻痺していく。

 

「クソ……どうする……!」


視界を埋め尽くす鉄の塊。その絶望的な光景の向こう側、カシラの背後に「それ」が現れた。


【プレイヤー名:断罪のジャッジ・ウェイト

【保有ポイント:0pt】

能力]変波重力ポーラ・グラビティ


アウファーギブが遺した最後の作品。


糸が切れたはずのその死体人形は、主が最後に込めた執念の命令に従い、カシラの足元でその力を解放した。

 

「――グ、オォォッ!?」


カシラの咆哮が悲鳴に変わる。


ジャッジ・ウェイトが発動した『変波重力』は、カシラの周囲一帯を、地上ではあり得ない超重力の底へと叩き落とした。原子を操る支配者といえど、全方位から均等にかかる重力加速度までは無効化できない。


奴が立っていたビルは自重に耐えきれず、飴細工のように歪み、轟音を立てて崩壊していく。

 

「アウファー……お前、最後まで……」


アウファーギブは分かっていたんだ。

自分たちが逃げ切るためには、この「重り」を置いていくしかないことを。


自分を殺させたのは、俺に力を与えるためだけじゃない。俺に迷いを捨てさせ、確実に門まで走らせるための「最後の手向け」だった。


カシラが瓦礫の下に沈んでいく。奴の原子命令が弾丸から解かれ、巨大な鉄塊がただの鉛の塊に戻っていくのを見届け、俺は背を向けた。


走った。


能力は使わない。使えば二度と動けなくなる。

ただの人間として、肺を焼くような空気を吸い込み、泥臭く地面を蹴り続けた。


能力に頼らずに走るのがこれほど長く、苦しいものだなんて、忘れていた。

 

「……はぁ、はぁ、……っ!」


ついに、視界の先で西成を隔てる巨大な「門」が白く輝いた。


背後でカシラの怒声が聞こえた気がしたが、もう振り返らない。


一歩。最後の一歩を。


俺は全身の力を振り絞り、現実と地獄の境界線を飛び越えた。


境界線を飛び越えた先、そこは静寂に包まれた現実の街角だった。


だが、待っていたのは平穏ではない。

暗がりに佇む複数の影。その中心に、組織の紋章を背負った男たちが、まるで獲物が罠にかかるのを確信していたかのような冷徹な目で見下ろしていた。


「随分ボロボロになって逃げてきたな、『歪んだ加速』。手を貸そうか?」


一歩前に出たのは、門の前に立っていた男だった。

 

【プレイヤー名:鉄血の執行官アイアン・ジャッジ

 

 差し出されたその手は、救いの手などではない。

 

「アイギスに入れ」――。


逆らえばこの場で、3180ptを抱えたまま動けない自分を「回収」するという、無言の脅迫だった。

 

「……アイギス……」


俺は地面に膝をついたまま、その手を見つめた。

西成を支配していたカシラ。そして、俺を逃がすために散っていったアウファーギブ。


地獄から這い上がってきたばかりの俺の前に、今度は「秩序」という名の別の牢獄が立ちはだかっている。

 

「お前が中で手に入れたそのポイント、そして君自身の価値……我々は正当に評価する。無駄死にした仲間の二の舞になりたくはないだろう?」


アイアン・ジャッジの言葉が、アウファーギブを失ったばかりの傷口に泥を塗り込むように響く。


俺は重い頭を上げ、アイギスの面々を睨みつけた。

全身の筋肉は断裂し、指一本動かすのも億劫だ。だが、体の中に渦巻く3180ptの残光が、まだ俺の魂を燃やし続けている。

 

「心配するな、もうすぐ隊長が来る」


アイアン・ジャッジの言葉は、確信に満ちていた。


門の向こう側では、いまだに地響きが鳴り止まない。カシラが『原子命令』を絶叫し、ジャッジ・ウェイトの超重力を力ずくでねじ伏せようともがいている狂気の残響。


だが、アイギスの面々の顔に焦りは微塵もなかった。


あのカシラを、西成の支配者を、まるで「片付けを待つだけのゴミ」のように切り捨てるその余裕。それは、これから現れる「隊長」への絶対的な信頼からくるものだった。

 

「……隊長……?」


俺は荒い息を吐きながら、アイアン・ジャッジを見上げた。

3606ptを持つカシラを「敵じゃない」と断じる存在。それは、この狂ったゲームの序列を根底から覆すほどの「力」を意味している。

 

「そうだ。お前が戦っていた男など、秩序の前では塵に等しい。……さあ、賢い選択をしろ。隊長が到着する前に、我々の保護下に入るんだ」


アイアン・ジャッジが再び、無機質な手を差し伸べる。

背後の暗がりからは、さらに数人のアイギス隊員たちが包囲網を狭めてくる。


逃げ場はない。


門の向こうには、死にかけだが執念深い怪物が。

目の前には、圧倒的な組織力と謎の「隊長」を擁する、冷徹な秩序が。


アウファーギブから託された3180ptが、警告を発するように俺の全身で熱く脈動した。このポイントを、再び誰かの「道具」として差し出すのか。それとも――。

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