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入り口

新幹線に乗り、大阪に向かっている中、俺は窓から外の景色を眺めていた。


「相手から見たら、俺はあんな風に見えてるのか…」

残像も見えるほどの高速で横切るビルの数々、静かなひと時もこれで最後と言う気持ちでアイスを食す。


「硬…」

アイスはキンキンでスプーンすら入らなかった。


「次は〜新大阪〜新大阪です。」

もうすぐだ…俺は短剣を鞄の中で握りしめながらも外を眺める。

すると突然、新幹線の車体がひしゃげ、鉄の焼ける臭いと悲鳴が混ざり合う。ビルに突っ込んだ衝撃で視界がチカチカするが、俺の体はすでに『十刻縮延』の余波で守られていた。


「……10億、?」

耳鳴りの向こうで聞こえた、あの男の叫び。

茶髪の半グレ――34ポイント程度の雑魚が、なぜ命を捨ててまで俺に挑んできたのか。その答えが「懸賞金」にあることに、俺はまだ気づいていない。


【プレイヤー名:なし】

【保有ポイント:34pt】

【能力:磁力(マグネット)

 

「死ねぇッ!」

男の咆哮とともに、引き裂かれたレールが巨大な槍となって、俺の眉間に向けて一点集中で飛来する。磁力による単純な物理攻撃。

 

「……遅すぎる」

俺は溜息をつきながら、ゆっくりと一歩踏み出した。

加速した世界では、飛来するレールは空中で止まっている巨大なオブジェに過ぎない。俺はその間をすり抜け、磁力に酔いしれている男の背後に音もなく立った。

 

「あ……? どこに……」

男が周囲を見渡そうと首を動かす。だが、その動きが完遂される前に、俺の『時空断刃』がその喉元を通り過ぎていた。

 

「――が、っ」

言葉にならない音が漏れ、男の体が崩れ落ちる。

磁力の拘束を失ったレールが、激しい音を立てて周囲の瓦礫に突き刺さった。


【プレイヤーを撃破。ポイントの移動を開始します】

【現在所持ポイント:1446pt】


「……おかしい」

俺は崩壊した新幹線の残骸に足をかけ、静かに周囲を警戒した。


俺が大阪に向かっていること。俺の首に法外な価値がついていること。

新幹線という密閉空間で、正確に俺の車両を狙い撃ちしたこと。


「……情報が漏れてる。それも、リアルタイムで」

どこかに「目」がある。カシラか、あるいは運営か。

 

「だったら、新幹線なんてまだるっこしい乗り物はもういらないな」

眼下には、遠く霞む大阪の街並み。

新幹線の速度さえも、今の俺にとっては「鈍亀」だ。

 

「……走ったほうが、早い」

地面を蹴った衝撃でアスファルトが爆発し、俺の体は音速の壁を突き破った。

西成。そこに行けば、この「違和感」の正体がわかるはずだ。

俺は走った、走っている感覚が分からなくなるまで走った。

そして西成区近くまで来たらとんでもない物を見た。

 

「なんだ……ありゃ……」

呆然と見上げる視界の先、高さ30メートルはあろうかという巨大な防壁が、西成区を円状に完全に隔離していた。

重機で急造されたにしてはあまりに精密で、表面には微かに電流のような紫の火花が走っていて、中では銃声や建物が壊れる様な雑音が聞こえる。

 

「……指定異能者特別自治区。文字通り、国が切り捨てた場所か」

壁に沿って歩を進めると、重厚な鉄扉と、それを守る武装集団の姿が見えてきた。

そこは、単なる警察の検問ではない。

【対異能特殊部隊:アイギス】

白を基調としたタクティカルスーツに身を包み、洗練された動きで周囲を警戒する男たち。その中央には、一際異質なオーラを放つ男が椅子に深く腰掛けていた。


【プレイヤー名:鉄血の執行官アイアン・ジャッジ

【保有ポイント:890pt】

【能力:混合水リキッド・ミクスド


「……800超え。アイギスの精鋭か」

俺が物陰から観察していると、検問を通過しようとした一人の男性が、アイギスの隊員に取り押さえられるのが見えた。

 

「頼む! 通してくれ! 中に弟がいるんだ!」

 

「……自治区内への立ち入りは、許可証保持者または、プレイヤーに限られる」

執行官と呼ばれた男が、感情の欠片もない声で告げる。

 

「お前がプレイヤーだとしても、中にいる理性を失ったモンスターに勝てるわけがない、弟も同じ目に合っているさ。」

男性は生きる希望を無くしたかの様な目をしてその場を立ち去った。

 

「……プレイヤーなら、通れるってわけか」

俺は、隠れるのをやめた。

今さらコソコソしたところで無駄だ。それに、今の俺には「門」を叩き壊して入るだけの力がある。

俺はゆっくりと、アイギスの検問の真っ正面へと歩み出た。

 

「――止まれ。それ以上近づけば、射殺許可が下りる」

隊員たちが一斉に銃口を向ける。だが、執行官の男だけは、銃口を下すよう命令し「1446pt」という異常な数字を聞いて、ゆっくりと立ち上がった。


「……ほう。噂の『歪んだ加速』か。10億の賞金首が、自ら首を差し出しに来るとはな」

ここで俺は初めて賞金が掛けられていることを知った。


「10億……? 何かの冗談ですか?」

俺の口から出たのは、困惑を通り越した乾いた問いだった。

俺の命に、そんな馬鹿げた値札がつけられている。しかも、それを大阪のカシラが全プレイヤーに吹聴している。

 

「冗談なものか。大阪を統べるカシラ自らの指名手配だ。今や西成にいる狂犬どもは、お前の首を獲って『人生上がり』にする夢しか見ていない」

『鉄血の執行官アイアン・ジャッジ』が、椅子から立ち上がる。

男が手をかざすと、周囲の空気中の水分が急速に凝縮され、どろりとした銀色の液体へと変質した。それは水でも油でもない、不気味に脈動する未知の液体だ。

 

【能力:混合水リキッド・ミクスド

 

「……ここから先は、プレイヤーとしての地獄ではない。ポイントに目が眩んだ数千人の『狩人』が待ち構える、純粋な屠殺場だ」

執行官の周囲に浮かぶ液体が、鋭い針のような形状に変化し、俺の喉元へ向けられる。アイギスの隊員たちは、引き金に指をかけたまま微動だにしない。

 

「お前ほどの実力者が中に入れば、自治区のパワーバランスは崩壊する。……アイギスとしては、ここでその首を預かっておきたいところだがな」

執行官の目が、値踏みするように俺を射抜く。

俺は短剣の柄にそっと手をかけた。

 

「……10億か。安く見られたもんだな」

俺の脳内では、すでに『十刻縮延』の準備ができている。

寿命を半分削り、時間を歪める力を手に入れた俺を、ただの「賞金稼ぎの標的」として扱われるのは、虫唾が走る。

 

「どけよ。中に入るのが条件なら、さっさと開けろ。……それとも、その『水』でお前の血を薄めてやりたいのか?」

一触即発の空気。

西成の巨大な壁の向こうから、何かが爆発するような振動と、人間とは思えない咆哮が微かに漏れ聞こえてくる。

 

「……いいだろう。死に急ぐのも自由だ」

執行官が合図を送ると、30メートルの鉄扉が重苦しい音を立てて開き始めた。

隙間から溢れ出してきたのは、えた臭いと、濃厚な殺意。

「行け、10億。……お前が西成でどんな『化け物』に成るか、特等席で見物させてもらう」

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