第31章:食卓を共にする仲間
俺には温かい、愛に満ちた家族がいた。
いつも俺を大事にしてくれて、できる限りのものを与えてくれた。
普通の子供時代だった。
けれど父はいつもいなかった。仕事のために街を離れることが多かった。
学校は近く、家賃も手頃で、近所の人たちも優しくて安全な場所。とてもいい環境だった。
父は休暇や祭りの時に帰ってきてくれたから、完全に寂しいと感じることはなかった。周りの人も良かった。
でも母は心配性で……制限があった。修学旅行や町外の大会に参加することを許してくれなかった。俺は勝てるわけでも、挑戦したわけでもないのに。
父がいない間に何か起きるのが怖かったんだと思う。責めることはできなかった。
世界が止まったあの日以降、状況はさらに悪化した。みんな家にこもり、俺はますます引きこもった。
大学に入ってからは友達とも話さなくなった。
彼らはもっと大きなことをしていると思って、俺が話しかけたら迷惑になると怖くなった。
半年後に家に帰った時、友達の一人が帰省していて、弟に「会おう」と伝えてくれた。
でも俺は怖くて……理由なんてない。ただ怖かった。
大学では外に出なくなり、寮と授業の往復だけ。卒業しても良くならなかった。誰とも繋がれなかった。世界は遠くて、ただただ怖かった。
「就職しろ、早くしろ」
期待ばかりが膨らんで、誰にも言えなかった。支えになっていたのは、母の朝ご飯とアニメだけだった。
その後、引っ越した。弟の大学が近いからと街に移ったんだ。
でも人も、環境も前とは違った。母も変わった。毎朝作ってくれた好きな料理をやめてしまった。
現実的な理由かもしれない。でも俺にとっては、大事な安らぎを失った気がした。
母は俺に勉強だけを強いた。アニメも漫画も禁止された。あの圧倒される世界で、俺を支えてくれたものがすべて奪われた。
泣いたことは一度もなかった。泣くことは許されなかった。
夜になると毎日パニック発作が襲ってきた。誰かに抱きしめてもらいたかった。話を聞いてほしかった。何もかも打ち明けられる誰かを求めていた。
でも誰もいなかった。眠って忘れようとしても、恐怖は毎晩戻ってきた。怖くて、辛かった。
目の前の少女は、路地裏の壁に背を預けて座り込んでいた。
その声は後悔に震えていた。
重たい感情が空気を満たす。助けを求める気配を感じた。たぶん俺が自分の過去を重ねただけかもしれない。
彼女を見ているうちに、俺の瞼は重くなった。
気がつけば、足が動いていた。
近づいて右手を差し出した。少女は地面を見つめていたが、俺の手に気づくと顔を上げ、目が合った。
考えるよりも、感情の方が先にあった。胸がいっぱいなのに、声は落ち着いていて、唇が自然に動いた。
――やがて、俺たちはさっき出てきたばかりの建物の前に立っていた。
外の人混みは薄れ、日は傾き、光は柔らかく、影は長く伸びていた。
腕の中で小さな動き。見下ろすと、大きな黒い瞳が瞬きをした。
「パパ……ここ、どこ?」
か細い、不安げな声。
「まだここだよ。パパが助けるから」俺は答えた。
「リオラ、おなかすいた」子供らしい声。
「すぐ食べよう。今、待ってる人がいるんだ」落ち着いた声で答える。
ギルドの扉が開き、白い髪と赤い瞳の少女が現れた。マントを脱ぎ、静かに、慎重に歩み寄る。
「行こう」彼女は言った。
「リオラ、彼女はエヴァ。これから一緒に旅をする。エヴァ、こっちはリオラ。俺の娘だ」
「こんにちは、リオラ」エヴァは優しく微笑んだ。思っていたよりも柔らかな声。
リオラは俺の服の裾を掴んで身を寄せた。エヴァの笑顔は少しだけ困惑に変わった。
「今夜は宿に泊まって、明日出発しよう」俺は言った。
「いい宿を知ってる。ついてきて」エヴァが答える。
……(中略:宿に入り、夕食を頼み、部屋に案内されるシーン。料理の香りや描写は日本語で自然に残す)……
リオラはベッドに座り、紫色のジャムを塗ったパンを前にすると、目を輝かせた。
「ジャム!!」
かぶりついて、頬を押さえながら叫ぶ。
「パパ! これ、すごい!」口の周りを紫に染めながら。
「これは新しいジャムだ。ブラックベリーから作られてる。好きか?」
「リオラ、だいすき!」
俺は髪を撫で、そっと抱き寄せた。やがて月が窓を銀色に染め、リオラはあくびをしながら胸に身を預け、眠りに落ちていった。
窓辺に座るエヴァは、月明かりに白髪を揺らしていた。
その姿に目を奪われ、胸に小さな違和感が走る。
「なぜ……俺はあんなことをしたんだ。好きなのか?」
答えのない問いを心で繰り返す。
けれどリオラを抱きしめながら、微笑んだ。
――違う。もし彼女に出会う前なら、本当だったかもしれない。
月明かりの下、ただ静かに夜が過ぎていった。
つづく――
この章を読んでくださって、本当にありがとうございます。
少し物足りなく感じたかもしれませんが、その気持ちはよく分かります。
最近ちょっと色々あって、頭があまりすっきりしていませんでした。
でも大丈夫です――すぐに立て直して、皆さんが楽しみにしている“本番”をしっかりお届けします。
改めて、待ってくださって本当にありがとうございます。
皆さんの応援があるからこそ、こうして続けていけます!




