第30章:氷と血のかけら
私は冒険者ギルドの広間に立っていた。
周囲では人々が話し、低いざわめき、ブーツのきしむ音、時折の金属音が響いていた。
目の前には一組の冒険者パーティが立っている。
二十代前半の青年――金髪を実用的に短く刈り、筋肉質な体を磨かれた鎧が包んでいる。背には剣を負い、まるで作られたかのような勇ましさを漂わせていた。顎を少し上げたその姿は、典型的なアニメの主人公そのものだった。
その右側には、壁のように大きな男が立っていた。短く刈られた茶髪、傷だらけの重い鎧、背には大盾。顔には穏やかな落ち着きがあり、鉄と古き義務の匂いを漂わせる静かな自信をまとっていた。
さらにその隣には、風のように軽やかなエルフの女――緑の革鎧を身に着け、弓矢を背負っている。金髪を後ろに結い、無表情で苛立ちを隠さず、沈黙のまま全てを観察していた。
金髪の青年の隣には黒髪の魔法使い。白いローブに金糸の模様が入り、杖の先には紋章が彫られている。注目を浴びることに慣れきった誇り高さがその立ち居振る舞いに現れていた。
そして最後に、入口の影に立つ少女――先ほど通りで見かけた少女。長く落ちる黒髪、瞳は私と同じ血のような赤。臙脂色のローブで顔を隠し、鋭い刃のような視線で私を射抜いていた。
「話ができるか?」金髪の青年が礼儀正しく問いかけてきた。
『セバス、彼らのステータスを調べて、誰か私を脅かせる者がいるか報告してくれ。』
[ 承知しました、マスター。 ]
「驚かないでくれ。ただ話がしたいだけだ。」青年は笑みを浮かべたが、その声には慎重さが混じっていた。
「俺はルシアン――“光の勇者”だ。大男は帝国騎士のローランド。こちらは友人で魔導士のヴァレン。そして彼女はシルヴァラ、エルフ王国から来た弓使い。そして後ろにいるのがアリス――数ヶ月前にギルドで出会った暗殺者だ。」
『ようやく核心に入るか。』私は心の中で苛立ちを覚えた。
「君の才能は素晴らしい。二属性を無詠唱で扱える者は稀だ。ヴァレンは火と水を操れるが――」ルシアンは友人に目をやった。「無詠唱で同時に扱うことはできない。」
「それでも高位魔法を容易く扱えるんだがな。」ヴァレンは誇らしげに笑った。
「そうだな。彼は王国でも屈指の魔導士で、背中を預けられる仲間だ。」ルシアンは尊敬を込めて言った。
「要件は?」私は平坦に尋ねた。
[ 報告完了しました、マスター。 ]
『後で聞く。』私は会話を早く切り上げたかった。
「単刀直入に言おう。」ルシアンは真剣な顔つきになった。「俺たちと一緒に来てくれ。今、魔王国への攻撃を準備している。君の力があれば前線を大きく支えられる。」
『やはりな。』胸の奥に苛立ちが募った。
「興味はない。」冷たく言い放ち、出口へ向かった。
「待ってくれ!」ルシアンが声を上げた。
さらに叫んだ。「君には偉大な才能がある。なぜそれを弱き者を守るために使わない?人々を助けるべきだ!」
私は足を止めた。
『こういう正義を押し付けてくる連中が一番嫌いだ。』
「それはお前の願いであって、俺のではない。仮に同意したとして、戦っている間、娘の安全を保障できるのか?」私は静かに、しかし鋭く問いかけた。
「そ、それは――」ルシアンは答えようとした。
「その言葉に命を懸けられるのか?娘の命を賭けてまで。」私は怒りを抑えきれず吐き捨てた。
場の空気が張り詰める。
「大勢と一緒にいる方が安全だ。」ヴァレンが自信ありげに言った。
「魔導士は賢いものだと思っていたが……王国の魔導士はそこまで愚かだったのか。」私は低く言い放った。
「な、なんだと!?」ヴァレンが声を荒げた。
「数が全てか?夜襲はどうする?英雄の家族を狙う犯罪者は?名を広めれば広めるほど、危険を呼び込むんだ。どう守る?」私の声は鋭く響き渡った。
ヴァレンは言葉を失った。
シルヴァラが苛立ちを見せる。「私たちは常に見張りを立てている。危険を察知すれば対処できる。」
「相手が二十人なら?五十人なら?夜ごと襲われ続けたら?いずれ疲弊し、誰かが死ぬ。それが現実だ。」
「そ、それは仮定に過ぎ――」ルシアンが言いかけた。
「世界がそんなに優しいと思うな。俺はもう終わりだ。」背を向け歩き出した。
「待ってくれ!」ルシアンが伸ばそうとした手を遮る声が響いた。
「やめろ、ルシアン。もう十分だ。」低く落ち着いた声――ローランドだった。「自分の正義を他人に押し付けるな。」
私は少しだけ安堵した。
ギルドを出ると、街の喧騒と陽射しが押し寄せた。リオラが胸に顔を埋め、小さく息をして眠っている。
「セバス、報告を。」
[ あの人物は間違いなく“勇者”です。複数の範囲強化スキルと近接戦闘能力を持ち、武器は“悪魔の防御を貫通する真のダメージ”を与えます。 ]
『悪魔限定で助かった。正義に狂った人間相手に試したくはない。』
[ 騎士は強力な範囲挑発と防御強化能力を持ち、戦術眼も備えており、戦場指揮に向いています。 ]
[ 魔導士は防御結界、耐性強化、高火力魔法のバランス型。 ]
[ 弓使いは精密射撃と探知能力に優れ、単体に致命的、範囲攻撃も中程度に所持。 ]
『皆優秀だな。実際の戦闘では騎士が指揮を執っているのだろう。』
[ 先ほどの少女について。正体を隠しています。真名は“エヴァンジェリン・フォン・ブラッドローズ”。血の貴族の末裔であり、吸血鬼。血液操作の魔法を使います。 ]
『吸血鬼……?』
「待って!」声がして振り返ると、先ほどの少女が立っていた。白いシャツに革ズボン、普通に見せようとしているが隠しきれない気配。
「話があるの。」
「もうパーティに加わる気はない。」
「そのことじゃないの。」彼女は急いで言った。
「なら何だ?」
「わ、分からないの? 私と同じなのよ。」そう言って彼女はフードを下ろした。すると黒髪がゆっくりと白へと変わっていく――夜に霜が降りるように。
「ブラッドローズ家を滅ぼした者たちの情報を持っている。伝えなきゃいけない。でも、誰も見つけられなかった。」声が震えていた。
「意味が分からない。」
「き、牙がないの?」
「俺はお前の思っている者じゃない。」
「でも髪も目も同じ……!」彼女は混乱していた。
『白髪と赤目は吸血鬼特有か?』
[ 確証はありません。長命で姿を偽るため、特徴だけで断定はできません。 ]
彼女は力なく肩を落とした。「やっと希望を見つけたと思ったのに……」
「俺は何者でもいい。だが仲間になる気はない。ここで別れる。」
「彼らには言わないで……」彼女は弱々しく言った。
「口封じもせずか?」
「無理よ。さっき触れようとした時、弾かれた。血の魔法を使えば帝国の魔導士に感知される……」
鼓動が速くなる。狭い路地の空気が重く、遠くの街の音が遠ざかる。胸の奥に、古い空洞が広がっていった。
『……希望なんて、ない。』
『暗闇の中で光を求めても、誰も来ない夜を思い出す。』
『なぜ今になって、あの夜を思い出すんだ……』
胸の奥に冷たい絶望が広がっていった。
――つづく。
すみません、今回も更新が遅くなってしまいました!
昨日は試験があって、そのあと雨に降られてしまい、今日は高熱で寝込んでしまいました……。残念ながら、別の試験まで受けられずに終わってしまいました。
それでも、この物語を楽しんでいただけていると嬉しいです。皆さんの感想やご意見は本当に励みになるので、ぜひ教えてください。
読んでくださって、そして応援してくださって、本当にありがとうございます!




