第29章:冒険者ギルド
群衆が背後で動いている。
頭上には太陽。
道端に立ち、目の前の大きな建物を見上げる。
そこにあったのは、中世の酒場のような建物──二階建てで、扉の上には大きな木の看板に「ADVENTURER GUILD」と書かれていた。
『読むことはできるけど、書けるのか? アニメで自動的に文字を書けるやつを見たことあるけど……』と思い、試していないことに気づいた。
【ご主人様、書くことはできません。このスキルは聞いたり読んだりする言葉を翻訳するだけです。書くことは学ぶ必要があります】
「はあ……やっぱりな」
扉を押し開けると、広々としたホールに出た。
両脇にはテーブルと椅子。人々が低い声で話し込み、鎧の鈍い音やブーツの重い足音、椅子の擦れる音が響いている。食事している人はいない──ここは契約や話し合いの場であり、食堂ではなかった。
『ここでは食事を出さないのか? いや、酒場や宿で出すんだったな。じゃあ、この椅子と机は何のために……?』と考える。
【依頼の詳細を話し合ったり、待機するためです】
『……確かにそうだな。長い間外に出てなかったから、普通のことを忘れかけてるかもしれない』と苦笑した。
ホールは人で賑わっていたが、息苦しくはなかった。高い窓から差し込む光に、埃が舞っている。革と鉄の匂い、そしてほんのり薬草の香りが混じっていた。
巨躯の戦士たちが剣を背負い、革のズボンと重いブーツで堂々と座っている。ステータスを確認すると「ウォリアー」──筋肉と傷跡がそのまま戦歴を語っていた。
同じく大柄だが重厚な鎧をまとった男は「ガーディアン」。スキル欄は盾、挑発、防御の言葉で埋め尽くされていた。
隅の暗がりには「アサシン」。痩せた体格に軽装、気配すら薄い。
ホール奥の受付カウンターに歩み寄る。
「ようこそ冒険者ギルドへ。私は受付のミアです。登録をご希望ですか?」
茶色の長髪に優しい瞳の女性が、慣れた調子で微笑んだ。
彼女は腕の中のリオラを見て「失礼しました。依頼を出されるのですか?」と続けた。
「依頼を受けるには、まず内容を伺い、報酬をお預かりします。依頼完了後は、依頼者様の承認で報酬が渡されます」
「冒険者として登録したい」声を抑え、短く告げた。
『礼儀正しくて、しかも女性……途中で口を挟むのが難しい……』と内心で苦笑する。
「そうでしたか。失礼しました。高ランクから始める試験を受けますか? それとも最下級から?」
『通行料免除と素材売却のためにカードが欲しいだけだ。最下級で十分だ』
「最下級からで」
「承知しました。登録料は銀貨二枚です」
支払いを済ませると、彼女は用紙と羽ペンを取り出した。
「字は書けますか?」
「書けない」
「では質問に答えてください。……お名前は?」
「ゼロ」
「職業は?」
「魔術師」
「得意属性は?」
「風と水」
「……二属性持ちですか!」ミアの目が見開かれる。
その瞬間、ホールの空気が変わった。
「勧誘しようぜ」
「二属性だと!?」
「リーダー呼べ!」
ざわめきが広がる。
「最下級からで。危険な依頼は受けられない。娘がいるから」
空気が一気に静まった。
「……勿体ねぇ」
「隠してるな」
「まあ、見てりゃわかる」
受付嬢が確認のため言った。
「魔法を見せていただけますか? 掌の上に水球と風球を」
ホールが息を潜める。
掌に水の球を生み出す。詠唱なし。空気がざわめく。
その水に風を纏わせ、熱を奪い、一瞬で凍り付かせた。透明な氷が光を反射して輝く。
『氷も作れるのか。かき氷にでもしてみるか』と心の中で笑った。
「詠唱なしで、しかも二属性同時に……?」
「英雄か?」
「塔の所属か?」
「いや違うだろ」
俺は即席で身の上話を作った。子どもの頃に魔術師に拾われ、弟子として育てられた──という話。
「二十年修行すればあり得る」
「才能があればな」
「でもやっぱり勿体ねぇ」
受付嬢が登録を進める。黒い魔導具に手を置き、魔力を流す。青い光が広がり、銅色のカードが吐き出された。
「Fランク冒険者として登録完了です」
カードには名前と職業、階級が刻まれていた。
彼女が説明する。
「二週間依頼を受けなければ資格剥奪です。再登録には罰金が必要になります。昇格は依頼達成数によって可能です。FからSまで、さらにその上には“伝説”があります」
ギルド内に静かな敬意が流れる。
「覚えてるか? レオのこと」
「村人を守るために双頭オークと戦った英雄だ」
「盾を持つ腕が砕けても立ち続けた」
語られる英雄譚に、俺は『すごい奴もいるもんだな』と胸を熱くした。
受付嬢は続ける。
「依頼は掲示板から選ぶか、私に声をかけてください」
「依頼をください」
渡されたのは薬草採取の簡単な依頼だった。
メモを懐に入れたところで、数人の冒険者が俺の前に立ちはだかった。
──つづく。
ごめんなさい、今回の章は遅れてしまいました!
今日は母の手伝いで重い物を運んでいて、すぐに疲れてしまったんです(僕は全然力持ちでもジム通いするタイプでもないので)。
それでも読んでくださって、本当にありがとうございます。お待ちいただいたことに心から感謝しています!




