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第27章:リオラの小さなよろこび

草の香りがまだリオラの服に残っていた。道の先には目的地があるはずなのに、周りの世界は静かに動いていた――葉のかすかな揺れと、遠くで響く虫の音だけが耳に届く。


『彼ら(影狼たち)を一緒に連れて行きたかった。リオラも遊べて楽しいだろうし、いろんな場面で役に立つ。でも……穏やかな暮らしでは彼らは経験を積めない。俺がいなくなった後、リオラを守れるくらい強くなってほしい。今のままじゃ到底足りない。』そう思い、決断を肯定した。


顔を横に向けると、リオラは腕の中で幸せそうにパフェを食べていた。


『そういえばセバス、どうしてプラスチックのカップなんてあるんだ? ショップに売ってるのか?』と尋ねる。


【 いいえ、マスター。インベントリにあった廃棄プラスチックを再利用して作りました。】


『なるほど、ゴミの有効活用か。しかも見た目も悪くない。』思わず感心した。


【 お褒めいただき光栄です、マスター。】


木々の枝は聖堂の肋骨のように絡み合い、木漏れ日を落としていた。


『目的地までどれくらいかかるかな……』胸にわずかな期待を抱きながら歩を進める。


やがて道は浅い川へと開けた。太陽は真上に昇り、川は光に散らされた斑点で煌めいている。水は澄み、冷たい風が川石と藻の香りを運んできた。


『新鮮そうな水だ。音と冷気を頼りに来て正解だったな。』


リオラが身を乗り出す。目がきらきらしていた。

「リオラ、水で遊びたい?」と尋ねる。


『セバス、シャンプーとコンディショナー、それに石けんを買ってくれ。』


【 承知しました。すでにインベントリに追加済みです。】


『よし、旅を続ける前にひとっ風呂浴びるか。』


リオラは首をかしげて「パパ、すうぅはどこ?」と不思議そうに聞いた。


「すう?」意味がわからない。

「リオラ、何のこと?」


「すうぅ。リオラがすうぅって水にいくの!」と身振り手振りで必死に説明してくる。


『すうぅ……すう? ……あ! スライドか!』


手を掲げると、大地が応じて2メートルの土台がせり上がり、その上から川へ向かってなだらかな滑り台が伸びた。


「すうぅぅぅ!」リオラは大はしゃぎ。


「これは“すべり台”っていうんだよ。」

「すわいど?」

「そう、スライド。さぁ、遊ぼう。」


ふたりで水に滑り込み、冷たさに笑い声をあげた。川の香りは苔と石の清涼。


浅瀬でリオラを小さな椅子に座らせ、俺はシャンプーを手に取った。

「髪を洗おうね。目を閉じてて。」

「おかーい。」


水をすくって頭に流す。泡が真珠のように弾け、リオラの指が小さな泡を追いかける。

「遊んでいいけど、動きすぎないでね。」

「はぁい!」


洗い流すと月光のように泡が消えた。続けてコンディショナー、そして石けん。香りはレモンと松葉の清涼な調べ。


『いい香りだな。セバス、やるじゃないか。』


午後、日差しが傾く頃にはリオラも眠気に負け、膝の上ですやすや眠った。

『ここで休憩だな……』


時が流れ、空が黄金に染まった頃。

「リオラ、起きないと夜眠れなくなるぞ。」頬をつつくと、リオラは小さく笑った。


その時、目の前に青い画面が浮かぶ。

【 ハッピーバースデー、マスター 】


『は? どういう意味だセバス。』

【 本日、地球換算で8月14日です。留守の間にささやかな宴を用意しました。】


驚きながらも席に着くと、料理が次々に現れた。肉料理、果物、そして中央にケーキ。蝋燭はなく、代わりに小さな炎がふわふわと浮かんでいる。


『ケーキか……昔は家で小さく祝ったな……大人になってからはどうでもよくなってたが……意外と嬉しいもんだな。』


リオラは炎を見つめていた。

「パパ、あれなぁに?」

「ケーキだよ。」

「けーき?」

「甘くておいしいんだ。ジャムみたいにね。」

「リオラのはいつ?」

「まだ少し先だよ。」


「でもこれはパパの……」

『欲しくても人のものは取らないか。偉い子だ。』

「一緒に吹き消そう。」

「……おかーい!」


ふたりで息を吹きかけ、炎は舞い散る蛍のように消えた。


「けーき、おいしぃ!」リオラははしゃいだ。


食事の終わり、片付けをしていると草むらが揺れた。


現れたのはフードを被った若い男。革のズボンに金属の杖を持ち、疲れた声で言った。

「すみません、食べ物を少し分けてくれませんか? 代金は払います。」


空気は張り詰め、緊張の糸が震えた――。


つづく

本当は8月14日に出したかったのですが、話の進行が間に合いませんでした。今は静かな展開ですが、リオラの小さな日常を飛ばす気にはなれません。この章ももうすぐ終わり、動きのある展開になります。

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