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第25章:村の静かな叫び

男は自らを名乗った。

紅蓮の狩人クリムゾン・ハンター

そのステータスを見た瞬間、俺は理解した――その異名は彼の赤い上着のせいではない。


『……この数値は狂ってるな。それに「血に塗れれば塗れるほど回復し、強くなる」ってどういう意味だよ。』

英雄だけでなく、この世界の人々自身も壊れたような恐ろしいスキルを持っているのだと、背筋が冷えた。


【 多くはありません、マスター。ただし、少なからぬ者が英雄と正面から渡り合える――あるいは凌駕できる――世界なのです。 】


『……まあ、そりゃそうだな。バカじゃない限り、無作為に選んだ一人を最強にしたりはしない。』

頭の中で欠けていたピースが、ようやくはまり始めていた。


[...]


『……ん? セバス、何か言いたいことでもあるのか?』


【 いえ、マスター。 】


『そうか。』

俺は気にも留めず肩をすくめた。


ヌクスはリオラの前に歩み寄った。

崩れた礼拝堂には埃と古い香の匂いが満ち、砕けたステンドグラスから差し込む夕陽が漂う塵を煌めかせていた。

彼の声は驚くほど優しく、子供へと向けられた。

「ジョンのことを覚えているかい、小さな娘よ?」


リオラは首をかしげ、俺の顔を見上げる。


『……俺に聞くなよ。』

内心たじろぎながら、彼の言葉をかみ砕いて伝えた。

「……あのね、祈りを教えてくれた人のことを聞いてるんだよ。」


リオラは幼い額に皺を寄せ、不思議そうに答えた。

「スワン、ミスター?」


『……サン?』

俺は首をひねった。


「どういう意味だ、リオラ?」


「スワン・ミスターは、スワン・ミスターなの。」


『意味が分からん……セバス、助けてくれ。』


【 マスター、一つの解釈をご提案します。】

【 おそらく“聖なる光”――後光のことかと。】

【 教皇や使徒が神聖視された際、人々はその背に光輪を見たと語ることがあります。】


『……そういうことか。だが、もしジョンがそんなに強かったのなら、教会はどれだけの兵を連れてきた?』


そう思った瞬間、ヌクスが突如として爆笑した。

崩れた石壁に笑い声が反響し、静寂を打ち破った。

「バハハハハ――ッ!!!」

彼は腹を抱え、膝を叩きながら涙を浮かべて笑い転げる。


『……何があったんだ?』


ようやく呼吸を整えた彼は、顔を拭いながら言った。

「……悪い。久々にこんなに笑ったよ。」

そしてこちらを見て grin しながら答えた。

「太陽のことを言ってるのは――ジョンが禿げてたからさ。」


『……は?』

俺の中のイメージが一瞬で変わった。

光を反射する頭を、リオラが“太陽”と呼んだのだ。


『……まあ、納得だな。』


「どんな見た目だったんだ?」俺は訊ねた。


「……禿げ頭に、立派な髭。筋骨隆々――生涯鍛え続けてた男さ。それだけだ。」

ヌクスの声は懐かしさで柔らかくなった。


俺の脳裏には、地球で見た“髭面の優しい父親”の映像が重なる。偏見かもしれないが、妙にしっくりきた。


礼拝堂の冷たい空気。外からは烏の鳴き声。

それらと対照的に、ここには温かな時間が流れていた。


『……リオラに聞くべきか? 襲撃のとき何を見たのか――どうやって生き延びたのか。』

だが俺は拳を握った。

『……いや、好奇心で傷を抉るわけにはいかない。』


「……どうやって教会は虐殺を正当化したんです? 犠牲だと? 子供は傷つけなかったと?」

俺は低く問いかけた。


ヌクスの顔から笑みが消え、重い声が落ちた。

「……子供が無事だったなんて、一度も言ってない。」


彼は語り始めた――少年が森で摘みに出かけ、翌朝戻らなかったこと。

村人と探したが見つからず、教会に戻ると、その少年の死体が女神像の前に横たわっていたこと。

ジョンが癒そうと祈った瞬間、ノルヴァラからの聖騎士たちが乱入し、“悪魔崇拝”の罪を宣告したこと。


……そして後日、教会が正式な許可を得て村を“粛清”したこと。

家は焼かれ、人々は処刑され、証人は誰一人残らなかった。


ヌクスの声は怒りと悔恨で震えていた。

「……戻ったとき、村は灰と鉄の匂いだけだった。」


俺の胸の奥で熱が燃え広がる。

『……リオラに訊く必要なんてない。アデッサ教会も、ノルヴァラも――必ず滅ぼす。』


ヌクスは立ち上がり、「ついて来い」と言った。


……その後、丘を越えて並ぶ無数の墓を見た。

ヌクスは二日かけて自ら遺体を埋葬したと語った。

そして彼は時折ここを訪れ、友と人々に祈りを捧げていると。


俺には何もできず、ただ耳を傾けるしかなかった。


村を一巡りしたあと、俺はリオラに訊いた。

「……リオラ、“太陽のおじさん”はいい人だったか?」


リオラは笑顔で小さな手を挙げた。

「うん! リオラ、スワン・ミスター好き!」


それだけで十分だった。

『……俺が代わりに復讐してやる。俺の娘を守ってくれたあの人のために。』


その後、森で待つレックスたち狼に指示を与え、

人間への対処――攻撃してきたら容赦するな、と念を押した。


村を探ったが、有力な手掛かりは何も見つからない。

結局、ヌクスが見つけたもの以上の情報は残っていなかった。


夜明け、教会に戻ると、ヌクスが暖かな香りのスープを作って待っていた。

「肉はないが、野菜と薬草のスープだ。」


素朴で温かい味。

リオラも「おいちい」と呟き、最後に「パパ、ジャムがほしい」とせがんだ。


ヌクスが不思議そうにしたので、俺は笑って答えた。

「朝になったら見せてやるよ。」


やがて毛布を借り、リオラを抱き寄せ眠りについた――。


――続く。

最近ずっと体調を崩していて、昨日は熱まで出てしまい、まだ本調子ではありません。できる限り今回の章を読み直しましたが、もし誤りが残っていたらお許しください。少し休養が必要みたいです。


読んでくださって、そしてコメントをくださって本当にありがとうございます。ひとりひとりの読者に心から感謝しています。みなさんの支えが、私を前に進ませてくれています。


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