表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
3/94

第3話:地球に帰る方法

2026/1/25 加筆修正


フリッグは見てきた。

わたり けいという人間について。


異世界に呼ばれた勇者?

(違う)


選ばれし者?

(いや、違う)


一般人を装った特別な存在?

(それも違う)


ただの一般人?

(ああ、その通りだ)


事故に遭った際に偶然的に異世界にけいがる穴に放り込まれ、たまたま女神に拾われただけの他の人より運の良い一般人。


異世界で生きていくために様々な事を勉強し、努力し、鍛えた一般人。


魔王を倒しに行く予定も無く、ヒョードルと共に他の村や国に行って魔物討伐の仕事を手伝ったり、そんな普通の毎日を過ごしていくのだと、フリッグはその時まで思っていた。


そのまま緩やかな日常を過ごしていくものだと信じていたのだ。


(だが、そんな日常は長く続かなった)


けいの人生を変えたのがスヴィグルとの出会いだった。


勇者。スヴィグル=ハーキュリー。


今でこそ、身体や顔の彼方こちらに傷跡を負っていたり、勇者として威厳を出すためだ!なんて顎髭を蓄えたりしているが、けいと出会う前はただのしがない農民だった。


けいがスヴィグルと初めて会ったのは20歳の頃で、スヴィグルは当時24歳だった。

出会ってから魔王討伐が終わるまでの間10年間の間柄だ。


2人の出会いの切っ掛けは、ある間違いからだった。


ヒョードルが大英雄の1人という事もあって中央国の王より各勇者パーティの戦闘訓練の師範として要請を受けていた。


けいはヒョードルの補佐兼勉強のために、ヒョードルと共に必ず一緒に同行していた。


ヒョードルについて少し説明をする。彼は元エルフ国の前々国王であり、そしてかつて世界規模のスタンピードを止めた大英雄の一人なのだ。そんな彼が勇者育成の師範として度々王国に向かっていたが、本来は数ある勇者パーティのどれかに入ってくれないかと度々相談を受けていた。


彼はその誘いを頑なに断っていた。


ヒョードルは、旅を断念した勇者パーティを助けるためのバックアップに専念したいとけいに語っていた。


この勇者パーティのバックアップというのは。


勇者パーティには人間族含め各種族から魔王討伐の援助金が大量に払われるのだが、過酷な旅と生き残れるか分からない旅で自発的に魔王討伐に行く人達が多くはなかった。

それに対し各国は農民や一般市民を集め魔物討伐の訓練を行い、少しでも素質がある人を討伐に行かせていたのだ。


非情に思われるような制度だったが、『魔王』を討伐できなかった場合、世界の滅びにけいがってしまうため仕方がない状況だった。

それでも、戦闘経験が浅く、付け焼刃で戦技を身に着けた人間が急に旅に出ても、やはり心の方が追いつかない。


結果、殆どのパーティが途中で逃げ出したり断念する事が多かった。


国自体も、旅に出た者達が、逃げ出し、リタイアする者たちがどうしても居ることは把握していた。


そこで、活躍していたのがヒョードル達だった。


せめて、討伐の旅に出た者たちが何時リタイアしても良いように各国に勇者達をバックアップする為の拠点を作ったのだ。

そこに行けば、支援金や貸与されていた武器・防具を返却することで、討伐の旅を辞退する事が可能だった。

それだけじゃない。ヒョードルは、自ら率先して各拠点で共有されている情報を元に、勇者達を助けに行くという事もしていた。


殺されるかもしれない。


死んでしまうかもしれない。


その覚悟を持つための準備も出来ないまま、各種族含む多くの人達が世の中の動向で感覚が麻痺し、いつの間にか死地に向かう事になってしまう。

そんな人達を助けるために、ヒョードルは勇者パーティには参加することを断り続けていたのだ。


そんなヒョードルを、けいは心から尊敬していた。そして、そんな人が自分の養父であることを、誇りにも思っていた。


けいもまた、ヒョードルの力になりたくて、毎日のように付き添い、訓練場では負傷した訓練生を簡単な回復魔法で治療していた。


そんな日々が続く中、ある日、戦闘訓練に長らく通っていながら一度も魔獣討伐に成功したことのないスヴィグルと、けいは出会った。


その日は偶然、訓練生がスヴィグル一人しかおらず、手持無沙汰に訓練場で魔法書を読んでいたけいを、上官兵士が訓練生と勘違いし、魔物の討伐訓練にけいとスヴィグルの二人だけで行くように命じてしまった。


けいは二十歳になるまでに、基礎的な攻撃魔法や防御魔法、補助魔法だけでなく、高度な武術までヒョードルから仕込まれていた。そのため、もし一人なら魔獣や魔物に遭遇しても、戦うのも逃げるのも造作もなかった。


だが、今回は違った。


同行するスヴィグルは、今まで一度も魔獣を討伐したことのない、ただの農民あがり。 模擬訓練は受けていたが、実戦経験は圧倒的に足りず、何よりこれまで一度も魔獣を倒せていなかった。


けい一人なら余裕で切り抜けられるが、スヴィグルを守りながら戦うとなると話は別だった。誰かを守るために戦う――そんな経験は、けいにはなかったし、内心、戸惑いを隠せなかった。


さらに、お互いにパーティ経験もない。無言のまま気まずく、まともな会話もないまま、魔物討伐のポイントへと向かい、慣れないなりに一緒に襲いかかってくる魔獣の群れをどうにか捌いていた。


そんな最中、茂みから大型の魔獣が飛び出し、スヴィグルが魔物の攻撃を受けそうになる。 その瞬間──咄嗟に彼を庇ったのは、けいだった。


けいが傷を負うと同時に、魔法で反撃して何とか魔獣を倒したが、けいの胸から血がぽたぽたと滴り落ちる。


幸い命に別状はなかったが、重傷を負ったけいの姿を見て、スヴィグルは酷く狼狽した。


それでもけいは、血を流しながら自分に回復魔法を施していた。


沈黙したままスヴィグルはけいを見つめる。その服の裂け目から覗いた無数の傷跡――それが人並みのものではないと、直感で悟ってしまう。


しかし、けいはその視線を気にする様子もなく、静かな声音で尋ねた。


「君は大丈夫?」


「……は?」


スヴィグルは固まった。


なぜ自分を庇って傷ついた相手に心配されているのか。

普通なら大けがをさせてしまった自分が責められるはずなのに。

心配の言葉など、ありえない。


もっと怒られて当然だ。

(本来なら俺が怒鳴られるべきなのに――)


「……なんでだ、お前のほうが……」


戸惑うスヴィグルに、けいは苦笑いを浮かべる。


「ん、僕のこと? あはは、大丈夫。これぐらいじゃ死なないから」


重傷を負いながらも、穏やかな顔と声で「大丈夫だよ」と笑うけいを目の当たりにした瞬間、スヴィグルの胸は激しく揺さぶられた。


「───────────────っ!!」


気味が悪い物を見たような、悲しそうな、そんな複雑な表情をしながらスヴィグルはけいに怒声を放ったのだった。


けいは「あ」と言葉を漏らす。


(─────そうだ。思い出した)


心配をかけまいとして発した言葉。

それで逆に、スヴィグルにこっぴどく怒られたことを。


(あの時、スヴィグルが傷つかずに済んでよかった。傷を負ったのが自分で良かった)


あの一件以来、なんの縁かスヴィグルとけいは正式にパーティを組み、いつしか、かけがえのない兄弟と呼べるようになっていた。


それでも、ふと思う。


「でもあの時、なんであんなに怒られたんだっけな…………」


小さな声だったはずなのに、そばにいたフリッグが頬を抓ってきた。


「痛い痛いっ!! なにすんのさ!」


「このたわけ者! なぜこっぴどく怒られたのに覚えておらんのだ!」


だから、自分の事になるととことん無頓着だというのだ。

まったくとフリッグはぶつぶつとけいに文句を言う。

彼女の怒声に、けいはただ困ったように笑うしかなかった。


「ともかくだ! お前のその悪癖は今の所何を言ったところで変わらないと長い付き合いで良くわかっている。だからこそ────私の言葉をしっかり心に留めておけ」


フリッグは頬を抓っていた手を放し、座っていた椅子から立ち上がる。

何をするんだろうとけいは思っていると、フリッグはけいにそこで良いから立ち上がれと言い放つ。


けいは言われるまま立ち上がり、けいの横に立ったフリッグに両頬を包まれる。


優しく包まれたかと思えば、ぐいっとけいよりも身長が高いフリッグの目線に合わせられる。


「なるべく、大きな怪我はするなよ」


フリッグは真剣な声でけいに言った。


その声は、親が子に言い聞かせるように。


その声は、まるで、姉が弟に注意するかのようだった。


フリッグはジッとけいの瞳を合わせる。

それに、けいは目を逸らし俯きたくなる。でも、フリッグはそれを許してくれない。


けいは困惑したような声をだす。

 

「…………そんな。子供じゃあるまいし、僕は────」


良いから最後まで聞けとフリッグがけいの言葉を止める。


「絶対に死ぬなよ」


「──────っ」


「自分の命や身体を、もっと優先しろ。お前は強いが戦う事自体苦手意識が強いのだから、無理をするな」


 彼女の瞳が、けいをまっすぐに捉えて離さない。


(しかし、言葉だけじゃどうせ届かない)


本当は色んな事を言ってやりたいと思っているがフリッグはそんな気持ちを抑える。

絶対に死ぬな。と言うその言葉に色んな意味が含まれている事に、もしかしたら今のけいには届かないかもしれない。


それでもフリッグは願うようにけいに言葉をかける。


けいはフリッグの真剣な姿に静かに「うん」と短い返事をした。

そしてフリッグは最後にけいへ、とっておきのサプライズを言葉にした。


「そして──────必ずお前が遊びに来られるように、道を作るから安心しておけ」


「…………えっ」


思ってもいなかった言葉に、けいの瞳が大きく見開かれた。


「お前も色々調べていたようだが、人間が他世界へ行く手段として『境界の綻び』を使うしかないと知っていたな?」


「うん。自然発生か、神に開けてもらうしかないと」


「その通り。だがな───」


フリッグはわずかに口元を吊り上げた。


「おまえの仲間に、神世の魔術を扱える天才の魔族の女がおるだろう? あやつと協力し、通路を作る予定だ」


どうだ。驚いたかと身体を反るようにフッリグはフハハと笑い、けいの反応を楽しみにするが反応が無い。フリッグはどうしたのかと思いけいを見る。


その目に映った姿を見てふっとフリッグは優しそうに呆れ笑いをした。


「なんだ、そんな顔をして」


フリッグは目の端に涙をにじませるけいの表情を見て、彼の感情が込み上げているのを察した。


「…………ほんとうに?」


それは、言葉にするのも怖いくらい希望に満ちた返事だった。叶わないと思っていた願望が、いま目の前に降りてくる。


「…………もしかしたら、一生の別れだと思ってた」


けいはつい溢れてしまいそうになる目元を隠しながら答える。


(三十という歳にもなって、こんなに涙が出るなんて…………)


相手が自分より遥かに年上の存在だからなのか、つい感情が溢れ出してしまう。

恥ずかしさを感じるが、それよりも嬉しい感情が勝った。

境界の綻びが自然発生したとして、地球から此方の世界に無事に帰れる可能性も無かった。


(それに、もし、綻びが自然発生しなかったら?)

(もし、綻びの先に辿り着いたのが違う世界だったら?)


だから、もの凄く悩みに悩んだ。

決してこの世界が嫌いなわけじゃない。人生の半分程度を此方の世界で過ごしたのだ。

第二の故郷と言っていいほどに、この世界には数えきれないほどの大切なものができた。

育ての親も無二の親友も兄妹のような存在もできた。


そして目の前にも家族の様に自分を心配してくれている存在がいる。

地球へ帰る事に沢山の葛藤と悩みがあった。

なんとか、大切な人たちを置いて元の世界に帰ると覚悟を決めて言ったはずだったのに。


この目の前の女神はけいの予想を超えた言葉をくれたのだ。


言葉が出ないけいにフリッグはにやりと笑い、歳の離れた意地悪な姉みたいに、揶揄うようにけいに聞く。


「そんなに嬉しいか」


「ッもちろん!」


けいはフリッグの言葉に綻ぶように笑いながら返事をした。





女神の神域での会話が終わった後。


けいは再び、現実世界で眠りについているだろう。


フリッグも現実世界のとある場所で、椅子に座っていた。

片足を組みながら円卓に肩肘を突き、ふっと笑う。


先ほどの綻んだ笑顔を思いだし、まだまだ自分の前では子供だなと笑う。


そして、次にため息を吐いた。


「まったく、というかやはり、スヴィグルの言葉は覚えてないか」


フリッグはスヴィグルの放った言葉を思い出す。

中々鮮烈で、酷い言葉だったが、その後スヴィグルは悲しそうな顔をしながら、けいの手を取ったのを見ていた。


「あいつは、その言葉よりも、その後のスヴィグルの悲しそうな表情で全て自分のせいだと記憶を上書きしたんだろうな」


スヴィグルの放った言葉は、「気持ち悪い」だった。


(「きもちわりいんだよっ!」)


(──────とそう言った、アイツは今では立派なケイの保護者枠でだからな)


いや、どちらかというと過保護か。とフリッグはふふんと笑う。


けいという人間は良くも悪くも人の感情を強く動かす。


利他的な在り方に偏ってはいるが、元来から持っている、優しさと誰かを思いやる心が、種族を越え、人と人との心をけいげるのだから。


(さて、あの魔王もケイに対して強い執着を持っていたが、あいつの魂は何所に行ったやら)


スヴィグル達に倒され、けいの心に大きな傷を残し、この世界の魂の循環からも居なくなった”魔王バロル”の魂は何所へ向かったのだろう。


それだけじゃない、けいの世界がゾンビ化現象になっているのも、世界の境界線が緩んでいるのも、引き続き調べないといけない。


神の仕事は色々とやる事が多い。とフリッグは強い酒でも浴びたい気分になった。


そして、片肘を突きながら深い深いため息を吐く。


「まったく、人間界も神界も、悩みは尽きないな」




もし良かったら、ブックマークかスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ