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『ゾンビだらけの世界でただ1人の魔法使い』  作者: mixtape
第1章:インセプション
3/69

第3話:地球に帰る方法

2025/6/7 申し訳ない・・・!文が冗長な所を修正して、繋の歪さとスヴィグルとフリッグの描写を大分足しています。4997文字→5551文字

フリッグは見てきた。


ワタリ ケイという人間について。


異世界に呼ばれた勇者?

(違う)


選ばれし者?

(いや、違う)


一般人を装った特別な存在?

(それも違う)


ただの一般人?

(ああ、その通りだ)


事故に遭った際に偶然的に異世界に繋がる穴に放り込まれ、たまたま女神に拾われただけの他の人より運の良い一般人。


異世界で生きていくために様々な事を勉強し、努力し、鍛えた一般人。


魔王を倒しに行く予定も無く、ヒョードルと共に他の村や国に行って魔物討伐の仕事を手伝ったり、そんな普通の毎日を過ごしていくのだと、フリッグはその時まで思っていた。


そのまま緩やかな日常を過ごしていくものだと信じていたのだ。


(だが、そんな日常は長く続かなった)


繋の人生を変えたのがスヴィグルとの出会いだった。


勇者。スヴィグル=ハーキュリ。


今でこそ、身体や顔の彼方こちらに傷跡を負っていたり、勇者として威厳を出すためだ!なんて顎髭を蓄えたりしているが、繋と出会う前はただのしがない農民だった。


繋がスヴィグルと初めて会ったのは20歳の頃で、スヴィグルは当時24歳だった。


出会ってから魔王討伐が終わるまでの間10年間の間柄だ。


2人の出会いの切っ掛けは、ある間違いからだった。


ヒョードルが有名なモンクという事もあって中央国の王より各勇者パーティの戦闘訓練の師範として要請を受けていた。


繋はヒョードルの補佐兼勉強のために、ヒョードルと共に必ず一緒に同行していた。


ヒョードルについて少し説明をする。彼は勇者育成の師範として度々王国に向かっていたが、本来は数ある勇者パーティのどれかに入ってくれないかと度々相談を受けていた。

彼はその誘いを頑なに断っていた。


ヒョードルは、旅を断念した勇者パーティを助けるためのバックアップに専念したいと繋に語っていた。


この勇者パーティのバックアップというのは。


勇者パーティには人間族含め各種族から魔王討伐の援助金が大量に払われるのだが、過酷な旅と生き残れるか分からない旅で自発的に魔王討伐に行く人達が多くはなかった。


それに対し各国は農民や一般市民を集め魔物討伐の訓練を行い、少しでも素質がある人を討伐に行かせていたのだ。


非情に思われるような制度だったが、『魔王』を討伐できなかった場合、世界の滅びに繋がってしまうため仕方がない状況だった。


それでも、戦闘経験が浅く、付け焼刃で戦闘技術を身に着けた人間が急に旅に出ても、やはり心の方が追いつかない。


結果、殆どのパーティが途中で逃げ出したり断念する事が多かった。


国自体も、旅に出た者達が、逃げ出し、リタイアする者たちがどうしても居ることは把握していた。


そこで、活躍していたのがヒョードルだった。


せめて、討伐の旅に出た者たちが何時リタイアしても良いように各国に勇者達をバックアップする為の拠点を作ったのだ。


そこに行けば、支援金や貸与されていた武器・防具を返却することで、討伐の旅を辞退する事が可能だった。


それだけじゃない。ヒョードルは、自ら率先して各拠点で共有されている情報を元に、勇者達を助けに行くという事もしていた。


殺されるかもしれない。


死んでしまうかもしれない。


その覚悟を持つための準備も出来ないまま、各種族含む多くの人達が世の中の動向で感覚が麻痺し、いつの間にか死地に向かう事になってしまう。


そんな人達を助けるために、ヒョードルは勇者パーティには参加することを断り続けていたのだ。


そんな、ヒョードルを繋は尊敬し、そんな人が自分の養父なんだと思うと誇らしかった。


繋もそんなヒョードルの助けになればと思い、毎日のようにヒョードルに付き添い、繋は訓練場で負傷した訓練生を簡単な回復魔法で治療していた。



───────────────────────────



そしてそんな日が続く中、ある日、戦闘訓練に長く来ているのにも関わらず一度も魔獣の討伐に成功した事の無いスヴィグルと繋は出会ったのだ。


その日は偶然、訓練生がスヴィグルしか居なく、手持無沙汰で訓練場で魔法書を読んでいた繋を訓練生だと上官兵士が勘違いし、魔物の討伐訓練に繋とスヴィグルと二人だけで討伐に行かされてしまった。

 

繋は20歳になるまでには基礎的な攻撃代替え魔法や防御魔法、補助魔法をヒョードルから教えて貰っており、魔獣、魔物と出くわしても繋一人なら、逃げる事も容易かった。


しかし、今回は違った。


繋と同行したスヴィグルは魔獣を討伐した事すらない唯の農民。


繋一人だけ逃げる事は出来ないし、スヴィグルをサポートするにも繋自身もちゃんと戦った事のない戦闘初心者で、スヴィグルに至っては訓練生だった。


スヴィグル自身、戦闘シミュレーション等を叩き込まれてはいても、実戦経験が圧倒的に少なく、何より未だに魔獣を倒したことが無かった。


そして、お互いパーティ経験も無いため何をすれば良いかも分からない状態だった。


お互い無言で気まずいまま、魔物を討伐するポイントまで辿り着き、慣れないながらもお互い襲い掛かってくる魔獣の群れを捌いている最中だった。


大型の魔獣が茂みから飛び出し、スヴィグルが魔物の攻撃を受けそうになった瞬間──

咄嗟に庇ったのは、繋だった。


繋が傷を負ったのと同時に、魔法で反撃し魔獣は無事に倒されたが、繋の胸部から血がぼたぼたと滴り落ちた。


幸い命には別状なかったが、重傷を負った繋の姿を見て、スヴィグルは酷く狼狽していた。


その代償は大きく、血を流しながらも、繋は自身に回復魔法を施していた。


スヴィグルは黙って彼を見つめる。その服の裂け目から覗いた大量の傷跡──それが人のものではないと、直感で分かってしまった。


だが繋は、その視線を気にする様子もなく、穏やかに問いかけた。


「君は大丈夫?」


「・・・は?」


スヴィグルは固まる。


なぜ自分を庇って傷ついた相手に、心配されているのか。


だって、普通は油断していた自分が悪いのだ。そのせいで、この目の前の男が大きな傷を負ったはずなのに。


心配する言葉が出るのは可笑しい。


もっと、怒って、何をしているんだと責めるべきなのに。


(本来なら俺が怒鳴られるべきなのに──)


「・・・・・・なんでだ、お前のほうが・・・・・・」


戸惑うスヴィグルに、繋は苦笑いを浮かべた。


「ん、僕の事? はは、大丈夫、これぐらいじゃ死なないから」


重傷を負っているのにも関わらず、穏やかな顔と声で大丈夫だよと笑って言った繋を

見た瞬間、スヴィグルは激しく感情を揺さぶられた。


「───────────────っ!!」



───────────────────────────



(─────そうだ。思い出した)


心配をかけまいとして発した言葉。

それで逆に、スヴィグルにこっぴどく怒られたことを。


(あの時、スヴィグルが傷つかずに済んでよかった。傷を負ったのが「自分」で良かった)


あの一件以来、スヴィグルは繋から離れなくなった。正式にパーティを組み、いつしか、かけがえのない親友となっていた。


それでも、ふと思う。


「でもあの時、なんであんなに怒られたんだろう・・・」


小さな声だったはずなのに、そばにいたフリッグが頬を抓ってきた。


「痛い痛いっ!! なにすんのさ!」


「このたわけ者! なぜこっぴどく怒られたのに覚えておらんのだ!」


だから、自分の事になるととことん無頓着だというのだ。


まったくとフリッグはぶつぶつと繋に文句を言う。


彼女の怒声に、繋はただ困ったように笑うしかなかった。


「ともかくだ! お前のその悪癖は今の所何を言ったところで変わらないと長い付き合いで良くわかっている。だからこそ────私の言葉をしっかり心に留めておけ」


フリッグは頬を抓っていた手を放し、座っていた椅子から立ち上がる。


何をするんだろうと繋は思っていると、フリッグは繋にそこで良いから立ち上がれと言い放つ。


繋は言われるまま立ち上がり、繋の横に立ったフリッグに両頬を包まれる。


優しく包まれたかと思えば、ぐいっと繋よりも身長が高いフリッグの目線に合わせられる。


「なるべく、大きな怪我はするなよ」


フリッグは真剣な声で繋に言った。


その声は、親が子に言い聞かせるように。


その声は、まるで、姉が弟に注意するかのようだった。


フリッグはジッと繋の瞳を合わせる。


それに、繋は目を逸らし俯きたくなる。でも、フリッグがそれを許してくれない。


繋は困惑したような声をだす。

 

「・・・そんな。子供じゃあるまいし、僕は────」


良いから最後まで聞けとフリッグが繋の言葉を止める。


「絶対に死ぬなよ」


「──────っ」


「自分の命や身体を、もっと優先しろ。戦闘は苦手なんだから、無理をするな」

 彼女の瞳が、繋をまっすぐに捉えて離さない。


(しかし、言葉だけじゃどうせ届かない)


本当は色んな事を言ってやりたいと思っているがフリッグはそんな気持ちを抑える。


絶対に死ぬな。と言うその言葉に色んな意味が含まれている事に、もしかしたら今の繋には届かないかもしれない。


それでもフリッグは願うように繋に言葉をかける。


繋はフリッグの真剣な姿に静かに「うん」と短い返事をした。


そしてフリッグは最後に繋へ、とっておきのサプライズを言葉にした。


「そして──────必ずお前が遊びに来られるように、道を作るから安心しておけ」


「・・・・・・えっ」


思ってもいなかった言葉に、繋の瞳が大きく見開かれた。


「お前も色々調べていたようだが、人間が他世界へ行く手段として『境界の綻び』を使うしかないと知っていたな?」


「うん。自然発生か、神に開けてもらうしかないと」


「その通り。だがな───」


フリッグはわずかに口元を吊り上げた。


「おまえの仲間に、神世の魔術を扱える天才の魔族の女がおるだろう? あやつと協力し、通路を作る予定だ」


どうだ。驚いたかと身体を反るようにフッリグはフハハと笑い、繋の反応を楽しみにするが反応が無い。


フリッグはどうしたのかと思い繋を見る。


その目に映った姿を見てふっとフリッグは優しそうに呆れ笑いをした。


「なんだ、そんな顔をして」


フリッグは目の端に涙をにじませる繋の表情を見て、彼の感情が込み上げているのを察した。


「・・・・・・ほんとうに?」


それは、言葉にするのも怖いくらい希望に満ちた返事だった。

夢物語のように遠かった未来が、いま目の前に降りてくる。


「・・・・・・もしかしたら、一生の別れだと思ってた」


繋はつい溢れてしまいそうになる目元を隠しながら答える。


(30という歳にもなって、こんなに涙が出るなんて・・・)


相手が自分より遥かに年上の存在だからなのか、つい感情が溢れ出してしまう。


恥ずかしさを感じるが、それよりも嬉しい感情が勝った。


境界の綻びが自然発生したとして、地球から此方の世界に無事に帰れる可能性も無かった。


(それに、もし、綻びが自然発生しなかったら?)

(もし、綻びの先に辿り着いたのが違う世界だったら?)


だから、もの凄く悩みに悩んだ。

決してこの世界が嫌いなわけじゃない。人生の半分程度を此方の世界で過ごしたのだ。

 

第二の故郷と言っていいほどに、この世界には数えきれないほどの大切なものができた。

育ての親も無二の親友も兄妹のような存在もできた。


そして目の前にも家族の様に自分を心配してくれている存在がいる。


地球へ帰る事に沢山の葛藤と悩みがあった。


なんとか、大切な人たちを置いて元の世界に帰ると覚悟を決めて言ったはずだったのに──────


この目の前の女神は繋の予想を超えた言葉をくれたのだ。


言葉が出ない繋にフリッグはにやりと笑い、歳の離れた意地悪な姉みたいに、揶揄うように繋に聞く。


「そんなに嬉しいか」


「・・・ッもちろん!」


繋はフリッグの言葉に綻ぶように笑いながら返事をした。



------------------------------------------------------------------------



女神の神域での会話が終わった後。


繋は再び、現実世界で眠りについているだろう。


フリッグも現実世界のとある場所で、椅子に座っていた。

片足を組みながら円卓に肩肘を突き、ふっと笑う。


先ほどの綻んだ笑顔を思いだし、まだまだ自分の前では子供だなと笑う。


そして、次にため息を吐いた。


「まったく、というかやはり、スヴィグルの言葉は覚えてないか」


フリッグはスヴィグルの放った言葉を思い出す。

中々鮮烈で、酷い言葉だったが、その後スヴィグルは悲しそうな顔をしながら、繋の手を取ったのを見ていた。


「あいつは、その言葉よりも、その後のスヴィグルの悲しそうな表情で全て自分のせいだと記憶を上書きしたんだろうな」


スヴィグルの放った言葉は、「気持ち悪い」だった。


(「きもちわりいんだよ・・・っ!」)


(──────とそう言った、アイツは今では立派なケイの保護者枠でだからな)


いや、どちらかというと執着か。とフリッグはふふんと笑う。


繋という人間は良くも悪くも人の感情を強く動かす。


利他的な在り方に偏ってはいるが、元来から持っている、優しさと誰かを思いやる心が、種族を越え、人と人との心を繋げるのだから。


(さて、あの魔王もケイに対して強い執着を持っていたが、あいつの魂は何所に行ったやら)


スヴィグル達に倒され、繋の心に大きな傷を残し、この世界の魂の循環からも居なくなった”魔王バロル”の魂は何所へ向かったのだろう。


それだけじゃない、繋の世界がゾンビ化現象になっているのも、世界の境界線が緩んでいるのも、引き続き調べないといけない。


神の仕事は色々とやる事が多い。とフリッグは強い酒でも浴びたい気分になった。


そして、片肘を突きながら深い深いため息を吐く。


「まったく、人間界も神界も、悩みは尽きないな」




もし良かったら、ブックマークかスタンプでも押して貰えると更にやる気が出ます・・・!

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