第74話 不正のギルド
ギルドを後にして、警備隊本部へと向かう俺とルル姉。
俺たちふたりは、ギルドに禍根を残してしまった。
ナナさんとテルアさんは、俺たちへの不満で大いに盛り上がってる事だろう。
「あの、ルルさん?」
ルル姉はギルドを出てから、無言で俺の腕を引き続けている。
俺が声をかけても、それは変わらない。
「ち。」
俺はルル姉の腕をつかみ返し、そのまま転移魔法を使った。
「え?」
一瞬で景色が変わり、驚くルル姉。
「転移魔法を使いました。ここは街の入り口から、少し離れた場所です。」
俺は状況を説明する。
対してルル姉は、俺がなぜそんな事をしたのかと、きょとんとした顔を向けてくる。
「ルルさん、このまま警備隊本部とやらに、行くつもりですか?」
このまま行ったらどうなるのか、俺には不安しかない。
だからルル姉からの情報がほしいし、対策とかの話しもしたい。
「ふふ、そうね。私もどうかしてたわ。」
ルル姉は俺の腕を引き、歩きだす。
「ちょ、ルルさん、どこへ。」
「警備隊本部ってのはね、あそこなのよ。」
と言ってルル姉は街の周りに張り巡らせた壁を指差す。
「壁?」
この壁が警備隊本部って、この防壁の内部にあるのか、警備隊本部が。
「ふふ、壁を挟んで向こう側。街の入り口近くの大きな建物が、警備隊本部よ。サム君がこんな所に転移しちゃうから、隠れなくちゃいけなくなったのよ。」
「あ、なるほど。」
警備隊本部から丸見えな所で、立ち話をするわけにもいかないよな。
「それにしても、見事な転移魔法ね。」
俺はこれからの事を話したいのに、ルル姉は俺の転移魔法をほめる。
「そうですか?」
何気なくやってる行為をほめられても、対応に困る。
「私に気づかれずに転移しちゃうなんて、転移魔法の常識を越えてるわよ。」
こう言われて気づいたのだが、最初にミーシャと転移した時、ミーシャは気を失った。
なのにルル姉が無事なのは、なぜだろう。
これは前述した事だが、転移魔法の術者の魔素によるコーティングを拒むか否かで違ってくる。
不快感なく魔素のコーティングが出来れば、普通に転移は出来る。
この事に主人公サムは、まだ気づいていない。
「ミシェリアも、あなたを信頼する訳ね。」
「な、」
ミシェリアとは、ミーシャの本名。
ミーシャの事を考えてたら、ルル姉からその名がでて、俺は驚く。
「あの子実は、ギルドカードを二枚持ってるのよ?」
「え?」
驚く俺を尻目に、ルル姉は語る。
「あの子のカードを偽装したのって、実は私なの。」
言われてみれば、ミーシャの過去を知ってそうなヤツらも、ミシェリアではなく、ミーシャって呼んでたな。
「で、その事はナナさんも知らないんですね?」
ミーシャの事を話したいルル姉には悪いけど、ここは話しの腰を折らせてもらう。
不意にナナさんの名前が出てきて、ルル姉の表情がくもる。
今、ナナさんは関係あるのかしら。
言葉にはしないが、そう言いたげなのは伝わってくる。
「そうね、こんな事誰にも言える訳ないでしょ。私だって、本人と会ったのはあの時が初めてだったから。」
「あの時、俺のギルドカードを作った時ですね。」
「ええ、そうよ。偽造カードで出来る事は限られてるから、本物のカードを出さないといけなかったんだけど、本当に出すとは思わなかったわ。それも永久不滅カードなんて、あの子しか持ってないのにね。裏返せばバレないって思ってた所が、かわいいよね。」
なぜか饒舌に語りだすルル姉。誰かに偽装カードの事を話したかったのだろうか。
「じゃああの時、偽装カードを出してたら?」
その場合、公文書偽装罪になると思う。
「その場合は、サム君のカードも偽装しなくちゃでしょ。」
「え、なんで?」
「あの子のカードを偽装したのは私よ。私も罪に問われるのは嫌よ。」
「はあ、なるほど。」
つか、ギルド職員がギルドカードを偽装してるのか。なんか他にも不正が隠されてそうだな。
「まあ、あの子がどこまで考えてたのかは分からないけど、自分の素性を晒してまであなたの推薦人になった。そこまでしてあなたを信頼する何かが、あるって事ね。」
「何か、ね。」
別に何もないと思う。カードを裏返せばバレないと思ってたくらいだし。
ちなみに、ミーシャが時々見せた不穏な笑み。これに主人公サムは気づいていない。
「それにあなたは、降魔の腕輪の後継者。ただ者でない事は、確かよね。」
「あ、」
言われて、改めて気づく。
「これって、警備隊本部でバレません?」
見る人が見れば、降魔の腕輪と気づく。それは、俺がドラゴンである証明。
「ふふ、それはハイサンド関係者しか知らないから、確か十人もいないわね。」
「ハイサンド?」
またまた、訳分からん単語が出てきたな。
「まだサム君が知らなくていい事ね。」
今漠然と思いついた設定なので、それ以上の説明は出来なかった。
「そろそろ時間ね。ギルドから警備隊本部への距離を考えたら、そろそろ着いてる頃ね。」
「あ、俺は結局、警備隊本部でどうすればいいのです?」
その対策を話したかったんだけど、なぜかミーシャの話題に話しがそれて、対策の話しが出来なかった。
「それなら私が話しをつけるから、サム君は私に話しを合わせればいいわ。」
ルル姉は行き当たりばったりな、それで大丈夫なのか不安になる対策案を出した。
「うーん、それしかなさそうですね。」
俺もルル姉に任せる事にして、警備隊本部へ向かう。
この場でテルアさんの話しもしたかった。
時間の都合で出来なかったが、なぜテルアさんが動物変化を毛嫌いしてるのか。
これは後で知った話しだが、テルアさんの両親が、熊の動物変化に惨殺されたからだった。
その場にたまたま通りがかったルル姉とナナさんが、その熊を殺した。
だからテルアさんはルル姉とナナさんを尊敬し、ふたり以外の動物変化を毛嫌いしていた。
そしてテルアさんは、人間であって動物変化ではないとされている。
今のところは。




