第75話 圧をかける
俺が幻想旅団を倒した報告に不備があったらしく、俺は警備隊本部に召喚される。
その不備の原因は、俺が動物変化である事を隠すように細工したルル姉にあった。
そのルル姉と共に、警備隊本部へ出頭する。リバルド学園編には、いつになったら行けるのだろうか。
街の入り口近くにある立派な建物。
ここが警備隊本部なのだが、畜生道の世界に警備隊という概念は必要なのか。
俺の前世の記憶に警察って物があるのだが、不祥事を隠して身内のメンツを守るためなら、どんな悪事も厭わない。そんな組織だった気がする。
ましては、ここは畜生道。
あのギルドでさえ、不正の温床になっている。
そんな警備隊本部への出頭は、身の危険を感じる不安しかなかった。
「らしくないわよ、サム君。何をそんなにビビってるの。」
上記の様な事を思ってたら、ルル姉が優しげにニヤけてきた。
その天使の様な微笑みに、思わずドキッとしてしまう。
ナナさんの鋼鉄の微笑がいつも貼り付いてるのに対し、たまに見せるルル姉の天使の微笑みは、そのまま天国に昇天させられそうになる。
「そ、そんな事ありませんって。」
昇天しそうだった俺は、なんとか踏みこらえる。
「ふふ、ここは私に任せて、サム君は堂々としてなさい!」
ルル姉は勢いよく警備隊本部の扉を開ける!
ばたん!
つかつかつか。
そのまま歩みを止めないルル姉に、受け付けのお姉さんがビビってる。
「警備隊隊長はいるかしら。うちの新人君に用があるみたいだから、連れてきたんだけど。」
ニヤりとするルル姉だが、そのにらみだけで受け付けのお姉さんは震えがとまらない。
「た、たたた、たい、ちょー、ででで、です、か、きょ、きょうは、ふ、ふふ、ふざい、ふざいでして、」
「あら、何を言ってるのかしら。全く分からないわ。」
ルル姉の表情は笑顔だが、それだけで人を殺せる迫力に、受け付けのお姉さんは涙目で震えてる。
「誰かと思えば、ルルさんじゃありませんか!」
部屋の片隅から、ひとりの男が声をあげる。
ヒョロっとした体つきで、インテリそうな見た目。
眼鏡の奥の瞳は、こいつの凶暴さを秘めていた。
眼鏡を外して凶暴さを解放したこいつは、人間に変化したままの俺と、同格以上の強さはあると見た。
「け、警備正。」
インテリ眼鏡の登場に、受け付けのお姉さんは安堵の声をだす。
「あら、アルトスさん。あなたに用はないのよ。警備隊隊長を出してくださらない?」
ルル姉は穏やかな表情のまま、アルトスとやらに圧をかける。
「ふ、そちらの新人君に用があるのは、この私なんですがね。」
アルトスと呼ばれた男は、眼鏡をクイっと上げる。
「ルルさんはお呼びではないので、お引き取りください。」
アルトスは、ルル姉に圧を返す。
「そうはいかないわ。彼がギルドの新人である以上、ギルド職員の私が彼に対する人権侵害を弁護する責務があるわ。」
ルル姉もゆずらない。
って、今人権侵害って言った?
畜生道にもそんな言葉があって、それから身を守る概念がある事にも驚きだが、俺がそんな理由でここに呼ばれたのかと、こっちにも驚いた。
「ふ、ギルド規約第3条でしたっけ。確か、冒険者の権利を守るための条項がありましたね。」
「さすがはアルトスさん。よくご存知で。」
「ですが、ギルド規約を守ってるギルド職員なんて、いませんよね。ましてルルさんがこんな事するなんて、らしくありませんね。」
「私だって気が向いたら、こんな事もするわ。」
圧をかけあうルル姉とアルトス。
ルル姉とここまでやり合えるアルトスは、ルル姉と匹敵する実力者なのだろう。
やはり、何かの動物変化なのだろうか。
「ここでルルさんを拒む事も可能なのですが、得策ではありませんね。」
アルトスは視線を俺に向ける。
俺は思わずビクつく。
俺の心の奥底まで見透かす様な、冷たい眼差し。
こいつが何の動物変化かは知らないが、こいつが人間のままでもドラゴンになった俺を殺せるくらいの、実力差みたいなモノを感じ取ってしまった。
俺をビビらせた事を得意げに、アルトスは視線をルル姉に戻す。
「まあいいでしょう。ルルさんの同席を許します。おふたりとも、ついて来てください。」
「行くわよ、サム君。」
ルル姉はジロりと俺をにらむ。
こんなヤツに何ビビってんだよ。と言わんばかりの圧を感じる。
俺たち三人は、受け付けのある広間から廊下に出て、ある部屋の扉の前に立ち止まる。
「では、規則ですから、これをつけてください。」
アルトスは俺とルル姉に、輪っかを差し出す。
そして自分の首に、輪っかをつける。
過去に何度か見た、封じの首輪だ。
これをつけたままドラゴンに戻ると、首がしまって死んでしまうってヤツ。
首輪を手にしてまごつく俺の横で、ルル姉も首輪をつける。
アルトスも首輪をつけて、今つけてないのは俺だけだ。
ふたりの視線が俺に向く。
俺も慌てて首輪をつける。
その一部始終を、値踏みする様な視線で見つめてくる。
そんなアルトスの視線に耐えきれず、思わず口を開く。
「これをつけるって事は、アルトスさんもごっ、」
俺の口もとに、ルル姉の裏拳が炸裂。これ以上セリフを続けられなくなった。
「おや、今私もって言いました?」
「聞き間違いではないですか?」
俺はアルトスもドラゴンなのかと、聞くつもりだった。
封じの首輪を共につける以上、この疑問は当然わいてくる。
それをルル姉に止められたって事は、アルトスはドラゴンではないって事かな。
ここはどうにか、誤魔化さないといけないな。
「た、確か俺って、動物変化の疑惑があって、ここに連れてこられたんすよね。こいつを俺がつけるのは分かりますが、あ、アルトスさんもつけるのは、なぜですか。」
これでいいですかと、チラりとルル姉を見る。
しかしルル姉の表情からは、何も読みとれない。
「ほほう。これがどんな代物なのか、ご存知のようですね。」
アルトスはニタりと表情を変える。
あ、これはやぶ蛇だったか?
「ええ、これで分かりましたよね。サム君が登録前から、それなりの人生を歩んできたという事が。」
ルル姉も、ニタりと表情を変える。
ん?俺の発言は正解だったのか?
「ふ、まあいいでしょう。」
アルトスは扉のドアノブに手をかける。
「詳しい話しは、これからうかがいましょう。」
アルトスは扉を開けた。
ども(・ω・)ノ
今回登場のアルトス警備正。
動物変化をにおわせていますが、一応人間の設定です。
今後、どのような変化が起きるかは、分かりませんが。
(´・ω・)




