第314話 隠し扉
千尋峡谷にて、以前ミーシャに教えてもらった温泉。
そこへの入り口になっている建物は、この廃墟群が形成された後に建てられた建物だった。
誰が、何を目的に、建てたのだろうか。
サムとミーシャは、早速建物の中に入る。
この建物は洞窟の入り口を覆っているだけで、ほんの数歩で洞窟になっている。
この洞窟の奥に、温泉が湧いていた。
「ねえ、これ。なんだと思う。」
洞窟を少し進んだ所で、ミーシャが洞窟の壁を指差す。
「ん?」
サムも洞窟の壁の一角に、目を向ける。
何か直線的な線が走っていた。
縦に二メートルくらいの線が三本。
その縦線の上に、横線が一本。
「なんだこれ?」
サムは人間に変化する。
この人工的に引かれたと思しき線は、人間サイズだとサムは直感した。
「なんでこんな物が。」
サムの見立てでは、洞窟の壁にカモフラージュした扉に思えた。
「何か分かる?」
ミーシャも人間に変化して、サムにたずねる。
「いや、この作りだと。」
サムは左右の外枠の線の外側を見比べる。
そしたら右の枠線の外側の壁が、わずかに盛り上がっていた。
サムはその出っ張りを、ガチャガチャと動かしてみる。
色々試してみたら、その出っ張りがパカッと上に開く。
その中にはレバーと警告文。
Danger!
Don't touch!
「英語?」
その文字を見て、サムがつぶやく。
「これ、文字なの?」
ミーシャはアルファベットが読めなかった。
この世界の文字は、基本的に日本語に準じていた。
「ああ、この先危険だから開けるな、ってことらしいけれど。」
と言いながらサムは、レバーに手をかける。
「俺らのお目当ては、この先だよな。」
「そうよ。この奥に、スターダストサンドなんて物は無さそう。あるとしたら、ここが怪しいでしょ。」
ミーシャがスターダストサンドが千尋峡谷にあると聞いて、ピンときたのがここだった。
「そうだよな。」
サムは手をかけたレバーを下げる。
がごん。
扉の鍵が外れる音がする。
それと同時に、丸く平たいドアノブがふたつ、浮き上がる。
非常扉で見るタイプのドアノブだった。
サムは半月型の持ち手を立てる。
後はこれを回して、手前に引っ張れば、この扉は開く。
「ミーシャ、この先は危険らしい。ちょっと離れてくれ。」
「え、ええ。」
ミーシャが後方に下がると同時に、扉を開ける。
「う、」
扉の中に閉じ込められていた大気が、一気に扉の外へと流れ出る。
腐った卵のような匂いが、鼻をつく。
どさ。
サムが匂いに顔をしかめる後ろで、ミーシャが地面に倒れ込む。
状態異常に耐性があるサムとは違い、ミーシャは気分が悪くなっていた。
サムは慌てて扉をしめ、ミーシャの元へ駆け寄る。
「ミーシャ、しっかりしろ。」
サムは回復魔法を試みるも、うまく発動しない。
ここら辺一帯は、大気中の魔素がほとんど無いので、魔法の発動は出来なかった。
サムはミーシャを抱きかかえ、洞窟の外に出る。
再び回復魔法を試みるも、効果は薄かった。
ミーシャも気分が少しマシになった程度で、しゃがみ込んだ姿勢から、体を動かすのもままならなかった。
「こうなったら、これしかないか。」
サムは右手を部分竜化させ、左手の人差し指を傷つける。
だが、その行為にいたる前に、ミーシャがサムの右手首をつかむ。
サムがミーシャに視線を向けると、ミーシャは首を振っている。
「駄目。無理。耐えられない。」
気分が悪いミーシャは、それだけの言葉しか、紡げなかった。
ミーシャは以前、サムの血を飲んで、自らの身体にかけられた呪いを解呪した事があった。
その時、激しい痛みが身体中を駆け抜けた。
今同じ痛みに襲われたら、耐えられる自信がなかった。
「無理ってなんだよ。」
サムには、ミーシャの言いたい事が分からなかった。
だけどミーシャの怯えようから、なんとなく察する。
ミーシャはサムの血に頼りたくないのだと。
「ミーシャ、気をつけろよ。」
サムの言葉に、ミーシャもうなずく。
サムはミーシャをこの場に残して、再び隠し扉の前に立つ。
サムはミーシャの方に目を向ける。
ミーシャは建物の壁にもたれるようにしゃがみ込み、目を閉じて呼吸を整えている。
「ミーシャ、開けるぞ。」
サムが声をかけると、ミーシャはこくりとうなずき、そのまま呼吸を止める。
サムが扉を開くと、中の大気がどっと外に流れ出る。
だけど先ほどの様な濃さはなかった。
ミーシャも苦しげに表情をゆがめるが、不意を突かれた一度目より、耐える事は出来た。
ミーシャはサムの視線に気づき、自分は平気だと、うなずいてみせる。
サムはそんなミーシャの様子に少し安心する。
そして扉の中に入る。
どこまでも続く、下り階段。
しばらく降ると、左側の壁が無くなる。
広い空洞のふちに、この階段があった。
腐った卵のような匂い。
熱気を伴う水蒸気。
そして異様な高温。
温泉があるのに、火山がない。
数話前に、サムが気づいたどこか変な事象。
その火山活動は、ここにあった。
やがて下り階段は終わり、サムも開いた空間に降り立つ。
火山特有の大気成分で、人の活動ができる空間ではなかった。
しかし女神の加護で、状態異常に耐性のあるサムには、なんとか耐えられた。
耐えられると言っても、平気という意味ではない。
サムも若干の体調不良を感じていた。
そんなサムの目の前では、一匹のドラゴンが眠りについていた。
ども(・ω・)ノ
さて今回のこの洞窟。奥に温泉があるだけなんですよね。元々は。
で、スターダストサンドの隕石を、どこに後付けるかって話し。
しかも、ミーシャが心当たりがある体裁で。
となったら、温泉の奥が怪しいのですが、そんな所に隕石がありますかね?
だから無理矢理、入り口付近に隠し扉があるって事になりました。
(´・ω・)




