2-6
「息抜きに首都の祭りに行かないか?」
ギルバートに誘われたのは、エリシアを探して一ヶ月半が経った頃だった。
どこに行こうとカーライルの魔法に邪魔をされ、魔法を壊そうかとも試みたが困難だった。
せめて防御魔法の対象者であるエリシアに直接会えれば、解くこともできるんだが。
それができれば魔法を解く必要もない。
気乗りはしなかったがギルバートとターナーが気を遣っているのを知り、デリックは首都に出た。
日が暮れているのに賑わう街は夜を知らない。
魔法で色とりどりの明かりが彩られ、噴水広場では水のサーカス芸もやっていた。立ち並ぶ屋台からは食欲を唆る香りが漂ってくる。
「お、串焼きじゃないか」
ギルバートは列に並んだが、後ろに女が並ぶと列を譲り会話を楽しむというのを繰り返すため、ほとんど前に進んでいなかった。
「デリックは何か食べたいものはないのか?」
「別に」
髪色が目立つためフードを深く被ったデリックは、祭りを楽しむというよりは人探しをしているようにキョロキョロとしていた。
「田舎町なんだろ。ここまで来ているのか?」
「………」
可能性がないわけではない。
…いや、そう賭けたいだけなのだろう。
ようやくギルバートが戻ってくると、三人は小さな丸テーブルを囲み串焼きを食べ始めた。
「お兄さんたち、一緒に回らない?」
三人組の露出の多い女が声を掛けてくると、ギルバートが真っ先に立ち上がった。
「レディたちのような美しい方々に声を掛けていただけるなんて光栄です」
「やだ、ほんと?」
「所作が綺麗だと思ってたけど、貴族なの?」
「もしかして近くの魔法学園の生徒?」
女たちが顔を赤らめてギルバートを囲むと、ターナーはデリックに耳打ちする。
「あいつが言うと嘘臭いんだよなあ」
「そっちのお兄さんたちはどう?」
一人の女がデリックの隣に腰掛けると、誘惑するように足を組む。そして前屈みになると、開いた胸元から谷間を見せつけた。
「一緒に遊ばない?」
「………」
ピッタリとした服は体のラインを拾っていた。その体で誘惑しようという魂胆だったのだが、デリックは反対に何をしてるのかと呆れ返った。
エリシアにも会えそうにないし、もう帰るか…。
「お兄さんたらっ」
ぐいと顔を近づけてきた女に、文句を言おうとしたその時だった。
視界の端で、ハニーブロンドの髪が靡いた。
祭りを眩しげに見上げていたその女性が、背を向ける。
デリックは思わず立ち上がった。
「エリシア!!!」
祭りの喧騒にかき消されるかもしれない。
そう懸念したがその声は届いたようで、遠く離れた場所から、女性はデリックを振り返った。
幼い時よりも大人びた、あの時の少女ではない、立派なレディだった。
けれど、その外見のつくりはほとんど変わっていない。
目を丸くさせた女性の口が、僅かに動いた。
「デリック…」
魔法で耳を研ぎ澄ましていたデリックには、はっきりとそれが聞こえた。
飛び出そうとした次の瞬間、二人を遮るようにエリシアの前を馬車が過ぎ去った。
「ギルバート」
「お、っと…」
串焼きを押し付けるように渡し,人混みを掻き分けて進む。馬車が通り過ぎると、そこにはもうエリシアの姿はなかった。
「…………エリシア………?」
まさか、逃げたのか?
俺から?
何で………?
恐怖で血の気が引いていく。
ああ、怖い。
真実を知ってしまうのが。
彼女に嫌われているかもしれないということが。
喉の奥がカッと熱くなるのを必死に堪えながら、追跡魔法をかける。しかしカーライルの防御魔法で、やはり追跡できないようになっていた。
どうしてエリシアは俺から逃げるのか。
まさか、エリシアがあのジジイに防御魔法を頼んだのか。
俺が化け物だから…怖くなったのか。そう思っても、諦めることはできなかった。
この機会を逃したら、またエリシアに会えなくなる。下手をしたら二度と会えないかもしれない。
それなら、拒絶されても構わない。
生きていたんだから。
風で空に浮かび上がったデリックの足元に、巨大な魔法陣が光る。
人々は祭りの余興かと空を見上げた。
「おいターナー、あれってもしかして…」
「……デリックだろうな。あんな規模の魔法陣…」
ターナーは痛む頭を押さえ、ギルバートは「人間の仕業かよ…」と微笑んでいた。
やがて黄金の巨大な城壁が現れると、デリックを中心とした円状に、等間隔に広がっていく。
「なにこれ…」
「金色の…壁?」
人気のない裏道をがむしゃらに走っていたエリシアは、その金色が見えて立ち止まろうとしたが、一歩遅かった。
っぶつかる…!
そう思い目を閉じて衝撃に備えた。
しかし金色の壁は幻だったかのように潜り抜ける。
……え?
壁じゃないの…?
振り返ろうとすると、背中から温もりに包まれた。
「見つけた」
その声は聞き慣れないもので、エリシアは自分よりもずっと背の高いその人を見上げた。
「……………………殿下?」
見つかっちゃいました。笑
バックハグです!




