マナシィは止まらない
あぁっ!
毎日投稿を今日で辞めるって日に遅刻したぁぁ!
まだ深夜なので前の日に投稿した計算でお願いします!
45話まで宣言通りに毎日投稿したって言いたいんです!
王領都市の都城周りの広場にて、手すりと背もたれの交わる角を背に、ベンチでぐでーっと伸びきっているヒッツミハットコ。
馬車や人が大勢通る衆人環視の中でよくもこれだけ無防備な姿を晒せるものだ。
しかも鼻提灯を垂らして熟睡しているのかと思いきや、時折体をビクッと跳ねさせて、
「えぅ、もう分かったのだ…やめるのだ……一聞いて十知るワタシも百聞いたらジューシー……そうやってワタシを美味しく頂こうとしてるんだ、やっぱり人類種は愚か……むにゃむにゃ」
などとうなされている(?)。
「え、えーっと……」
「腕ひれのひだひだの中に手を突っ込むとトビキリいい反応をくれるぜ」
「……止めときます」
少し見てみたい気持ちを抑えてヒッツミハットコの肩をゆさゆさ揺すると「ふがぅっ! て、敵襲なのだ!?」彼女は品もへったくれもない大声で叫びながら飛び起きた。
それから両の拳を前に構え、寝起きの目で辺りを見回して、
「おー、なんだあんちゃん達かー」
ようやく目の前に居る二人に気づいた。
ヒッツミハットコは11歳だがその身長は190センチ、自分より30センチほども小さいキーセラと、それに背負われたカサギは目に入らなかったらしい。
「別に俺は身長が低い方じゃあないっつーのによーォ。大鬼といい、こういうヤツらのせいで見劣りするのはどーにも納得いかないね、だ」
密やかなるコンプレックスを掘り起こされてグチグチと文句を漏らすカサギ。
身長以前に器からして小さい男だ。
「どうしたのだ?」
「どうもありませんよ。さぁ、あとはマナシィさんが来るのを待つだけですね」
「う」
マナシィの名前が出るなりヒッツミハットコは目に見えて顔を青くし、皴が付くのも構わずフレアパンツの裾をキュッと握りしめた。
若干震えてすらいる。
「ワタシはちょっとお喋りしたかっただけなのに。井戸端の女、大海知らずとも楽しければ良しなのに。よく分からない内に服屋に連れて行かれてこんなのを買わされたのだ……」
改めてヒッツミハットコの姿を見ると、先ほど『デートディスコ』で会った時のような適当な服装ではないことが分かる。
チョーカーネックになった紺のブラウスと白のフレアパンツ。
色味もジンベエザメ風の文様が付いた青と白の髪によく合っているし、魚人特有の長い足――腰の高さは普通なのに股上が異様に狭く、結果的に足が長く見える――にも似合っているが……いつもゆったりした服を着ているヒッツミハットコは窮屈そうにしている。
強く引っ張ったのか、せっかくのチョーカーネックは既にベロベロに伸びきって、輪投げが掛かっているような有様だ。
「馬子に衣装はマジ馬耳東風なのだ……やっぱり人r」
「はいはい愚か愚か。……で、マナシィのヤツは今どこなんだァ? これ以上前座に時間を掛けていられない。とっとと始めようじゃあないか」
カサギが居場所を聞くと、ヒッツミハットコはより一層体の震えを大きくした。
「あ、アレなら簡易裁判所の中。えぅ、ワタシはおしっこって言って逃げてきたから、行きづらいけど……でもワタシは偉いからなー。自分が悪い時はごめんなさいを言える……はず」
ひとしきりブツブツと呟いたあと「二人ともワタシについて来るのだ」と歩きだしたヒッツミハットコを追ってキーセラは簡易裁判所へと足を進めた。
「マナシィさんと二人で何を話していたんでしょうか」と少しだけ疑問に思いながら……。
簡易裁判所の建物内部はその名前に相応しく非常に簡素なものだ。
左右に『第〇裁判室』との看板のついた扉、正面向かってまっすぐ行った先には間仕切りを兼ねたカウンター、その奥に本やら書類やらが山積みになった事務机が三つ……以上。
ヒッツミハットコが「たのもー!」などと叫びながら扉を開け放しても御咎め一つない。
そもそも警備兵の一人もいない。
唯一反応があったのは受付に座る中年の女性。
彼女は隈と涙袋が合わさったようなどんよりとした眼を重たげに細めて、親指でクイと横の扉を指した。
その先には『第5裁判室』の看板が下がった扉……どうやらマナシィの居場所を教えてくれたらしい。
「ありがとうなのだ!」
屋内に反響する声にその女性が増々目を細めるのと同時、キーセラは自分の肩、それもカサギが顔を置いている右肩に何か冷たい液体が付いたのを感じた。
少し遅れて、ヒッツミハットコが出した大声の残響の合間に、穏やかな寝息が混じっていることにも気づいた。
「……カサギ、起きてます?」
キーセラの問いにも寝息で応じるのみ。
「カサギ」
「んぉ……もう裁判は終わったか?」
「まだ建物に入って十秒も経ってませんよ……」
そう言えばビリーの家からここへ来るまでの道中、やけに静かだったのも、もしかするとウトウトしていたせいかもしれない。
『狩人&漁師協会』などを見ては不愉快そうに鼻を鳴らしていたが、普段通りならその建物に入る者にケンカの一つも売っていてもおかしくない。
……もういっその事ずっと眠っていればいいのに、とか思ったキーセラにカサギが「とにかく」と続けた。
「限界が来てたっつーことだぜ。ショージキ、このカサギの体はもうボロボロ。村を出てからのドタバタで数年分動いている計算だ」
「え、えぇ…まだ勇者としての活動は一つもしていませんのに……」
おんぶしている間は疲労が回復する一方かと思っていたが……どうやらカサギは背負われているだけでもかなり疲れるらしい。
キーセラが自分の思うカサギの弱さを更に下の方に修正していると、また後ろから寝息が聞こえて来た。
「かさg」
「ふっふーん。いいのだ、起こさなくて。裁判はワタシのかんかつだからな」
また起こそうとしたキーセラの言葉を遮って、ヒッツミハットコが「任せておけ」とばかりに胸を叩いてみせた
――ま、まぁ弁護人が居るわけですし、カサギが寝てても大丈夫でしょう。
ここで無理に起こしても良い事は無い。
キーセラがそう思い直すのと時を同じくして、何故か覚悟を決めた様子のヒッツミハットコが『第5裁判室』の扉を開け――、
「ななななぜ分かっていただけないのですぅぅぅううう! このスタイルはわたくしの理想を詰め込んだ最高でさいk」
――閉めた。
「いや、あの中に入らないと……」
「……そんなこと百も承知、二百も合点。ただ一見惜しみの百聞知らずなのだ……」
「は、はぁ」
冷や汗をだらだらと流しながら空の一点を見つめ、いつにも増して意味不明な事を言っているヒッツミハットコ。
ドアノブを握り込んだまま放そうとしない彼女の手をやんわりとどけて、キーセラが代わりに扉を開け――、
中で机に乗り上げて裁判官らしき人物を締め上げているマナシィを見て……
――閉めた。
「さぁ、どうしましょうか」
「す、すんごい切り替え…キーセラもちょっとおかしいのだ」
後ろ手で素早く扉を閉めてクルリと振り向いたキーセラにドン引きしつつ「待ってもダメなのだ」と前置くヒッツミハットコ。
「さっきからずっとあんな調子……ワタシも赤子の手を捻るように首をガクガクされたのだ」
そう言って自分の服を見下ろした。
どうやら襟首のチョーカーネックが伸びきっているのはマナシィのせいらしい。
自分で見繕った服への愛着が吹き飛ぶくらいにはブ千切れているらしい。
「……まずは入りましょう」
「う、うん! そうだ! それしかないのだ!」
頷き合い、今度は二人で扉を押し開けて――
「あぁぁぁぁあああ! よく考えたら裁判自体おかしいのですぅう! どうしてわたくしの服に裁判を吹っ掛けるノミがこんなにも大勢……」
――閉めた。
「まずいですね」
「本当にマズいのだ。裁判自体は何とか納得させたはずなのに。頭は縦振り心は邪、名無し斜めの尻軽し…やっぱり人類種は何処までも愚かなのだ……」
そうこうしているうちに部屋の中から、
『ーーーーーーーーッ! ーー! ーーーーーーーーぅぅううううう!』
本格的に頭のネジが外れた叫び声が轟き、いよいよ裁判官の身が保証できない頃になって、遂に心を決めたキーセラが勢いよく扉を開けると……、
「あがうっ!」
運悪く……いや、幸運にもこちらに突っ走ってきていたらしいマナシィが開くドアに額を強く打ち据えられて激しく転倒し、
「ぐ…………」
こけた先にあった机の角に頭を打って気絶した。




