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要介護勇者が往く! ~立てもしない2週目最弱勇者が魔王を討伐するそうです~  作者: 目傘アカナ
第1章 後編 ~要介護勇者、王領都市で暴れるの巻~
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華やかなる都市の労働者

 ――昼時。

 イツヒラ区画の中、扇のど真ん中には閑静のかの字もない活気が満ちていた。


 『飛ぶ鳥落としの大繁盛』

 『鳴かず飛ばずは閑古鳥』

 そんなスローガンが掲げられた都市民向けの市場だ。


 商魂逞しい者たちが屋台の荷車引いてやって来てはゲリラで物を販売し、かと思ったらまたすぐ別の区画にある市場に走り去っていく。

 中には何時間も居座っている屋台もあるが、それは権利を得てのこと。

 ここにいる者はみな『ハナビラ商会』に属していて、そこから1口40分の単位で場所を借りて販売してるのだ。


 金が無い商人はその限られた時間でいかにして物を売ったものか頭を捻り、それぞれが工夫を凝らす。




「本日開催、ラクチンライチのたたき売り。種なし手間なし、呼び名に嘘なし掛け値なし。お一つどうだいそこの奥さん。今年の夏はいつにも増しての大熱波。外仕事の夫に遊び回る子供。ただの水じゃバテちまう。ミネラル満点のこのライチでさっぱり乗り切ろう。おや買うかい? 600シドね、十個だけど…五個おまけ付けちゃう。はい、どーぞ」

 夫や子供の名前を出して篭絡を試みる者。


「一流の狩人(ハンター)と一流の漁師(アングラー)が獲った魔物の珍品が勢ぞろいだ。

 これは爆粒種(ばくりゅうしゅ)、ユナボマーベアの瞼から取れるスパイス。こっちはウットリカサゴのヒレ。この扇子(せんす)はパフュームムクドリに寄生したビャクダンの枝を骨に使ってるから、あおぐ度に良い匂いが……」

「おい店主さんこっち、これすごいじゃないか! 本物か?」

「あぁ、そうだ。それが今日の目玉商品。ボンボリボラの卵巣、ソライロカラスミだ。普段は天高くを飛んでて手が出せないが、大繁殖で仲間割れが起きて落ちて来たらしい。今日はこの四つを競りに出す、どの商品も3000シドからだ」

「これは買いだ!」

 純粋に品物で勝負する……と見せかけてサクラに値段を釣り上げさせる者。


「さぁ見て行って。昔から包丁は竹がズパッと切れたら一丁前、なんて申しまして、さぁさぁ行くよ。はい、さぁほらこの通り。節まで綺麗に切れている。更に、ほら、ほら、ドンドン切れる。まだまだ切れる。カグヤの姫まですっぱりポン。これだけ切っても……あらよっと、刃こぼれがないから紙がスーっと切れたでしょう。肉を切れれば骨までいける、この自慢の切れ味がずーっと続く。これが産業都市の包丁よ。今日はこいつを二つもつけて、2200シドの大特価。さぁさぁ買った」

 ダンとまな板を叩いて拍を付け、耳心地のいい語りで客を引き付ける者。


「この魔道具をまだ持ってないだなんて耳が遅い! これからは一家に一つ持つ時代。今回はあそこで燃えてる油に使おう。棒状のこいつをパキッと折ったら、5秒以内に炎に投げ込む。中で魔石が魔法陣に触れて、吹風(ブローウィン)と湧砂(スナーンド)の魔法が発動、はい3、4……。ね、風で周りの可燃物を吹き飛ばしたあと砂で窒息消火させるから、瞬く間に鎮火する。急な火事から家族を守る、この『パキッと消火棒』。安心安全の『スタンダード魔道具工房』からの新商品だよ~」

 実直に実演販売する者。




 彼らが全身から放つ「のし上がって、いつかは店棚を持ってやる」という熱意はすさまじく、それが渦巻く市場には自然と客が集まるのだ。


 そんな市場で人に揉まれながら歩くのは生ごみ……荷もt、カサギを背負ったキーセラ。


「どうしてここを通るんです……?」


 首を回してそこにいる荷物に問いかけた。

 魚人(アクアルル)の弁護士・ヒッツミハットコと別れたあと、ビリーの見舞いに行く道中で、カサギが市場を見ておきたいと言い出したのだ。

 用もなければ金もないのに。


「なんだってそう不審な目で俺を見やがるんだァ?」

「……認めるみたいで癪ですけど、カサギって目的が定まったら無駄なことはあまりしないじゃないですか」


 カサギの嫌いな「無駄なこと」とは、「無意味かつ退屈なもの」のことだ。

 自分が楽しめれば無駄ではないし、情報を得られそうなら無駄ではない。

 ビリーの見舞いに行く、これも無駄ではない。


 ただ、今のカサギは特段楽しそうでもなければ、知識を得ているようでもない。

 わざわざ遠回りをさせられて、しかも混雑に圧迫されているキーセラが理由を聞きたがるのは当然の事だった。

 ……が、カサギはニヤリと笑うのみ。


「何か言ってくださいよ」

「なんだっていいじゃあねーか。ちぃっとばかし屋台業者の調子を見ておきたかっただけだぜ」


 先ほどから動いている目線が、時間切れになった為に商売の途中で『ハナビラ商会』の法被を着た者に追い立てられていく屋台業者の姿を追っていることなど、キーセラには知り得ないことだ。


「……まぁいいでしょう。もう市場を抜けますし」




 そんなこんなで粗大ゴミを背負って人ごみを抜け、また歩くことしばらく、


「あぁ、ここだぜ。この汚ったねぇのがそうだ」


 ビリーの家へと到着した。

 王領都市の一般的な安アパート……から更に8ランク落とした借家だ。

 日当たりだけはそこそこだが、築250年の劣化は伊達ではない。


 建てた当時に掛けられただろう殺虫やら減湿やらの魔法が、とっくに切れてしまっているのだ。

 変色しきった柱の木、目に見えて歪んだドア、色褪せたペンキ。

 そのボロボロっぷりは明るい陽の中にあって、そこだけワントーン沈んだように見えるほど。


 羽アリが集団で飛んでいるのを見るに、まず間違いなく白アリの被害に合っている。

 ちょうど昨日、マナシィの服を買うような富裕層ばかりを尋ねていたのもあって、お世辞にも綺麗とは言えない外観だ。


 ……王領都市で暮らすにはそれ相応の金が必要だ。

 それこそ、他の街でならもう1ランク、村でなら3ランク上の生活を出来るくらいの金が。


 ビリーの苦労を思い、それでもまっずぐな……まっすぐだった彼に感心したキーセラが階段を上り、そしてドアを叩こうと扉に付いているノッカーを手にしたところ、それが――ボロッと取れた。


「えぇ……。ま、まさかこうなるとは」


 金属疲労だろうか。

 扉に打ち付けられた板金からノッカーだけが千切れてしまった。


 と、キーセラがノッカーを手に固まっている間に。

 扉の向こう側、家の中から「またか……」という声が聞こえたかと思えば、それに続いて低い足音が鳴り出したではないか。

 最初は「すたすた」だったその音は次第に「とっとっと」とリズムを帯びていき……数秒後、ドアが内側から勢いよく、


「金はないって言ってんでしょーがぁぁ!」


 蹴破られる。

 扉の前で固まっていたキーセラにそれを躱せるはずなく。


「ぁう……いっ……」


 外に開く扉、それも今しがた千切れた板金の、尖った部分が額にぐさりと突き刺さった。

 これには気が動転し、後ろによろめいてしまうキーセラ。


「どぅあ……うげらッ、がッ、ふべべッ…う、が……」


 そしてその背から落ちて階段を転がっていくカサギ。

 

 それぞれ軽傷と重症を負った二人が顔を上げると、露わになった家の中、玄関に立つ黒のノースリーブシャツにジーパンの女性と目が合った。

 ビリーと同じで肌が黒い……姉だろうか。


 蹴破ったのだろう体勢から戻ったその人は、扉の木枠にもたれかかると、跳び蹴りの拍子にコーム付きカチューシャからはみ出た髪を首の一振りで後ろに流し……そのままクン、と上げた顎で外を指した。


「さんざん言った通り金はないよ。帰りな」


 その人はクールな声音で言ったあと、そこで改めてキーセラを見て、


「……おや、よく見たら可愛いお嬢ちゃんじゃないか。なら、やはり帰らないと。この綺麗な顔がこれ以上傷つかないうちにね」


 手の甲でスッとキーセラの頬を撫でる。


 ヤニの匂いが染み付いた指先、固い手の甲。

 だが不思議と不快ではなかった。

 どころかキーセラは――


「……っ」


 ――ゾクゾク、と背筋を震わせた。

 女性である事が警戒心を取っ払った為に、気障な仕草がもろに刺さったのだ。


 男前と言う意味で、現在キーセラの後ろにいる男と正反対。

 恐らくカサギにそれを言えば「たはぁー、このカサギが後ろに居るのはおめーを前に出すためだっつーことになぜ気づけなんだか……女前、つまりレディーファースト、だ」などと屁理屈をこねるのだろう。

 そんなことだから喫煙者より煙たがられるのだ。


「おっと、煙草はやめておこうか」


 女性が咥えていた煙草を握り潰し……開くと、手の内にあったのは煙草ではなくキーセラが持っていたはずのノッカーの残骸。


 ――い、いつの間に……。


 手の早さに圧倒されつつ、ひと先ずは壊してしまったことを謝ろうとしたキーセラに、待ったの声がかかる。


「あぁいい。これを壊したことは構わない。あんたらんとこのバカどもがガンガン使うから寿命が来てた。取れてしまえば静かになってちょうどいいくらいさ」

「え、えーっと……」

「鉄くずは売れば金になる。家の中のドアノブはとっくに売ってしまったことだし……だから、謝らなくていい」

「お、お気遣いありがとうございます……?」


 キーセラがその人の持つ魅力に翻弄されながら今度こそペコリと頭を下げた。

 すると直後、その頭上を……、


「なぁカミラ! 酒があらへん! どないすんねん! 買っておけって言っといたやないか!」


 家の中から轟いた怒声が通り抜けた。

 クールな女性に惚れかけていたが、その声で「はっ」と夢から目を醒ましたキーセラ。


「……危ない所でした」

 

 ダメっぽい雰囲気にいつものカサギとのやり取りを見出したおかげなのだが……果たしてこれが良い事なのか悪い事なのか、判別がつけられないキーセラなのだった。

魔物関連のtipsはただの補足なので、読まなくても大丈夫……なはず。


【tips ユナボマーベア】

 ホラアナグマの魔物、体長6メートル。

 老廃物に起爆性の物質を含むのが特徴。

 汗が沁み込んだ体毛は強い衝撃で小爆発を起こす為、ヘタな攻撃では肌に届く前に勢いを相殺してしまう。

 長年生きた個体の目の上に出来るものもらい――爆粒種は火で炙るとパチパチ弾けて香ばしい匂いを出すことから、ショー形式で肉を焼いて見せるレストランなどで使われる。


【tips ウットリカサゴ】

 ウッカリカサゴの魔物、体長60センチ。

 腹びれの後ろにある突起から強力なフェロモンを発するのが特徴。

 ヒレを酒に浮かべて飲ませれば、どんな堅物もその気にさせる……が、大抵の者は生臭い匂いで気づく。


【tips ボンボリボラ】

 ボラの魔物、体長2メートル。

 その名の通りぼんぼりのような体で縦にふわふわと浮いているのが特徴。

 卵巣を処理した空色のカラスミと胃壁──そろばん珠とも言われる部位が珍重される。


深夜のルーブル美術館に忍び込み、この小説のURLをミロのヴィーナスの右胸に刻み込んでやりましょう。

効能:とりあえず作者は逮捕される。

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