ヒッツミハットコと言う少女
前回までのあらすじ!
王領都市で道具を揃えていくカサギの下に、大きなツキがやってきた!
“仲間”の一人・マナシィの店で、現状に不満を持つキャスターと出会ったのだ!
彼女、プエリーシアと自分優位な交換条件を交わし「集団訴訟の際に名前を貸りる権利と勇者としての第一印象を操作するツテ」を手にして調子づくカサギ!
キーセラはしっぺ返しが不安なようだ!
夕方に開廷する簡易裁判に向けて尋ねた弁護士、その人物もかなりの曲者!
果たして二人は裁判に勝てるのか!
以上!
「ふーむふむ、むふむふむ。合わせてふふむむ、ふふむむむ! 分かったのだ! つまりカサギのあんちゃんの為にワタシが裁判するってことなのだ!」
「……俺が言ったことそのまんま復唱してくれてどうも」
「うん! 気にしなくてもいいのだ!」
「穢れがないって無敵ですね、穢れに気づけないので」
「おい誰が穢れだ」
弁護士資格を取るほどの知能を持ちながら、嫌味の一つにも気付かない少女――ヒッツミハットコが190センチある巨体でソファーベットに寝転んでいる。
「ワタシはなー、あんちゃんが弱そうで面白いのだ」
「え、えぇ……」
楽しめるものならこの状況を楽しみたいキーセラが「参考までに」と理由を聞くと。
「キーセラって言ったのだ? バカだな~。勇将の下に弱卒なしのつぶて! あんちゃんには魔王討伐の責任があるけど。芋頭でも頭は頭なのかしらなんだけど。
でも一人でやらなきゃいけないわけじゃないのだ。あんちゃんの周りにはすごい人が沢山いるからなー。あげぅ……でもそしたらキーセラも凄い? すごいのにバカ? ……分かったのだ! キーセラはすごいバカなのだ! このばかーーー!」
手を叩き、足をばたばたさせ、ヒッツミハットコは全身でケタケタ笑った。
「気にするんじゃあねーぜ、一息の内に二転三転するようなヤツなんだ、こいつは」
「えぇ。……まぁ要はカサギには支えがあるから安心だと」
「おうとも。俺にはこのカサギの器に相応しいだけの“仲間”がいるからなァ。頼りにしているぜ、キーセラ」
「う……な、なんて断りづらい真似を」
三人が話している間、センコウガニはと言えば、遠くでシャボンのような泡をコポコポと飛ばしていた。
ディスコの雰囲気作りに一役買っているらしい。
ソファーの周囲には紙やペンの他、コップやらクマの刺しゅう付きカボチャパンツやらがそこらに散乱……生活感に満ち満ちている。
「……? おめー、まさかこの店で寝泊まりしてるっつーのか? 前はちゃあんと家を持っていたはずじゃあ……」
カサギが引いているのも当然だ。
ここは風俗店の一画、三階のフロアの端……要するにプレイスペースだ。
夜になれば周囲で会員たちがヤることヤるのだろうに。
「しょ、しょうがないのだ、カニーニちゃんを飼ってもいいお家が無いから……」
「そこは守るんですね……」
「当然なのだ! ワタシは法律家、ルールは守る! それにワタシは人のを見るのは嫌いじゃない、だってみんな楽しそうだとワタシも嬉しいのだ!」
「……穢れが、ない?」
キーセラは自分の言葉を小さく繰り返し、それから居心地悪そうに身をよじった。
無理もない。
男が欲望をぶちまける場所だ。
初めて入店した時はさしものカサギも面食らった。
シンセサイザーなるもの――音の作成と合成が出来る最新の魔道具――を取り入れてると聞いて訪れた先に待っていたのが、とんでもない乱痴気騒ぎだったのだから。
音楽、酒……そして性交。
アルコール販売の申請は通したようだが、性風俗店としての申請はしていないらしい。
会員制であることと大通りでの堂々とした営業が功を奏してまだ噂になっていないようだが、税収管理の目を誤魔化すべく従業員全員を養子にしたようなので、もうしばらくもすれば却ってその点を怪しまれ、都市の役人に嗅ぎ付けられるだろう。
まぁ従業員には中々の給料と徹底した健康管理をやった上で、営業停止を命じられた時の備えとして他の風俗店と提携してある。
彼女たちは突然収入を失くすことにはならず、またそのおかげで当の本人は憂いなく逃げだして新天地で新しい商売を出来るわけだ。
……ヒッツミハットコ、どんどん成長していく同族に揉まれ、純朴ながらも少しズレた少女である。
「あげぅ……でもさっき気づいたのだ。いっつもはワタシだけ身一つで逃げればいいのに。三十六計逃げるはおかずと一汁一菜なのに。今回はカニーニちゃんがいるから……ど、どうしたらいいのだ。これってとってもまずいのだ……」
パァっと笑顔になったり、かと思ったらがっくり項垂れたり、感情豊かな所は歳相応とは言え……いかんせんデカい。
鉱人のマナシィを縦に二人並べた身長なのだから当然だが、動く度にソファーベッドが揺れて「バブーン」とトロンボーンを鳴らしている。
そんな彼女――ヒッツミハットコに声を掛けるは勇者カサギ。
こめかみをトントンと叩き……実際には制御出来ずにドスドス叩き、
「よォヒッツミハットコ。ちょうどここに、おめーもカニーニも幸せになれる、いーハナシがあるんだが。乗ったって構わねーんだぜ」
弁護とは別な話を一つ持ちかけた。
――数分後、何故か席を外させられたキーセラが二人の下に戻ると、
「あはははは! あんちゃんはバカだ! 完全にバカなのだ!」
「ハンッ、この頭脳派勇者さまになんつー言い様だ。……だが、ちぃっとばかしバカなくらいが良い。そうじゃあねーか?」
「うん! 芋の煮えたも知らない民衆にはピッタリなバカさ加減なのだ! 縁なき衆生はドジョウ出汁! カラカラの出涸らしになるまで搾り取ってやるのだ! それこそオレンジみたく!」
「おいおい、それは言わないっつーハナシじゃあなかったか?」
「ぬぁーー! ごめんなさいなのだ!」
非常に盛り上がっていた。
普段は気にしないものの、場所がアウェーであることもあって、少しだけ疎外感を覚えたキーセラ。
そんな気持ちはそっと隠したはずだが……、
「なーにを寂しそうな顔をしていやがんだァ、キーセラ」
「……何のことです?」
「まったく、シレーっと嘘つくようになりやがってよォ。俺は悲しいぜ。あー悲しい悲しい。お涙ちょちょ切れちまうぜ」
カサギには隠し立てできないらしい。
「……」
「な、なんだってそんなに俺を見つめる……? そりゃあこのカサギの魅力は天下一品、ずぅっと一緒に過ごす内に惚れたくもなるだろーが……かーッ、モテすぎるっつーのも困りもんだぜ」
「その誤解が今の私の一番の困りごとですよ……」
言い返しながら、キーセラは心の内で呟いた。
――カサギの方も何か大事なことを隠しているみたいですけど、と。
カサギがキーセラのちょっとした変化に気づいたように、キーセラもカサギに隠し事があることを気付いていた……。
互いに勘付かれていることも勘づいている。
二人には水面下、言語の外に出たそういうやり取りがあって、その姿はまるで……、
「おおっ! あんちゃんが見たことある顔をしてるのだ! 妻が居るくせして王領都市に出張する度にワタシの店に来る変態の顔なのだ!
で、で! そしたら、キーセラは夫の不貞を『これで元気になるなら……』って黙認して出張の度にこっそり鞄に避妊具を入れる妻!? 浜の真砂は尽きるとも、世に愛想と小想の種はマジ尽きまじ! 冷めきってるようでそうでもない感じが堪らないのだ!」
……なんだとか。
「っつーことらしや。確かにおめーにゃあ姉女房の気質がありそうだぜ。やりくり上手で夫にも理解があるから家庭を円満に回す。ハンッ、付き合う男さえ選べば気苦労も無く一生安泰だろーよ」
「えぇ、せいぜいカサギみたいな男性には引っかからないように気を付けますよ。私は胃痛とストレスが原因で命を落としたくはないので」
「おーおー。言ってくれるなァ」
「言い続けますよ。いつまでも、ずっと」
「あー、キーセラの小言にゃあこの俺をしてもノイローゼになっちまいそうだぜ」
そんな応酬のあと……二人は顔を見合わせて、
「フッ」
「ふふっ」
静かに笑みを交わした。




