要介護な現実 確定
短めです。
「大したもてなしが出来ずに恥ずかしい限りでして」
「いえっ、そんな。急に来たのは私ですし。それにこのお茶、とっても美味しいですよ」
数分後、キーセラは居間でお茶を啜っていた。
さっきまでの怒涛の折檻が嘘のように穏やかな老人に招き入れられた、勇者の実家で。
壁の一部が大破して風通しがやたら良かったり、他にもあちこち穴を接いだ跡があったり、そこで遠慮なく爪を研ぐ猫がいたり、と気になることは多々あるが……この際は置いておくことにしたキーセラ。
これから先ずっと続くストレスとの戦いを考えれば、まっこと賢明な判断であった。
「この村の自慢なんでね、僧侶様にそう言って貰えるとじじぃも働きがいがありますのぉ」
「じじぃ、俺も茶ぁ」
「貴様は黙っとれ……いいな?」
振り上げられた杖にもビビらず「ケッ、今時体罰なんて流行らねーのよ」と動じない様子の勇者(?)カサギを見て言い聞かすのを諦めたのか、老人は再度キーセラに向き直った。
「して、お嬢さん。本日はどんな御用でこんな田舎くんだりまで?」
キーセラはその質問を聞き逃してしまうほどに、ある想いに駆られていた。
殺意というか何というか、それに類する何か、少なくとも神に仕える乙女にはおよそ似つかわしくない感情に支配されかけていた。
――カサギのやつ、魔王のあまりの強さに諦めて鍛錬してなかったのでしょうか?
だって、いくら何でも細すぎる。
引き締まっているのでは決してない。
先程カサギを背負った老人に連れられて来る道中――いよいよもって貧弱である、どうしてくれようか――捲れた服の隙間から覗き見えた青白い腹には、腹筋のふの字も浮き出ていなかったし、なんと言っても腕で感じた太ももの感触はもうただの骨だった。
――本当にカサギに戦う力が無かったら?
流れ切ったはずの冷や汗が滲み出てくる。
さっきぶり二度目の登場だ。
「……? どうかされましたかね?」
「い、いえ、なんでもありません」
キーセラは不安を振り払うようにこほん、と咳ばらいを1つしてから話し出した。
「……えぇと、私の用事の為にひとつお聞きしたいのですけど、その、かさg……お孫さんはいつもこのような感じなのでしょうか?」
ついに覚悟を決め、それを口に出したキーセラ。
このような感じ、とは居間の端に大きく場所をとるベットで死に際の老人のように体を横たわらせているカサギのことだ。
細マッチョだなんだと誇っていた自慢の肉体がひょろひょろなのも、あの莫大な魔力が欠片も感じられないことも、全部は全部今だけ病魔に侵されているからに違いない、なーんて甘い希望から来た質問だった。
そして
「こやつですか? えぇ、いつもこの通りですよ。こやつは生まれた時から虚弱で歩くこともままならないくせして、鍛えもせず、あまつさえ自分は勇者だから旅支度を……なんて妄言まで言いよるんです」
その返答によって、人類種を救う希望であるはずの勇者が介護必須な人間なのだと確定した。
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