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要介護な現実 ほぼ確定

ちょっと短いので次話を今日の夜あげます。

「ちゃあんと思い出せたみたいだな? この時をずぅっと待ってたぜ、キーセラさんよォ!」

 

 自分が死ぬまでの記憶を流し込まれ、さらにそんな意味ありげなことを言われれば、普通の人間なら当惑するまで。

 だが、キーセラはこの感覚を知っていた。

 さっき魂から引き出された記憶の中で、一度のみならず何度も感じたものだ。


 キーセラは情報過多で頭痛のする額を記憶をなじませるかのように撫でさすり……尋ねた。


「ふぅー……で、16年もかかるなんて一体何があったんです?」


 目の前で埋まっている男、カサギに向かって話しかけながら、キーセラも改めて自分の記憶を探っていく。




 記憶は最後、夜に固定された魔王城……の天井がぶち抜かれた最上階で終わっている。

 絶望的な死の記憶だ。

 膨大な魔力と今までの魔王になかった圧倒的な戦略性、更には部下を魅了するカリスマまで兼ね備え、最盛期には一日で三万もの人類種を殺した魔王――ノーラ・トスケイナとの戦いの記憶。


 勇者カサギが薙ぐ刀はどれだけ懸命に魔王を打ち据えても硬質な音を響かせるだけだし、破戒僧イスカの棘付きメイスなんかはすぐに砕けた。

 聖徒キーセラの強力な破邪の法術も、精霊使いのアトリエが顕現した魔法も、吸血鬼であるトリスタリアの血操術も。


 全てが意味を為さなかった。

 その上、魔王からの攻撃はといえば自分たちを全滅させた一回のみ。


 ならなぜ、過去に死んだ記憶があるキーセラが生きているのか。

 それは人類種でただ一人、勇者だけが持つ祝福・時間転遷タイムリープが発動したからだ。

 

 時間転遷タイムリープは、勇者が敗北した数秒後に発動し、死したことで体から抜け出る魂を過去の己の肉体に定着させるもの。

 勇者が仲間だと認める者……クサい言い方をすれば“キズナ”を感じている者も魂の繋がりによって芋づる式に巻き込まれ、生死に関わらず一緒くたに過去へと戻る。


 この祝福によって何度も何度も過去に戻されてきた。

 油断での事故死に始まり、力量を見誤って完全試合を繰り広げられたり、反対に快進撃故に魔世将に目を付けられて殺されたりと、数えきれない回数全滅し、その数だけ乗り越えてきた。


 過去2000年に渡り幾度となく魔王が出ようとも人類種が絶滅せずにいる隠された理由である反則極まりないこの祝福だが、少しだけ不便な点があった。

 仲間たちは勇者と直接会って目を合わせないと、魂に刻まれた未来の記憶を思い出せないのだ。


 18年も巻き戻された今回のように仲間が出来る前まで戻った場合、勇者はすぐさま仲間に会いに行くべきなのだが……。





 そこまで考えた時、キーセラは自分の頬にツーっ、と嫌な汗が伝うのを感じた。

 目にした少年の容貌を思い起こしてしまったのだ。


 かつての未来で仲間だった男。

 人類種を魔王の手から救わねばならないその少年。

 摂食障害と見紛うほどに痩せっぽっちになって、しかもなぜかキーセラの前で埋まっている、勇者であるはずのそいつに尋ねた。


「そういえばカサギはなんで……なんでそんなに弱そうなんですか?」


 声が震えなかったのはもはや奇跡だった。

 だが、そうそう起こらないからこその奇跡。


「そう、そこよ。聞いて驚け。実は、だ。なんとこのカサギ……」


 弱くない、とカサギに即答してもらえる奇跡は起きなかった。

 キーセラはそっと耳を塞ぎ、尚も聞きたくないことを口走っている少年から目を逸らした。

 

 ……すると逸らした目線の先、今しがた破裂したばかりの家から、ちんまい老人が杖を振り上げてこちらへ爆走してくるではないか。


「くらぁぁああ! こんのクソガキャァァッ!」

「なにーィ! この声はじじぃ! いやまさか、畑に居たはずじゃあ……ッ!」


 シワだらけの顔とは違和感満載な速度で走り抜いた老人は、そうかと思えばカサギの片足をむんずとつかんで、地中深くに埋まっていた腕を容易く引きずり出してみせる。


「なんつー力だこの! おいキーセラ! ぬぼーっと突っ立ってねぇで俺を助けろォーーッ!」

「だんれがキーセラじゃ! カサギ、そこに直れぃ!」


 老人はカサギが助けを求める少女のことなど目にも入っていないようだ。

 孫のなまっちろい体を小脇に抱えると、その尻を杖で勢いよくしばき始める。


「お前はっ! わしの家に! 何度穴を! あける! 気かっ!」

「じ、じじぃ! 放せ、放しやがれってんだよォッ!」

「黙れぃ、ろくすっぽ仕事も出来ねぇくせに何度も家を吹っ飛ばしやがって、ちったぁ痛い目みんかい!」


 じたばたと暴れるが、細い肢体では老人の拘束すらも振りほどけないらしかった。

 叩かれすぎたあまり尻から鳴ってはいけない殴打音が聞こえ、カサギがぐったりとなった頃、キーセラはようやく受け入れた、魔王よりもよっぽど残酷な現実を。

 この、ひょろくって老人に叩きのめされてるのが世界を救うらしい勇者だという現実を……。


 キーセラは大きくため息をつくと、また疲れた表情をして二人に声をかけた。

pv数が順調に伸びててにっこりな毎日。

やはり皆、逆境からのスタートが好き……。


暇人アピールばかりしている友人にもこの小説のURLを送り付けてやりましょう。

効能:読んだか否かで本当に暇か分かる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファンタジーに介護を持ってくるなんて斬新ですね! 世界観も作り込まれていて凄いです! テンポの良い会話や生き生きと描写された登場人物達が素敵です! [一言] 読んでいて思わず吹き出しちゃ…
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