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要介護勇者が往く! ~立てもしない2週目最弱勇者が魔王を討伐するそうです~  作者: 目傘アカナ
第1章 後編 ~要介護勇者、王領都市で暴れるの巻~
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要介護詐欺師の毒牙

「プエリーシア、おめー服はどうするつもりだ?」


 明らかに年下だろう男に呼び捨てにされて少し眉根を寄せたプエリーシアだが、ファンからはいつもそうだ。

 すぐに気を取り直すと手に持ったスケスケな服に目をやった。


「確かにどうしようかしら。高い買い物だけど、それでも値段が良心的だからあまり抗議しづらいのよね……」


 彼女が尊敬するデザイナー・マナシィは金を目的としない職人だ。


 マキジャクマイマイなどの魔物を故郷の原生都市に居る知り合いの調教師から安く仕入れているおかげで、既製品はこの「ブティックランウェイ」でも随一の安さだし、特に自分の美の理念を詰め込んだ「お任せオーダーメイド」は世に広める為に、その価格には原材料費と制作中に店を閉めた分の賃料、それと僅かな開発費しか計上していない。


 他のクリエイターたちが「消費されて使い潰されるのはゴメンだ!」と声を上げる昨今の流れの中で、確かな個性と腕を持ちながらもこうした態度を貫く職人は珍しく、尊敬されるべき。

 先ほどは期待を裏切られて怒ったプエリーシアも今はそれを思い出し、だが行き場のなくなったモヤモヤに頭を悩ませている。


 そんな彼女に声を掛ける者が居た。


「おい、おめー。まさかこのまま泣き寝入りするつもりじゃあねーだろうな」

「……え?」


 カサギだ。


「ちょっとカs」

「いーや、止めてくれるなキーセラ」


 自分の企みがバレていることまで織り込み済みだったようで、カサギの笑みに嫌な予感を覚えたキーセラまでも言葉を遮られてしまう。

 そいつは一層笑みを深め、プエリーシアへと向き直った。


「良心的だから責めにくい? おめーにとっても安い買い物じゃあねーだろうに、何を甘っちょろいこと言っていやがるんだァ? この店での取引は不当だッ。言語道断、司法からの懲罰的な対応を求めるべき、だ!」


 自分も客の一人だと言うのにこの言いよう。

 呆れるほどに勝手な男が続ける。


「マナシィの様子を見るに本人の前であの服にケチをつけた最初の客は、プエリーシア、おめーらしい。だが、『思ってたのと違うけど、でもこれも芸術の形の一つだから…』などと抗議を控えているヤツはまだまだ居るに違いない」


 カサギは「そこでだ」とプエリーシアへ指をビシリと差し向けた。


「俺たちはここ『ままはな』に集団訴訟を起こす! そしてその集団とは……あれだ」


 そう言い、ちょうど戻って来たマナシィを顎で指した。

 より詳しく言えば、彼女の手の内にある一枚の紙。


「それは……?」

「お任せオーダーメイドの購入者リストだ。ざっと40人は居るようだぜ。……マナシィ、俺たちは裁判を吹っ掛ける、それで良いな?」


 それはマナシィに『お前の服を気に入らない奴が居る』と言う事と同義。

 また怒り狂うかに思われたが……、


「採寸中に先に聞いたので~心の準備はバッチリですぅ。掛かってこい、って感じなのですぅ」


 意外にもそうはならなかった。


「何を言ったんです、カサギ」

「さぁ? 何だったか。俺にもいまいち」

「む、さっきの私の言葉……」


 展開の早さに目を回したプエリーシアが「え、私まだやるなんて……」と口にするのを、まだ話は終わってないとばかりに遮って、またもカサギが声を上げた。


「交換条件と行こうじゃあねーか」

「……?」

「忙しい身だっつーのなら、このカサギに任せておけば万事オーケイ。おめーは被害者集団の筆頭として名前を貸してくれりゃあそれでいい。弁護士から何からすべて揃えて明日の夕方には簡易裁判を開いてみせる。依頼料もとらねー。ただその代わりに、だ。おめーがキャスターっつーのなら、ひとつ俺の話に乗っちゃあくれねーか?」


 おいしい話には裏がある。

 自分は要求されるのだろうか……と目に見えて警戒した様子のプエリーシアに、カサギが爆弾を放った。


「あーところで、これはただの質問だが……魔導都市に行く予定はねーんだろう?」


 魔導都市に行く予定の確認。

 その断定の問いは『毎日マジカル新聴』の本部への異動の実現不可能さを聞くもので……つまり明け透けに言えば「お前って出世できなそうだな。そうだろ?」という何とも不躾な質問だ。


 そして、


「無いわ。今はまだ、ね。でもいつか上り詰めてやるんだから」


 それに事も無げに応じるプエリーシアを見て、カサギは遂に確信に至った。

 

「なるほどリョーカイ、だ。苦手なワードは『新人』と見たぜ」

「……ッ」


 唐突な言葉にたじろぐプエリーシア。

 カサギは彼女が立ち直る前に更に口を開いた。


「おめーは恐れている。新人の追い上げを。いや追い上げもだが、根本的には自分の失速……そう、老いを恐れている」


 初対面の男からの礼を欠いた質問に、面食らわず即答。

 これはおかしなことだ、普通じゃない。


 ほんの一瞬でも、受け答えに詰まったり下唇を噛んだりすれば、それは自分でも受け入れがたく思っていて、目を逸らそうとしている欠点なのだろう。

 だが、プエリーシアは何のリアクションもせず応じた。

 

 そこからカサギは推測したのだ。

 プエリーシア自身も悩み、悩みに悩み、そして自分なりの結論を出しているのだと。

 「このままで出世できるのか?」と何度自問を重ねても「このままではいけない」という答えになるのだと頭で完全に理解しているのだと。

 だから今回も思考の過程を省略して、感情を挟まずに即答できたのだと。


「良い職を手にして、良い服を着て、自信満々に振る舞う。努力を好ましく感じ、実力を何より愛し、どちらもある自分を目指す。ケッコーなことだ。誰にでも出来る訳じゃあない」


 寝転んだカサギを見降ろしているはずが、そいつの傲慢な態度のせいで、プエリーシアは『自分こそが地面に這いつくばっていて、それをこの男に見下されているのだ』という妙な錯覚に陥った。


「そんな実力主義のエリート志向をプンプン漂わせているおめーが中継局所属の特派員に身を甘んじている現状に何も思わないはずはねーよなァ。そして、極め付きはあのパシャっと写実機、あれだ」


 カサギは今朝読んだ朝刊にあった「最近デビューした新人の情報魔術師(ニュースキャスター)」の感魂映像(G.I.F.)を頭に入れていた。


「新人キャスターどもはどいつもこいつも小綺麗で清潔感たぁっぷり。なんたって去年辺りから採用基準に見た目が追加されたっつーんだからよォ。最初は技術職だったんだろーが、これからはどんどん芸能化しそうだよなーァア、ええ?」


 安易に煽っても怒りを買えないと見て「……ゴホン、そこでプエリーシア、おめーはこう考える」と前置いた。


「私はその中でもビジンな方、十分に通用する、とな。だがおめーは27か28……それくらいに見える」

「……25よ」


 カサギが「うーっぷす」と目を逸らし、


「とんだシツレイを。あー失礼ついでに言うと、今のはつまりおめーが実年齢より2歳は老けて見えるっつーことだ」

「カサギ、本当に失礼ですよ」


 サラリと暴言を吐いて続ける。


「とにかく、だ。おめーは老ける。これからも老ける。老け続ける。死ぬまでずぅっと。その老けていく人生の道の中で、プエリーシア、おめーは分かれ道にいる。それもあと一年か二年もしない内に後戻りが利かなくなるような、決定的な分岐点だ」


 カサギが「おめーも重々分かっているんだろう」指をピンと跳ね上げると、プエリーシアは知らず――ごくり、喉を鳴らした。


「このまま行けば無事、出世できないコースにルートインだ。見た目では新人より劣っていき、かと言って実力では先輩どもが席を埋めている。確かシア、だったか? くくっ、随分とキュートなあだ名で呼んでくれるファンが居るみてーだが……残念。キャスターは毎年増えるんだ。中には乗り換えるヤツだっている。おめーは段々人気を失い、番組に起用されなくなる」

「そ……そんなこと、あなたに言わなくてもっ。分かって」


 いよいよ聞いていられなくなったのか、そこで初めて口を挟んだプエリーシアに、カサギが「だが!」と重ね、もう一本の指を立てた。


「もう一つの道。知名度が上がりファンは増え、そのトピックが話題に上がる度におめーの名前も出るようになる、そんな道があると言ったら……どうする?」

「そんな都合の良いこと、ある訳が……。…それは……なんだって言うのよ」


 グッと堪えてプエリーシアはカサギを睨み上げた。


「ハッ、決まってるじゃあねーか。特ダネだ。これの取材の権利を今の内から獲って、キャッチーなフレーズを付ける。新聞にはそのフレーズが乗り、それを見て誰もがおめーを思い出す」

「ふ、特ダネ……ね」


 明かされた内容に鼻を鳴らすプエリーシア。

 その鼻息は「何を言い出すと思えば、それが事前に分かれば訳ないのよ。これだから素人は」とでも言いたげで……だが落胆しているようだった。


 ……人は期待があるから落胆するもの。

 その時点でもう既に彼女はカサギの術中へと、堕ちようとしていたのだ。


「いいか。良い仕事は待ってても来ちゃあくれねー。自分で作る物だ」

「えぇ、そうね。でも自演のセンセーションなんて放火くらいのものよ」


 プロとして諭すような口調になった彼女に、カサギが最後の一押しを、繰り出す。


「違うね、俺だ」

「?」

「俺自身が特ダネなんだ。そう、この俺こそがハイパーな特ダネだ! せいぜいありがたく思うといい。本邦初公開、だ」

「……はぁ?」

「最初に言ったろう? 簡単なハナシだ。おめーは被害者として名前を貸す。交換条件っつーんだからトーゼン、俺からおめーにも大仕事っつーメリットをくれてやる」

「???」

「そしてその大仕事でおめーは……」


 プエリーシアは意味不明な言葉に不快そうに顔を歪めつつも……知らず、前に身を乗り出していた。


「おめーは十数日後、『歴代で最も賢く、最も慈悲深く、なにより最も強い勇者・カサギ』という謳い文句でこの俺を世に公表したキャスターとして、世界に再デビューを迎える」

「………は?」


 しばしののち、どう転んでも自分の損にはならないことに考えが至ったプエリーシアは……訝りながらも首を縦に振った。

この小説のURLを書いた紙をおみくじ掛けに結んでやりましょう。

効能:神仏との縁を結んだことで毎日が幸せになる。

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