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要介護勇者が往く! ~立てもしない2週目最弱勇者が魔王を討伐するそうです~  作者: 目傘アカナ
第1章 中編 ~要介護勇者、王領都市に向かうの巻~
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2人目

 カサギが目を覚ましたのは陽が傾き出してからのこと。


「ん……」

「あ。お、起きましたか?」

「おうおも。…おあ…おあお………ぉはようさん、いづっ」

「満身創痍じゃないですか……」

「おん」

 

 喋るという数少ない制御出来る動作に必要な魔力さえも十分ではないようだし、そのお早うの挨拶だけで肋骨の痛みに目を顰めている。

 いや、痛覚が鈍くなっているカサギのことだ。

 目を細めているのもピントが合わないからかもしれない。


「うあく逃げらえたみてーふぁな」

「えぇ。ギリギリでここのことを思い出しまして」


 キーセラがチラッと視線をやった先、天井にある小窓、地上からの入り口でもあるそこからは、赤く染まりつつある空が見えていた。

 ここは王領都市を囲む草原の中にある秘密の地下室。

 カサギはかつて訪れたことがあるここに向かって跳び続けていたのだ。


 強力な人除けの魔法が掛けられている為に、キーセラが使った払宵(ピュアメリル)のような結界を解呪する方法を持たなければ入り口を認知することすらできない。

 身を隠すのにはうってつけの場所だ。


「ギリギリでしたよ、本当に」


 言いながらキーセラが埃を被ったランタンに魔力を追加して光度を上げ、部屋全体を見えるようにした。

 露わになったその地下室は、ただでさえ狭い部屋の壁をコンクリートで塗り固めているうえ、更にその壁沿いには本棚がびっしり並べられているものだから、いっそう狭苦しく感じられる。

 本棚以外には、カサギが転がされている大きな机が一つあるのみだ。


「へいひ……兵士たちは消えあか?」

「い、いえ、まだ探し回っていますが、もうしばらくで別の場所に包囲を変えると思いますよ」

「なが…ならいい。さっさとお暇しようじゃあねーら」

「え、えぇ。そうしたいんですが……」

「……?」


 そこでようやくカサギがキーセラの歯切れの悪さに気づき、わずかに首を傾げた。

 そして、次の瞬間。


 ――ガヅンっ!


 切っ先鋭い何かが直前までカサギの首があった空間を貫いて、机の天板に深々と刺さったではないか。

 掠りもしなかったはずだが、一拍遅れてピーィと割けた首の薄皮からこぷっと血が溢れていく。


「おいおい……こりゃあ、めんどっちーぜ」


 思わぬ連戦の予感に文句を零しながらも……カサギは自分でも知らない内に獰猛な笑みを浮かべていた。


「やってやろうじゃあねーか。不便も不快も嫌いだが……逆境には燃える性質(たち)ふぁぜ、俺は」


 若干甘嚙みしたものの、カサギはそんなことを気にせずに、クナイが飛んできた真上……ではなく、キーセラの背後を睨み付け、


「そこに隠れて居やがるのは分かっているッ! 出てこい、姿を見せろよ芋ヤロウ! このカサギの前とあっちゃぁ全てお見通しだぜーーッ!」


 寝転がったまま叫んだ。

 もちろんカサギは居場所を見破る術なんて持ち合わせて無いが……もし近くにいなければ、キーセラは隙を見て手に持っている杖で叩くなりしてカサギを起こしたことだろう。

 キーセラがカサギに策があると確信を持っていたように、カサギもキーセラの肝の太さを信頼していた。


 ――その調子で胸周りにも肉が付きゃぁいいものを……残念でならねーな、おい。

 

 そんなことを思いつつ叫んで数秒後、キーセラの肩口の上辺りの背景が砂糖菓子に水でも引っ掛けたかのようにドロドロと歪んでいき、一つの影が現れた。

 背に隠れているためその姿は見えないが、唯一出た腕がキーセラの首にクナイをグイと押し付けているのを見るに、やはり脅しつけていたようだ。


「か、カサギ……やめてくださいっ。私は大丈夫ですから…………っ」

「はんっ。おめーの願いなんて俺の知ったことじゃあねーんだぜ、キーセラ。……ん? その指は……」


 黒い手甲から出たクナイを握る指が、ランタンの灯を照り返していることにカサギが気づくと同時、鈍色の指を持つその人物が影からヌッと抜け出して、忍者装束を着こんだ体を見せた。


「なんと、拙者の隠れ身の術をたったの一目で看破するとは。

 それにこの女子(おなご)。この状態で仲間の身を案じたか、なんという仲間想いな。おかげで奇襲も大失敗にござる……。

 して、お二人。如何な理由があって拙者の基地に踏み行ったのであるかな? 答えによっては生きて帰すわけにもいくまいが」


 独特な口調で喋るその人物の事をカサギは知っていた。

 忍者装束の下には、かぎ爪を四本くっつけただけの足先と、鉄の脚、頑丈そうながっしりとした腰回り、人間ではあり得ない球体のウエスト、ラガーマンにも劣らない肩と来て、その上には首と顔が一体になったような円筒状の顔があることも知っている。

 この部屋の主であり、かつての未来での仲間。

 

 カサギは睡眠で回復した魔力を全て使い、大仰な身振り手振りで机の上に立(・)ち(・)上(・)が(・)る(・)と(・)、ビシィっとその鐵人(ローベット)を指差した。


「くくッ! この年代物のオンボロボットめ、感服したなら俺の目を見るといいッ。これからてめーの部品を葡萄でもちぎり取るみてーに一個一個取り外して解体してやる男の目だッ!」


 言いながらカサギは目尻にそれぞれ両手の三本指の腹を当て、母親譲りだと言う瞳を強調した。

 注ぎ込む魔力の量の調整が出来ないのは相変わらず、しかし魔力が枯渇したおかげで繊細な動きが可能になっているのだが……本人はそのか細い力で震えずに立つことに精一杯で気づいていない。


「品の無い男よ……。それとも拙者の知らぬうちに俗世はこうも荒れたと申すのか?」

「ごちゃごちゃ言ってねーで、この自慢の黒い目を見てみろっつーんだよ、このヨタサクがぁッ!」

「ぬ、ヨタサクとな? 聞いたことのない罵倒だが。いやしかし、なにであろうか、この感情。懐かしいようであり汚らわしいようであり………」

 

 ブツブツと呟いたその鐵人(ローベット)がカサギの目を見た途端、顔にある二つの赤いセンサーがヂヂッと点滅して……


「ん!? こ、これはもしや!」


 声を上げた。

 時間転遷した勇者の“仲間”が条件を満たして、魂の記憶を思い出しているのだ。


 だが、少し様子がおかしい。

 時間が経つにつれ、つまり思い出していくにつれ、どんどんと取り乱していく。

 十秒もすると、クナイを取り落として頭を抱えてしまった。


「待たれよ! ノォォっ! そんな、むごいでござる! お主は本当に民を守る勇者であるのか!? このような悪鬼の手練手管を使うなど信じられん! やめッ、それに加担するのは拙者の主義に反するというにっ!」


「くくっ、せいぜい良い夢を見てくれてるといいが」

「……到底そうは見えませんけど」


「それは! それだけは勘弁である! 拙者はそのようなことに手は貸さぬ! あぁぁっ、そんなの嫌でござるのにぃぃぃぃぃ!」


 幻覚にうなされているようにしか見えない……明らかに嫌なことを思い出させられている鐵人(ローベット)を横目に、その元凶であるカサギが一件落着したような達成感を顔に滲ませた。

 

「これで念願の二人目、だ。予定より早いペースで結構なことだぜ」


 頭を抱えたまま蹲り「拙者は、拙者は知らずとはいえ悪魔に手を貸してしもうた……この罪を濯ぐのに如何ばかりの……ぬぐぐ」と漏らしている鐵人(ローベット)を見て、『仲間』想いのキーセラがぽつりと一言呟いた。


「やめてくださいって言ったのに……いっそ思い出さない方が幸せでしょうから……」

年賀状にこの小説のURLを書きつけて送りましょう。

効能:来年から一通も来なくなる。

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