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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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なんでも七輪で焼くと美味しいのか否か

 隣の二階堂さんには変な癖がある。

 考え事をして煮詰まってくると部屋の壁を叩くのだ。

 最初は怖い人なのかも?と思って不安だったけど、本人と直接話してそれが変な癖だと知ってからは何も怖くはなくなった。


 変な癖のある隣の二階堂さん。

 とてもいい人で、何かと話すことも多くなった。

 怖いどころか最近では仲が良い。

 それで我が家ではこの壁の音がすると彼女を食事やお茶に誘うことにしている。


 今日は壁の音はしない。

 その代わり……



 ―――――――――



 疲れた。

 実家に帰ってこんなに疲れたと思ったのは初めてである。


 人の悩みの相談に乗るというのがあんなに疲れることだとは知らなかった。

 とにかく自分を殺し、自分の言いたいことを抑えて、まずは相手の話を聞く。相手がその悩みにどのようにアプローチしようとしているのかを知る。そのアプローチの仕方を否定はしない。

 大抵、悩みというものは本人の中でどうしたいか結論が出ているのだ。


 だから解決策を与えるという仕方はダメ。


 相談者が気づいていない、その悩みに対するいくつかのアプローチの仕方を『こんな方法もあるよ』という言い方で提示する。

 そして、相談者が思っている結論に対して、支障のない範囲で当人の背中を押す。

 もし結論が間違っているように思える場合でも間違っているとは言わない。


 ここが難しいところなのだが、間違っているとも言わないが正しいとも言わないようにする。

 あくまで結論を出すのは相談者本人なのだ。

 ただこちらは相談者が気づいていないリスクだけは伝えるようにする。

 

 大抵、この方法で悩みを抱える人の相談はうまく行く。

 うまく行くと言っても問題が解決するわけではない。なぜかと言えば問題を解決するのも本人に他ならないからだ。

 ただ『話を聞いてもらった』という満足感は与えることができる。

 

 あたしは今まで、仕事をさぼりに相談室に入り浸っていたのだけど、うちの会社の『相談室』の心音さんはこんなにも大変な作業をしていたのかとあたしは同級生の相談に乗ってあらためて感じた。


 とにかく『相談に乗る』という作業は非常に疲れる作業である。


 そんなわけで、火曜日に実家から帰ってきて週末までの残り3日ほどは仕事だったのだけど、疲れがたまってどうしようもない状態で、仕事中に何度も欠伸がでたり、昼休みは眠くて仕方なかったから、おそらく作業効率は落ちていただろうなと思う。

 それにしても実家に帰っていて休みをとっていた関係で今週はいつもよりも週末までの日数は少なかったはずなのに、今週ほど週末が来るのが遅いと感じたのは初めてだった。

 まあ……来週はがんばろう。


 金曜日の夜には実家からダンボール箱に入った野菜が山ほど送られていた。


 中には収穫した秋ナスも入っていた。

『焼きナス食べたいなあ』

 そんなことを寝る前につぶやいて、そのままあたしは眠ってしまった。


 そして土曜日の朝。

 なんだかんだやることはたくさんあるのだけど、起きたのは8時過ぎだった。

 しっかり寝坊してしまったのである。まあどうせ今日はやることなどない。せいぜいたまった洗濯物を片付けて、部屋の掃除をするだけだ。


 洗濯物がたまっているので早速洗濯機を回す。

 食事に関しては疲れていたので外で食べるか、スーパーのお惣菜で済ませていたので、台所の洗い物は少ない。お風呂の掃除と、部屋の掃除をしていると細かな汚れを発見してさらにゴシゴシやってしまい、気が付いたら時間はあっという間に過ぎてしまう。

 洗濯物を干して、お昼ご飯を冷蔵庫にあるもので済まして、お昼からさらに部屋を掃除して……

 気が付けば夕方。


 洗濯物を入れる。

 いい天気だったからよく乾いている。

 柔軟剤のいい匂いがする。


 洗濯物を畳む。

 ラジオを聞きながらひたすら畳む。

 実はこの作業がいちばん地味にきつい。


 たたんでタンスにしまう。

 簡単なようでけっこうしんどい……と思うのはあたしだけだろうか。


 洗濯物をすべてたたみ終えるとラジオの時報が16時を告げた。


『秋の釣瓶落とし』というが、秋は太陽が沈むのが早い。17時を過ぎてしまうとあっという間に真っ暗になってしまう。

 その前にやりたいことがある。


 焼きナスが食べたいのだ。

 そしてサンマも焼いて食べたい。

 あと……先日、スーパーでいくつか購入しておいた秋の味覚を七輪で焼いて食べたい。


 あたしはベランダに出て七輪を出した。

 少しこじんまりとした七輪だが、都会のアパートのベランダにでて火を起こすならこのぐらいの大きさがちょうど良いだろう。

 昨年の秋にもサンマを焼いて、その時に大家さんにも許可をちゃんと貰っている。

 ステンレス製のバケツに水を入れておく。これは炭を片付ける時のもの。そして火を使うので安全のために用意している。

 風は吹いていない。

 強風だと危ないのでできないが、今日は穏やかでいい天気だ。


 夕方の物悲し気な雰囲気と七輪の煙の臭いはすごくいい。

 まさに秋という感じだ。


 固形燃料の上に炭を乗っけてバーナーで火を起こす。

 パチパチという音がする。

 うちわで風を送るとあっという間に炭が赤くなってきた。


 炭火の熱風がおでこのところを吹き抜ける。

 ちょっと熱いのだけど、同時に炭の香りが鼻をくすぐる。

 何も焼いていないのに、なんだかいい匂いがするのは炭火の特徴なのかもしれない。

 しばらくうちわで風を送り続けると、炭は真っ赤になる。火ばさみで炭を平らにしてから、七輪の上に網を置く。


 さて……何から焼こうか。

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