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隣の二階堂さん  作者: 阪上克利


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黒は女を美しく見せるのか否か

 姉の着るものと言えば花柄の洋服か、赤や青を基調とした派手なものか、もしくは無駄にリボンがついているようなものが多い。

 実家に帰ってきた時もそんな恰好をしていたのだけど、結局、行先は畑なわけですぐに作業着に着替えてきた。大体、その服……着てくる意味あるの?


 姉は年から年中誰かに恋をしている。

 しかも片思いだ。

 で……彼女自身は両想いになる気はない。

 なんのつもりなのだろうか。

『健気なわたし』を見てほしいのだろうか。

 いや……いつか言わなければならない残酷な事実だけど……誰も見てないぞ。


 実家での畑仕事はそれなりに重労働だ。

 あたしは仕事が終わった後の焼きナスが楽しみなので何とも思わないが、姉はなんの楽しみもないらしく、やれ『疲れた』だの『日焼けする』だのうるさかった。

 あまりにうるさいので母は何か策を練ったらしく、それが功を奏してか……途中からは文句も言わずにバリバリ仕事をしだした。

 もともと、姉は仕事はできる方だ。

 ただスイッチが入らなければバリバリとこなすことはしない。

 看護師という仕事はそういうオンとオフがしっかり切り替わらないとできない仕事らしく、あたしが風邪を引いた時は完全にオフであったらしい。てゆうか彼女は家族といる時は完全にオフであり、基本的にオンになることはない。


 姉の仕事スイッチがオンになった姿を始めてみたが……何かに集中している時の彼女はすごい。てきぱきと収穫をこなし、野菜を出荷するための仕分けも早かった。


『ほら!咲菜!!ちゃっちゃとやるっ!!』

『あ……はい。すみません』


 同じ顔をしているのに、対照的にマイペースで仕事をしているあたしはちょいちょい怒られるという始末で姉なのについつい謝ってしまうという変なことになってしまっていた。

 大体、いつもと違いすぎるのだ。だからあたしも気圧(けお)されてしまう。

 何にせよ仕事ができるというのはすごいことである。

 この集中した時のキリリとした表情をいつもすればいいのだ。

 そうすれば彼女にはいい出会いがあるに違いない。

 てゆうか……スイッチがオフになった時の表情がだらしなさすぎるのである。


 それにしてもなんでまた彼女はこんなにやる気になったのだろう。


『ねえ……母ちゃん』

『ん?』

『なんで姉ちゃん、急にあんなにやる気出してんの?』


 あたしは秋ナスを出荷するための箱詰めをやりながら、姉にバレないようにこっそり母に聞いた。

『ああ。あれね……あんたらが帰ってくるってちょっと話したら同窓会しようみたいなことになったからそれを伝えただけ』

『なるほど……てゆうか、それじゃあたしも行かないとダメなんじゃん!』

『そうだよ』

 母は表情一つ変えずに言った。

『あんたもたまには地元の友達と会っておきなさい』

『え―――っ』

 あたしはもろに不満をもらした。

 当り前である。

 そもそも今回の畑仕事は姉がメインで呼ばれた仕事である。それを姉がどうしてもというから実家に帰ってきたのである。

 にもかかわらず……なぜあたしがこんな目に合わなければならないのだ。


 そりゃ確かに姉にとってはいい話だ。

 同窓会で久しぶりに会った同級生の男の子がイケメンになって登場するなんてことは、絶対にあの姉なら両手の指の数では足りないぐらい妄想しているはずだ。


 あたしにとっては(はなは)だ迷惑な話である。

 あたしは別に同窓会など出たくもない。

 久しぶりに会う友人の顔を見たいという気持ちがないわけではないのだが、それ以上に母が作る焼きナスを楽しみにわざわざ大分まで帰ってきたのである。


『母ちゃん……あたしはねえ、母ちゃんの焼きナスだけを楽しみに帰ってきたんだよ。それを……同窓会だなんて……』

『相変わらず変な子だね――。咲菜は』

 母は乾いた声で笑いながら言った。

 別に怒ってるふうでもない。怒られるようなことも言っていないが……。

『まあ……お土産もたしてやるから、今回だけは麗奈に付き合ってやんなよ』

『え?!お土産!!いいの!!』


 母が作った小茄子の糠漬けも紅生姜も梅干もどれもこれも絶品なのだ。

 焼きナスが食べられないのは残念だけど……お土産がもらえるなら我慢して姉に付き合ってもいいかな、と思ったあたしは……我ながらちょろい……。


 あたしは姉と一緒に駅前の小さな喫茶店と居酒屋を併設しているような店に向かった。

 てゆうか……相変わらず白地に青の花柄でリボンのついたワンピースに、リボンのついた大きな帽子(ストローハット)という出で立ちの姉と歩くのは、どうにも自分がそんな恰好をしているようで嫌だった。

『あんた……相変わらず、お葬式みたいな恰好してるわね――』

『姉ちゃんに言われたくない』

『もうちょっと色味増やしたら?』

『いい。黒は女を美しくみせるってオソノさんも言ってたし』


 あたしが黒ばかり選ぶのは、無難だからだ。

 服にいろいろ時間をかけるぐらいなら書店で本選びがしたいのだ。

 とは言うものの、着るものにこだわらないというのも良くない。だからなるべくシンプルで清潔な印象のものを選ぶとどうしても黒や紺の服が多くなるのだ。


 目的地にはすぐに着いた。

 歩いて行けるところに飲める場所があるのはありがたい。

 でも確か……この店も同級生の誰かの家だったはず。


 この時には、同窓会があんなに疲れるとは思ってもいなかった。

次回に続きます。

最近、次回に続くことが多くて恐縮です。

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